「なーぎー。鍵開いてっぞ」
…誰だー…。
夕飯も終えて、風呂も入って、今日は1人、啓吾のベッドでゆっくり眠る予定だったのに。

いや、眠ったよなぁ。
時計に目をやると、夜中の1時。

「…えっと…」
起き上がって電気をつけると、怖い感じの先輩…だと思われる人。
凪先輩の名前出してたから、凪先輩の友達なんだろうけど。

あぁあ、鍵占めておかなかった俺が馬鹿だよ、馬鹿すぎだよ。
ひぃい。

「あ…。誰? 凪のルームメイトじゃねぇよな?」
「っ…違います…けど…」
赤い髪。
目も青い。
カラコンか。
「1年…? ずいぶんな金髪してんじゃん」
俺の前髪を掴むようにして、ジっと見て。
怖…。
「ちょっとー。虐めちゃ駄目だってば」
後ろから、凪先輩の声。
一緒にいたのか。



「ごめんねー。この人、人からかうの好きだからぁ。別に悪気はないんだよ?」
そう教えてくれる。
「ちょっと、かわいがっただけだろって。な?」
同意求められても困るんですが。

「でもやっぱ、金、いいよなー。俺も、戻そうかな。あ、俺1年のころ金だったんだ。2年の途中くらいからこの色なんだけど」
「そう…なんですか…」
なんか、変な敬語…。
「いーって、いーってタメ口で。で? お前、凪のルームメイトじゃないんだろ? なに? 部屋交換頼まれた?」
「そういうわけじゃないけど…でも、自分とこは、先輩が彼女連れ込んでて、いにくいから…」
「へー、誰? つっても、俺、知らないか」
そう言う先輩に対して、凪先輩がにっこり笑う。
「なんとね、深敦くんのルームメイトは、あの深山悠貴なんだよーっ」
まるで、なにかを自慢するかのように、そう言うけれど。
なに…。
あのって。
あの深山悠貴って。
なんか、すごいわけ…?
「っあー…まじで?」
「そうそうっ。すごいよねぇ」
話見えませんってば。
そう思う俺に気づいたのか、恐い感じの先輩が、
「真綾ってさ。すっげぇ、先輩たちに目、つけられてたわけよ」
悠貴先輩の彼女のことだ。
そう教えてくれる。
そりゃ、美人でかわいくて、それでいて…なんていうか、エロいし…。
ある意味、いい性格してるから…。
「つまりな、真綾にとっちゃ、選り取りみどりだったのにも関わらず、自分のこと、思いっきり見てもくれないよーな悠貴に、走ったわけだから、有名なんだよ、俺らの学年の中じゃな」
「あの…見てもくれないって…」
「…悠貴って、真綾にキツくあたってたみたいでさ」
「キツくって…そのプレイ的に…ですか?」
「え? なにそれ」
違う…のか…。
やべぇ。
変なこと口走った。
「あの2人って、そんなキツいプレイしちゃうんだ??」
楽しそうに凪先輩が俺に聞く。
「いや…それは…」
「ねぇねぇ、深敦くんは、あの2人がやっちゃってるとこ、見たことあるんだ?」
「…ありますけど…」
「どんなん?」
どんなんって言われても…。
「そんな…普通のしか見てないし…」
「そっかぁ」
「でな。真綾に大してあまりにも悠貴がそっけないっつーウワサが回って。悠貴の方も、結構、真綾ファンの先輩にかわいがられたみたい」
たくらむように笑うのを見ると、かわいがられたってのは、言葉どおりじゃなくって。
なにか、キツい風当たりがあったのだろう。
「そう…だったんですか…」
「今はもういいみたいだけど。それに、悠貴って強いし。もちろん、俺らと同じ学年のやつらは、悠貴になにかしようとは思わないし、それほど痛い思いはしなかったみたいだけど」

をーっ。なんかおもしろい話をゲットしたぞ。
っつーか、悠貴先輩ってそんな強い人だったのか。

「悠貴の方は、全然、真綾のこと見てなかったみたいだからなー。というか、あんなかわいー子に言い寄られたのに、そっけない態度とるってどういう男だよ…ってことで有名だったわけ」
なるほど…。

「…っつーか。寝るわ。酒回ってっから」
いきなりそう言って。
なんなんだ、この人。
酒、入ってたのか。
「もー。人のこと、起こしといて、自分は眠いから寝るだなんてっ。ねぇ?」
なんて同意求められても俺には相槌できませんが。
「悪ぃな。深敦だっけ。俺はね、凍也。よろしくな。今度、わび入れるからさ」
詫びいれるとか、怖いんですけど。
そう言った凍也先輩は、凪先輩のベッドに崩れるようにして、倒れこみ、一気に眠りについた。

「この人、お酒入ると、ベラベラしゃべっちゃうんだよ」
楽しそうに凪先輩は俺にそう言って、凍也先輩に布団をかけてあげていた。
「起こしちゃってごめんねぇ」
「いえ…別に」
明日、休みだし。





「ねぇねぇ。啓吾くんとは、どぉ?」
楽しそうにいきなり。
「どう…って、どうにも、ないですよ」
「うーん…」
「俺…そんなに啓吾と仲良くないし」
「…そうかな」
「そうだよ…。あの…凪先輩は、好きでもない人と…やるとか、あります?」
こういうのって、誰にでも聞ける話題じゃないから、聞けそうなときに聞いてみないと…。
「ん。好きって意味が違う人となら。なんていうか…そうだね。優斗以外の人とだって、やることもあるよ」
「そう…なんだ…」
「深敦くんは?」
「俺は……」
聞いといて、自分、言わないなんてこと、できるわけないしな。
「…やるつもりがあるわけじゃないんだけど…。押されると断れないかも…」
「そうだよね。あ、じゃあ自分からしようとしたりはないんだ?」
自分から…。
「それは、な…」
ない…。
そう言いかけて、思い返す。
あった。
優斗先輩があまりにも啓吾に声とか似てたから。
たぶん、あれって、俺が誘ったみたいになってるんだろう。
「ないとも言い切れないのかも…」
そんな風に言うしかなかった。
思えば、俺って最低じゃん。
いくら啓吾に似てるからって。
優斗がいいやつだからって。
俺って、凪先輩のこと、全然考えれてなかった。
「っごめんなさい…」
嘘なんてつけれないんだよ。
「どうしたの? いきなりさ」
「俺……優斗と…少しした…」
凪先輩の顔なんて見れないけれど、そうとだけ声に出した。
「そう…。どこまで?」
やさしくそう聞いてくれるけど、本当は怒ってるのかよくわからない。
「指…入れられただけ…だけど…」
「それは、深敦くんから誘ったんだ?」
「あの…確実にそうではないけど…そうなのかもしれなくて…」
「いいよ。あの人のことは、わかってるし。そうだね。同じこと、させてくれたら、いいよ」
そう言って、にっこり笑った凪先輩は、ベッドに座ってた俺を押し倒す。
「っな…」
「駄目?」
そう聞かれても、断る権利なんてもちろんないし。
凪先輩の手が、ズボンの上から俺のをそっと撫で上げる。
「っんっ…ぁっ…」
「優斗に、イかされた?」
俺は、しょうがなくそっと頷いた。
「そっかぁ。じゃ、俺もイかせてあげるね」
そう言うと、俺のズボンと下着を脱がせていく。
「っちょ…やめ…」
怒ってたりしますか?
やめる気配なし。
俺も、抵抗するに出来ないし。
ゆっくり焦らすようにして、俺のを擦り上げられる。
「っンっ…あ…っせんぱ…っ」
「なに…?」
「あっ…ゃあっ…」
「うーん」

少し困ったようにしてから、手を離してくれる。
それはそれで申し訳ないような気になった。

「深敦くんは、みんなにかわいがられるからいいよね」
いきなりまじめにそんなことを言い始める。
「どう…いう…」
「たとえば、自分のこと、好きだとか…好きじゃないにしろ想ってくれない人に、抱かれたことはある?」
「それは…」

どうなんだろう。

無理やり…ってわけじゃないけど、強引にやられたこともあるよ、そりゃ。
でも、俺のこと、想ってくれてたのかもしれない。
深い意味じゃなくて、かわいいとか、好意があってくれたんだろう。
ただ、欲求不満だからやるとか、そういうのは、ないと思うけど。
「ない…と思う」
「うん。よかった。今はわからないかもしれないけど、そういうのってすごくわかるんだよ」
…よく…わからないけど…。
困惑してる俺を見てか、少し笑って、頭をなでてくれる。
「なんていうか、やってる最中にね。あー、この人、俺とやりたいんじゃなくって、セックスがしたいんだなーって」
「体だけ…みたいな…?」
「うん…そうだね。啓吾くんとかは、やさしいから大丈夫だろうけど。愛のないセックスってね、すごく悲しいんだよ」
そんなん…わかんないけど。
啓吾は、愛があるのか?
「ね、深敦くん、啓吾くんが自分のこと好きだなってなんとなくわからない?」
「それは…そうじゃないかなとも思うけど…。体だけが目当てなんじゃないかなって思ったこともあるし…」
「そっか。体だけが目当てな人とやるとね、ホントに悲しいもんなんだよ。泣けちゃうくらいにね。自分の方もわりきれるんならいいけど、なにしてんだろうとか思ったり…自分じゃなくてもいいのかなぁとか、他の人でもいいのかなぁとか、そういうこと考えちゃうし」
なるほど。
「そういうのは、ないでしょ…?」
「…たぶん…。あまり、深く考えたこととかなくて…」
「そういうの、再認識してみるべきだね」
「は…?」
いまいち、よくわからないんですけど…。
「やっぱりね。愛のない行為をしたことがないと比べれないからわからないかもしれないけど。だからって、愛もなくやれってわけじゃないし。そうだねぇ。初めてが啓吾くんだったんだよね?」
「う…ん…」
「だから、もうセックスはそういうもんなんだって、思ったと思うけど。もし、愛のない感じのを一番初めにしたら、そういうのがセックスなんだなーって思っちゃうでしょ? だと、愛のないセックスがいつでも出来る人間になっちゃってたと思う」
たしかにな。
「だから、初めてって大切なんだよ。啓吾くんでよかったね」
どうなんだか…、どうなんだろう。
「でも、今俺、好きじゃない人ともやっちゃって…るかもしれない…」
「…でもそれは、悪い意味じゃないでしょ。なんていうかなぁ。相手の方も深敦くんが相手だからしてるんだよ。他の誰かじゃなくって、深敦くんだから、するわけ。自分以外でもいいんだろうなーってそういう思いはしてないでしょ」
それはしてない。
隣のクラスのかわいい子だって。
俺を誰かの代わりにしてやったりしたわけじゃないし。
代わり?
あ、俺、優斗を啓吾の代わりにしてた。
自分がやられたんじゃなくって、俺の方がしてんじゃん。
「俺っ…」
俺が、それに気づいたことがわかったのか、やさしく笑って、抱き寄せてくれる。
「例えば、遊びの行為だとか、恋人じゃない人とする行為でも、そのときは相手のこと、考えてするのって、大事だと思うよ。さびしいからね」
「う…ん…」
「もし、啓吾くんが、深敦くんを抱くとき、別のこと考えてたら嫌でしょ」
「うん…」
「啓吾くん以外でもそうだよ。誰かにやられちゃうこともあると思う。だけれど、そういう人って、深敦くんのこと、考えてるんだよ。他の人としたいんだけど、近くにいたから利用したとか…そういうことは、ないでしょ」
「うん」
一応、俺だから、手を出すんだろう。うーん。
「もう一度、俺って愛されてるなーって、自覚してみて?」
そんなの、自惚れちゃいそうなんすけど。
「逆に言うとね。深敦くんも、啓吾くんにやられたときとか、ちゃんと好きだって、態度で示してあげないと、かわいそうだよ。啓吾くんの立場になってみてね。大好きで抱いたのに、好きじゃないんだって態度で示されたら一人でしてるみたいで、さびしいもんなんだよ」
「う…ん…」
たしかに、そうだよな。
俺、啓吾のこととか、あんまり考えたことなかった。

「ほらー啓吾くん、呼び出すよ」
「はい?」
俺がなにか、言う間もなく、凪先輩ってば携帯で電話しだすし。

どうすればいいんだよ。
凪先輩の声も耳に入らない。

「いまから、くるってさ」
それだけ聞こえて、われにかえる。
「そんな…っ」
「俺は、出てくからさ。待っててあげて」
「なんで呼んだんだって言われるだろうし」
「そんなの。素直に、やられて愛を再確認したいからって言えばいいのに」
そんなこと言えるわけがないのがわかってだろうか、わざと冗談めかして俺に言う。
「そんなこと…っ」
「会いたかったからって。それだけで十分でしょ」
にっこり俺に言ってから、凪先輩は部屋をあとにした。




しばらくして、ドアが開く音。
変に緊張が走った。
「深敦…?」
啓吾の姿を確認すると、余計にドキドキした。
「どうしたん?」
やさしい口調で。
なんでこんな遅くに呼んだんだよとか、迷惑そうな感じではなくて。
どうしたか聞いてくれたのが、うれしくて。
「…会おうと…思って…」
会いたかったからとは、言えなかった。
「なにそれ」
馬鹿にする感じではない。
俺の変な台詞に少し笑いながら言う感じ。
好きなんだよって言ってくれたのが、思い出された。

キスとかして欲しいだなんて、思っちまうし。
でも、そんなん言えなくてじれったい感じがした。
「深敦」
そう言われて顔をあげると、目が合って、恥ずかしさから、視線をそらした。
そんな俺の頬をつかむようにして、口を重ねられる。
「っんっ…」
抱きしめてくれて。
もちろん、俺は啓吾の背中に手を回したりすることなんて出来ないけれど、啓吾の服をそっとつかんでいた。
「こんな時間に呼び出されたら、犯してくださいって言ってるようなもんだろ」
からかうようにそう言われても、今は、否定できない。
実際、してほしいとか思ってる自分がいるわけだし。
なにも言えない俺を見てなのか、そっと頭を撫でて。
ベッドに押し倒されていた。
「誘ってるわけ?」
「そんなんじゃ…」
俺のこと好き?
セックスは一人じゃできなくて。
片方が、好きなだけじゃだめなんだよ。
出来ないこともないけれど、気持ちよくないんだ。
精神的な問題。

なにも言わないでいる俺を、少し見てから、そっとシャツの中に手が入り込む。
ゆっくりと撫で回されて。
「っんっ…啓吾…」
「なに…」
「別に…っ」
ズボンと下着が脱がされていく。
いつもなら、なんか抵抗とかしてる気がするけど、なにもできないし。
変に意識してるせいか、余計に感じてる気がする。
ゆっくり啓吾の手が、俺のを擦り上げるのが、感覚と視覚で理解出来た。
「っ…あっ…っ…やっ…啓吾っ」
「嫌なん?」
そんな風に聞かれたのって、初めてだっけ?
いつもは、嫌じゃないくせにーとか、言ってた?
それとも俺が、嫌にきまってるだろーがとか、言ってたっけ。
だめだもう、全然、思いだせねぇけど。
「っんっ…違…」
つい否定の声が洩れる。
嫌じゃないって。
嫌だったら、呼ぶわけがない。
「お前っていつもそうだよな」
なんでもないみたいに啓吾がつぶやくのがわかった。
別に答えなんて気にしてない感じ。
だけれど、俺としてはひっかかる。
「なに…っん…それ」
「嫌じゃないけど、良くもないって感じがすんだよ」
そっか。
無理やり言わされたり、気持ちよすぎて口がすべったり。
そんな感じだから、自分の気持ちをうちあけていない気がする。
「いい…よ…」
罪悪感にかられるような感覚で、本当のことを口にしてみた。
あとから恥ずかしくなってくるじゃんか。
啓吾が驚いてなのかなんなのか、手、止めるし。
どうにも、この沈黙とか耐えられねぇ。
「っやっぱなんでもねぇっ。今のなしっ」
俺はそう言って、体を横に向ける。

啓吾の手が、俺の髪の毛をかきあげて、体がビクついた。
「っ……」
「なしなわけ…?」
「っ…だって…」
「いい…って、冗談とか嘘で言ったんだ?」
「…違…うけど…。そんなんいちいち追求すんなよっ」
「なにがいいわけ? いいってどういう意味だよ」
追求すんなっつってんのに、こいつはもうっ。
でも、なんつーか、俺の髪の毛を撫でる手が、やたら優しいもんだから、俺も、おとなしくなりがち。
「……だから…啓吾とやるの嫌じゃねぇって」
「で? いいって?」
「…だから…」
「気持ちイイってこと?」
「……というか…」
やることが、嫌じゃない。
もちろん、気持ちいいからってのもあるけど。
やるのが嫌じゃなくて。
好きなんだよ…なぁ…。

でも、やるのが好きだなんて変態くさいこと言えるわけがねぇだろ。
「いいだろっ? どうでも」
「よくねぇよ」
「っ…」
すぐに、そう反論されてもな。
なんで、なにがよくねぇんだよ。
「わけわかんねぇって。なんだよそれ」
「深敦が、嫌だと思うならやんねぇっつってんだよ」
逆ギレみたいに言われてしまう。
だけれど、ちょっとびっくりした。
「…なにそれ…。俺が嫌がっても散々、したじゃんか」
本気で嫌がってはいなかったと思うけど。
「前はな。そりゃ、抑えらんねぇときもあるし? でも、もうやめるっつってんだよ」
真面目になに言ってんだよ、こいつは。
「なんで…やめるわけ…?」
「俺がよくても、お前がよくないんなら、気分悪ぃやんか」
凪先輩が言ってたことと似てるかも。
片方が好きなだけじゃ駄目なんだって。
「…やめなくても、いい」
俺はそっと、そう言った。
「…どういう意味で…?」
「だから…嫌じゃないから…」
「良くもない?」

俺は、少しだけ、言いとどまった。
沈黙。
啓吾も、俺の言葉を待ってるようで。
「…良くなくねぇよ。いいってば」
「…お前のいいってのは、俺が了承を得ようとして、OKを出してくれてるだけって気がすんだよ」
つまりなにか?
やってもいい?
OKですよーって、そういう意味のいい?
違ぇよ。
いいってのは、OKじゃなくって、GOODなんだってば。
「…俺だってっ…。…やり…たいし…」
なに言ってんだろ。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
顔はあいかわらず横を向いたまま。
啓吾に頭を撫でられたまま。
少し薄暗い部屋の中だからこそ、言える言葉だった。
「深敦…」
啓吾が俺の肩を掴むといきなり仰向けに押し倒す。
「っなっあっ…」
いきなり、正面から顔を見られて、恥ずかしさからパニクってきた。
けど、俺がどうにかする前に、啓吾の口が俺の口を塞いでいた。
「っんっ…ぁっんぅっ…」
口を重ねたまま、もう一度、啓吾の手が俺のを何度も擦り上げてくる。
「っんっぁっ…ンっ、んーっ」
やっと口を離した啓吾にじっくりと顔を見られると、恥ずかしいけど、なんとなく目が離せなかった。
啓吾が俺のから手を離すと、自分の指を舌で舐めあげて。
こういう仕草って、いつもまともに見てないからわからないけれど、結構、色っぽいなって思ったり。
それだけで妙にどきどきする。
もちろん、啓吾が色っぽいからってのもあるけど、次、やられる行為が予想できるからでもあったり。
目が合うと、妙な気恥ずかしさを感じた。
だけれど、なんとなくなにも言えなかったり。
指先が、俺のをまたそっと撫でてから、奥の方へと進んでいく。
そっと入り口を撫でて、探るようにしてから、中へと入り込んでいった。
「っあっんっ」
ゆっくりとした速度で。
奥へ奥へと、指が入り込んで。
変な感覚。
いつもより素直に受け入れてるせいなのかもしれないけど。
恥ずかしいのとはなんか違う感じで。
「いい…?」
俺にいやらしいことを言わせようだとか、そういった感じではないと思う。
ただ、そう聞かれると、いちいちんなこと聞くなよとか、反抗しにくくなるじゃんか。
でも、いいよーなんて言えないし。
そっと、顔を背けて、答えるのから逃げていた。
「深敦…」
名前呼びやがって。
なにそれ。
催促してるわけ?
見上げると、啓吾と目が合って、ものすごく恥ずかしいし。
「…んっ…あっ…よくなきゃ、やんねぇよ…っ」
少し目をそらして、そう言うので、いっぱいだった。
「…ほんとかよ」
そりゃ流されていろんな人に手、出されてる俺が言えるセリフじゃないかもしんねーけど。
「真面目な話…おまえ、どう思ってる…?」
なにゆえ、こんなセックス中に、真面目な話をし出すのか。
「なにっ…」
「…俺のこと…好きだったりするわけ…?」
めちゃくちゃドキドキするようなこと言いやがって。
「っな……んなことっ…」
前、好きだって、伝わったと思ったんだけど?
「俺といると、つらい?」
普段、おちゃらけてるやつが真面目なセリフ言うのって反則だろ。
つらいって?
もう遅いっての。
確かに、こうやってかまわれなかったら、こんな苦しい思いもせずにすんだかもしれないとか、あるけど。
でもいまさら。
どこかいかれたら、困るし。
いない方がつらい。

俺はそっと首を横に振って、つらくないと伝えた。
「…俺といたい?」
「なっ…」
さすがにそういう聞かれ方されると…。

啓吾の指が中を探るもんだから、いろいろと集中できない。
「あっんっ…啓吾は、どーなんっ」
「いてぇよ」
思いがけずあっさり。
いてぇって?
俺と、いたいって?
自分が言うよりも、言われる方が恥ずかしいかも。

「深敦…」
やたらまじめに俺の名を呼んで。

それでも指で中をかき回して。
こんなん、やられながらじゃ考えまとまんねぇっての。
あぁあ、もしかしてわざと?
俺が素面で、聞き入れるのが嫌で、こういうことして…。
なんて場合じゃねぇし。
「はぁっあっ…ゃうっあっ…啓吾っ」
「イきそう…?」
そういうのって、聞かれるとものすごく恥ずかしいんだっての。
イきそうだけど、『うん』なんて言えねぇし、顔を背けて逃れていた。
啓吾はラストスパートでもかけるかのように、激しく指を動かす。
「んーっあっ啓…っあっ」
「イイ?」
「やぁあっあっ…んっ」
イイに決まってる。
こんなの。
好きなやつにされたら、気が狂いそうだっての。
「はぁっあっ…ぃくっっあっ…やぅっもっぉ…っやぁっあぁあああっっ」

俺、何口走ってんだか。
後ろだけで、指だけで。
啓吾にイかされてしまっていた。

指を引き抜いてから、俺を引き寄せて、抱きしめて。
「っな…」
なんなんだか…。
妙な緊張が走る。
普段、こんなんよりもずっとすごいことしてるのに。
「お前はどうなんだって」
なに?さっきの? 俺といたいかどうかってやつ?
そんな催促されても。
言えねぇよ。
聞かれてうなづくことなら出来るけど。
「深敦…。俺と、付き合わん…?」
俺がなにか答える間もなく。
抱きしめたまま、耳もとでやさしくそう言う。

なんつった…?
付き合わんって。
どういう意味なんだ。
聞き返したりとか、出来ないんですけど。
「…考えといてや」
そう言って、もう一度、俺の体を強く抱いてから、そっと離れて。

俺はもう放心状態だし。
啓吾が、俺から離れていくのにも、無反応っつーか、どうにもできないっつーか。

「じゃあ、またな」
そう言って、啓吾は部屋を出て行く。
俺、なんかもう、なにも答えれてないんだけど。


めちゃくちゃ恥ずかしいし。
考えといてって。
啓吾と付き合うことを…だよな。

付き合ってないのに、こういうことするのとか、どうなんだよって思ったりもした。
だけど、こういざ、付き合うとか。
そういうこと言われるとは思ってなかったし。
男同士で付き合うとか、まだよくわかんねぇし。

ただ、もちろん。
うれしくないはずがない。
だけれど、どうすればいいのか、まだよくわからなかった。