ピーンポーン
って、水城が出てって間もないうちにインターホンの音。
ココは水城の部屋だから、俺が出ていいのか…?
でも、今、俺しかいないし、誰も出なかったら出なかったで、鍵かかってないから入ってくるかもで…。
とりあえず、俺は、のぞき穴から、外にいる奴が誰なのか確認。
「……あ…」
 榛先輩と和奏先輩だった。
「こんにちわー」
 俺が、扉を開けると、少し慌てたように、榛先輩が部屋番号を確認する。
「あぁ、ココ、春耶の部屋だけど、今、ちょっと春耶は出かけてて…」
「そっか…」
「深敦くん、一人…? じゃ、ちょっと遊ぼう」
「うん」 
 俺は、自分の部屋じゃないけど、榛先輩と和奏先輩を入れた。

「ほら…。これ、こないだ撮った春耶くんと朔耶くん…。今日はさ、コレ渡そうと思って…」
見せてくれた、写真は、すごいなんていうか…セクシーとか言ったらおかしいけど、そんな感じなんだよ。
色気があるっつーか…。
そんなツーショット。
絵になる双子だよなぁ。
「あ…。春耶一人の写真はないの…?」
「…春耶くんだけ…のは、一応あるけど…ほら…」
 春耶って…今までマジマジと見たことなかったけど、実は美形…?
 角度によっては、かわいいし…。
 しかも、上半身裸でセクシー全開。
 元水泳部の俺は、こう濡れた上半身なんて見慣れてんだけど。
「あ、写真、売ってんだよね。これ、ちょうだい」
「深敦くん、啓吾くんが好きなんじゃないの…?」
 和奏先輩ってば、あっさりなんてことをっ。
「っ啓吾が好きとか言うなよっ。秘密なんだからっ」
「秘密なんだ…? 啓吾は、いい奴だよ」
 榛先輩は、軽く笑って、春耶の写真をファイルから1枚抜き取ってくれる。
 啓吾がいい奴って…。
「……友達なわけ…? 榛先輩、啓吾と……」
「…んー…啓吾の兄貴と仲良くって、よく家とか行ってたから……啓吾とも仲良かったんだよ」
 啓吾の兄貴っつーと優斗か…。
 同い年だもんな。
 じゃぁ、優斗が、榛先輩のことを『愛妻』とか言ってたのも、少しだけホント…?
 いや、優斗って、啓吾のルームメイトと付き合ってたような…。
 ま、いっか。
「よく家行ってたんならさ。晃には会わなかったの…? 啓吾と晃、小学校のころから友達だったみたいだし…」
 啓吾の家で会うかもしんねぇよな。
「…うーん…。啓吾、あんまり家に人呼ぶタイプじゃないみたいだから…。今日、初めて見たよ」
 なるほどね。
「あ、それ、俺が欲しいんじゃなくって…晃にあげたいんだ」
「…晃くん、春耶くんが好きなの…?」
 これって、よくわかんねぇんだよな。
「たぶん…。それより、春耶が晃にベタ惚れって感じだけどな」  



榛先輩から、写真を受け取って、見直してみるけど、やっぱかっこいいよな。
 うん…。
「あげるよ。知り合った記念にね」
 榛先輩は、そう言って、お金を取らないでいてくれた。
「あぁ、でも、それ晃くんにあげるんだよな。深敦くんもなにか欲しいのある…?」
「俺…は…別に…」
 少し迷う俺に、和奏先輩が、くしゃくしゃと頭を撫でてくる。
「啓吾くんの兄弟写真もあるよな。たしか…」
 和奏先輩が、楽しそうにそう言うと、榛先輩の写真のファイルをペラペラとめくった。
「ほら…」
 見せられたそこには、優斗と啓吾のツーショット。
 すっげぇ…。
 メガネしてないとホントそっくり…。
 というか、優斗が真面目な顔してると啓吾みたいっつーか…。
「…あげようか…?」
 榛先輩が、そっとそう言ってくれる。
「…っ…こんなの、持ってたら、啓吾に馬鹿にされる…」
「…大丈夫だって。…啓吾のソロの方がいいよね…」
 そう言うと、一枚、取り出して俺に渡してくれた。
 啓吾だけが写ってる写真…。

「…あれ、俺、それ見たことない」
 和奏先輩は、榛先輩から俺が受け取った啓吾の写真をじっくり見ながら、不思議そうに言った。
「…あぁ…。それ非売品だしね。売り物にしないって約束で、ちょっと啓吾にモデルになってもらったんだよ」
「…榛、こんなの持ってたんだ…。すっごい、色っぽ…。コレ、売ったらやばいよな…」
 上半身しか脱いでないんだけど…
なんか表情とか色っぽくて…
めちゃくちゃ売れそう…。
「…売らない約束だから売らないよ。ちょっと、練習代になってもらっただけ」
 かっこいいっつーか…
 いやらしぃ…って、言葉の方が似合うような気が…。
「…深敦くん…大丈夫…? 顔、赤くなってるよ…?」
 和奏先輩が、俺の頬に手をあてて、少し笑いながらそう言う。
「え…ぁ…」
「啓吾、やらしいだろ…? 優斗と似てるけど、これは優斗には真似出来なそうだよな…」
 優斗の真面目なのってあんま知らないから、想像出来ねぇよ…。
「…売らないんだ…ね…」
「…啓吾が、駄目って言うからね…。まぁ、売らないからこそ、してくれたんだろうけど…。ソロは恥ずかしいみたい」
「榛の写真もあるんだよ…?」
 そういえば、昼に言ってたよな。
 裏で高額で…とかなんとか…。
「…榛先輩の写真は、誰が撮るわけ…?」
「優斗だよ…。…まぁ高額だし、その金は全部、俺にまわしてくれるからいいんだけど……下手すぎて見てらんねぇって…」
「優斗が…? 榛先輩も脱いだりするわけ…?」
 そんなこと、するように見えないし…。
「…うぅうん……。自分からはそう脱がないけど…。あいつ、いつのまにかカメラ隠し持ってて撮るんだよ…。最低だろ…? ホントにやばい写真は売らないで優斗が持ってるみたいなんだけど…」
 ますます、見たい…。
 というか、やばい写真って…?
 それを優斗に撮られちゃうって、榛先輩と優斗の関係ってホント、わかんねぇな…。
 今度、こっそり優斗に頼んで見せてもらおう…かな…うん。
「あ、封筒、いる…?」
 そうそう。生で持ってるのもあれだしな。
 俺は、榛先輩から封筒を受け取り、その中へと写真をしまった。

 しばらく話して…。
「…あぁ、俺、朔耶くんのとこにも行かないと…」
 榛先輩は、そう言って写真のファイルを閉じる。
 そっか。
 春耶と一緒に朔耶も写ってるからな…。
「じゃぁ、俺もついてっていい…?」
 暇だし。
「いいよ。じゃ、3人で行くか」
 俺は、榛先輩、和奏先輩について部屋を出た。



ドアを開けると、そこになんと啓吾がいて…。
「…っ啓吾っ」
「…あれ、春耶くんに用事…? 今、いないみたいだけど」
 榛先輩は、そう言って春耶の部屋を振り返って見る。
「んー…深敦に用がね……」
「…俺…?」
 部屋にあいつを連れ込んでたくせに…。
「…じゃあ、がんばって…」
 そっと、和奏先輩は、俺の耳もとでそう言うと、榛先輩と一緒に部屋を出て行った。



「…さっきの子は…もう、話は終わったのかよ」
 啓吾の部屋に行ったときにいた奴だ。
 どうしても、あいつが気に食わない。
 それ以上に、あいつをかばう啓吾が気に食わなかった。
「終わったもなにも、大して用が合ってきたわけじゃないみたいだし…。ちょっと来たから話してただけ」
 つまりは、用もないのに来てたのか…。
「…で…深敦の聞きたいことって、なんだよ…」
 そんなの、言えるわけねぇ…。
 あのときは、まだよかったけど、なんか、体育で俺がキレちまったのとか、啓吾があいつをかばったのとか…
 いろいろあって、聞きづらい。
 そんな気分じゃないっつーか…。
「…啓吾さ……。俺のこと、馬鹿だとか思ってんだろ……?」
「…なにそれ。そんなこと…? なんでわざわざ聞くんだよ。馬鹿っていうか、頭、悪いんだっけ?」
くっそぉ。言いやがったよ。
「そーゆう馬鹿じゃなくってさぁ。…いきなりキレたり…馬鹿って思ってるだろ」
「…別に…腹ん中、溜めてるより、キレる方が深敦らしくていいんじゃねぇの」
 俺らしいってなんだよ…。
「でもなんであんないきなりキレたわけ…? なんか言われた…?」
 言われた。
 でも、それを言ったらまた、啓吾が変にかばうんじゃないかって…。
「…わざとなんだろ…とかさ…いろいろ言われて…」
 それでも、言わずになんかいられなかった。
「…へぇ…いろいろね…。まぁ、かわいい顔して、何考えてるかわかんねぇから」
 少し冗談っぽく言うけど、俺はもうそんな笑ってられる気分じゃない。
 言ってることは春耶と同じだけど…。
 かわいい顔とか…。

 それに、お前、かばったじゃん…。
「…深敦…泣くなって」
 冗談っぽく、泣いてない俺にそう言って、顔を両手で包み込む。
「っ馬…鹿っ。泣いてねぇよ。馬鹿」
「…当てようか…? いろいろ言われて、深敦、キレちまったんだろ…? それと…俺が、あいつをかばったから…機嫌悪いんだろ…?」
「……違ぇよ、馬鹿。あーゆう子にはあんくらい言った方が…」
 あぁ…それで俺、啓吾に言い過ぎって思われたのか…。
「…後先考えずに、思ったこと、バンバン言ってさぁ…。はたから見たら、なんでもないのにいきなりキレた奴だぜ? 俺が、止めなきゃ、どこまで言ってたんだ? あんくらいでやめとかねぇと、深敦のイメージ、悪くなんぜ…?」
 俺の…イメージ…?
 じゃぁ、あいつをかばったとかじゃない…わけ…?
「…だからって…。言い過ぎだとか注意されたら、むかつくだろ」
「…冗談っぽく言ったんだから冗談っぽく『そーだね』って返してくれればさぁ。周りの奴らだって、冗談だったのかって、治まるのに、逆にお前、怒るからフォローで出来ねぇって」
 わけわかんねぇっ。
 つまり…
 俺が、あの啓吾の冗談っぽい『言い過ぎ』ってのに『そーだね』って返してたら…
周りの奴らも俺のこと、いきなりキレた奴ってゆーより、冗談で言いすぎだ奴ってな感じになってよかったかも……ってことか。
「…深敦さ……なんつーか、処理能力ないっつーか……俺がしゃべるとたまにすっごい時間かけて考えるよな……」
「な…っ…お前の言ってることがわけわかんねぇからっ。おまえが悪いんだよ」
「…まぁね…そーやって深敦が考えてくれんのは、うれしいけどな」
 うれしい……?
 うれしいとか言われると、なんか恥ずかしい。
「…馬鹿…じゃねぇの…?」
「はいはい」
 人を馬鹿にするような返事をして、啓吾は、そっと軽く、俺に口付けた。
「…ん…っ…ゃだ…」
「わかったって。で、結局、聞きたいことってなんなわけ? お前、バレーでキレる前に俺に言ったろ…?」
 あの子をどう思ってるかって…?
 俺をどう思う?
 聞けるわけねぇだろ…。
「…えっと……冷やし中華に…マヨネーズかけておいしいわけ…?」
 これしか…思いつかねぇ。
「…おいしいけど…そんなんじゃねぇだろ。だったら体育んときに聞けって話だもんな」
 バレテーラ…。
「…忘れた」
「…は…?」
「だからもう聞きたいこと、忘れちゃったって言ってんの」
 啓吾は、そう言う俺を見ながら少し考えるようにして、ベットに座り込む。
「…じゃぁ、思い出せ」
 なに無理言うんだよ、こいつは。
「あぁ…俺が先に深敦に聞いていい…?」
「…な…にを…」
 妙に緊張する。
 なんていうか、悪いことしてないけど職員室に呼ばれたら緊張しちゃうっていうあんな感じ?
 ってか、俺、悪いこと、和奏先輩や知らない先輩としちゃった…?
「…まぁ、こっち来いって…」
 後ろめたい思いがあるせいか、なぜか素直に従ってしまう。
 ベットに座ったときだった。
 腕をとられて一気に、押し倒される。
「っな…にして…馬鹿っ」
「いいから…。真面目なんだよ、こっちは」
 人押し倒しておいて、真面目ってなんだよ、こいつっ。
「なんもねぇ部屋だな、ココ…。こんくらい…?」
 そう言いながら、カーテンを束ねる布を俺に見せびらかす。
「な…に…」
 強引に俺の両手首をその布で縛り上げた。
「なにすんだよ、馬鹿っ。縛る理由言えよっ」
「拘束したいから。OK?」
「……」
 逆に、あっさり理由言われると、どうにも出来ないんすけど…。
 ってか、なんでこんな力強いわけ…?
 空手とか習ってた…?
 体の向きまで変えられ、もう一つ取り出した同じペアの布で、俺の手首の布をベットの頭側の柱に固定してしまう。
 深敦ピンチだな、これは…。
「……初めてやったときも…こうやってベットに縛ったよな…」
 なつかし〜…なんて、和めるかっ。
「…お前の聞きたいこととコレとどう関係あるんだよ、馬鹿」
 …体に聞く…とか言う、馬鹿なオチじゃねぇだろうな…。
「……やりながら聞くって」
「はぁ…?」
 啓吾は、俺にまたがって、シャツのボタンを外していった。
「…おいっ。ココ、春耶のベットで…」
「…まぁ、そんなことは気にすんな。それより…この挑発的なのは…なんなわけ…?」
 挑発的…?
 そう言うと、首筋をそっと指で押さえられる。
「…な…んだよ…」
「…俺に言えって…? 昨日、俺が残したキスマークの隣…に、挑発的に残ってるキスマークはなんなんだって話」
 嘘……。
 和奏先輩の前にちょっと絡んできた先輩だ…。
 痕残すなんて、反則だっ。
「…4時間目まで、お前は何してたんだよ…」
「…なんにも…してねーもん…」
「…顔、そらしてんじゃねぇっての」
 啓吾は首に当てていた指をそっと引きおろし、いやらしい手つきで、胸の突起を撫でる。
「っん……っ…啓吾…」
「…黙秘権が通るとか…思うんじゃねぇよ…?」
 黙秘権ってのは…たしか、犯罪者が、自分の不利益なことを話さずに黙っていてもいいっていう権利…だっけ…。
 もう、ソコを撫でつづけられると、わけがわかんなくなっていた。
「…もう硬くなってきてるぜ…?」
「んぅ…っ…ン…っ…ぁ…」
 啓吾は、転がすように撫でながらも、高い位置からその様子を見下ろす。
 俺は、見てられないし、つらくて、顔を横に向けていた。
「…はぁっ……ぁ……」
「…どうして欲しいんだよ…。いやらしく硬く尖らせて…。舐めて吸って欲しいって…?」
「馬鹿…っ…んなわけ…っ」
 俺を無視して、啓吾は今まで指先でさんざん遊んだ胸の突起を、舌でわざと音を立てながら舐めたり吸い上げたり…。
「っふぁっ…あ……っ…くぅ…ン…」
 気持ちよくって、おかしくなりそう。
「ぁ…っ…啓吾…」
「…ヒザ立てて足開いて…やらしい奴だな」
「…っ違…っん…」
 そんなの…つい、こうゆう格好になるだろ…?
 早く、下も触れっての、馬鹿。
「早く…答えなって…」
「…っなに…」
「…だから…4時間目まで、何してた…?」
 何もなにも…
「…寝坊して迷って…和奏先輩に会っただけだってば…っ」
「じゃぁ、この痕は…和奏先輩につけられたんだ…?」
「違うって…これは…」
 どうすれば…いい…?
「…虫に刺されたとか、馬鹿な嘘つこうとか考えるなよ…?」
 これがキスマークじゃないって言う嘘は、通じないだろうな。
「…言えない…?」
 少し笑みを見せてそう言いながら、焦らすように胸ばっかりを撫でる。
「…っ…啓吾…」
「…焦らされて…つらいんだろ…? 下も触って欲しいって、顔に書いてある」
「なわけ…ねぇだろっ」
 そうは言ったものの、わかってるなら早くしろっての。
 というか、やっぱ、わざと焦らしてやがるな、こいつはっ。
「…まぁいいけど…早く吐いた方がラクだぜ…? これは…誰につけられた…?」
 確かに、こんな中途半端な刺激、続けられたら狂いそう…。
「…ん…っ…っぁ…知らない…」
「…知らないわけねぇだろ…?」
「っそうじゃ…っん…っ…知らない…先輩…っ…」
 これは、嘘じゃない。
 本当に、知らない先輩に、やられたし…。
「そう…」
 よく言えましたとでも言わんばかりに、少し優しげに笑いをみせると、そっとズボンを脱がしにかかる。
「っな…」
「…触って欲しいんだろ…?」
「違うっ…馬鹿」
「いいから…。お前は、俺が聞いたことだけ答えてろって」
 すべて脱ぎ取られ、さらけ出された股間のモノを啓吾は指先でそっとなぞる。
「…んぅ…っ」
「…見えるだろ…? お前のココ、もうやばい状態で…触って擦り上げて…口に含んでイかせて欲しいだろ…?」
 なんでいちいち、言うかな…。
 わかってんならとっととやれって。
 それなのに、啓吾は焦らすように、指先で撫でるだけ…。
「…んっ…啓吾…ぉっ……」
「……なんで、してくれないかって…?」
「そんなんじゃ…ねぇよ…っ」
 啓吾は、その指先を股間のモノに触れたままで、俺の隣に寝転がる。
「…深敦……。お前の体がこんなにいやらしいのは、俺が仕上げたからなんだよ…。俺以外の奴にやられてんじゃねぇよ…」
 なんだよ、この束縛男はっ。
 そう言われるのは、うれしい気がしないでもないけどっ…。
「っ…俺は…啓吾のモノじゃねぇんだよ、馬鹿…っ。そんなの…っ…しょうがねぇだろ…?」
 俺は、なんだかよくわからないけど、涙があふれそうで、声もうまく出せないような感じになってしまっていた。
「…いきなり…っ…恐そうな奴に押し付けられたり…やさしく先輩に言われたりすると……断れねぇもん…っ」
「…つまり…恐そうな奴に押し付けられて、その上、やさしく先輩に言われて……なんかしたわけだな…」
 問い詰めるわけでもなく、確認するみたいにやさしくそう言われ、つい頷いていた。
「…そうか…」
  啓吾は、起き上がると、春耶の机の方へと行ってしまう。
「な…ぁ…」
「…して欲しくなったら、自分からねだりゃぁな」
 そう言うと、なんでもないみたいに、机の上の封筒を手に……
 って…あの封筒…
「ちょっ……それ、俺のだから見るなっ」
「深敦の…? ちょっと遅かったな。もう中身、出してまったわ」
 やっべぇ…。ってか、普通、人の机の上の封筒開けるかよっ。
「…さしずめ…こっちの春耶はアキにあげるんやん…?」
 おぉ…。当ってる…。
「…で…俺のなんで持ってるんやん。売ってもらったわけないやんな…。これ、売らんといてって言っといたし…」
 なにかと……怒ってるわけ…?
 なまってるし。
「それは…っ…榛先輩が、くれて…」
「そりゃ、榛くん以外、考えられんけどさぁ。俺がいないときのおかず…?」
「ば…か、なに言って…。もう見るなよ、置いておけって」
「俺だから、いいやん」
 そう言いつつも、啓吾は写真をまた封筒に入れて机に置くと、イスに座って遠目に俺を見る。
「……おい…俺、どうすれば…」
 こんな、恥ずかしい格好で…。
 まさか、ねだれって…?
 というか、やるのはまぬがれれないのだろうか。
 俺の方も…まぁ、ツラい状態になっちまってるけど…。
「…あぁ、もうちょっと詳しく聞きたいわな。その先輩にどこまでやられたん? 最後まで? ハメられた?」
「そこまでしてねぇよっ」
「そこまでね…。じゃぁ、どこまでやったんやん」
 なんか…俺って、怒鳴りつつ墓穴掘ってってる…?
「早くホントのこと言わんと、最後までやったってことで、それなりの対処するでな。嘘はつかん方が自分のためにもいいと思っときゃぁな」
 ……最後までやられてないんだし…
 指入れられるくらいどうってことないよな…?
「指しか入れられてねぇし」
「…へぇ…。恐い先輩か…優しい先輩か…どっち…? 優しい先輩ってのは、どうせ和奏先輩なんだろ…」
「…っ…どっちって……どっちもだけど…」
なんか、俺、開き直りかけてる…かも…。
「…で…イかされたわけ…」
 返事なんて期待してないようにそう言うと、俺のところへと来て、ベットに乗りあがった。
「…な…ぁ…」
 啓吾は、自分の指を俺の口の中へと突っ込む。
「ンぅっ…んっ」
「…しっかり濡らしときゃぁな…。傷つくんは深敦だで…な…」
 俺は、従って啓吾の指を舐める。
 …というか…口の中を這い回るもんだから、舐めざる得ないというか…そんな感じだった。
「ん…んんっ」
「…つまりさ…。深敦は、やさしく言われたり…相手が恐いと、誰にでも…指くらいは入れさせちゃうんだ…?」
 俺の口から引き抜いた指を、啓吾はもう一度、自分で一舐めする。
 あいかわらず、いちいち色っぽいやつ…。
「…聞いてんの…?」
「っ聞いて…」
 やべぇ。変に見とれてた。
「早く…入れて欲しいんやん…?」
 啓吾は、俺の片方の足を折り曲げると、濡れた指先をアナルに押し当てる。
「あ…っ…啓…吾…」
「…どうやって…先輩に入れてもらった…?」
 なに言って…。
「…っ勝手に…入れられて…」
 嫌がるすきもなく……というか、嫌がったんだけど…。
「…口では嫌がっても…おまえは誘ってるように見えんだよ…」
「なに…言ってやがる…っ」
 あ…でも、知らない先輩にも『誘ってんの』とか、聞かれたっけ…。

でも、それは啓吾につけられた、キスマークのせいだしっ。
「…口でも…ねだってみろよ…。そしたら、たっぷりかわいがってやるのに…」
そう少し笑みをこぼして言うもんだから、『誰が言うかよっ』とか、反抗したいのに…。
啓吾の、入り口に押し当てられた指先が、何度も辺りを強く行き来して…
「はぁっ…ぁ…っ…くっ」
入りそうで入らない感覚に、イラつきながらも、早くして欲しいなどと願ってしまっていた。
「ココ…すっげぇ欲しがってるぜ…? 腰だって浮きがちだし? かわいそぅに…。深敦が頑固なせいで、泣いてるやん?」
「ふくっ…ぅっ…っんぅうっ…」  
泣いてるってなんだよ…とか、思ってるうちにも、啓吾が空いた手で亀頭を撫でて示す。
「っぁっ…ぅンっ…っぁあっ…っ」
「…濡れてるやん…。欲しいんだろ…? 言えって…」  
もう、誰が言うかっ……なぁんて意地張ってられない状態。
「…っ…啓吾っ…んくっ…早く…っ」
「何…?」
 何じゃねぇよ…っ。
「っもぉ…入れろっつってんだろっ…?」
 キレかけながらも、そう言ったのに…
 啓吾は、逆に俺から、手を離していた。
「な…ぁ…」

「そうやって…。深敦は自分が苦しいと、なんでもいいから早く欲しいって思うんやん…?」  
よく…意味わかんねぇよ…。
「…誰が相手でも…こうやって、極限状態で『言え』って言われたら、『欲しい』って…言うんやん…?」  
顔をしかめる俺を見てか、啓吾はもう一度、言い直してくれた。   
そんなの…  
して欲しくて堪らない状態で、止められたらして欲しいと思うのは当たり前で…。
「っしょうがないだろ…っ?」
 そう言うと、啓吾は少し、俺をニラむもんだから、やばいことを言っちまったんだと、自覚する。
 それでも、俺の予想とは裏腹に、いきなりキレて突っ込みだしたりとか…  
そんな行動はせず、俺を縛っていたカーテンの布を解いて、俺の左手を自由にした。  
右手は、まだ、固定されたままなんだけど…。
 その左手の指を啓吾は、丹念に舐め上げる。
「っ…な…っ…にし……」
「…お前が欲しいのは……俺とかじゃなくって……ただ、快楽が欲しいだけなんやん…?」
 そう言うと、舐め上げて濡れた俺の指をアナルへと運び、驚く間もなく、啓吾の2本の指に押された俺の指は、啓吾の指と共に、中へと入り込んでしまっていた。
「っひっぁ…っ…馬鹿ぁっ…こんなっ…ぁっ」
一気に3本もの指が入る感覚に、体が跳ね上がる。
 そんなとこ、指なんて自分で入れたことないし、すっげぇ変な気分。
 思っていたより、締め付けられる感じ…。
「奥がいいんやん…? ちゃんと、奥まで入れやぁな」
 やさしい口調が逆に恐い。
 言われるまでもなく、啓吾の指に押されて奥の方まで指が入り込んでしまう。
「はぁっ…ぁっ…やだ…啓…っ」
 啓吾は、空いている手で、外から俺の指の付け根あたりを押さえながら、自分の指をそっと引き抜く。  
中に、自分の指だけが取り残されてしまっていた。
「…自分で…掻きまわせよ…」
 そうとだけ言って、啓吾は、俺の指を抜けないように押さえながら、空いた手で、俺のモノをきつく擦り上げていった。
「んぅっ…ぁんんっ…ゃ…啓…っ」
「…後ろも…欲しいんやん…? 早く動かしなって…」
 そうせかされるまでもなく、俺は絶えれなくって、そっと指を動かしてしまっていた。
「んぅうっ…ぁっ…あっ…」
 だんだん、もうわけわかんなくって、啓吾に言われるからとかじゃなくって、体が欲しがって…。
 自分のいいところを指で刺激してしまう。
「ひっぁっ…んぅっ…やんぅっ…ぁんっ」
 もう、啓吾だって、俺の指、押さえてないのに、抜けないでいた。
「自分でもいいんやん……。気持ちよければ、誰でもさぁ…」
 啓吾が…好きなのに…。
 俺って、自分でも感じるし…。
 先輩でだって、めちゃくちゃ感じて、欲しがっちまう。
「俺に、求める物は、なにもないんだろ…?」
「…ぁ…っ…んぅうっ…ぁっ…くっ…」
 もう…『しょうがない』の一言で割り切っちゃいそうだけどっ…
 駄目…?
 「こーゆう声…お前は何人に聞かせたんだよ…」
 悠貴先輩と啓吾と柊先生と知らない先輩と和奏先輩…?
 なんて、素直に数えてる場合じゃねぇっ。
「…気持ち…いいんやん……? 自分の指で、そんだけ感じてりゃ世話なしだな」
「違っぁっ…っんぅっ…あっ……」
 むかつくよ、こんなの…。
 自分でも先輩でも感じちゃう自分の体がむかつくし…。
 こんなやり方をする啓吾もむかつく。
 やっぱ、お前が俺のこと好きなんて信じられなくなってくる。
 一度は信じたよ。
 でも、学校入ってすぐだったし、近くに俺しかいなくって…だから、俺を気にしただけでさっ。
 もっと、かわいい子とか、いい子とか…っ
 知らないだけで、ほかのクラスにはきっとたくさんいて…
 それを知っちゃったら、そっちの子の方が好きになったりで…
 俺のこと、好きって言ったのだって、『早まったな』とか、思ってるのかもしれない。
「っんぅっ…馬鹿ぁっ…」
 俺は、思い切って、自分の中から指を引き抜き、その手で啓吾の手首を掴んで引き離す。
 啓吾は、何事だと言わんばかりにこっちを、見た。
「深敦…言いたいことがあるならはっきり言えや」 
「…ぅ…るさ…。むかつく…お前…」
 そう言ってしまうと、啓吾は少し目を細めて、濡れた自分の指先を軽く舐めあげた。
「…口開けば、むかつくとか馬鹿とか、失礼なやつだな」
 無理やり突っ込まれる…?
声の感じから怒ってるのが丸わかりで、俺は、体を強張らせ身構える。
でも、そんな俺の予想とは裏腹に、啓吾は、俺の右手に絡まっている布を解いて、元のカーテンへと戻した。
「…啓……」
「…勝手に一人でやってろや」
 耳元で、冷たくそういうと、啓吾は俺に背を向けて、春耶の部屋を出ていてしまった。
 俺は、呼び止めれなくって…。
 溢れる涙を止めることも出来なくなっていた。



 すっかり萎えてしまって、俺はただ、そのまま、横を向いて寝転がってしまっていた。 
どうすればいいのか、もうわからない。



 啓吾に聞きたいこと…。

 かわいい子が好き…?
 頭の悪い馬鹿は嫌い?
 素直な子が好き?
 口の悪い奴は嫌い?  
 
俺のこと…好き?  
…違う…そうじゃなくって…  
…俺のこと…嫌いじゃない…?  
どうか、嫌いにならないで…。