俺の中ではわりといい方向に進んでいた。

深敦は、おおやけにしたくないっつってきたけど、まぁそれならそれでいい。
少しくらい、付き合っていく上で、ごちゃごちゃした俺らのルールみたいなもんがあって。
それが決まるのに戸惑ったりするだろうけれど、時間がたてば収まるだろう。


それはいいんだよ、別に。

だけれど、深敦は、あからさまに俺を避けだした。
ったく。
困るだろ、それじゃ。
まぁ、しゃあねぇかなぁ。

少し、不満もあるけれど。
今後、時間をかけてきゃよくなるだろうってことで。
もちろん、このまま俺も避けてたら、進まない。
俺は、いままでどおりの対応をして。

深敦の緊張をほぐしてやろうと思うわけだ。
だんだん、よくなるだろう。
そう思っていた。

なのに、なぁんかやっぱりどこかで調子は狂うものだ。

テスト終了後。
上手くいかなかったのか、深敦が、またわけのわからないセリフを吐きながらイライラしている。

なぁんか、わからない選択問題は、勘で解くとかなんとか。
俺も、水城も、わけがわからないなりにも、聞き流していたのに。
あろうことか、その会話へ、泰時が入り込む。

「…なぁ? こいつら、頭いいから、ちょいずれてる感じ?」
しかも、深敦の後ろから抱きつきやがって。
「選択肢は、勘だろ? 全部読まないし。な?」
深敦も、同意見なのか、それに頷いてみせる。

やっぱり。
泰時って、なぁんか深敦と似た部分があるっつーか。
深敦の言いたいこととか、すぐ分かるんだろう。

レベルが一緒っつーか。
なんにしろ、深敦のいらいらを一瞬で抑えやがって。

「じゃ、またな、深敦」
そう泰時は去って行くけれど、気が気じゃなかった。

こいつらって。
交流あったっけ。
俺の知らないうちに、仲良くなってた?

もしかしたら、いまのが初接点かもしれないけれど。
いまいちわからなかった。

俺がもやもやしているのがわかってなのか。
「いまから、ボーリング行こうって話、出てんだけど。深敦、行くよな」
水城が話を切り出す。
さっき、話してて。
俺と水城とアキは、もちろん行くということになっていた。
珠葵と深敦は、席が離れているから。

「ごめん、俺、先約あって」
予想外の答えだった。
「なにそれ」
「…前から…テスト終わったら遊ぶって…約束してて…」
軽い感じで聞く俺に。
気まずそうに、深敦はそう答え、顔をそらした。
「ふぅん」
また、深敦が気にするだろうから、俺はあえてなんでもない感じに、それを受け止めた。
もちろん、気になってしょうがねぇけど。

泰時じゃねぇよな…。

気が気じゃないまま、俺ら、いつものメンバーマイナス深敦は、ボーリング場へと向かった。

「…啓吾、イライラすんなって」
水城だ。
「別にしてねぇけど」
「深敦は、今日、湊瀬先輩と会うんだってさ」
そう教えてくれる。
「なにそれ」
「…気になってたんだろ。いまから湊瀬先輩と会う予定があって。夕飯タイムには合流できそうだってさ」
榛くんか。
「ホントかよ」
「…啓吾、いらいらしてんのな」
付き合いだしてから、ささいなことが気になっちまってるんだろうな。 水城にまだ、付き合ってること伝えてないや。

まぁ、深敦の態度があからさまにおかしいから、なにか感じ取ってるだろうけど。
告ったことは言ってあるしな。

どうなったか、水城から聞いてくることはなかった。
聞きにくいだろうしな。

もうちょっと落ち着いたら、伝えよう。


結局、深敦も合流してから夕飯を食べて。
なんだかんだで、また解散。

なんにもやる気がしないな。
寝る気分でもないし。

俺は、前、兄貴に紹介してもらった雅先輩のところへ行くことにした。
「雅先輩、今、いいっすか」
「おー。暇してた」

俺がゲーム好きなのを兄貴が知っていて。
雅先輩も、好きらしく、兄貴が紹介してくれていた。

しかも、俺のもう一人の兄、透兄の彼氏らしい。
透兄は、別の高校だから、会える機会も少ないだろう。

しばらく一緒に、ゲームをしながら、恋愛話にも発展する。
「…透兄のこと、心配じゃないっすか?」
「浮気してないかって? …そりゃ、まぁしてるだろうなとは思うけど。あの子は、割り切ってるから。俺とそれ以外の人とね」
割り切るしかねぇか、そりゃ。
こうも距離、離れてたら浮気しちまうだろうし。
「啓吾は? 最近どうよ。深敦くんだっけ?」
「うーん。まぁぼちぼちですよ。でも、俺はやっぱり疑い深いのかもしれないですね。深敦に少しでも自由時間があると、誰と会ってんのかとか気になってくるし」
「そっかぁ。俺も、気にしてはいるよ。きりないけどね」

すると、インターホン。
「雅先輩、今日、暇っすか?」
知らない人だ。
「んー? どうした?」
雅先輩って、なにかと訪ねられるんだな。
というのも、彼女がここにいないってのがわかってるからなんだろうけど。
金曜日の夜だしな。

「あれ。友達?」
「うん。佐渡啓吾くん。いま1年」
そう俺を紹介してくれる。
「こっちは、いま2年の佐伯靜。パソコン部で、ゲーム好きなんだよ」
そう教えてくれる。
「そうなんすか」
「あ、お邪魔でした?」
靜先輩は、そう俺らへと目を向ける。
「俺は、別に」
そう言うと、雅先輩も、かまわないと、彼を招きいれた。
「なになに? 啓吾くんもゲーム好きなの?」
「そうですね」
「メガドラとか、プレイ済み?」
「あんまり。ソニックぐらいしか」
「これ。すっげぇオススメだから。でも面数多くて、なかなかクリアできないんだよな。時間もないし」
「時間っすか…」
「4時間くらいぶっ続けて、やっと3分の1くらい?」
「記録できないっすからね…」
「啓吾の部屋って、ゲーム機ないんだっけ」
「ないですよ。結構、なんにもない部屋です」
「靜の部屋、めちゃくちゃあるから、今度行ってみなって。おもしろいよ」
「そうなんすか?」
「おいでおいでー」
そんな話をしながら、3人でその靜先輩オススメのゲームをやっていると、携帯に着信。
楓だ。
「もしもし?」
『あぁ、啓吾くん? 今、ちょっと時間ある? 話したいんだけど』
「話って?」
『泰時と…ちょっと深敦くんにも関係する』
雅先輩や靜先輩に聞かれるのも微妙だし。
「じゃ、もうちょっとしたらそっち行くから」
そう言って、とりあえず切った。

「すいません、俺ちょっと…」
「うん。また、おいで? 今日はたぶん、徹夜でやってるだろうし」
そう言って、俺を見送ってくれた。

いい人だよな…。
靜先輩も、いい人そうだし。
楓の部屋へと向かう途中。
自分の部屋の前で、俯いて立っている深敦を見つける。
「あ…啓吾…」
「深敦? どうしたん?」
「啓吾は…? どこ、行ってたんだよ」
「友達んとこ、ちょっと寄ってて」
「…友達って…俺の、知らない人?」
なんか、緊張したように聞いてくるけれど。
あいかわらず、俺に慣れないでいるのだろうか。
「あぁ、そうだな」

とりあえず、俺は鍵をあけ、深敦を部屋の中へと通した。

「俺、ちょっとこれから出かける用事あるんだけど」
もともとは、この部屋寄らずに行く予定だったし。
「…もう10時だろ…」
「…まぁ、そうだけど。明日休みだし…」
深敦を優先したいけれど、やっぱり楓の言ってた泰時と深敦のことがなんなのかも気になる。
「春耶んとことか?」

「隣のクラスのさ。楓ってお前も知ってるだろ。ちょっと呼ばれてっから、顔出して来ようと」
隠すのも、微妙だし。
俺はあえて、正直に言った。
「…すぐ戻って来んの?」
「別に考えてねぇけど。なに? なんかあんの?」
出来れば早く戻りたいけど、話次第だもんな。
考えてないなどと、中途半端な答え方、しちまってた。

「別に、なんもねぇからいいんだけど」
そうやって、不機嫌そうになられると、俺としては嬉しく思っちゃうだろ。
「なんとなく来ただけだし。啓吾、用あるんなら、俺帰るわ」
「…すぐ、戻ってくるから、待ってろよ…」
帰って欲しくないってのもあったし。
その態度がなぁんかかわいかったから、俺はそう伝えた。
「俺、寝そうだし」
「…寝てていいから」
「……わかった」


そのまま、俺は深敦をおいて部屋を出て、楓の部屋へと向かった。



「楓?」
「あぁ。啓吾くん。別に俺、電話でもよかったんだけど」
「友達の先輩一緒だったからさ」
「そう…。さっきさ。泰時としゃべってきたんだよ」

泰時ねえ。

「2人、接点ないって言ってなかった?」
2人。泰時と深敦のことだろう。
「あぁ。教室でも2人、席離れてるし。…ただ、今日、テスト後、少ししゃべってたみたい」
「啓吾くんの知らないうちに仲良くなってたってわけ?」
「…そこまで、仲いい感じには見えなかったけど…。ホント、なんでもなくクラスメートにちょっと話しかけただけって感じで…」
楓は、少し心配そうな表情を見せる。
「今日、泰時誘って夕飯食べに行こうとしたら、泰時部屋にいなくって。少ししたら帰ってきたんだけど、聞いたら深敦くんと会ってたって」
深敦と…?
「…今日? 夕方…だよな」
「うん。2人がなにしてたかとかまでは聞いてないけど。いっつのまに仲良くなってんだろうって思って。教室じゃ全然、くっついてなかったのに」
俺に隠れて……とか。
しかも、榛くんと会ってたんじゃないのかよ。
俺と水城に嘘ついてまで会うわけ…?

いや、榛くんともちゃんと会ったのかもしれない。
そんなすぐバレそうな嘘、つかないだろ、深敦は。
だけれど、気が気じゃなかった。

「今日、テスト終わっただろ。そんとき、なんか深敦、うまくいかなかったみたいで、イライラしてたんだよ。よくわかんなくって、俺らはいつもみたく流してたんだけど、泰時がすぐ、声かけて。一瞬のうちに深敦のイライラ押さえちまってさ…。やっぱりあいつら合ってんだろうなって思ったよ」
「合うのが一番いいとも限らないけど。合わないのよりは合う方がいいだろうし」
「趣味とかは、別に合わなくってもいいと思うんだよ。だけど、価値観とかは合うべきだろ」
俺らは二人で落胆気味。
「…まぁいいや。とりあえず、俺、部屋に深敦待たしてっから。またなにかあったら言うよ」
「待たしてたのっ? 大丈夫?」
「あぁ。またな」

そう部屋をあとにする。
けど、やっぱり気になっちまうわけで。
俺は、廊下で、榛くんに電話した。
『啓吾? どうした?』
「今日、深敦と会ってたって…?」
『どうして? なにか、深敦くんに…?』
「…いや…会ってたみたいなこと聞いたんだけど…」
疑ってる、とは言いにくかった。
『うん。会ってたよ』
榛くんはそう言ってくれ、ほっとする。

だけれど、泰時が無意味な嘘を着くとも思えないし。
泰時とも会ってたんだろう。
「榛くんは、深敦と2人で会ってたの?」
『そうだけど?』
「そっか…」

じゃあ、なにかの都合で3人で会ってたわけではないのか。
やっぱり。
榛くんと二人で会ったあとに、泰時とも二人で会ったのか。
まぁ、どっちが先かはわかんねぇけど。
なに、俺、詮索してんの?

やな感じ。
『啓吾、どうした?』
「…別に。なんか…深敦とうまくやってく自信がなくて」
『なんでさ』
「なんとなく」
『…大丈夫だろう?』
そりゃ、俺と付き合ってくれるって言ってくれたわけだし。
だけれど、自信はねぇんだよ。

少し話し込んで、携帯を切る。

もやもやしていた。
気持ちが落ち着かないまま、深敦と会うのも微妙だけれど、あまり待たせるわけにもいかない。
時計を確認すると11時ちょっと前。
結構、時間経っちまってた。

戻ると寝てたのか、ベッドに寝転がった深敦が俺を見る。
引き寄せられるように、俺はベッドに乗りあがり、口を重ねた。

「んっ…ぅん…」
深敦も、なんか不安そうな面持ち。
「深敦…。悪い、遅くなった」
「…別に、遅くねぇし。いいけど…」
「…なにか、用で来たんだろ」
「別に…」
そっけなくそう言われてしまう。
「拗ねてんの?」
冗談っぽく、そう聞いてみる。
真面目に聞けないだろ、こんなこと。
真面目に聞いて、違うなんて言われても微妙だし。

「っなんで…。んなわけねぇし」
「やきもちとか?」
「妬くわけねぇだろ」
ため息交じりにそう言われる。
冗談めかして聞いてはみたけど。
深敦の言葉が、冗談ってわけでもないだろうし。
「そっか」
そうとだけ言った。

そうとしか、言いようがなかった。
変に強がれないし。

「啓吾は…?」
そう逆に聞かれ、よく意味がわからなかった。
「なにが?」
「啓吾……俺…」

じっと見つめると、ますます深敦は不安そうだし。
なに考えてるのかよくわからない。
啓吾は…? って?
俺に、やきもちとか妬くかどうか、聞いてるんだろうか。

なに?
俺はなにか深敦を不安にさせるようなことした?
そんなに、緊張するわけ?
告ったし、付き合えることになったし。
自分のこと、さらけだして素直に好きだって伝えたよ。
それで緊張しちまうのだって、いまは、かまわない。

なんで、そんな苦しそうな顔するわけ?
全然、俺はわからなくって。
こいつのこと不安にさせてる。

俺がいま、楓と会ってて、遅かったから…?
待たせたから?
それだけ?

違うだろ?
全然、わかんねぇ。

泰時といる方がラクなんじゃねぇの…?
泰時と。
深敦が会っていたのを思い出す。

それでなに?
なんか気持ちが変わったりした…?

「…んなに、苦しいんなら、付き合うのOKすんなよ…」

付き合って欲しかったけれど。
こんなにも、苦しませるとは思ってなかったし。 付き合う前の方が、深敦は幸せそうだってわけで。
罪悪感や、責任を変に感じていた。


「…ごめ…ん…」
思いがけず、深敦が泣きそうな声で謝るもんだから。


振られると思った。

「深敦は、なんのために答えを保留したわけ? その間、考えてくれたんじゃないのかよ。苦しいくらいなら、断りゃいいのに」
なるべく、優しい声で。
深敦を追い詰めないように、聞いてみる。

もちろん、断って欲しくはないけれど。
苦しい思いだってして欲しくない。
見てて辛そうで、心苦しい。
「…深敦…苦しいんだろ…?」
普通に聞きたかったのに、なんとなく声が悲しそうだなって、自分でも思った。

深敦は否定してくれなくて。
少し、沈黙が続いた。

泰時と、会っていたのかということを、切り出してしまおうか、少し迷っていた。
と、深敦の方から口を開いてくれる。

「…苦しいと…付き合っちゃ駄目なのかよ…」
また、泣きそうな声。

「苦しい相手と、なんで付き合うんやん…?」
泣きそうな深敦を見て。
俺は、せめて普通に接しようと思った。
俺まで、苦しい声出してたら、深敦も気にするだろうし。
自分も、どんどん落ち込んでいくから。
「…好き…だから、苦しいんだよ。好きで、付き合って、なんで駄目なんだよ」
深敦はそう言ってくれる。
「駄目なんて言ってねぇけど。…俺が告らなきゃ、お前は苦しまないで済んだのかなって思うと、間違いだった気がしてくるし」
言うつもりなかった自分の心情を、勢いで語ってしまう。
「啓吾が、告らなかったら、いずれは俺から告ってたかもしんねぇし。…そしたらたぶん、いまよりも、悩んでたかもしんねぇよ」
「俺が告らなくても…深敦は俺に告らないだろ…」
「…わかんねぇよ…」
「俺は深敦を苦しめるために告ったわけじゃねぇんだよ。ぶっちゃけ、後先考えてなかったけど、俺自身が、お前と付き合いたいって思ったから、したわけ。こんな風にお前のこと、悩ませるつもりじゃなかったし」
本当に、勢いで後先考えずに告ってしまったことは悔いた。
深敦がどう悩んでいるのかも、いまいち分かんねぇし。

深敦は、涙を溜めた目で俺を見上げてくれていた。
「俺は…とにかく好きならいいやって、思って。…簡単に軽く考えてたわけじゃねぇけど」
とにかく好き。
その言葉に、癒される。
深敦は、俺のこと、好きでいてくれる。
そう思えた。
「深敦は、後悔してる?」
一応、聞いてみる。
本心を聞きだせるかはわからないが、深敦は、感情に嘘のつけないやつだと思っていたから。
「…それはない」
そう言ってくれる。
後悔。
「俺は、告らなきゃよかったかなって思ってる」
後悔しているわけではないけれど。
もう少し後だったり、やっぱり自然に、もっと近づいていった方がよかったんじゃないかって。
そう思うからだ。
深敦が好きで、付き合いたいって思う感情に代わりはない。
が、それは俺の感情であって、深敦にとってはそれがいいことなのかわからないから。
「…後悔…してんのかよ…」
深敦が、不安そうに俺に聞く。
「…後悔っつーか…」
「…好きで告ってくれたんじゃねぇのかよ」
「そうだけど。深敦がそんなに悩むんなら、そっとしときゃよかったなって思うし」
「…告ってなくても、どうせ悩んでんだよ、俺は」
「なんだよ、それ」
「…確かに、啓吾のこと意識しすぎちゃうのとかは、困りもんだけど。他の悩みは、そりゃ、多少考え方は違ってくるだろうけど、付き合っててもそうでなくてもお前が好きで悩んでんだから、変わりねぇよ」
必死で、深敦は俺を好きでいてくれることを訴えてくれているようで。
だけれど、逆に、それだけ俺が悩ませている気がして。
やっぱりどうすればいいのかわからなかった。
「…好きだから、苦しいんだよ。苦しくても、好きなら付き合っていいだろ」
「深敦にとって、もっと、ラクな道があるかもしれないだろ」
泰時のこと。
におわせるような言い方をしていた。
「…恋愛でラクしたいなんて、考えてねぇし。ラクなのが幸せってわけでもねぇし」
俺だって、それは分かる。
ぶっちゃけ一人身の方がラクかもしんねぇし。
だけれど、無理なんだよ。
好きだから。
付き合いたいって思ってしまう。
俺は、深敦へと体を被せた。
「深敦…」
耳元で名前を呼んでやる。
「後悔してねぇよ。だから…悩ませないよう努力するし。深敦も、なんか俺のことで悩んでんなら言えよ…」

もう付き合ってるんだよ。
だから、これから悩ませないような努力するしかねぇだろ。
深敦の考えていることは、よくわかんないときだってある。
言葉で素直に言って欲しいから。
そう俺が言うのに対して、深敦は頷いてくれていた。


つまり。
振られないで済んだのだろう。

こんな早い時点で別れを切り出されるんじゃないかって、少し思ったから。
だけれど、気が気じゃない。

泰時のこと。
聞けずにいた。

今日、なにしてた? って。
それ、聞くだけだろうに。

いっぱいいっぱいだ。

溢れてしまいそうな涙を悟られないように、深敦を抱きしめて。

手元のスイッチで電気を消した。

深敦の横に寝転がって。
そっと手を握る。
不安で不安でたまらない。
横を向いてくれる深敦とそっと口を重ねた。

愛おしい。
かわいくてたまらない。
泣かせたくない。

だけれど、今。
俺はこいつを泣かせてるだろう?

このままでいいとは思えなかった。
なにをそんなに悩むわけ?
珠葵が言ってたように、楓のことが気になってる?
意識しすぎちゃってる?

泰時と。
どうなった?

「啓吾…今日、俺、ボーリング行かなかっただろ…?」
そう言われ、体がこわばる。
「あぁ。先約があるとか、なんとかで来なかったな」
「実はさ…その…湊瀬榛先輩と会ってて」
なんでフルネームで言うんだろう。
というツッコミはさておき。
「珍しいな。写真でも撮ってた?」
「違…。ちょっと興味があって、お菓子作ったんだよ。たくさん作って、珠葵にももうやったんだけどっ……啓吾にも持ってきたから…っ机の上」
机の上。
暗いけれど、箱があるのがわかった。

「啓吾、あとで一人で…食べろよ」
そう言って、恥ずかしいのか、俺の視線から逃れるように顔を布団の中にもぐらせる。
「わかった」
それがかわいくて、俺は頭をなでた。
けれど、腑に落ちないことがあるわけで。
気が張る。
「…じゃあ、深敦は菓子作ってて今日、ボーリング来れなかったわけ?」
「1週間くらい前から、テスト終わったら作るって約束してたんだよ…」
泰時は?
楓の勘違いとか…?
そりゃ、楓は冗談で人をからかったりもするけど、今回は、本当だろう?

たぶん、会ってた。

クラスメートと会ってたってだけ。
別になんの問題もない。

だけれど、泰時が深敦を好きで。
泰時と深敦はたぶん、意気もぴったりで。
深敦が会ったことを俺に言ってくれなくて。

…それが不安なんだろう、俺は。

「啓吾…ってさ。楓のことはどう思ってんの…」
直球で。
そう聞かれる。
いま、散々、恥ずかしいこと口走ってたから、この勢いで…とか考えてんだろうか。

やっぱり。
深敦は楓が気になってた…?
「…ただの友達だけど」
「楓は…啓吾が好きっつってたよ」
…そんなこと言ってたのかよ。
それで、不安がってくれてたわけ?

「深敦、お前からかわれてんだよ。んなわけねぇし」
「なんでそう言いきれるんだよっ。楓がそう言ってたんだよっ」
「前からだけど、お前ってどうしてそうマイナス思考な方、信じるわけ? 楓より俺の言うこと信じりゃいいやんか」
「だってっ…」
俺だって。
マイナス思考な考え方する。
いまだって。
本当に、楓が俺をもし好きだとしても、深敦が気にしないように、からかわれてただけだよって言うかもしれないし。
つまり、楓が俺を好きだということの否定には繋がらない。

「楓は…俺らのクラスの別のやつが好きだって。そう聞いてる。だからたまに相談乗ったりしてんだよ」
泰時の名前を出すのが恐かった。
つい避けてしまう。
「…誰…?」
「口止めされてっから。俺は、楓にお前が好きだって伝えてある」

深敦は、不安が取り除けたのか、ほっとした様子。

自然とまた、口が重なった。
「菓子、見てもいい?」
「っだめっ、まだ、だめっ」
「なんで。榛くんと一緒に作ったんならそんな変な出来でもないんだろっ」
「変ではないけど…なんとなくっ」
「わかった。じゃあ、なに作ったかだけ、教えろよ」
そう聞くと、それが知られたくなかったのか。
「うるさいっ。なんでもいいだろっ。菓子なんだよ。パン系のケーキ系の菓子なんだってっ」
わけのわからない発言をしだしたな、こいつ。
「わかった。後で見るから」

そっと、深敦が俺の手を握り返してくれる。
それだけで、結構、嬉しかったりするけど。

なんで俺、こんなに泰時のことで悩んでんだか。
意識しすぎ?

俺も。
さっき、深敦に楓のこと聞かれたときに、聞いときゃよかった。