9時か。
時間も時間だし、俺は戻ることにした。
神楽先輩にもお礼を言って。
靜先輩と、その友達たちにも挨拶をして。

あぁ。
水城と珠葵にも、声かけておくか。
心配してくれてそうだし。

「水城?」
やっぱりというかなんというか。
水城の部屋には珠葵もいた。
「もーっ、遅いよ。心配した」
珠葵はあいかわらずかわいいな。
「悪い。何、遅いって」
「一人にしてっつってから、もう3時間? 大丈夫なの? 考えはまとまったわけ? わかった?」
怒涛の勢いで聞かれてしまう。
「あぁ、わかった。ピーチパイだろ?」
そう俺が言うと、珠葵は喜んで俺に抱きつく。
「よかったぁ。分からなかったらどうしようかと思ったよ。自分の力で分かったんだ? よかった。今日の朝、俺、なにげなく深敦くんに聞いちゃってて」
「なにを?」
「いや。ピーチパイ、啓吾くんにもあげた? って。あげたけど、部屋置いてきただけだから、別にって、言われて。あぁ、お礼言ってないんだなぁって」
「……タイミング逃したんだよ…。泰時のことでいっぱいだったし」
「で、どうすんの? お礼、遅れて言うわけ?」
水城が、そう俺に聞く。
「…とりあえずな。夜会うから。お礼と泰時のことも、話そうかと思ってて」
「泰時のことも?」
「聞けたらな。お礼だけにするかも」
「弱っ」
珠葵はあいかわらず、激しいな、ツッコミが。
「でもさぁ、啓吾、いまさらお礼言うのって、なぁんか、いかにも忘れてたくさいね」
そうなんですよ。
「だから、一応、モノもあげる。それ用意してたってことにする」
「ずるー…。忘れてたくせに」
「まぁ、ずるさも必要なんだよ、時には」
「ま、そうだねー。で、なにあげるの??」

ったく、ミーハーですね、珠葵は。
「聞きすぎだろ」
「えー。まぁいいや。明日、深敦くんに聞いちゃうもーん」
「でも、ホント、啓吾と深敦って、見ててハラハラするから。どうにかしてくれよ」
「分かってるって」

そうこう話しているうちに、時間が迫る。
「…俺、戻るわ。深敦来ると思うし」

そう言い残し部屋に戻ると、凪先輩が俺を見て、シーって口元に指を当てる。

あぁ、深敦が寝てる。
早…。
「凪先輩、深敦…いつから…」
「うん? 30分くらい前かな。俺、啓吾くんに連絡取ろうかと思ったんだけど、深敦くんが、10時に約束してるからいいって。俺、今日、どっか行くから、気にしなくていいよ」
どっか。
まだ決まってないのか。
「深敦の部屋とか…」
「あぁあっ、あそこは、鬼門だからだーめ」
「風水とか好きなんすか?」
「いや、そうじゃないけど。深山悠貴とその彼女がいるだろうし。いいよ、気にしなくて。俺、友達多いからぁ」
「すいません」
とはいえ、この時間帯。
大丈夫かよ…。
俺は凪先輩が出てくのを確認して兄貴に電話をする。

『啓ちゃん、どうしたのさぁ。また超常現象研究部?』
「違ぇよ。…今、1人で部屋にいんの?」
『ルームメイトはいるけど。なんで?』
ルームメイトは長谷川和也だろ。
あいつなら、ラブラブな2人と一緒の部屋に居合わせても大して気にしなそうだ。
「…凪先輩、呼んで」
『…しょうがないなぁ。啓ちゃんの頼みだし? 呼ぶよ』
「サンキュー」
『貸しだから。わかったかなぁ?』
「はいはい」

そんな会話の中。
ずっと深敦に目を向けていたけれど、起きる様子はない。
携帯を切り、俺は深敦が寝転がるベッドへと座り込んだ。

凪先輩としゃべってりゃいいのに。
寝ちゃうなんて、疲れてんだ?

なにか、疲れることしたわけ?
あぁあ、俺はもう最悪だな。
「深敦…」
頭を撫でて、そっと体を揺らす。
「…ん…」
そっと目を開いて俺を確認すると、ちょっと焦るみたいに顔を逸らす。
「なっ…なにっ」
「なにじゃなくて。会う約束してっから、お前、ここにいたんやん?」
「そっか。そうだけどっ」

寝ぼけてんのか。
起き上がろうとする深敦をそのまま俺は押し倒す。
「な…話、しに来たんだろ…っ」
「そう…」
「また、やりながらとかやってからとか…?」
そんなん、なんも考えてねぇっての。
ただ、ただ、好きなやつ、目の前にしてたら、近づきたくなるってもんだ。

そっと口を重ねると、昔と違って、少し恥ずかしそうだけれど、拒むことはなかった。
「機嫌直った?」
「…別に、悪くねぇし」
「昼から、ずっと。悪かっただろ」
「そんなことねぇよ」
「今日さ…。お前に話があるっつったんだけど、渡したいもんがあって…」
すると、やっと不機嫌そうな表情が取り除かれる。
話も、気になってたのか、いままで緊張していたのだろう。
少し安心した様子で、俺を見上げる。

「なんだよ」
「携帯、ある?」
「……あるけど」
深敦が、俺のベッドに勝手に放置していた自分の携帯を持って、俺を見る。
中身は、見られたくないんだろうか。
「SDカード、使ってる?」
「入ってるけど、使ってない」
俺と一緒だな。
「じゃあ、それ。俺のと交換して欲しいんだけど」
そう俺は、自分の携帯からSDカードを取り出し深敦に見せる。
「…いいけど…なんで」
「お前にさ…やろうと思って。いろいろ貰ったし」
深敦とSDカードを交換して、携帯にセットする。

なんで、俺は素直に、ピーチパイ貰ったからそのお礼ですって言えないかなぁ。
自分でも、馬鹿だと思う。

ありがとうとかさぁ。
言えねぇのかって。
それでも、深敦には、ある程度伝わったのか。
「忘れてんのかと思った」
そう顔を逸らしながら言われる。
いや、忘れてましたけど。
「んなの、忘れるわけねぇだろうが。用意すんのに時間かかってたんだよ」
「なんか、データ、入ってんの?」
「あぁ。ちょっと友達に頼んで…データ貰ったんだよ。お前、ゲーム好きなくせにゲーム機、持って来てねぇみたいだし」
「なんで知ってるわけ?」
「…いろいろと」
「いろいろって、なんだよ」
そう言いつつも、なぁんか、嬉しさを隠してるくさくてかわいくて。
もう一度、キスをしてやる。
舌が絡まって。
やべぇな、こいつの舌、なんかすっげぇ気持ちいいし。
深敦の股間をズボンの上から撫でてやると、顔を逸らして、それでも体をビクつかせた。
「はぁっ…んっ」
付き合う以前とは違って、俺を拒むことはしないけれど、ものすごく恥じらいを見せるもんだから。
それが無性にかわいくてたまらない。
衣類を脱がして、濡らした指先をそっと差し込むと、俺のシャツを掴んでその刺激に耐える。
「んーっ…ぅんんっ」
あぁ、こんなときでも、泰時のことがまぁた頭に浮かぶ。
だから、ホント、駄目なんだって。
気になりだすと止まらない。

やり終わってから…話すか。
やってる最中に話してたら萎えそうだし。

2本の指で中を掻き回すと、深敦が、膝を曲げて、誘うように腰をくねらせる。
…無意識なんだろうけど、いやらしいっての。
「ぅんっあっ…ぁあっ…んーっ」

散々、焦らすように慣らしたそこに自分のを押し当てる。
あぁ、すっげぇ久しぶりな気がする。
にしても、俺も深敦も意識しすぎっつーか。
初々しいような。
なんだかんだ言って、俺もまともに付き合うの初めてだし?
彼女って。
コレ、俺のだよなぁ?
「深敦…入れるよ」
「っんなのっ…いちいち…」
いつも言わないっけ。
ゆっくりと、挿入して、奥まで入り込む。
やべぇ。
何度もした、普通の行為なのに。
すっげぇドキドキする。
初々しい反応する深敦もかわいすぎるし。
たまらないな…。

「あっ…んぅっ」
俺にしがみついて。
俺が、ゆるーく動くと、物足りないのか、自然と腰を寄せてくれる。
「はぁっあっぁあっ…」
「やらしいなぁ、深敦…。腰、俺に寄せつけて。気持ちいいんだ?」
乗ってきた俺は、ついそう言うと、反発するかと思いきや
「っんーっ…ぃいっあっ…ぁあんぅっ」
素直に欲しがるもんだから。
頭を撫でて、そっと頬にキスをした。

ホント、久しぶりよ?
こんなの。
「啓吾っ…もぉっやぁあっ」
「ん…? イきそう?」
「はぁっいくっ…ぁあっ」
焦らす余裕、ねぇっての。
「いいよ…イけよ」
「ぁんんっ…あっやぁっあぁあああっっ」


おんなじやつと、何度もやると飽きるんじゃないかとか、思ったけど。
やっぱ違うな。
どんどん、愛しくなるんですけど。
俺って、重症じゃん。
あぁ、なんだかんだ言って、俺、真面目にちゃんと好きなやつとやったのって、深敦が始めてじゃんかよ。
性欲満たすだけじゃねぇっての、すっごいわかるかも。


2人ベッドで寝転がる時間が、なんだかおだやかに過ぎていく。
深敦は、携帯を気にしているようだったから、俺は、自分の携帯で、ゲームを起動する。

中華っぽいBGM。
深敦に見せてやって。
「これさ。なるべく金曜くらいまでにクリアして欲しいんだけど」
靜先輩に言われたように伝える。
「なんで?」
「…やればわかんだよ」
「…わかった」

俺は、OP画面だけを見せて、もう一度、OFFにした。

…泰時のことはどうすっかなぁ。
いま、せっかくいい雰囲気なのに。
あいつの話して、雰囲気壊したくねぇし。

と思っていたのが、伝わったのかはわかんねぇけど、深敦が俺の腕を取る。
「なに…」
「あのさ…。今日、啓吾が俺の部屋来たとき、いたやつさ…。気にしてる?」
そう聞かれてしまう。
いたことに関しては気にしてないというか。
でも、俺、一度訪ねて、泰時がいるの知ってて。
それでいて、もう一度、話があるって訪ねたもんなぁ。

気にしてないっつったら、それはそれで深敦の場合、不機嫌になりかねないか?
「多少ね」
そうあいまいな答え方をしていた。
「…なんか、流れでさ。あいつとおんなじ部に入ることになって」
超常現象研究部だろ。
知ってるっての。
「何部?」
「超常現象研究部だけど…」
俺、もし今、初めて聞いてたら、すっげぇつまらなそうな顔になってただろうなぁ。
前もって聞いててよかったかも。
「ふぅん。そんな部あったんだ?」
「俺の同中のやつが、作ったんだよ。で、部員集めて欲しいって言われて。春耶とかも誘ってみたんだけど…。啓吾は超常現象興味ないみたいだし、部活やらなそうだし」
よくご存知で。
「…お前、その部だけに入るつもり?」
「友達が、せっかく作りたがってるから、名前は書いたけど…。やりたいこと他にもあるし、掛け持ちたい」
あぁ。
ノリノリで、誰かと一緒に入りたかったってわけじゃないのか。

「そっか。まぁ、所属しなくても、平気で顔出せる雰囲気だよな。この学校の部活って」
「うん。でさ。だから、今日はその部活のことで、ちょっと話してたんだよ」
俺が気にしてるのを、気にしてか。
そうわざわざ教えてくれる。
言い訳くさいけど。
嬉しかったりするんだよな、これが。
「泰時って、超常現象好きなんだな」
「…名前、知ってんだ?」
「同じクラスだし。体育で同じチームだからな」
「そっか。俺、全然、知らなくて」

…なんか、この雰囲気、おかしくね?
なんつーか、俺ら付き合い始めて緊張してたのに。
泰時のことで、普通にべらべら話せるって。
微妙だなぁ。
まぁ、緊張しないってのはいいことだけど。

…深く考えないようにしよう…。
意識しすぎだ、俺は。


ただの友達だってのは、わかりきっている。
だけど、俺としては気にしちゃうだろう。
もう少し、様子見るか。

俺は、やっぱり泰時のことが聞けずに、その日を過ごしてしまっていた。