1年の1組から4組までの合同授業。
 4種目の競技から好きなのを選べる方式だった。
 俺らはバレーの授業を選択。
 早めに体育館に来ちまったから、先生を手伝って、一緒にネットはりをしていた。
「…先生。今日は、どうすんの? 試合…?」
 今まではまだ、試合をするとかじゃなくって、2人一組でトスの練習だとか。
 でもネットはりをしてるってことは、試合…するのかな。
「今日は、6人グループ作ってもらって練習試合な」
「やったー。試合」
 あれ、はじけてるの俺だけ…?
「珠葵。試合だってさ」
「6人、どーする…? 俺、あの子と一緒はホントやだよ。なんでまじってんのって感じだもん」
 俺らは3人だから…うぅうん…。
「…俺らと啓吾と春耶とあと別の一人じゃ駄目なの…?」
「…あの子、離れないよ…。深敦くん、他のクラスに知り合いいる…?」
「…えっとね…春耶の弟がちょっと友達…」
「春耶くんの弟かぁ…。じゃぁ、春耶くんたちのグループに取られる前に、ハンティングしないと。で、その弟くんの友達も合わせて6人ってことで…」
 啓吾たちとは一緒になる気はないのな…。
まぁいっか。
 ゾロゾロと体育館に集まってくる中から、春耶の弟の朔耶を見つけ出して、話を持ちかけた。
「…今日、6人グループで試合すんだってさ。で…朔耶、俺らと一緒のチームにならない…? えっと、こっち今、3人だから…あと3人欲しいんだけど…」
「春とは一緒じゃないの…?」
 春耶ねぇ…。
「…うん…。ちょっとわけ有りで…」
「いいよ。じゃぁ同じクラスの憂くんと和也くん…ほら、この二人…ね」
 そう言って、近くの2人を示す。
「あれ…。晃じゃん」
「…知り合い…?」
「うん。同じ中学校。久しぶりだね。和也くん」
 よし。いいぞ。
「じゃあよろしく」
 いい感じの6人、万歳。



 授業が始まると、俺らは、クラス順に横に並ばされた。
 名簿順だから、バレーを選択してない奴を抜くと、啓吾が俺の横。
「啓吾…あのさ…。今日、6人グループで試合するんだってさ…」
「へぇ…。じゃぁ、俺ら…」
「あっと…」
 なんかさ…。
 啓吾って、俺らといつも一緒だから、絶対、一緒のグループになるって思ってそうじゃん…。
 なんか、後ろめたい。
「…俺ね…。2組の子達と組むことになったんだ」
 前もって教えとく。
「…そっか…。わかった。じゃぁ、俺は適当な奴とでも組むわ」
「…ん…。あとさ………後で聞きたいことが…」
「後でしか、かんの…?」
 あの子のこと、どう思うとか…?
 俺のこと、どう思うとか…?
 聞けるわけないのに、聞きたいことが……とかなに言ってんだろ俺…。
「…やっぱいい…。聞かない…」
「…聞けって…。じゃぁ、今日な…。俺の部屋こやぁな…」
「…うん…」

 俺がおとなしいと啓吾もおとなしいって言うか…いい奴なんだよな〜
 なんだか上機嫌で、先生に言われるまま、6人グループに分かれた。

「…そういえばさ。榛先輩が、朔耶と春耶の写真撮ったみたいだけどホント…?」
「うん。撮られたよぉ…。恥ずかしいね。でも、お金くれたよ」
 お金ももらえるのか…。
「…深敦くんは、最近、啓吾くんとうまくいってないの…?」
 おっと、唐突な質問…。
「…そんなこと…ないけどさ…。今まで通り…」
「そっか。一緒のグループにいないから…喧嘩でもしちゃったのかと思っちゃった」
「あぁ、それはね…。ほら、啓吾の近くにいるあの子が…苦手でさ…」
「うわぁ。めちゃくちゃかわいい子…。これは要注意……」
「…朔耶はかわいいから大丈夫だよ」
 やっぱ、みんなかわいい子が好き……だよな…。
 俺だって、かわいくない子より、かわいい子の方がやっぱいいし…。

「…深敦くんも大丈夫だよ。啓吾くんとあんなに仲良しさんだったもんね」
 俺って…
 そんなに啓吾と仲良かったっけ…。
「はぁ…。なんか…疲れちゃった…」
 そこにボカっと、バレーボールが突き刺さる。
「いって…」
「…おい、深敦…。ボーっとしてんなって。次、試合」
「っ啓吾…てめ…」
 わざわざ、ぶつけなくてもいいだろーがっ。
「アターックっ」
「無理無理」
 俺の一撃をいとも簡単に、片手で受け止め跳ね上げる。
「……深敦くん。啓ちゃん、元バレー部だよ」
 晃がこっそり教えてくれた。
「…くっそ…」
 やっかいな相手を敵に回したな…。
「…へぇえ。春もバレー部だったよ」
「うそ…」
 やべぇ…。
「…深敦くーんっ。絶対、勝つよ。負けてたまるかっ」
 珠葵がもう、ホント対抗意識燃やしまくり。
「…合点承知。俺だって……体育5だったんだから」
 バレー部にはかなわないかもだけど…っ。
「狙いは、あの子だね。集中的に殺すよ」
 珠葵、恐いって。
 俺と同じこと考えてるけど…。


 でも…無理…。
 なんつーか、勝てるわけねぇだろ…?
 2人も強力元バレー部員がいて…。
 本来なら俺らの仲間なのに…。
「啓吾っ。お前、バレー部だったんならサーブ左手で打てよっ」
「サーブが取れても、結果は一緒だぜ…?」
 そう言いながらも、啓吾は左手でサーブを打つ。
左手で打ってもある程度、ちゃんとしたボールなんだな…。
 むかつくっ。
 けど、こんくらいなら簡単に取れるぜ?
「深敦くんっ…」
「うしっ」
 珠葵のトスを受けて、あの子にめがけてアターックっ。
「いたっ…」
 見事なまでに顔面直撃。
 珠葵ってば、後ろ向いて笑っちゃってる。
「…大丈夫か…?」
 啓吾が、そう優しく聞くのが聞こえた。
「…う…ん…」
 馬鹿…。
 そんな子に優しくすんなよって。むかつくなぁ。
 俺は、啓吾側のコートからボールを貰って、サーブを打とうと後ろに下がった。
だけど…顔面直撃をくらったあの子がしゃがんだんまま一向に立ち上がろうとしなくって…。
「…ボールが当ったくらいで、ずっとしゃがんでないでよ。早く立ってくれないと、進めれないでしょっ」
 「珠葵…っ」
 怒る珠葵を制するように、啓吾が名前を呼ぶ。
 ボールをぶつけちゃったのは、俺のせいで…。
 珠葵がそうやって怒ってくれるのは、俺のためでもあるから、その珠葵を制する啓吾が、少しむかついた。
 というか、その子をかばうみたいなのもむかつくし…。
 なんか、くやしいような感じ…。
「…なにあれ…。被害者ぶって…。ちょっとボールがあたっただけじゃん。女々しいやつ…」
 珠葵は、俺らにしか聞こえないように、愚痴を言った。
 しゃがんでるあの子をほっとくような人間も嫌だけど…
 かまうのも嫌だ…。
 あぁあ。俺ってわがまま。

 でも、ぶつけちゃったから、なんか罪悪感。
 珠葵が言うように、早く立ち上がってくれねぇと、どんどん俺が悪者になってくみたいで苦しいじゃんか…。
「…大丈夫…?」
 俺が、そいつの元に行くと、『平気』って立ち上がってくれるけど…。
 目のあたりが少し腫れあがってるように見えた。
 立ち上がったそいつを見て、啓吾も元の配置に戻る。
 俺も、戻ろうとしたときだった。
「…わざと…なんでしょ…?」
「え…」
 少し、怒ったようにそれでも人を見下すような笑顔ってやつ?
 そんな感じで俺に言う。
「…わざとって…いうか…」
 わざとだけど…。
「俺が、啓吾くんと仲いいのがそんなに不満…?」
「っ…そんなんじゃねぇよっ…」
 ボソっと、俺にしか聞こえない声で言うそいつに対して、俺は、大きな声で答えちまったから一気に注目の的…。
「…だからって…こんな風に顔狙う…?」
 他の奴に聞こえないように言うのがなおさらむかつく。
 やばい…。
 もう、キレちゃってた。
「…ふざけんじゃねぇよ、てめぇ。お前が馬鹿だから取れなかっただけだろーに。被害者ぶってんじゃねぇっての。弱そうな奴、狙うのはあたりまえだろっ」
「おい、深敦」
 何も言い返せないでいるそいつをかばうみたいに啓吾が口を挟む。
「…お前、言い過ぎ…」
 冗談めかすように言うけど、俺はそんな気分じゃない。
 そいつなんか、かばうなよ、馬鹿…。
「うるさいっ。啓吾には関係ねぇだろって」
 涙が出そうなくらいくやしくってむかつく。
「馬鹿…っ」
 がむしゃらにサーブを打つ俺の少し空回りなやる気とは裏腹に、啓吾たちのグループは『触らぬ神にたたり無し』とでも言うように守りばっかのプレー。
 まぁ、俺は神なんかじゃねぇけど。
「あー…もう…」  
俺も、それからは、誰かを集中的に狙うとかなかったし、普通のバレーをやっちゃってた。



「…深敦くん、なに言われたの…? さっきさぁ…」
体育が終わって、着替え中。珠葵と晃が気にして俺に聞く。
「…あぁ…。なんかさぁ…。わざとなんでしょって。だから曖昧にしてたら今度は、『啓吾と仲いいのがそんなに不満か?』って聞いてくるもんだから…つい…」
「そんなんじゃないって…?」
「そう…。そう言ったのに、今度は『だからって顔狙う?』とか言ってくるから…」
 キレちまった…。
「でもね、深敦くんがあの子に怒鳴ってくれて、ちょっとすっきりしたよ〜。うん。ね、晃」
 晃は、後ろめたそうにしながらも頷いてくれる。
 そう。その後、あいつが押し黙ってくれたらまだよかったのに…。
 啓吾がかばうから…。
「…なんか、あの子さぁ。それを深敦くんにしか聞こえないように言うってのがまたむかつくよね…」
 そう。
 みんなに聞こえてたらまだいいんだけど、俺だけがキレて、いじめっ子みたい…。
 悪者みたいじゃんか…。
 啓吾も、俺のこと、どうせ相手の気持ちも考えずに口走る酷い奴だとか思ってんだよ、きっと。
「深敦くんは悪くないんだからっ。ねぇ、啓吾くんにも言ってこようよ」
「…え…何を言うんだよ…」
「だから…あの子がホントは、すっごいやな子だってっ。このままじゃ、啓吾くん、あの子のことかばい続けちゃう」
 ホント…むかつく…。
「いいよ。かばいたきゃ、かばえば…」
「駄目っ…。そんなの駄目っ…」
 だって、そんなの言えねぇよ…。
「…深敦くん…。俺も…あの子、嫌いだよ…。啓ちゃんは、深敦くんとじゃなきゃ駄目だと思うし…。水城くん…も…やっぱ心配だし…」
 啓吾と春耶はいつも一緒にいるから、啓吾に近づくあいつの近くに、いつも春耶もいるわけで…。
 というか、あいつが啓吾を狙ってんのかわかんねぇけど、3人で仲良くしちゃってるんだよな…。

 和奏先輩…。
 俺はもう、がんばれないかも…。







 なんか、気まずいなぁ…。
 それでも、啓吾と約束したから、俺は業後、啓吾の部屋へと向かった。
「…啓吾…?」
「あぁ…深敦…」
啓吾の部屋には、なんとびっくり…
あの子が…いて…。
「…な…」
「深敦…ちょっと、後で…」
「あぁ、いいよ。別に、俺、大したようじゃねぇし」
 そう言い残して外を出る俺に続いて、啓吾も出てきていた。
「…なに…お前…」
「…深敦…俺に聞きたいことって…」
「いいよ、もう…。聞きたくないし…」
 俺が行くってわかってたくせに…。
 啓吾は、逃げるようにする俺の腕を取って、自分の方へと向けさせると、無理やり体を抱き寄せて、口を重ねた。
「っ…ん…っ…んぅ…」
 ほら…。
 こんな風にキスされたら、啓吾のことむかついてたのとか忘れそうになる。
 だまされてんだよ、俺…。
「っや…だっ…」
 啓吾を引き剥がして、逃げようとすると、意外にもあっさり、啓吾の腕からすり抜けれる。
「…え…」
「…嫌…なんやん…?」
 嫌じゃなくって…
「…馬鹿…」
 もっと、俺が嫌がっても、引き止めてくれればいいのに…。
「…むかつく…。馬鹿っ…。早く戻れよ」
 俺は、啓吾を突き飛ばして、自分の部屋へと戻っていった。



 …つまんねぇ…。
 俺は、隣の部屋…春耶の部屋へと遊びに行った。
「…春耶…いる…?」
「あれ…深敦、めずらしいな。ってか、啓吾の部屋、行くんじゃねぇの…?」
 そうそう。
 春耶の部屋って、隣だけど、あんま来たことないんだよな…。
「…行ったんだけど…。なんか、隣のクラスの奴がいてさ……。って、なんで啓吾の部屋行くとか知ってんの…?」
「…んー…。啓吾から聞いた。今日は深敦と久しぶりに愛を語らう…とか、馬鹿なこと言ってたけど…」
 …く…
 ホントに馬鹿だ…。
「でも…怒ってただろ…啓吾…。俺、バレーんとき、めちゃくちゃキレちまったし…」
「そうでもねぇって。言い方はキツいかもだけど…正当なこと言ってるわけだし…。俺だって、アキに近づく男がなんかしてたら、毒吐くだろうしね…」
「…別に…あいつが啓吾に近づくからどうとかじゃなくって…」
実際…
俺って、あいつが啓吾に近づいてるからむかついてるのか…?
それもあるけど、あいつの態度がむかついて…。
啓吾の態度もむかつくんだよ…。
「…だって…あいつ、笑いながら『わざとなんでしょ…』とか言うし…。『啓吾と仲いいのが不満か?』とか言うし…。すっげぇむかつくんだよ…」
「…そんなこと、言ってたわけ…?」
「そうだよ…。俺らといるときと、啓吾や春耶といるときじゃ、なんか態度が全然違うんだよ…あいつ…」
「へぇえ…。かわいいのに考えてること、わかんねぇな…」
 春耶はなんでもないみたいに、笑いながら、冷蔵庫からお茶を出して入れてくれる。
「…もうちょっと、一緒に考えろよ、春耶っ」
「あぁ、ごめんごめん。ただ…大丈夫だって。啓吾はあーゆうタイプ、好きじゃないだろうし…」
 うそだ…。
 あんなかわいい子にいいよられたら…さぁ…。
「でも…俺が、あいつをいじめたみたいで…っ…悪者みたいだしっ…」
「…啓吾も…馬鹿じゃねぇから…。わかってるって、大丈夫…」
 ホントかよ…。
「…お前もさぁ。他人事じゃねぇよ…? あいつのこと、かわいいとか言ってんなって」
 まぁ、俺もかわいいと思うけど…。
「…そんなに普段からかわいいとか言ったりしねぇって」
「…普段じゃなくても言うなよ…。俺と違ってさ…晃はなんでも一人で抱え込んじまうし……春耶には直接あんま言わねぇかもしんねぇけど……心配なんだってさ…」
「…心配…?」
「…あんな…かわいい奴が…春耶の傍にいたら…心配なんだよ。春耶がそいつのこと好きにならないかってっ」
 俺…
 晃のこと言ってるのに、なんか涙が出てくる。
 自分の中で、啓吾に置き換えちゃってた。
 啓吾が…
 あいつのこと、好きになるんじゃないかって…
 そんな気がして、苦しくなる。
「…あぁ…。アキの方がかわいいのに…」
「それでも心配なんだって」
「…かわいいってのは、顔だけじゃねぇのに…なぁ…? 深敦だって、ほら、こんなにかわいい…」
 そう言って、俺の涙を指で救う。
「っば…馬鹿。俺はかわいくなくていいんだよ。変なこと言うなよ」
「かわいいって。自覚なし? まぁ、深敦はそれを売りにしないとこがまたいいんだろうけど…」
「なんだよ、売りって」
「自分がかわいいってわかってて、それを売りにしながら近づくような奴には、啓吾も俺も、なびかねぇってこと」
 よく……わかんねぇ…。
 けど…あいつにはなびかねぇってこと…だよな…。
「珠葵もまぁ、自分かわいいってわかってるっぽいけど、あいつは表に出しまくりだからいいよな。変に隠してないっていうか…。裏表なく、あの顔で平気で毒吐いたり下ネタ言っちゃうもんな。演出しない感じがいいよ」
 やっぱ…ブリっ子だとか、猫かぶってるだとか…そーゆうのは駄目なんだろうな。
 でも…気づかないかもしれないじゃんか…。
 本当に、かわいい性格なのか、作ってかわいい性格なのか…。
 それに性格が少し悪くても、顔がかわいけりゃ許しちゃうとか…あるじゃん…。
「深敦は、啓吾がかっこいいから好きなわけ…?」
「っなに言って…」
 俺が啓吾を好きな理由…?
 そんなのわかんねぇよ…。
「春耶は…あーゆうかわいい子好きそうだよな…」
そう言う俺を、春耶は少し小突いた。
「…おいおい…。顔だけだったら、ブラコンみたいだけど弟の方がかわいいと思うし…。なんか、見慣れてんだよ。かわいい顔ってやつ…? だから…まぁ、かわいいとは思うけど、そんだけだよ…」
 じゃぁ、俺が一目見て『めちゃくちゃかわいいーっ』って思ったのとは違って、普通に『かわいい』で受け流しちゃってるんだ…?
「…なるほどねぇ…。でも、とにかく晃は心配してるみたいだから…俺に言ったこと、全部言ってきて」
「はぁ…? まぁ、いいけど。心配してくれんのはうれしいしね。深敦こそ…啓吾とうまくやれよ…」
「うるさい。早く晃のとこ行けって」
「わかったって。深敦どーする…?」
 なんか、部屋戻るのもかったるいなぁ。隣だけど。
「…もうちょっとココにいていい…? あぁ、でも俺がいなくなるとき鍵かけないとやばいっけ…」
「いいよいいよ、かけなくって。そんな金目のもんがあるわけじゃねぇし」
 俺は、しばらく春耶の部屋で休ませてもらうことにした。