『拓耶×陸』





ホワイトデーまでの数日は、あいかわらずいつもと変わらなかったけれど、俺の中では結構、考え込んでしまっていた。

当日。
3月14日。

いざこの日になってみると、どのタイミングで渡せばいいのか。
学校ではパスだよなぁ。
寮か。
バレンタインのとき、誰かはきっと拓耶にあげてたんだろう。
拓耶は、もしかして今日、お返しとかするのかな。

あぁ。
苦しいな。
なんで俺、毎年スルーしちゃってたんだろう。
なんで俺はなにもしてあげなかったんだよ。

友達の期間があって。
彼女になったのに、友達のときと変わらないことしかしていない。

そりゃあ友人同士の関係みたいなものも無くしたくはないけれど。
彼女としてやるべきこととかあるだろう。

自己嫌悪に陥る。
だけれどやってこれなかったことをいまさら悔やんでもしょうがない。

とりあえず、メールで今日の夜、会う約束だけ取り付ける。
本当は、俺から誘うことも普段はないから恥ずかしいし、待ってれば拓耶の方から来るかもしれないけれど。
でも少しくらい自分からなにかしたいし。

会って、用がないって俺が言ったとしても、拓耶ならなにかしら話題を作ってしゃべってくれるだろう。

大丈夫。

学校が終わって。
あっという間に夜が来てしまう。
夜に会う約束をしたせいか、夕方には来なかった。
拓耶も部活だったりいろいろ遊んでたりするんだろう。

ラッピングされたクッキーのみを持ち歩くのもなんだか恥ずかしくて、カバンの中に入れておいた。


約束の時間。
夜9時に拓耶の部屋へ。

「陸―♪ こんばんわ♪」
扉を開けるなりそう出迎えてくれる。
「…こんばんは」
あいかわらずのテンションについていけそうもなく、ローテンションで俺は応えた。
部屋に入り拓耶に背を向け扉を閉めると、すぐさま俺の後ろから、拓耶が体を抱きしめる。 「っ…!」 「陸から、来てくれるなんてめずらしいね」
「別に…」
拓耶の体を押し退けようかとも思ったが、そこで改めて用件を話すのも躊躇するから、やめておく。

「…憂は?」
拓耶のルームメイトだ。
いつもだったら、この時間、ここにいるはずだろう。
「ん。今日はいない」
どこか、泊まってるんだろうか。
それ以上、聞くのはやめにしておいた。


「…拓耶…バレンタインに、誰かから貰った?」
俺がそう言うと、拓耶は優しい手つきで俺の髪をなでながら、
「友達とか、後輩とか。義理でだけね」
そう言った。
うん…拓耶は、嘘はつかないでいてくれるんだよ。
貰ってないよ、なんて言われても、たぶん、今の俺は信じられないだろうし。

「俺…ホントは気にしてたんだよ…。自分があげてなくて…」
「それは、俺の方から陸にあげたからいいんだよ? そんなこと気にしてたの?」
「…俺が出来ないこと、拓耶の友達とか後輩とかはしちゃってるんだ。義理じゃないかもしれないよ? 拓耶、好かれてんだよ」
拓耶は、あいかわらず俺の髪を撫でて。
それだけで、俺は少しボーっとしてしまっていた。

「どうしたの? 急に」
「急じゃなくて。ずっと思ってたんだよ。今日…ホワイトデーだし」
「俺は、陸にしか見せてない自分がたくさんあるよ。弱くて情けなくてみっともない自分はさ。陸にしか見せてない。もし、それ見たらみんなだって、俺のこと嫌いになるかもしんないし」
「ならないよ…。そんなことくらいで」
「どうだろう。どっちにしろ、俺は、陸以外にそこまで晒す気もないし、晒せないんだけどね。だから、もしかしたら嫌われないかもしれないけど、それはホントの俺じゃないし、俺は、ラクじゃないから。
陸なら、晒しても大丈夫だと思ってる。陸の前でだと素直に自分を出せるんだよ。だから、すごく心地いい。
…陸じゃなきゃ駄目なんだよ、俺の隣にいるのは」

うん。
そう言ってくれるのはすごい嬉しい。
でも、わかってないな。
そういう問題じゃない。

「拓耶の気持ちを疑うわけじゃないけれど。だからこそ、俺はなにも拓耶にしてあげれてないし、俺よりも拓耶のためにしてあげれるような子が、たくさんいそうで」

それが、申し訳ない気になるんだよ。

「いないよ。俺のためって? 別にバレンタインにチョコをくれるのが俺のためってわけじゃないでしょ。そりゃ気持ちはありがたいけれど。くれないのが駄目だなんて思ってないし。普段、なかなかお礼が言えない代わりに物をあげたりする機会なだけであって。
陸は毎日俺に、いろんなものくれてるから。関係ない」
「なんにもあげてないよ」
「そこにいるだけで、俺はいろいろ貰ってんだよ」
「…意味わかんないよ」
「それに、俺があげたから。お互い交換するってわけじゃないでしょ。バレンタインって」
そう。
バレンタインに片方があげて、ホワイトデーに返す。
「だから、ホワイトデーだし…っ」
「別に、バレンタインに俺があげたのは、毎日の陸へのお返しなんだから。ホワイトデーだからって別にいいよ?」

俺はカバンの中から取り出したクッキーを、拓耶の腕からすり抜けるようにして振り返り、差し出した。
「…あげる」
「え…」
「別に、拓耶にとっては、どうでもいいのかもしれないけれど。やっぱり俺は、他の子がなにかしてんのに、彼女なのに、なにもしないなんて、苦しい」
拓耶は俺の体をまた強く抱きしめてくれていた。
「ありがとう。…陸、そんなに気にしなくていいんだよ? 苦しいなんて言わないで? 
本当に、なんにもなくても別に俺は陸が少し気にしてくれただけでもすごく嬉しいし、気にしてくれなくても全然かまわないんだよ」


なんでそんなに、俺のこと想ってくれてるんだろう。
どうして、そこまで出来るんだろう。

拓耶が好きな気持ちに代わりはないし、俺だって、こんな風に想われたら嬉しいし。
でもいいのかなって思っちゃう。
俺が拓耶にしてあげれることよりも、他の子が拓耶にしてあげれることの方が多そうで。

拓耶のために、なにかしたいのに。

「陸…あんまり深く考え込まないで…。好きだから。これ以上、俺のことで悩まないでよ」

あぁ、悩んでる自分はまたそれで拓耶の負担になってしまっている。
もっと楽天的な性格だったらな。
でも、それだったら今の拓耶との関係も築けていないのだろう。

「拓耶…俺…。他の子に負けないようがんばる…」
「充分、負けてないよ。勝ってるから」
「拓耶はモテるんだよ」
「関係ないよ。俺は陸にしか興味ないから」
「…恐いな…。俺なんかが彼女でいいのかよって思うときがあんだよ。他の子にバレたら、なに言われるか…」

「…なにも言わせないから。安心してよ。もっと自信持って? 俺だって、情けない姿見せすぎて、陸に嫌われるんじゃないか不安に思うこともあるよ? あ、でも、陸が俺を不安にさせてるってわけじゃないからっ。陸のこと信じてるし」
ほらまた。
俺を気遣ってくれる。
優しいな。
「拓耶…。ごめんね。もっともっとたくさんしてあげれたらいいのに」
「いいって。気にしないで」

そう笑顔を向けられると、やっぱり安心してしまう。
なにかしてあげなきゃって本当は思うけど。
とりあえず、ホワイトデーのお返しはあげれたわけだし、今日はこれで充分だよね?

「ありがとう…。もうそろそろ、俺、戻るね」
「待って。…泊まってけない?」
帰ろうと背を向けた俺の手を取って。
あいかわらず、俺が断りやすいようにか少しだけ軽いノリで聞いてくる。

「…なにも…しない?」
「……陸がしたくないなら、なにもしない」
「……したくないなんてこと…ないよ」
「じゃあ、いいの…?」
背を向けたまま頷く俺を確認してか、拓耶は後ろからきつく俺の体を抱きしめる。
拓耶の左腕が俺の体を抱きしめながらも右手で、俺の股間をズボンの上から撫で上げていく。
「んっ…」
ビクつく俺の体を左腕で抑えて。
片手でズボンのチャックを下ろし俺のを取り出してしまうと、直に拓耶の手が俺のを捉えて、擦りあげていく。

拓耶の手が。指が。
俺のを扱っているのが視界に入って、体中が熱くなる。
恥ずかしいのと、気持ちいいのと。

おかしくなりそうだ。
「ぁあっ…んっ…ぅんっ…」
どうしよう。
「拓耶っ…あっ…ンっ…だっめ…っ」
「どうした…?」
「はぁっ…あっ…立ってられなっ…」
「ん…ベッド行こうか…」
改めてそう言われると、恥ずかしいけれど。

拓耶は、力の入らない俺の体を抱きかかえ、ベッドの上におろす。

以前に比べると、この行為にも少しは慣れてきていた。
が、恥ずかしいことには変わりない。

ズボンと下着を脱がせてくれて。
拓耶が、ローションを指に付けるのが目に入り、これからされることを考えると、何も言えず、ただ見守るだけ。

拓耶の指先が、俺の足の間を撫でて、ゆっくりと中に押し入ってくる。
「んぅっ! あっ…んーっ」
「力、抜ける?」
「はぁっ……んっ…」
なんとか頷いて。
拓耶の指を受け入れて。
根元まで入った指が、今度はゆっくりと退いて、中を探っていく。
「あっ…やぁっ…んっ」
ビクついてしまう体が恥ずかしくて。
我慢しようとベッドを踏みしめても、シーツを握っても、嫌なくらいに感じてしまう。

「んーっ…あっ…ぁあっ…そこっ…ゃめっあっ」
「気持ちいい…?」
「だめっ…ぁあっっ…ンっ…ぃっちゃうっ…やあっ…」
「…陸…どんどん感度良くなってるよね」
不意に耳元で熱っぽくそう言われ、恥ずかしくてたまらなくなる。
「やっ…! あっ…あぁあああっっ」

恥ずかしいって思ったのにな。
恥ずかしいから、拓耶に対して怒りたかったのに。

恥ずかしいこと言われて。
イってしまった自分が恥ずかしくて。
なんで…?

頭が混乱してきた。


いつもいつも恥ずかしくてたまらなかった。
それなのに、感じまくって。

あれ…。
感じまくるのが恥ずかしかったんじゃないの?
恥ずかしいことされて感じてんの?
どうしよう。
わかんない。

「どうした? 陸」
「…っなんでもな…」
拓耶にそう顔を見られるのも、恥ずかしいのに。
期待してるとかじゃないのに、なんかもうまた体が熱くなってる。

「入れていい…?」
頷く俺を確認して、拓耶が自分のをゆっくりと押し入れていく。
「あっんぅんんっ!!」

奥の方まで入り込むと、自然と腰が動きそうになる。
拓耶はあえてそれを指摘しないけれど。
拓耶がそのまま動かないのなら、俺から動きそう。
そんなの恥ずかしいから嫌なのに、どうして感じるわけ?
「拓耶…っ」
「…なにか、不安…?」
いつもと俺が違うからか、気にして心配そうに俺を覗き込んでくれる。

違う。
やだ。
「やっ…だっ…俺っ…」
「どうした…?」
動いてよ。
俺から、動いちゃう。
「あっ…んっっ…こんなっ…」
こんなの、恥ずかしい。いやだ。
下にいるのに、自然と、自分から動くなんて。
「もっ…やっっ…あっ…見な…っ…やっだめっ…」
「…かわいいね…陸。腰、浮いてきてる」
ほら。
気付かれてる。
かわいいだなんて、ありえない。
いやらしいよ。
恥ずかしい。
なのに、嬉しいような。
感じちゃって、体が熱くてたまんない。
「あんっ…あっ…拓耶ぁっ…やぁっあっ…とまんなっ…あっやっ…」
「いいよ、止めなくて…。好きなように動いてみて?」
「ゃっ…あっ…俺っ…あぁあっ…だめっ…やっっ…」
いやらしくくねる腰つきを、拓耶に眺められて。
こんな恥ずかしいの、耐えられない。
「あっんっ…もぉっやっ…」
「すごいね…。俺も、我慢出来ないな。動くよ?」
俺とタイミングを合わせるようにして、拓耶が動いてくれる。
すごく俺が好きな所。
気持ちいい。
「ぁんっ…やぁっあっ…拓耶ぁっ…ぃきそぉっ…」
「いいよ…。イこ…?」
「ぅんっあっ…あんんっ…やぁあああっっ」


恥ずかしい行為の後。
拓耶は振り返って何か言うことはほとんどなかった。
お互い、思うことはいろいろあるんだろうけれど。
あのとき、どれだけ恥ずかしい自分をさらけ出してしまったかを自覚するのも恐いし、指摘されるのも辛いから。
言われても困るし、言うこともなかった。
拓耶も、全部わかってくれてる。

なにも言わず、俺の隣で寝転がってくれて。
ただ、繋いだ手だけは、恥ずかしいけれど離さないでいた。



「さっきね…。俺、他の人よりも拓耶のためになにかしてあげれてる自信がないって言ってたでしょ」
「うん…。そんなことないけどね」
「…でも、ホントは……本当は、これね。誰にも負けないと思ってる」
「これ?」
あぁ。
こんな恥ずかしいこと、言いたくないけれど。
「…この…気持ちね……」
でもせめて口に出さないと。
それくらいはやれよって思うから。

「拓耶のことが…大好き」
涙が出そうなくらい恥ずかしい言葉。
久しぶりに言った気がする。
こんな些細なことも出来てなかったから。

ほら。
久しぶりすぎて、拓耶だって言葉失ってんじゃん。
でも、それだけ響いてくれたかな。

ねぇ。
「…拓耶…?」
「あ……」
少しの沈黙が少し不安で、無反応かと思われた拓耶の表情を伺うと、意外にも動揺しているようで。

「陸…俺…っ」
「う…ん?」
「なんか…改めて陸にそう言われると、恥ずかしいって言うか…っ」
…なにこの人、照れてんの…?
「ちょっと…恥ずかしがられると、なんかこっちも恥ずかしいしっ」
いや、元から恥ずかしかったけどっ。
「ごめっ…でもなんか…っ。久しぶりで…っ。っていうか、そんな大…好きとか、初めてじゃん」
あ…そうか。
好きって伝えたけれど、大好きだなんて言葉、いままで使ってなかったっけ。
…なんか、やっぱり恥ずかしいけど。

こんな動揺する拓耶見るのも、ちょっと珍しくて楽しいだとか思ってしまう。


上手く表現出来てないけれど、本当は誰にも負けてないと思うから…。

この気持ち、貰ってください。