学食の場所は、俺も覚えてんだよな。1階だし、ちょっと隔離されてるから…。
「なに食べる…? おごってあげる」
「え…でも…」
「いいのいいの。俺、バイトしてるし金、わりとあるから」
 寮生活で…いつ、バイトしてんだろ…。
「じゃぁ…冷やし中華…」
「あ、俺も、冷やし中華好き。おいしいよな」
 なぜか冷やし中華で盛り上がりながら食券を買って、学食のおばさんに手渡す。
「…あんたたち…授業はどうしたよ」
 あいたっ…。
 そういえば、まだ授業中…?
「…いやぁ、おねぇさん。今日もまた、迷ってしまって、間に合いそうにないから、ココで休息をば…」
 また…って…
 やっぱ、和奏先輩、よく迷うんだ…?
「…しょうがないねぇ…。そっちの子は…? 金髪だからわりと見覚えあるよ」
 見られてましたか…。
「…俺は…寝坊して…校舎で迷ってるうちに和奏先輩に会って…。俺も間に合わなそうだから…」
「…広いからね…ココは…」
 そう話しながらも、冷やし中華の準備に取り掛かってくれた。

「深敦くん、携帯持ってる? 教えてよ。遊ぼう」
遊ぶって…まぁいいけど…。
「あれ…メールきてる…」
 和奏先輩は取り出した携帯を開いて、メールチェックする。
「…どこにいるかだってさ。友達から。場所取りしてやっかな」
 そう言って、和奏先輩は、自分の教科書をテーブルの上に置く。
「深敦くんの友達も…学食ですますなら、場所とっとく…?」
 …それもそうだな。
「…でもあと4人もいる…」
「…あぁ、じゃぁ丸テーブル全部、取っちゃおうか」
8人がけテーブルに教科書をまんべんなく広げる。
あやしすぎ…。
 だって…誰も座ってない場所に教科書やらが……。
 今は誰もいないからいいけど、啓吾たちが早く来てくれないと『空いてるならどかせよ』なんて怒られかねないよな…。
 でも…なんか、和奏先輩がいれば安心かな…なんて思っちゃってた。
 1年の俺らは、肩身が狭いけど、4年生に仲間がいると安心。
 俺は、晃に、場所取りしたというメールを送った。
 それから、和奏先輩とアドレス交換をして、おばさんから冷やし中華を貰って席についた。
「俺の友達ね…。冷やし中華にマヨネーズかけるんだよ」
 和奏先輩は、笑いながらそう言う。
「あー…俺の友達も…っ。マヨネーズかけてる」
 そう。啓吾はマヨネーズかけるんだ。
「…え…。マヨネーズって一般的なの…?」
「…俺はかけないよ。…そいつに会って、初めて知ったし」
「おいしいわけ? なんか、スープとマヨが分離しそうなんだけど」
「…うん…。どうなんだろ…。わりとたくさんかけてるよな…」
 かける勇気がないから、味は知らないままだけど…。

 俺らが、冷やし中華とマヨネーズについて語ってるうちにも授業終了のチャイムがなる。
「終わったなぁ」
 サボっちゃったや…。
「…もうすぐテストだからノート提出とかありそう…」
「あぁ…あれ、面倒なんだよなぁ…。授業出ててもノート取るの面倒なんだけど」
「…そうそう。真面目な友達がいるととりあえず安心なんだけど」
「俺の友達、真面目だから、いつもノート借りちゃってるよ」
 俺も…よく晃に借りてるよな…。

 それにしても…
 和奏先輩が、さっきの俺といろいろやっちゃったやつのこと。
 なにごともなかったみたいに接してくれるから、気まずさがなくって安心。
 変に、構えられると、こっちも気まずくってたまったもんじゃないからな。



「深敦くん」
 その声に顔をあげると、晃たち…。
「…早いねぇ…。君たち」
 和奏先輩が楽しそうにそう言う。
「…さっきの授業が、ココに近い教室だったんで…」
 啓吾が、そう説明しながらも、少し警戒する様子で和奏先輩を見る。
「…誰ぇ…?」
 最近、親しくなった珠葵が、首をかしげて和奏先輩を見た。
「かわいいね…。俺はね、深敦くんとお友達の西院塔 和奏。4年ね」
「俺は、市原 珠葵。1年だよ」
 珠葵も…人見知りしないよなぁ。うらやましい。
 まぁ、俺もいきなり和奏先輩と仲良くなってるけど。
 珠葵は、俺の教科書をどかしながら、イスに座る。
「…あ、ごめん」
 俺は、珠葵から教科書を受け取って、一箇所にまとめておいた。
「あの子が晃で…ピアスしてるのが春耶。で、そのサドっぽいやつが…啓吾」
 俺は、一人一人、和奏先輩に説明する。
 あぁあ、なんか、啓吾の名前言うの恥ずかしいけど…っ。
「…マヨネーズの子は…?」
 そっと、耳もとで聞くから、俺の方も、そっと『啓吾』って耳打ちする。
 くすくすと笑い合う俺らを、4人は不思議そうに見ていた。
「…じゃぁ、知り合った記念にみんな今日は、冷やし中華にね…しなよ」
 和奏先輩ってば妙な提案を…。
 気になるんだろうな、よっぽど。
 晃たちは、疑問を持ちつつも、別に構わない様子で、食券を買いに行った。


「…あの啓吾くんが深敦くんの彼氏さんだね…?」
 和奏先輩は、2人きりになると、俺にそっと聞く。
「…彼氏…ってわけじゃ……ねぇけど……」
 そう。さっきは名前とか呼んじゃってたけど…。
 彼氏ってわけじゃ…。
「…ねぇけど…?」
「……啓吾……が……」
「…好き…?」
 そう…直接聞かれると…
 なんか、この先輩、やさしいから反抗出来ねぇ…。
「かわいいかわいい」
 そう言って、俺を抱きしめると、いい子いい子するみたいにそっと頭を撫でる。
「…がんばりなよ…」



「…なにしてんの…。お前ら…」
 そう上からかかる声に、慌てて和奏先輩から離れる。
「…えっと……」
「…あー、俺の友達。湊瀬榛くんでございます」
「…あぁ…高岡深敦でございます…」
 つい、合わせて丁寧口調で言うと、榛先輩も、どうもっておじぎをして、席に座る。
「…和奏、どうしたんだよ、4時間目…」
「いやぁ、ちょっと迷っちゃって…。で、深敦くんと会ってお友達に…ね…?」
 俺は、大きく頷いた。
「…マヨネーズ…?」
 そう和奏先輩に聞くと、笑いながら頷く。
「そうそう。でも、榛は、弁当だよな…」
「なに、マヨネーズって…」
 榛先輩は、弁当を取り出しながら、聞く。
 わざわざ作ってんのかなぁ…。すごいや。
 でも、その方が、お金はかからないよな、うん。
「ちょっと、マヨネーズについてさっき語ってたんだよ。ね?」
「うん」
「…へぇ…。深敦くんってさ…。どっかで見たことあるんだけど…」
「…榛―…古いナンパみたいぃ…」
「違うって…」
俺って、そんなに目立つのかなぁ…。
「…部室、来てたっけ…。写真部」
 写真部なら、こないだ珠葵と一緒にちょっと覗いてみたんだよな。
「うん、行きました。2年生って言ってた先輩にいろいろ写真見せて貰って…」
「まだ何部にも入ってないんだろ…? そーゆう子の対応は2年がやることが多いから…」
「過激な写真は全部、榛が撮ってるんだよ」
 楽しそうにそう言う和奏先輩に対して、少し冷静に榛先輩は一息つく。
「…そんな変なのは見せてないだろ…? 風景とかばっかじゃなかった…?」
 変なの…って…。
「…裸とか見たけど…」
 そうそう。すっごいかわいい感じの子が裸だったり…他にもいろいろ…。
「……あぁ……そ…っか…。後輩には、そーゆうのはあんまり見せんなって言ってあるんだけど…ねぇ…」
 榛先輩はしょうがないなぁみたいな感じで苦笑いする。
 優しそうな人だな…うん。
「そーゆうのは、見せた方が部員、増えるんじゃないの…? ね。写真部おもしろそうでしょ〜。俺もたまに遊びに行くの」
「…和奏先輩は、写真部じゃないの…?」
 遊びに行くって…
 ホントは何部…?
「いろいろ掛け持ちで入っちゃってるから♪飽きっぽいしねぇ…」
「あ、俺も飽きっぽいっ。いろんな部、入りたい」
「じゃぁ一緒に、冷やし中華研究部を作って、真髄を調べよう」
 冷やし中華の真髄…。
 なんか気になるなぁ…。
「…和奏…馬鹿なこと言っとらんと…」

 わけのわからない会話の中、晃たちが戻ってくる。
「…こんにちわ」
 珠葵が今度は、榛先輩に対して首をかしげる。
「あぁ…。俺、湊瀬榛ね。なに…和奏の友達…?」
「というか、深敦くんの友達」
「市原珠葵だよ。知ってる。写真部の部長さん。こないだ写真部行ったときに写真で見たよ」
「え…」
 榛先輩は、少し焦り顔で、まだ席についてない珠葵たちに合わせて、その場を立つ。
 珠葵はいろいろ中、見回ってたから、俺が見てない写真も見せてもらったのかな…。
「俺が写ってる写真…?」
「そう。なんか縛ら…」
 榛先輩は、慌てて珠葵の口を塞ぐ。
 縛ら……???
「…誰が持ってた? 2年生?」
「ん……えっと…すごいかわいい子。4年だっけ。深敦くんと一緒にその子の裸の写真とか見たけど…」
 わかった…ってな感じで落ち着くと、榛先輩はまた席につく。
「榛の写真は裏で、高額で渡ってるから」
「…撮る奴が下手だから、あんま良くねぇよ。あの写真」
 あの写真…。気になるな…。うぅうん。和奏先輩とかは持ってるのかな。
 後で、こっそり聞いちゃおっと…。

「あ、こんにちは」
春耶も…
あ…って、知ってるわけ?
「あぁ。春耶くんね。こないだはどうも…。また、よければいつでも来てやってな…」
「知ってるの? 榛先輩、春耶のこと…」
「こないだ春耶くんと弟の写真撮らせてもらったから…」
 そうそう。春耶は双子だから…双子ってだけで目立つもんなぁ。
 しかも、2人ともかわいい…って、春耶はかわいいよりかっこいいかもだけど。
 春耶の弟、めちゃくちゃかわいいしな。

「榛くんってば、水城の写真も撮ってたわけ…?」
 啓吾まで…。
 しかも、榛くんとか馴れ馴れしいな。
「…啓吾、深敦くんの友達なんだ?」
「ん…まぁ…」
 なにがまぁ…だよ。
「…で、もう一人の子が、晃」
 俺が、榛先輩に教えるの、もう、晃だけじゃん。
 人に人紹介するの、楽しいのに…。
「…ってか…おまえら、なんでみんな冷やし中華なわけ…? 別にいいけど…」
「知り合った記念に冷やし中華にするよう、俺が頼んだわけ」
 たしかに、みんな冷やし中華でおかしいや。  



「おっ♪」
 それぞれ席につくと、上からまた声が…。
「…榛に深敦くんに啓に…って、こりゃまたおいしいメンバーそろってるやん…」
「いや」
 啓吾の兄貴の優斗だ。
「ちょっと、深敦くん、イキナリそりゃないやん。席、空いてる?」
「空いてない」
「空いてるくせに…。まぁいいわ。空いてても一つじゃかんしな」
 そうそう…。もう一人…。
 なんだ、このメガネで秀才コンビみたいな嫌なノリは。
「榛…。啓をダシにして、深敦くんと仲良くなろうって魂胆?」
「…違うって…。和奏と深敦くんが友達なわけ」
「…ふぅん…。意外な組合わせ…」
「部活が一緒なんで…ね…?」
 あはは。冷やし中華研究部。
「うん。一緒」
「美術部入ってって言ったやんか。何部なん?」
「秘密。お前が入ると駄目だから教えない」
「冷たいなぁ。なに? みんな冷やし中華なん…? いかんやん、深敦くん。冷やし中華にゃマヨネーズがつきもんやん。かけなかんて」
 そういい終わらないうちに、俺の背後からのっかるようにして、冷やし中華にマヨネーズでハートを描く。
「あぁあああっ」
「そんな喜ばんでも」
「なにすんだよ、馬鹿っ。分離がっ…」
 泣きつく俺を、和奏先輩が受け止めながら、頭を撫でてくれる。
 俺の冷やし中華が、ハートマヨネーズによって死亡。
 和奏先輩にせっかくおごってもらったのに…。
「優斗ぉ…お前、取り替えろよっ」
「…いやぁ、俺は愛妻弁当だから…? な、榛」
「なんで榛先輩に同意求めてんだよ。馬鹿っ」
「説明すると長くなるけど、まぁ俺の愛妻が榛だから?」
 短っ。
 って、そんなとこが問題じゃなくって…。
 もう、こんな馬鹿とは付き合ってらんねぇ。
 それより問題なのは、この冷やし中華で…。
…研究部員として、体感してみるべき…?
でも、少しふちにかかってるだけならまだしも思いっきりかかってるし…。
「深敦。変えてやろうか?」
 っと、天からの救いの声は、啓吾。
 だけど、なんか気に食わない。
「…う…ん…」
 まぁ、いいや…。
 俺は、啓吾と冷やし中華を取り替える。
 なんか、おごって貰ったものを、人と取り替えるって悪い気するけど…。
 それ以前に、もう俺食べかけてたんだけど…。
 まぁ…いいかなぁ…。
「…いい子じゃん、啓吾くん」
 そっと、和奏先輩が、耳もとで俺にしか聞こえないように言う。
「な…ぁ…」
「しかも、ハートが描かれた冷やし中華」
 うわ…。恥ずかしい…。
「あれは…俺が描いたんじゃないしっ…」
「…でも、深敦くんの気持ち…」
「っ…そんなんじゃ……うぅ…」
 そんなこと言われると妙にどきどきする。
「二人で、こそこそやらしぃなぁ。啓はもっとかけるやんね。俺が描いたる」
 そう言うと、啓吾に渡った冷やし中華のマヨネーズのハートをマヨネーズで塗りつぶす。
「…あんなにかけるの…? 啓吾くん…」
 俺と和奏先輩は、感心したように見入っちゃってた。
「…アキは? どーする?」
 優斗は、アキの冷やし中華の上にマヨネーズを用意する。
「っちょ…それ以上、被害を出したら俺がただじゃおかねぇぞっ」
 マヨネーズを振りまきやがってっ。
「いいよ、深敦くん。僕、マヨネーズ好きだし…。久しぶりにかけて食べるよ」
「え…」
 久しぶりって…
アキまでもがマヨネーズON THE冷やし中華の餌食になっていたとっ?
「では、芸術的に、かわいいお花を描いてあげよう」
 優斗はそう宣言すると、ケーキのデコレーションみたいに綺麗な模様をスラスラと描いていった。
「…すごぉい。綺麗」
 珠葵が、素直に感想を漏らすが、俺は、『すごぉい』なんて言うタイプじゃないから、心の中で感心する。
 写真に撮りたいくらい…。
 って、それは写真部部長である榛先輩も思っただろう。
 みんなが見入っちゃっていた。
「じゃぁ、まったね」
 騒がしいやつめ…。
 なにが『まったね』だ。ふん。



一息ついて…。
「何部入るか決めた…?」
 榛先輩の質問に、アキは、まだだと首を振る。
「俺ね、写真部好きだよ。かわいい服、たくさんあったし」
 珠葵、似合いそう…。
 そういえば…。
「…俺、科学部に誘われてたんだ…。あと入らないけど美術部も…」
 俺はもう、人に見せられないほど絵が下手だから駄目。
 美術部は入らない。
 絵を描くのは好きなんだけど…下手だもん。
 美術部なんてゆう、うまいやつが集まってるとこ行ったらなおさらヘコむ…。
「科学部っていうと…雅か、部長」
 雅…?
「榛くん。たしか、その雅って人、俺の兄貴の彼氏だろ」
 啓吾の兄貴の彼氏?
「…優斗の彼氏…?」
「違う。もう一人の兄」
 啓吾にはもう一人兄がいるのか。
 楽しそうだな。
で、啓吾の兄貴の彼氏が…
 科学部の部長か。
 どんな人か見てみたい気はするな…。
「…でも俺、部長じゃなくって…柊先生に誘われた」
「先生、直々に…か…」

「入りたい部がたくさんありすぎるんだよ。えっと…文芸部とか天文学部とか…あと水泳部とか…」
「深敦くん、泳ぐの得意なの…?」
 珠葵が目を輝かせながら、楽しそうに聞く。
「得意って…わけじゃないけど、まぁそこそこ…。中学、水泳部だったし…一通り4種目は出来るけど…」
「今度、教えてっ。俺、バタフライやりたいっ」
 教えれるもんなのかなぁ…。
「今日っ。深敦くん、一緒に水泳部に遊びに行って泳がせてもらおうよっ」
「あ、楽しそう。俺も行っていい…?」
 和奏先輩まで…。
「…うん。わかった」
 まぁ、泳ぐの大好きだし♪
「深敦……。今日は止めときなって…」
 そう、俺を止めたのは啓吾だった。
「…えー……なんでお前に止められるんだよ」
「…そうそう…。多少キスマーク残ってようが、かまわないって」
 珠葵がなんでもないようにそう言うのを聞いて、昨日のことがカムバックっ。
「あぁあっ」
 俺、わりと肌白いから、目立っちゃってるよな…。
多少……って、結局、多いか少ないのかどっちかわかんねぇ。
って、そんな場合じゃなくって…。
たくさん、付けられた気が…。
「っ…お前のせいで、プールに入れねぇっ」
「…別に、入れなくはないだろ…。ただ、止めとけばってだけ」
「…もういい。今度にするっ」
自分の体、そんなマジマジと見てないからどんくらい残ってるかわかんねぇ…。
「えぇえ…。じゃぁ、今度ね。絶対だよぉ」
「じゃ、そんときは教えてね、深敦くん」
 俺は、わかったと頷いて、キスマークも考え物だなぁなんて、妙に感心してた。

「…な…。啓吾と深敦くんって、付き合ってるの…?」
 そう言い出したのは、榛先輩。
「え…」
 付き合ってるかって…。
 …やっちゃったりしてるけど…付き合ってるとかそんな話はしてなくて…。
「…別にそーゆうわけじゃないけど…。友達…」
 そう答えるしかなかった。
 いまさら、『付き合って』とか言える状態じゃないし…。  

 少しテンションが下がる俺を、和奏先輩は、よしよしと撫でてくれた。
「がんばりなよ」
 そう言ってくれるもんだから、『うん』って、素直に頷いた。



「…5時間目は体育だから、そろそろ切り上げないと…」
 真面目な晃の提案によって、俺らはいそいそと皿をおばさんの方まで持っていき、片付ける。
「じゃぁ、また遊ぼうね。部活の話とか…恋愛の話とか」
 恋愛は、いいよ…。恥ずかしい。
 でも、和奏先輩だと、なんか素直に言えるな…。
「…じゃ、また」
 そう言って、先輩たちに手を振った。



「…深敦……誰、あいつ…」
 体操服に着替え中、啓吾がそう言って、俺に話し掛ける。
「あいつって…誰」
「だから…和奏とか言う先輩だって」
「…知ってるんじゃん。和奏先輩って」
「違ぇよ。友達なわけ…?」
「…そう…。友達」
 知り合ったばっかだけど…。
「…へぇ…。深敦は、友達と抱き合ったりするわけ…」
 抱き合ったって…。
 泣きついたりしたけど…。
 そんくらいするよなぁ…。
「…ちょっと抱きついただけだろ…? そんくらい友達でもするじゃん」
「…じゃぁ…深敦は、俺のことも友達だと思ってるわけだ…」
 静かにそう言うと、俺が返事をする間もなく、啓吾はまた自分の席の方へと行ってしまう。
 啓吾が…友達…?
 だって、付き合ってるとか、そうゆう話が出てないから友達って言うしかないし…。
 ってか、抱き合う以上のことしてんじゃんか…。
 なに、あいつ…。
「…深敦くんー…。暗いよ。元気ないなぁ。大丈夫…?」
 席の近い珠葵が心配してか俺の顔を覗き込む。
「…うん…。ちょっと考え事…」
「めずらしいねぇ…」
 俺って…
 啓吾のなんなんだろうな…。
 好きとか…言われたし…言ったけど…
 あれ以降、なにも…
 ただ流されてやっちゃうってな感じのしかないし…。

啓吾…
の方を見ると、なんか知らない子が…。
「あれ…珠葵、あの子、誰…? 同じクラスにいたっけ…」
「あぁ。隣のクラスの子だよ。最近、啓吾くんと春耶くんにつっかかってるみたいでねぇ。顔しかよくないよ。俺、嫌い」
 あいかわらず、好き嫌いはっきりしてんな、珠葵。
「嫌いって…珠葵、しゃべったこととかあんの…?」
「そう。ちょっとしゃべりかけたら態度悪くってっ。俺と話すときと啓吾くんや春耶くんと話すときの態度が違いすぎ」
「…俺も…話しかけてみよっかなぁ」
「えー、どうしてっ」
 なんか、どんくらい態度が違うか身をもって知ってみたいっつーか…。
「なんか、気になるし…」
「…うぅ、でも友達にはならないでよぉ…」
「もしかしたらいいやつかもよ?」
「駄目ぇ。駄目」
「わかったって。ちょっとだけ話してみる」
 俺と珠葵は、とっとと着替えると、啓吾と春耶の方へと向かった。



「ねぇねぇ…」
 どう話し掛ければいいのかわからず、肩を叩いてみると、振り向いたそいつの顔が、俺を見つけたとたんに、少し曇る。
「…なに…?」
「えっと……このクラスの子じゃないなぁって…」
 なに…言えばいいんだろ…やば…。
「だと…なに…?」
 うぅうん。
 確かに、ちょっと態度悪いかもしれないけど、そんなこと、ほかのクラスで聞かれたら『だとなんだよ』とか、俺も言いそうだしなぁ…。
「…冷やし中華…にさ、マヨネーズってかける…?」
「…はぁ…? そんなのかけないよ」
 ちょっと…  
怒られた気分…。
「そっか、ありがと…」
 ここは、一時退散。

「…おっかない子…」
「…でしょっ? 深敦くんの質問もおかしかったけど…」
「珠葵はかける? マヨネーズさ」
「かけないよ…。おいしいの…? って、啓吾くんに聞くのが一番いいかな」
 啓吾のマヨネーズの量は普通じゃねぇ。
「今、聞きに行ったら、またあの子に怒られそうだよな」
 あぁ、別に怒られたわけじゃねぇけど…。
「…啓吾くんとか春耶くんに対しては、もっといい子みたいなんだよ。ブリっ子してるってやつ? もうやんなっちゃうねぇ」
 確かに、あの子自体は、めちゃくちゃかわいいけど…。
「…晃の方が、かわいいよ」
 なんか、むかつくからそう言う。
「…うん。素朴なかわいさが晃くんにはある。こうかわいがりたくなるかわいさだよね」
「勝ちだね」
「…何…の話…?」
 晃が、いつから聞いてたのか、ひょっこり顔を出す。
「…ほら、啓吾の近くにいる子…。めちゃくちゃかわいいじゃん…? でもなんか態度悪くって…。で、今、あいつより晃の方がかわいいって話してたわけ」
「…そんな…。あの子の方が、全然かわいいじゃん…」
 晃は少し恥ずかしそうにそう言って、俯きながらもあいつを気にする。
「…もう晃くん、そんなことじゃ、春耶くん取られちゃうよっ」
 珠葵がビシっと、晃に注意して、軽くペシっと叩く。
「うっ…。取られるって…そんな…。僕は別に……。あの子を好きになっちゃったらそれはそれでしょうがないと思うし…。すぐほかに乗り換えるようだったら…僕も好きじゃなくなるかもで…」
「馬鹿―っ」
 珠葵が、大声で叱るもんだから、一瞬、周りの注目を浴びてしまう。
「ちょ…珠葵、声でかいって…」
「だってぇ…」
「春耶は、晃にベタ惚れだから大丈夫なんじゃねぇの…?」
取り合えず、俺らしくもなく、なだめ役に回る。
いったん、珠葵も落ち着くが、また、啓吾たちの方を見て考え込んでいる様子…。
「深敦くんだって…。他人事じゃないよぉ…。啓吾くん、取られたらどうすんの?」
「え…」
 啓吾が…?
 俺だって、晃と一緒で…
 もし啓吾が、すぐ他に乗り換えるような奴だったら……好きじゃなくなるかもしれなくて…
 いや、むかつくけど…好きじゃなくなるなんてことはないかもしれない。
 どうなんだろ…。
 そんな…あんな奴のこと…好きにならない…だろ…?
 でも…かわいいし…。
 どうすればいいんだろ…。
「…なんか…お似合いだよな。啓吾とあの子…」
 くやしいけど、啓吾はかっこよくって、あの子もかわいくって…。
 お似合いカップルって感じがする。
「…なに言ってんのさ。深敦くんっ。似合ってないよぉっ」
「啓ちゃんは、深敦くんが好きなんよ…。深敦くんじゃなきゃ駄目だよ…」
 珠葵も晃もそう言ってくれるけどさ…。
 俺って、啓吾と全然、つりあってないんだよなぁ。
「はぁあ…。疲れた。まぁいいや。体育館、行こっか」
 いつもなら、啓吾たちも一緒に行くんだけど…。
 なんか、あいつが嫌で、俺らは3人で行くことにした。