「水城…俺さ。どうしようもなく深敦が好きなんだけど」

テスト週間。
いつものように、水城の部屋で、ついそうぼやく。
「……それさ。深敦に言ったら?」
「言えるかよ」

あいかわらず、水城は紅茶を入れてくれて。
俺はそれを貰いながら、女々しい相談をしていた。

「さっき、携帯取りに戻ったら、深敦がいてさ。俺の携帯見てたみたいで。聞いたらアドレス帳だけ、見たって。深敦が、俺の名前がないって言ってて、めちゃくちゃかわいくて。
たださ…あいつの考えてることはよくわかんねぇんだよ。あまりにかわいかったから、携帯見てたの、別に許したんだよ。構わないって。そしたら逆ギレされたんだけど」
それを聞いて、水城は笑いだす。
「深敦って、変わってるよな。おもしろいよ」
「よくわかんねぇんだって」
「うーん。まぁそれは、啓吾が怒らなかったことで、関心がないように見えたんだろ。それが、あまりにも寂しかったんだろうよ」
そんな考え方って、前向きすぎだよな。

「深敦ってさぁ。すぐいろんな奴と仲良くなるだろ」
「啓吾とも、すっげぇスピードで仲良くなってたしな」
「いつのまにか、先輩たちとも仲良くなってるし?」
「啓吾だって、いろんな先輩と仲良くしてるだろ。ルームメイト以外ともさ」
確かに。
結構、仲いい先輩は多いけど。
「…俺の場合はさ。ルームメイトの凪先輩がいろいろ連れてくるし、兄貴つながりだからだし」
「つまりなに?」
「…つまり、ぶっちゃけたところ、すっげぇ嫉妬しそうなんだけど」
水城が、少し冷めたように鼻で笑った。
「啓吾、すでにしてるよな」
「俺って結局、他のやつらと違いねぇだろ? 水城はいいよ。アキは結構人見知りするし、お前としかやってねぇだろうし。押されても逃げるタイプだし。深敦はどうだよ。押されたら、押されっぱなしでやられるだろ。俺は、強引に深敦をやったってだけなんだよ」
水城は紅茶を飲みながら、少しだけ考え込んでくれる。
「…啓吾って、そんな毎回、深敦を強引にやってんの?」
毎回、そうかと言われればそうでもないが。
「…求められることはねぇかもな」
「深敦って、ノーマルな考え方だからさ。男相手に求めるってのに慣れてねぇだけだろ。いずれ慣れるって。それよりさ。聞けよ。アキ。こないだ、俺の部屋来て、勉強教えてってさ。勉強以外も、教えようかっつったら、『教えて欲しい』って言うもんだから…」
「うるせーよ、お前。マジで。ノロけんじゃねぇよ」
「…たまには俺の話も聞けよな」
「今は、俺様の悩み相談の時間だろ」
「知らねぇよ。いつもそうだろ、お前。たまには俺のノロケ話聞けよ」
「ノロケは後回しなんだよ。あぁもう、お前がノロけるから、俺がイライラすんだろーが」

そうごちゃごちゃ話し合ってると、インターホン。
水城が、ドアを開けると、そこには珠葵が。
「…あーもう、御神先輩いないの? ちぇ」
珠葵は水城のルームメイトである御神先輩がお気に入りらしい。
「俺も話に入れてよ。なんの話?」
「恋バナですよ。でもねぇ。俺がノロけると、怒るんだよ、啓吾は」
「上手くいってない人は、ノロけに対して反抗的なんだよ」
図星だな、確かに。
「…珠葵…。たとえ上手くいってたところで、水城のノロけはむかつくだろうよ」
「珠葵は、どうよ。御神先輩のこと、気に入ってんだろ」
「うーん。でもまだね。わっかんないなぁ。恋愛感情っていうのとは違うかもしんないし。しばらくはまだ、友達って感じで仲良く出来れば満足。春耶くんは晃と結構なんだかんだでラブラブでしょ。啓吾くんは?」
俺ねぇ。
「…微妙だな」
「深敦くんが好きなんでしょ」
「まぁそうだけど」
「もっと、態度で示しなよー」
珠葵がそう言うのに同意見なのか、水城も頷く。
「態度って言われても」
「隣のクラスの子と仲いいしさ」
「あいつは別に、ただたんに、友達だし。水城や珠葵の方がしゃべってるぜ?」
「なんか付き合ってるっぽいって噂になってんだよ。もー。深敦くんだってすっごい気にしてるし」
深敦が気にしてる?
「…気にしてるって、どう気にしてるん?」
「だって、仲いいじゃん? お似合いじゃん? もーっ」
頬を膨らまして俺を睨んでみせる。
睨んでも珠葵はかわいいけどな。

「そんなん、気にしてんの? 深敦」
「気にするさ。そりゃ」
「まぁどっちにしろ楓は、泰時が好きだから、関係ねぇだろ」
そう俺が言うと、珠葵はおどろいたのか、俺に掴みかかる。
「なにそれ。楓って隣のクラスの子? 泰時って、近藤泰時?」
近藤泰時。
同じクラスで、俺や春耶とは、バレーで同じチームのやつだ。


「あー…言うなよ?」
「なんで? 深敦くんがやきもちやく姿見てるのが楽しいから?」
性格悪いな、それ。
たしかにそれもあるけど。
「一応、楓に口止めされてんだよ」
「ふぅん。わかった」
「まぁ、楓はともかく。啓吾と深敦は、どう考えたって、両思いなわけだしさぁ。ちゃんと態度で示せば?」
春耶にもそう言われる。
そりゃ、深敦は俺のこと、嫌いじゃないだろうなとは思うんだけど。
「俺が、押してったらオッケーかもしんねぇけど。あくまでそれは押したからだろ」
「啓吾くんは、求められたいとか我侭言うわけですか」
「そうそう、深敦を待ってても、1年は無理だろ。結構、世間体とか考えそうだし」
「深敦くんも啓吾くんも、今、中途半端なんだよねぇ。ヤリ友じゃあるまいし? ちゃんと正式に付き合ったらどうさぁ?」
珠葵がそういうけど。
「あいつ、そういうの嫌がりそうじゃねぇ? なんつーか、自然にいつのまにか恋人同士に発展してくタイプ?」
「深敦って、タイプ的にはそうだけど。結局、今、啓吾も深敦もお互い不安がってんじゃん? 相手に仲のいい男がいると、変に嫉妬したりしてさ? だったら、ちゃんとした形作ればってことだろ」

2人の言いたいことはもちろんわかる。
そういった恋人同士っつー肩書きを作ることで、不安が減るかもしれない。
お互いが好きだっていう意識が高まるから?

「俺としては、そりゃ、深敦と付き合いてぇよ。だけど、あいつって男と付き合うことに抵抗感じそうだし? まだ無理かなって思うわけ」
2人とも同意見なのか、少し考え込み、3人が3人、紅茶を口にしていた。

「もう少し、様子見する?」
「とりあえずテストだしな」

そう落ち着いて。
俺らの話題はどうでもいい話に。

夜通しな勢いで、トークしていると、夜遅く、深夜2時半くらいに携帯が鳴る。
凪先輩だ。
「どうしたんすか? こんな時間に」
『起しちゃった?』
「いや、俺、寝てたら起きないんでいいんすけど」
『いま、深敦くん、いるんだけど。来てくれないかなぁ』

なんでかとか、凪先輩に聞くのもなんだし。
俺はちょっとだけ、自分の部屋に戻ることにした。

「…ちょっと呼び出し。一旦、部屋戻るわ」
「了解〜。なに? 凪先輩?」
「っつーか、深敦みたいなんだけど」
「へぇ。いってらっしゃい♪」

俺は2人に見送られ自分の部屋へと戻った。


あれだけ、水城に相談して。
珠葵の意見も聞いて。
付き合ったほうがいいのでは…っつー話も出たけど結局は、まだ早いだろって。そう思った。

だけれど、こんな夜中に呼び出されて、その理由が、『会おうと思った』って。
んなこと言われたら、止められないっつーか。
胸が締め付けられる。
結局、手、出しちまうわけ。

深敦が嫌ならやるつもりねぇけど。
あんまり嫌がってくんねぇから期待しちまうし?


「深敦…。俺と、付き合わん…?」
一段楽して。
つい。
そう口をついた。
唐突すぎたせいか、深敦の方も、固まってるし。
「…考えといてや」
その場で、答えを出されるのが、恐くって、つい逃げてしまう。
少し考える時間を与えて、俺はまた、水城の部屋へと戻った。



「やべぇよ、水城、珠葵」
「おかえりー」
二人は、真面目にテスト勉強しているが、俺はそれどころじゃねぇ。
「勢いでさ。つい告っちまったんだけど」
俺らしいと言わんばかりに笑う春耶と、対照的に少し膨れ顔の珠葵。
「珠葵、怒ってんの?」
「啓吾くんって、俺らに相談したじゃん? 俺らはそれに答えたじゃん? 無意味ですか」
「そういうわけじゃねぇんだけど。勢いで…。それにはじめに付き合えばっつったのは珠葵だろ」
「まぁそうだけど。で。どうなったのさ」
「まだ。考えといてって言い捨てて逃げてきたから」
珠葵はため息をついていた。

結局、俺らは4時くらいまで勉強したり遊んだりで。
珠葵は、自分の部屋へと戻っていった。
俺は水城と一緒に寝て。

起きたときにはもう昼。
「啓吾―。昼ご飯、食べに行こ」
「あぁ。ちょっと、売店寄りてぇし、財布取ってくっから」
「んー。じゃ、また呼びに来て」
俺の部屋よりも水城の部屋の方が、食堂に近い。
わざわざついてきてもらうほどのことでもないし、水城も、着替えたり準備があるようで。
俺は了解して、自分の部屋へと戻った。

と、そこにはまだ、深敦が。
てっきり、もう居ないと思ってたんだけど。
「…いつまで寝てるんやん」
「あ…っと…」
俺の声で、目を覚まして。
戸惑ってる様子が、なぁんかまたかわいくって。
やべぇな、俺、重症だ。

「まぁいいけど。いまから水城と昼飯食べに行くけど、お前、行く?」
「あ、うん、行く」

とりあえず、俺は財布の準備やらをしてたんだけど。
「あのさぁ、啓吾っ」
背中から呼びかける声。
なんでしょうかね。
予想できるだけに、振り向きにくい。


「……俺…今は、啓吾と付き合えない…から…」
そう、申し訳なさそうな声で、深敦は言った。

夜中に告って。
あれから、考えてくれてたんかと思うと、なんか嬉しく感じちゃったりもすんだけど。
「ふぅん…」

どうしますかねぇ。
なんとなくわかってたんだけど。
あっさり、オッケーもらえるとも思ってなかったし。
だからこそ、水城や珠葵と話し合って『もうちょっと後にしよう』ってことになってたんだし。

考え込んでいるときだった。
「あのさっ…別に、啓吾が嫌いとかじゃなくって、どっちかっつーと好きなんだけどっ。付き合うとかよくわかんなくて、こんなよくわかんない状態で付き合うとか簡単に答え出すの、よくねぇと思うし。だからって、考えまとまるまでなにも言わないで保留しとくのもどうかと思うし、とりあえず伝えたいし、どう言えばいいかわかんねぇけどっ」

息を切らしながら、必死でそう伝えてくれる。
「啓吾…。ごめ…なんか、いいわけ…くさいけど…」
ホント、言い訳くさい。
けど、言い訳してくれんのも、嬉しいけど。

深敦をジっと見てみると、深敦の方も、俺を見てくれる。
目が離せないみたいで。

なんつーか。
やっぱり、愛おしいっつーか。
早く告りすぎたなぁとは思うけど、告らずにいられねぇだろ、これは。

つい、手を差し出すと、ぶたれるとでも思ったのか、深敦が、慌てるように目を瞑る。
「深敦…」
俺は、深敦の頭に手を置いた。

ほっとしたのか、目を開けて、頭の上にある俺の手の方へと視線を向けようとする。
が、まぁだ落ち着かない様子で。

「深敦さぁ…。説明くさいし、いいわけくさいし、気持ちベラベラ語りまくりだし? しかも、言葉の整理、ついてねぇし」
「なっ…だって、わかんねぇもん。わかることだけ話してみたら、おかしくなったんだってば」
ホント、やべぇよな、こいつ。
「だから…。整理ついてねぇくせに、話したり。支離滅裂な会話とか。馬鹿正直で、いいわけくさいけど、それって自分のこと全部言おうとしてくれてるみたいで…。俺は、好き」
「な…」

たまには素直に、言ってみる。
と、どうすればいいのかわからないのか、かんなりと惑ってるみたいで。
口がぽかんと開く。

「今は付き合えないっつったっけ」
「え…あ、う…ん…。もうちょっと、考えたいんだけど…」
ホントは、俺の方こそ、もうちょっと時間おくつもりだったしな。
「わかった」

「啓吾っ…。待ってて…くれるわけ?」
あわてて、そう言ってくれる。
「わかった。待っとるわ」

深敦以外、考えらんねーし。
待たせてくれるだけ、ありがたい。
それなのに、深敦は、ものすごい俺のことを『待っててくれるいい人』みたいな目で見るもんだから。
ちょっと得した気分になるし。

本当は、俺の方が、『待たせてくれてありがとう』なんだけど。

いつものメンバー5人で昼ごはんを食べている間も、深敦は考え込んでいるようで。
俺のせいなんだろうな、それも。
なんでもないフリしてたけど。
俺にはもちろんわかるわけ。

昼食後。
避けてるわけじゃないけれど、深敦と今会うと混乱するだろ。
俺は、あいかわらず水城と日曜日を過ごして。
月曜日。

いつもみたいに、隣のクラスの楓が来る。
「啓吾くんはさぁ。深敦くんのどこが好きなわけ?」
「あぁ? 全部だけど」
「……なんで、彼はあんなにモテるんですかね」
「いい性格してっからだろ」
「ふぅん」
「っつーか、モテるって、俺以外に誰がいんだよ」
「……泰時も深敦くんのこと好きだから」
泰時。
深敦とは全然、関わってないみたいだから、ノーマークだったけど。
「…そうなんだ?」

俺、このタイミングで告ってやっぱりよかったんじゃねぇの?
泰時に先越されたら、どうなってたか。

それに、泰時が深敦のこと好きだってわかってから告白してたら、俺、なんかいかにも泰時に取られないようにしたみたいで、それって本心からしてるように思えないし。

自分の意思でしたんだって、いまは思えるだろ。
やっぱ、間違ってなかったんだよ。

「泰時ねぇ。……ってか、お前はそれでいいのかよ」
楓が、好きな相手だし。
前に聞いていた。
っつーか、楓とは泰時の話題が多い。
俺は、バレー以外では、水城とつるんでるし、泰時も別のグループにいるから、それほど話すこともないんだが。

楓は、遠くから見てれればとりあえず、満足らしい。
泰時とは一応、友達らしいが、もう出来上がっちゃってる泰時のグループよりも、俺と水城、2人だけ相手の方が入りやすいんだろう。


「俺は、泰時と深敦くんがくっつけばなって思ってる」
「…泰時好きなんだろ」
「まぁそうだけどさ。微妙だよ…。…泰時の幸せを願うべきなのかなーって」
そんなもんですか。
「…確かに。泰時と深敦だったら、絶対、似合ってるとは思うけど」
「…でしょ…。なんか、あのテンションとか。ぴったりでさ。俺、勝ち目ない気がするし」
「楓はそれで諦めれんの?」
「諦めるっていうか、自分が泰時と付き合うだなんて、考えられないし。深敦くん、憎いねぇ…ホント。でも、こうやって見てると、泰時って全然、深敦くんに近づいてないよね」
「だよなぁ。いまんとこ、2人が話してるとことか、見てねぇけど」
「…どこでどう好きになったんだか」
「…っつーか。俺、深敦好きだから、困るんすけど」
「深敦くんは深敦くんで、啓吾くん大好きくさいしね。俺が挑発するとすぐノってくるし。少しは、凹んでくれないかなぁ? 俺と啓吾くんが仲いいって。結構、噂にもなってんのに。凹んでくれたなら、泰時が癒しにいけるじゃん?」
「…楓が挑発して、ノってくる深敦を見てんのは、楽しいけどな。っつーか、楓は泰時と深敦がくっついていいわけ?」
「なんかね…。泰時と深敦くんが、このまままったく接点ないままってのは微妙かな。接点あって話したりして、お互い分かった上で、付き合わずにいてくれたら、俺は満足なのかもしれない。いまのまま、万が一俺と泰時が付き合うようなことがあってもだよ。深敦くんのこと、心の中では考えてるんじゃないかって、不安になるよ」
「…それは、わかるかも」
ちゃんと、泰時と深敦が接点あって、知った上で、俺を選んでくれたらいいな…って思うし。
「ただ、知って付き合い出しちゃったら微妙だけどね。付き合いだしたら……対抗する気力ないよ。ぴったりに見えるもん」

俺も。
あれに対抗する気力はないかもしれない。

「好きな人の幸せを願うのか、好きな人、奪い取りに行くべきなのか。どっちがいいと思う?」
「好きな人の幸せを願うって考え方には同意できるけど。今の状況としては、それはあまりいただけねぇな」
泰時と深敦がくっつくと俺が困るわけで。

でもなぁ。
俺も思う。
深敦も、泰時とだったら、すっげぇ上手く行くようなそんな気がするから。
つい、二人、ため息をついていた。

「とりあえず、いまのところ、深敦くんは啓吾くんが好きみたいだけど」
「俺もな、深敦が幸せなのが一番だとは思うけど、自分の気持ちも抑えられないって、そういうのあるだろ」
「…まぁわかるけど」
だから、つい、告っちまったんだよなぁ。

「…楓さ。だんだん、ただたんに深敦からかうの楽しくなってきてねぇ?」
「あぁ。それもある。だって、啓吾くんのことになると、すっごいムキになるんだもん。かわいいよね、彼。それ見て、すっごい『深敦かわいい』って表に出さないように我慢してる啓吾くんも見てて、かわいいけど」
「……出さねぇようにしてんだけど」
「バレーん時とか、目が、すっごい深敦くん追ってんだよねー…。泰時もだけど」
それを見られてたと思うと、少し恥ずかしい気がしないでもないな。

「…泰時と深敦が付き合ったら、たぶん上手く行くってのはわかるんだよ。だけど、俺もやっぱり、譲れないから。深敦のこと、悩ませるだろうけど、2人を見守って、このまま友達でいるなんて俺には無理くさいんだよな。いま、深敦が俺を好きでいてくれるからなおさら。だから、俺はぶっちゃけ、深敦と付き合おうと思ってんだよ」
もちろん、オッケーの返事が来たらの話だが。
「楓もさ…。泰時のこと、狙ってけよ」
楓は、ため息をつきながら考え込む。
「…俺は…難しいよ。泰時とうまくやってく自信ないし。泰時は深敦くんが好きなんだし」
「深敦が、俺と付き合ったら、泰時だって変わるだろ」
「深敦くんのこと、諦めるだけで、俺を好きになるってわけじゃないじゃん」
「お前こそ、凹んでる泰時、慰めてやれよ」
「微妙だなぁ。まぁいいや。泰時のことはともかく。啓吾くんが熱心に深敦くんを好きなのは伝わったから。とりあえず、お互いがんばりますか。早く、接点もつ泰時、見てみたいんだけど」
「…接点、持つべきか、微妙だけど」
「だからー。持った上で、断って欲しいんだよね。深敦くんとは接点ないから、とりあえず、身近に居る子でいいや…ってな感じで俺、選ばれたくないし」
「わかるよ、それは。泰時と深敦が接点できても、別に邪魔はしねぇよ。俺だって、深敦が泰時と比べた上で、俺を選んでくれたらって思うから」


ぶっちゃけたところ、不安はある。
泰時と深敦。
たぶん、気が合うだろうし。
泰時よりも、先に深敦に声をかけてよかったと、すっげぇ思うし。

担任の渡部先生が来たのに合わせて、楓は教室を出て行った。
出てく前にまた、深敦になにか話しかけてたみたいだけど。
どうせからかって遊んでるだけだろう。


「啓吾。おもしろいこと教えてやろうか」
前の席の水城が、俺の方を向いて企むように笑う。
今日は、珍しく深敦に声をかけに行っていたみたいだが。

「なんだよ。なんかイイ情報でも仕入れた?」
すると、俺の髪をかきあげて、左耳をジっと見る。
「なに?」
「……このピアスさぁ。啓吾、ルームメイトから貰っただろ」
「あぁ。そうだけど?」
「深敦、どうやら、あけたみたいでさ」
「なんか、とかげみたいなのしてたな」
「…しっかり見てんのな、お前。…先輩から貰ったっつって、これとおんなじの、ポケットにしまってたぜ? おそろいじゃん」
凪先輩。
絶対、わざとだな。

似たようなやつはどこにでもあるだろうけど、先輩から貰ったって。

深敦、一昨日と昨日は俺の部屋にいたし。
凪先輩で間違いないだろう。
一緒だ。
「…凪先輩も、少しお節介だよな」
「イイ先輩じゃん? 無事、貫通したら、十字架付け出すだろうねぇ。それか、もう片方の耳、俺が空けちゃおうかなぁ。で、十字架付けさす」
「…バレるだろ」
「あんま見ないだろ、気にしないって深敦は」
「どうだか」



まぁた、つまらない授業が始まって。
学校、終了。

今日は、テスト勉強でもするかなと。
自分の部屋に戻ったわけだけれど、すぐさま水城から電話が。
「今日、アキと勉強するっつってなかったっけ?」
『あぁ。そうなんだけど。英和辞典、持ってる? 俺もアキも学校に置いてきちゃってて。ルームメイトいないし、勝手に引き出しとかあけにくくって』
「英和? んー…電子手帳の英和ならあるけど」
『それでいい。ちょっと借りれる?』
「いいよ。取りに来いよ」

しばらくして、水城が俺の部屋に。
「…啓吾、一人で勉強?」
自分がアキと勉強するからか、少し楽しそうに、俺を見て言う。
「勉強っつーのは、一人の方がはかどるんだよ」
「はいはい」
「今日、俺、英語やらねぇから。明日でいいよ」
そう電子手帳を渡して。

少しだけ、話していると、インターホンが鳴る。
「はいはーい」
立ったままだった水城が俺の代わりに応対した。


「あぁ、俺、もう帰るとこだから」
「別に、帰らなくても…」
深敦の声だ。
「いや、ホント、帰るとこだったんだって」
「ホントかよ」

水城は、じゃあなっつって、俺に手を振って出て行った。
入れ違いみたいに、深敦が中に入ってくる。
「啓吾…?」
「なに?」
少し戸惑ってる様子が、見ててやっぱりかわいく思えるわけ。
「つったってねぇで、こっちこいって」
「なっ…」
少し強引に、手を取って、ベッドの上に押し倒す。

「今日、このタイミングで部屋なんて来られたら期待してまうやん…?」
「…期待…って…」
「それとも、俺のこと、フりに来た?」
真面目に言うと、切ないから?
ちょっと冗談っぽく伝えた。
だけれど、深敦はなにも言えずにいるもんだから。
そっと、口を重ねた。
拒んでくれないもんだから、やっぱり少し期待と。
不安が入り混じる。
「…啓吾…」
「お前さ…どうして来てくれたわけ…?」

「俺…っすっげぇ馬鹿なんだけど…」
やっと開いた口からは、少しずれたセリフ。
「なにそれ」
つい、そう答えていた。
「啓吾、頭いい奴が好きだって…」
んなこと、俺言ったっけ?
確かに、馬鹿は嫌いだけれど、それはまぁ誰でもそうだろ。
馬鹿なやつ相手にしたくないって思う。

…楓がなんか言ったのか?

「…そりゃ、馬鹿より頭いい奴の方が好きかもしんねぇけど」
そう伝えると、あからさまに、不機嫌そうになる。
「……深敦、お前なにしょげてんの。馬鹿だから?」
「っ違ぇよっ…!……馬鹿だけど…」
なぁんか、ホント。
俺、深敦のこと見てると幸せかもしれない。
俺こそ、馬鹿だな。
「俺は、深敦のこと、別に馬鹿だと思っちゃいねぇよ」
「……でも、俺は馬鹿なんだってば。だから、お前、俺が馬鹿だってわかったらっ…」
「わかったら?」
馬鹿が嫌いって。
そんな気にしてんのか?
「…深敦が馬鹿でも、別に関係ねぇよ。……どういうつもりで、ここへ来た…?」
「…馬鹿でもいいのかよ……。かっこよくもかわいくもねぇし。身長だって、かわいい女みたいに低いわけでもねぇし。お前と横に並んでも中途半端だし。春耶とお前の方が並んでてかっこいいし、隣のクラスのやつとの方が、似合ってるし」

顔が、笑ってしまいそうになる。
なぁんか、すっげぇ嬉しい発言に発展してくんじゃねぇの? それ。
深敦は、なぜか泣きそうだし。
「いいよ…」
そう言ってやると、深敦は、もっと泣きそうな顔になっていく。
「…自信、ねぇもん…」
「なんでだよ」
「お前は、いいよ。っ…背も高くてかっこよくて、勉強もスポーツも出来て。それなのに、ねたまれないで友達もたくさんいてさぁっ。そんな奴と釣り合える自信なんてねぇもん」
「なぁに、俺のこと、すっげぇ評価してんの、お前。そんだけ俺のこと、持ち上げてくれてさぁ。俺に選ばれたって、自信は持てねぇのかよ」
「持てるかよ、馬鹿…」
「…理屈じゃねぇんだよ…深敦…。馬鹿だから嫌いとかそんなんじゃねぇし。理由とかなく好きだって思えるんだよ」
好きな理由なんて、説明出来ないだろ。
「啓吾……こないだの、答えなんだけど…保留にしてたやつだけど……いい…から…」
小さな声で、そういって、深敦は顔を逸らしてしまう。
「いいって。どういうこと…?」
耳元で、確認したくてもう一度聞く。
「っだからっ……そのっ……」
「付き合ってくれるってこと…?」
「…ん…」
深敦は、そっと頷いてくれた。