「…アキ……?」
 開かれたドアとともに聞こえる水城くんの声。
「……水城くん…」
 やだな。僕。
 水城くんが来てくれただけで、変に顔がほころんじゃう…。
 悟られないように、さりげなく顔を背けて、紅茶のパックを取り出した。
「…ね…アキ…。さっき深敦が俺の部屋に来て…すっごいかわいい事、教えてくれた…」
 かわいいこと…?
「…深敦くん、かわいいから…」
 水城くんまで…
 深敦くんのこと好きになっちゃったとか…ないよね…。
 紅茶のパックが入ったコップにお湯を注ぐ僕の後ろから、水城くんはなおも話しつづけた。
「…よく俺と一緒にいる子…。俺があの子のこと好きにならないか…心配だって…」
「…え…」
 つい、振り返って、水城くんの顔を見てしまう。
 なんだか、それが恥ずかしくて、僕はまた水城くんに背中を向け、手にしていたコップを机の上においた。
 深敦くんが好きなのは…啓ちゃんでしょ……?
「…深敦…くんが……?」
 水城くんが、あの子を好きにならないか…心配してるって…?
「ん…。アキが…心配してるってさ…」
 僕…っ!?
「そ…んなこと…っ…」
 深敦くんってば、なんてことを…。
「…心配…?」
「…別に……水城くんが…あの子を好きになったら好きになったで…しょうがないと思うし…。いいよ…」
 心配だなんて、言えるわけがないから…。
 僕は背中を向けたまま、そう言っていた。
「…いいの…?」
 そう言いながら、背後から僕をそっと抱きしめる。
「…な…にして…」
「…なにもしない…。ね…。抱きつくだけ。それ以上、なにもしないから…」
 そう言われると、逃れることも出来ず、僕は、水城くんに抱きしめられるまま、ただ、その感覚に酔いしれていた。
「…アキが…好きだよ…。誰よりもかわいくて…かっこよくて…アキ以外考えられない…」
 そんな恥ずかしいこと言わなくていいのに…。
 顔やら、抱きしめられてる体が熱くなってきちゃう…。
「いいなんて言わないでさ…。もっと俺のことも縛ってよ…。もっとヤキモチ妬いて…?」
 妬いてるよ…。
 ホントは、あんな子と仲良くして欲しくないし…。
 僕のこと、好きとか言うくせに、他の子のことも見るなんて、不安だし心配だし…。
「…ホントに……好き……?」
「…好きに決まってる…」
「…僕…だけ……?」
そう…って、言いながら、そっと俺の首に口付ける。
「っん……っ水城く……なにも…しないって…っ…」
「…お願い…。誰かにとられないように…痕だけ残させて…」
 少しだけ、力強く吸い上げられ、体中の力が抜けていく。
「……っン……水城くん…」
「…アキも…してよ…」
「…え…」
 するって…?
 なに…?
 混乱している僕の体をくるりと反転させ、前から抱きしめる。
「…っ…なに…」
「…俺に…痕…残して…。俺は、アキだけのモノだから…」
「…そん…な…。わかんな…」
「…好きな所に…して…」
 嫌だなんて、言えないし…。
 実際、嫌じゃないけど…恥ずかしい…。
 すっごい…緊張する。
 抱きしめられた、僕の目の前にある水城くんの首筋にそっと、口付けた。
 水城くんは、僕の髪の毛に優しく指を絡ませる。
「そう…吸って……」
「…ン…っ…」
 そっと、吸い上げて、口を離すと、ソコがほのかに赤みを帯びた。
「…アキ…。もっと強くして…。そんなんじゃすぐ消えちまう…」
 水城くんが、僕の頭を押さえるから、それに合わせてもう一度、首筋に口をつけ、さっきよりも強くやってみる。
「…ん…アキ…。かわいい…。犯したい…」
「…っ…はぁ…何…言って…」
 そっと体を引き剥がすと、水城くんは苦笑いしながらテーブルの紅茶を一つとった。
「…残ってる…?」
 さっき、僕がつけた首筋を見せるみたいにして聞く水城くんに、恥ずかしいながらも頷くと、水城くんは満足げに笑顔を見せた。
「…アキも…残ってる…」
「言わなくていいよ…」
 恥ずかしい。

 紅茶を飲みながら、たわいもない話をしているときだった。
「…アキ…?」
 って、その声は、啓ちゃん。
「…啓ちゃん…どうしたん…?」
「…水城もいるんだ。って、見せびらかしてんじゃねぇよ。このやろっ」
 啓ちゃんってば、水城くんにタックルなんかして…。
「…お前こそ、邪魔すんなって。なんだよ」
 この2人って…ホント楽しそう。
「あぁあ、水城ってば、首筋にやらしい痕つけやがって…。俺もつけたろか」
「馬鹿、おまえはつけんなって」
 そういえば…。
 深敦くん…首、痕残ってたよね…。
 あれは、やっぱ啓ちゃんが…。
 それに比べて、啓ちゃんには、残ってないなぁ。
 なんか、痕つけると、ホント、僕のものって感じで…少しだけ安心するのにな…。


「そうそう。アキ、深敦、知んねぇ…? 深敦の部屋行ったらいなくって…」
 水城くんがさっき、俺の部屋に来たって言ってたよね、たしか…。
「…深敦なら、『啓吾んとこ行ったら、隣のクラスの奴がいた』って、俺のところに泣きついてきたけど…?」
 僕に代わって、水城くんがそう答えてくれる。
「…嘘言ってんなって。で、ホントはどうなんだよ」
 少し、冗談交じりに言う水城くんに対して、啓ちゃんも軽く笑いながら受け流していた。
「…あながち、全部、嘘ってわけじゃねぇよ…。俺の部屋きて…涙を見せたのは事実…。まぁ、泣いたのはアキのこと話してるときだけどな」
 僕のこと…?
 あぁ…さっきの、水城くんが、あの子のこと好きにならないか心配っての…?
 そうだよね…。
 深敦くんだって、啓ちゃんのこと、心配なはずだもん。
 深敦くんの方が…
啓ちゃん、あの子のことかばってたみたいだったし…。
「アキのこと…? 何話してたわけ…?」
 それは聞かれちゃ困るっ。
「…いいの。そんなことより、早く深敦くんとこ、行きなよぉ」
「…モテる男はつらいってやつ…?」
「…馬鹿言ってねぇで…。今、たぶん俺の部屋にいるって」
 わかったと言って、啓ちゃんは、僕の部屋を出て行った。

「……なんか、すごく深敦くん思いな感じがするよね…。いつも深敦くん探してる気がして…」
「…ん、啓吾もな…、深敦が、先輩と仲いいのとかそうとうイラついてたみたいだし…」
「……うまく…いくといいね……」