冷やし中華ってお持ち帰りも出来るのかぁ。
ま、コンビニでも売ってるもんな。

さっそくベッドに座って、冷やし中華を食べながら、ふと、優斗の方に視線を向ける。
俺に背中を向けたままの状態で、凪先輩のベッドの上に転がってるローターを手にして電源を入れていた。

なにやってんの…って、ツッコミたいけど、突っ込んでいいものやら…。
無視しよう、こういうのは…。
「深敦くん、ローター使ったことある?」
ってもう、無視するって決めた直後に話かけるなよなぁ?
でも、後ろ向いたまま。
なんなんだか。
「…んなこと…」
前、啓吾に使われたよなぁ。
「使ってるんだ?」
「使ってるんじゃなくって、使われただけっ」
変な勘違いされちゃ困るから、つい怒鳴るようにそう言っていた。
「じゃ、持ってはいないんだ? 一人ん時用に」
「持ってねぇよっ」
優斗は、一人ん時に俺がどうするか知りたいのか?
これ以上、聞かれても俺は答えねぇよ?

「…なんでこんなにこのベッドに、ローターとか転がってるか、分かる…?」
あ。なんかシリアスっぽく質問しやがって。
「優斗が凪先輩にあげたんだろ?」
俺は、結構、そっけなく冷やし中華を食べ続けながらそう答えた。

「正解」
だからなんなんだってんだ。
「正解なんだけど…。ちょっと違うかも。凪って、なんでもちゃんと整理すんやんか? ピアスだって、ちゃんと整理してあったろ?」
確かに…。
もらった物と自分で買ったのと、分けたりしてたけど…。
「なんで…俺が、凪先輩のピアスのこと、知ってるって…」
「俺の部屋で会ったときはしてなかったやん? ピアス…。で、今、してるし。いっぺん、自分の部屋戻ってつけたとは考えにくいしなー。凪に貰ったんじゃないん?」
そんなことまでわかるのかぁ。
「貰った…」
「あいつ、結構気前いいから。面倒見もいいしな」
凪先輩がピアスとかいろいろくれちゃうのと。
優斗が凪先輩にいろんな物あげるのとでは、気前がいいとか、そういうのとは、ちょっと違うんだよな。

元からあるものをあげるのと、プレゼントとの違い?
まぁ、いいや、そんなことは。
「で、なんなんだよ。凪先輩が、ちゃんと整理するって…」
「うん…。だから、こんな風にさぁ。ローター、散らばってたり。結構、ありえない」
それはもう、凪先輩じゃなくても、人間として結構、ありえないんじゃないかなぁって思うけど…。
でも、親の目に触れない寮ってそんなもん…?
ルームメイトの了承さえ得れれば…。

「すぐ、使うから、いちいちしまわないんじゃねぇの?」
「やっぱ…そう思う?」
優斗はローターを持ったままで、やっとこっちを向く。
「…なんで俺に聞くんだよ」
そんなこと聞かれてもよくわかんねぇよ。
「あはは…ごめんごめん…。…うん…。たぶんそうなん…。これはさ、一人Hの道具なんよ…。別に俺とやるときとかに、さらに盛り上げるためとかじゃなくって…。もちろんそういうときもあるけど。凪は一人で抜いてるんだなぁって。だからって、いちいち、しまうのが面倒だって考えるようなやつでもないと思うし…。こうやって、おおっぴらに置いてんのって、俺に、気づいて欲しいんかなぁって思うわけ…」
気づく…?
凪先輩が一人でやってるってことを?
気づいてんじゃん。
凪先輩がさりげなくアピールしてるってこと…だよな…。

「ほら、バイブ」
んなもん、見せるなって…って、思うけど、優斗の方はいたって真面目っぽかったから、なにも言わずに、俺もそれを見る。
「…俺があげたんだけど…。あげてよかったんかなって。俺、部長だし、友達付き合いもあるし、凪だってそれぞれ友達との付き合いあるから、あんま会えんだろうなって…。だからさ、俺だと思って…ってのもなんか恥ずかしいけど、そんな感じでこういうのやるわけよ。でもそれって、結局、俺は相手する暇ないんで、一人でやってくださいーって言ってるみたいやん…? そんなつもりないんだけど…そうとも取れるなぁって…」
なに、こいつ…。
こいつも結構、いろいろ考えて悩んだりするんだ…?

というか、凪先輩と優斗って、もうラブラブで、なんにも問題ない人たちだと思ってたのに。
「あぁ、ごめんな」
黙ってる俺に気づいてか、優斗が少し慌てたように、そう言う。
「別に…謝ることねぇけど…」
むしろ、なにも答えれない自分の方が、悪い気がする。
「だからさ…。俺がよかれと思ってしてることだって、凪には不安な材料だったりして。そういう人それぞれの不一致ってあると思うんよ。だから、深敦くんも、ひとつの考え方に捕らわれんと、別の方向でも考えてみてな…」
結局、それなんだ…?
凪先輩のこと、俺に愚痴…ってわけでもないけど、相談? するのかと思いきや。
結局、最後は俺と啓吾のこと、考えてくれてるんだ…?
自分だって、悩んでるくせに…。


「啓吾…いつも不機嫌そうで、よくわかんねぇ」
「…啓は、いつも不安なんだと思うけどね…。なんかしらんけど、あいつ、用心深いっつーか神経質だでさ。手放しに喜んで、あとで『違ってました』ってのが嫌なんだと思うよ。だから、普段、あんまちゃんとした笑顔とか見せんのだと思う」
信じられない…ってことかな…。
俺が、啓吾に好きって言われても、本当かなって疑って、嬉しいけど、手放しに喜べないってのと似てるのかなぁ。

冷やし中華のお礼、言ったときに見せた笑顔は本物?
さすがにそれは疑いようもないしな。
結構、かわいい笑顔だった。
めずらしいもん見たって感じ。
あとで、なんでもないみたいにされたけど。

「だからってさ。いつも、どう考えてるのかわかんねぇよ…」
「俺だって…。凪は、いっつも笑顔だから。それに甘えちゃってんだよ」
「甘える…」
甘える…ってどういうことだろ。
つい、ボーっと、考え込んでると、そっと優斗先輩が俺を見て笑った。
「…そう…。わかんないんよ。いっつも笑顔で。俺が相手出来なくっても、いいよって許してくれて…。俺もそれに甘えて、自分の仕事とか友達付き合いしちゃうわけ。でも、本当は、寂しがったりしてるのかもしれんやん? 一人でしてるんかもしれんし。俺に、負担かけんようにしてるんだろうけど、いろいろわかんないよ…。いい子すぎるで…」
人に迷惑かけないようにって。
そうやって考えてて、自分を隠してるかもしれない…か…。
「ホントは、もうちょっと、求めて欲しいんだけどね。ほら、俺がかまってやれないことに対して、別にあんまりにも『いいよ』って許してくれちゃうと、俺って、いらんのかなーとか思うやん? 寂しがってくれてて隠してんのか、ホントに寂しくも何ともないのか…わからんで…」
なるほど…。
俺…
少し、和奏先輩と仲良くしただけで、啓吾が、不機嫌だったり…。
むかつくけど、まったくなんでもない態度取られるより、いいかもしれない。

「優斗と凪先輩って、悩みとかなさそうなのに…」
「そうでもないんよ、ホントは。…悩みのない人っているんかな…。そんなにうまくいかないもんなんだよ、こういうのって…。深敦くんも、ちょっとすれ違いがあったくらいで、啓のこと、見捨てんといてな」
すれ違いなんて、あって当たり前…?
そうだよな。
まったく同じ人間ってわけじゃないんだから、考え方とか、いろいろすれ違って当然なんだよ。
だから、少し理解されなかったり出来なかったりするくらい、どうってことない…というか、当たり前なんだ。
理解されること自体が、すごいわけであって…。

そうなんだよなぁ。
「別に…見捨てるとかは、ねぇけど…」
なんか、あんまりこう兄貴である優斗に頼まれると、調子狂うな…。
「ま、これ以上、俺が首突っ込むことでもないわな。がんばってや。でも、なんか悩むことあったら、なんでも言ってくれてかまわんでな」
「…うん…。優斗も…」
って、優斗の方が、俺より3つも年上だし、俺なんかに相談すること、ないか…。
そうは思ったけど、優斗は、『サンキュー』って、にっこり笑って言ってくれた。



「でも、今、啓、深敦くんのこと、好きって言ってたね」
聞いてたんかよ。
そりゃ、聞こえるか。
「…まぁ…」
「なーんか、いい雰囲気だったのに、俺が暗い話してまって、悪かったね」
「そんなん、別にいーけど」
「冷やし中華、好きなん?」
「うん…」
啓吾は、ただ、俺が嫌いじゃなさそうな物を買ってきただけかもしんないけど、すっげぇ大好きだったから、めちゃくちゃ嬉しかったり。
冷やし中華が食べれてってわけじゃなくて、大好きな物を買ってきてくれたことが。

「あ…のさ…。啓吾は、好きな食べもんとかあんの…?」
って、なに、俺、恋し始めちゃった少女みたいなこと聞いてんだよ。
「啓も、冷やし中華好きだよ」
優斗は俺をからかうでもなく、にっこり笑って教えてくれる。
「…ほんとかよ」
「っつーか、麺類大好きなんよ。うどんとかスパゲティとか?」
「…そういう料理みたいな食いもんじゃなくってさぁ」
「なに? なんか、あげるん?」
うわ。乙女くさ…。
「…違ぇよ。ちょっと知っとこうかとか思っただけ」
「そぉ? いーやん、あげれば? あ、もうすぐ啓、誕生日だし」
「あげねぇって。んな恥ずかしいことするわけねーだろっ」
「いーやん。あのねー。啓はピーチパイが大好きなんよ」
ピーチパイ?
「聞いてねぇってば」
「聞いたやんか」
聞いたけど…。
「…別にあげねーから、変なこと、啓吾に言うなよ」
「言わんで安心しやーて。あ、料理ならね、榛が得意だで、聞きゃーな」
湊瀬先輩?
料理得意なんかな…。
でも、俺、あんま交流ないし…。
ってか、
「…別に作らねぇって」
「いーやん。あー、拓耶には聞かんときゃあな。材料費、5倍くらいはいくで」
拓耶先輩は下手…なのかな…。
「…作らねぇもん」
「いーけど。言っただけ」



優斗はそろそろ帰るって。
そうだよな。凪先輩がいるか来ただけだし。
結構、忙しいやつなんだろうと思うし。

俺は一人、残されていた。
食べかけの冷やし中華に少しだけマヨネーズなんか、かけちゃったりして…。

っと、そのとき。
ピーんポーンって、インターホンが鳴り響く。

客が多いな、もう。
モテモテじゃん。

俺以外誰もいないし、しょうがなくドアを開けに行く。
ドアの向こう側には、隣のクラスの、かわいらしい子が立っていた。
「………」
なんか、ちょっとこの子のこと、忘れかけてたのに。
春耶や晃の方が、啓吾のこと知ってるんだろうな…とか、そんなことばっか考えてたから。

「…啓吾くんは?」
あ。
少し不機嫌そう。
やだなぁ、こいつ。
「…出掛けてるけど…」
「なに? 冷やし中華にマヨネーズかけるわけ?」
「っ関係ねーだろ? ほっとけよ」
これは、啓吾がしてるからなんだよ。
こいつよりは、啓吾のこと、俺、知ってるのかな…。
「今日は、啓吾帰ってこねぇって」
だから早く帰れっての。
そう思う俺を無視して、部屋の中へと入り込んでくる。
…ったくもー。
俺も、まったく無視して、食べ続けるのもなんだかなぁだし、冷やし中華を机の上にちょっと置いて、そいつを招き入れざる得なかった。

俺と、なにか話すつもりなのかな…。

「君さ…啓吾くんの何…?」
馬鹿にするでもなく、普通に、質問され、俺の方も、一瞬考え込む。

啓吾の…何って…。
クラスメートでしかなかったりするのかな。肩書きとしては。
「なんでんなこと、あんたに言わなきゃなんねぇんだよ」
「別にいいけどさぁ…。…君がよくわかんなくて。体がいいのかなぁ…」
少し考え込むようにしてから、そいつは俺の肩に手を当てると、そっとベッドに押し倒す。
「なんだよ…?」
なんかもう、意味がわからなくって、抵抗しようとかそんな雰囲気じゃない。
そいつは、俺のシャツをめくりあげると、露わになった胸の突起をそっと指で撫でた。
「っなに…お前」
さすがに、手を退かそうとすると、すぐさま離してくれる。
なんなんだ?
「啓吾くんが、好きなの?」
「…関係ねぇじゃんか…」
あぁ、これって結局、好きって言ってるようなもんだよな。
っつーか、隠してるってのバレバレっつーか。
好きじゃなかったら、好きじゃないって言えるもん。
「俺は、好きかな。啓吾くんが」
たくらむように笑ってあっさりそう言われると、変に対抗意識が。
だけどまぁ、俺はグっとこらえて黙ってる。
「…ねぇ。好きって言う自信、ないんだ…?」
そこまで言われると、もうイライラしてきちまう。
「自信どうこうじゃなくって、いちいちお前なんかに伝えたくないんだってばっ」
「冷たいなぁ。啓吾くんのこと、好きって言ってくれたら、一緒に語ろうと思ったのに…」
語る…?
「…なにを…?」
「啓吾くんのこと」
こいつと語るなんて、嫌なんですけど…。
「なんでだよ」
「俺が啓吾くんを好きで。君も好きだったら、俺たち趣味が合うのかもしれないじゃない…?」
あぁあ。そういう考え方…。
確かに、そうなるのかなぁ。
「でも、違うならいいよ。君がどういう啓吾くんを好きなのか、聞いてみたかったんだけど」
そう言ってベッドから立ち上がる。
俺はともかく、こいつが啓吾のことどう思ってるかってのは、やっぱり気になる。
「っ待てって」
つい、呼び止めていた。
「…なに…?」
「お前は…? 好きなんだろ、啓吾が…。どこが好きなわけ?」
「君も好き?」
「…っ…」
やっぱり、そう言わないと、語ってはくれないわけ…?
「…好き…だけど…」
しょうがなくそう言うと、納得したのか、またベッドに腰をおろした。
「で。啓吾くんのどこが好きなの?」
どこって。
「…別に…そんなん、わかんねぇけど」
「はぁ? なんかないの? 理由」
「…啓吾が、勝手に付きまとってくっから…」
だから、好きで…。
理由なんてよくわかんねぇよ。
これって、なんか、いやみらしい気がしないでもないよな。
啓吾に好かれてますアピールみたいで。
「それって、好きなわけ?」
わかんねぇよ。
「…俺のことより、お前はどうなんだよ」
「俺は、啓吾くんって、かわいいし」
かわいい?
あ。もしかして、こいつ、あの素の啓吾の笑顔を見ちゃった?
俺でさえ、あんま見てねぇのに。
「なんか、すっごい、感度いい感じだし」
「はぁ?」
感度?
「…なんか…したわけ…?」
「してないけどー。わかるじゃん。すっごい、軽く髪に触れるだけで、反応してくれるし」
…そうだったっけ…。
ぜんっぜん知らねぇ。
俺、啓吾のこと、全然見てねぇのな。
ピーチパイが好きだとか、そう言った知識っぽいのはあるけど。
見て取れる啓吾のこと、全然わかってないっつーか。
知る努力って、優斗に聞いて知るだけじゃ駄目なんだなぁって実感。

「ふぅん…」
「でも、啓吾くんは、君が好きみたい」
「は?」
少し、ため息をついて、そう言ってくる。
「なにそれ…。なんで、んなこと」
「なんでもなにも、本人に言われたから」
啓吾が…?
俺を好きって?
そりゃ、そうかもしれねぇけど…って思うのもなんかうぬぼれくさいけど。
そうだとしても、こいつにそんなこと言ったわけ?
「君と違って、啓吾くんはいろいろ言ってたよ?」
「いろ…いろ…」
「だから、気になるんだよね」
そう言うと、またさっきみたいに俺を押し倒す。
「…な…」
なんか、こいつがよくわかんねぇ。
すっごいかわいいから、変にドキドキするんだけど。

「…啓吾くんは…どんな風に君を抱くわけ?」
かわいらしい声でそう言うと、俺をジッと見たまま、シャツを捲り上げられる。
「…な…に…」
俺、こういうタイプの子、めっちゃくちゃ弱いんだよな…。
どう対応すればいいのかわかんねぇ。
「お前…啓吾が好き…なんだろ?」
「そうだよ。…だから、啓吾くんが好きな君のことが気になるわけ」
それは理解出来るけど。
「じゃ…じゃぁっ、晃は? 春耶のことも、お前、前、結構くっついてたじゃん」
春耶には晃がいるから諦めたんだと思ったけど。
だったら、啓吾のことも、俺がいるんだからって理由で諦めてもいいだろ?
しかも、啓吾本人から、俺が好きだって聞いてんならなおさらさぁっ?
あー。こいつ、晃に勝てる自信はないけど、俺に勝てる自信ならあるってことか?
「っ……啓吾のことも…諦めればいいだろ?」
何、言ってんだろ、俺。
俺なんか見て、こいつが勝てるって思うのも当たり前じゃんか。
「別に、春耶くんより啓吾くんの方がいいかなって思ったから。春耶くんにあまり絡まなくなったってのは、彼女がどうとか関係なくなんだけど」
晃に勝てるとか俺に勝てるとか関係なく?
ただ単に、啓吾の方が好きになったってだけだったのか…。

…へぇえ、そうなんだ…としか、言いようねぇな…。
少し俺を見上げて、にやりとする姿が、いやらしいけど、かわいくて。
つい、ドキっとしてると、露わになっている俺の胸に舌を這わす。
「っな…にっ」
やべぇ。
こんなかわいい子に、こんなことされたら、抵抗出来ないんすけどっ。
ひぃい。
「ねぇ…。一応、聞くけど。啓吾くんが、君をやってるの?」
「はぁ…? どういう…」
「君、受けくさいもんねー。でも、啓吾くんも、かわいいじゃん?」
受けくさいとは失礼な。
にしても啓吾がかわいいって?
「意味、わかんな…」
「だから、やるときは、どっちがどっちにハメんの?」
ぎゃぁあ、それは直球すぎ。
「っそんなんっ…俺が、啓吾にハメるわけねぇだろっ?」
想像出来ねぇ。
「そっか。じゃぁ、俺が啓吾くんを好きな理由と、君が啓吾くんを好きな理由はたぶん、違うんだろうね」
そう言うと、丹念に舌で俺の胸の突起を愛撫しながら、余っている手で、もう片方の乳首に軽く爪を立てる。
「っンっ…ひぅっ…」
なに…?
なんなわけだよ、もう。
「君と違って。俺は、啓吾くんにハメたいの」
かわいらしい声で。
想像も出来ないことを口走る。
「なっ…ぁ…気持ち悪ぃよ」
「啓吾くん? かわいいと思うんだけど」
かわいい?
わっかんねぇ。
男に抱かれても平気だけど、男を抱く気になる人の気持ちはわかんねぇよ。
かわいい男ならまだしも、啓吾?

啓吾のかわいい部分をそんなに見てるわけ?
それとも、なんか別の…。
男らしいやつを、喘がせてギャップを楽しみたいとか。
あーもうわけわかんねぇ。
でも、もしそれなら、少し安心。
ギャップどうこうじゃなくって。
啓吾をやろうと思ってんなら、啓吾だって、確実に断ってくれると思うし…。
断る…だろ…?
啓吾って、こういう子のこと抱きそうだけど、こういう子に、抱かれようとは思わないだろうし。

って、安心してる場合じゃねぇ。
ズボンの上から、そっと股間を撫でられる。
「なっぁ…っんぅっ」
「啓吾くんは、こういうのが好きなんだねー…」
なるほどー…ってな感じでそう言いながら、片手でズボンのチャックを下ろし、俺のを出して、直に擦り上げる。
「っちょ…っと、っ…ゃめっ」
「だめ…?」
少し困り顔で、上目遣いにそう聞かれる。
あーもう。
めちゃくちゃぶりっ子で作ってるって、わかってるんだけど、たまんねぇっつーか、かわいくってもう駄目だぁ。
ぶりっ子って、やってるとこ客観的に見るとむかつくけど、実際やられると、もうかわいくってならねぇんだよ。
もちろん、本当にかわいい子限定だけど。
混乱してきた。
「…俺の本性知ってるくせに。よくそう迷ってくれるね」
あぁ。
ホントはすっげぇ、生意気なやつだって?
わかってるけど、迷っちまうんだって。

「抵抗…しないでいてくれるんだ…?」
かわいい顔で、そう言って、ズボンと下着を脱がしてくれる。
「っな…」
「なに、君さ。俺みたいなの、もしかして弱いわけ?」
ばっちりそうですって。
やべぇな…。
その子は、かわいい顔して、あっさりと俺の足を大きく広げさせる。
「やめろってっ」
さすがに、やばいと実感。
もう見た目に反して力強いのとか、反則だろ。
「じゃあさー。君のココはさ、啓吾くんが開発したんだ…?」
そう言いながら、軽く舐めあげた指先を、足の付け根、秘部に触れる。
「っぁっ…離しっ」
空いてる手で俺の腕をしっかり抑えて、指先が入り込んできてしまう。
「っあっ…ンぅうっ」
「ね…。啓吾くんは、どうやってくれるの…?」
そう言いながら、入り込んだ指先を、抜き差ししたり、じっくりかき回してくる。
「っはぁあっ…ゃあっ…くンっ…」
「ふぅん。感度いいね」
そんな冷静に、じっくり顔、覗きながら言われましてもね?
俺は、押さえられてない方の腕で、なるべく顔を隠す。
「ぁっ…ひぁっ…ゃっあっんぅっンっ」
「気持ちいい…?」
だからもう、かわいらしく聞かないでくれって。
「指、増やすよ」
「っやめっ」
「かわいーね。こんくらいで、涙目になっちゃうんだ…?」
「っうるさっぁっ」
俺を無視して、そいつは、もう1本、指を足してしまう。
「っやぁっあっ…ひぅうっ」
「ここ…? いい?」
「っンっんっ…あっ…っゃっやあっ」
前立腺ってやつ?
そこを指の先で軽く突かれ、ビクンと体が跳ねる。
指先を折り曲げて、強く何度も擦られて。
意識が飛びそう。
めちゃくちゃ気持ちいいんだってば。
「っやぁあっ、あっ…ひぁっ…だっめっっ」
「だめ…?」
そう言って、今度は、やさしく俺の中を探って。
蕩けそうに熱い快楽が押し寄せて来る。
頭が、ボーっとしてきた。
「っだめ…ぇ…あっ…。あっ、はぁあっ」
「ねぇ。気持ちいい?」
「っひっくっ、あっ…ぃいっ…やあっ、もぉっ…」
「いっちゃう?」
頷くと、俺の腕を抑えていた手が、股間のモノを擦り上げてくれる。
「っぁっあっ…やぁあっ」



そのときだった。
ピンポーンって、インターホンの音が鳴り響く。
「誰だろ…」
少し、舌打ちしてそう言うとそっと指を引き抜く。
「っやっ」
って、俺、なに言ってんだよ。
抜いてもらえてよかったろうに。
「やめてほしくなかった…?」
そのとおりだよ。もう。
軽く笑われてしまう。

中途半端にやめやがって。
でも、俺、こいつにイかされてもよかったのかな。
もう、わけわかんねぇよ。

インターホン押すってことは、啓吾とか凪先輩ではないんだよな。

っと、寝転がってる俺を残して、乗っかってた子がドアへと向かう。


「…えっと…。邪魔しちゃった…?」
そう俺を見て聞いてきたのは榛先輩。
「え…」
って、なんの前触れもなく、人を中に入れるなよっ。
俺、脱ぎっ放しだっつーの。
慌てて、とりあえず布団で体を隠す。
「別に、いいですよ」
俺、敬語、似合わないなー…。
ホントは、あと5分後か、10分くらい前に、来てくれたらよかったと思うけど。

「じゃ、俺は帰るよ」
かわいい子は、そう言って、手を振る。
「え…」
って、別に帰ってもいいのに、なにが『え…』だよ、俺。
「啓吾くんいないし。君のこともわかったし」
にっこり笑ってそう言って。
榛先輩をしっかり見てから、部屋を出ていった。



啓吾に用事かな。
あ、でも凪先輩もかわいいから、写真とか撮ってて知り合いなのかも。
「啓吾は、今日、泊まるって…帰ってこないみたいだけど…」
「あぁ、啓吾じゃなくて、深敦くんに…」
俺?
「ピーチパイ作りたいって?」
げっ。
優斗のやつ、榛先輩に言ったのかよっ。
「っ…あの…どう、聞きました…?」
「え…。ただ、深敦くんが作りたがってるって、優斗が…」
じゃ、啓吾にあげるとか、そういうのは、聞いてないのか。よかった。
「…少量しか、作らないとなると、材料もったいないから、多めに作って、友達にも分けてあげようか」
俺が、啓吾にあげるって。
わかってんのかな。
でもって、あえて、そういう言い方してくれる気がして。
いい人だ。

「は…い」
「ピーチパイくらいなら、材料あるから、すぐにでも出来るけど…」
材料も器具もあるわけ? やっぱ、この人、普段から、いろいろ作ってんのかな。
「深敦くんは、暇な日、ある?」
俺は…。
一応、テスト週間だっけ、今。
俺は別にテスト勉強とかどうでもいいような気もするけど、榛先輩の勉強時間を削るわけにはいかないし。
「テスト後、いつかいい日、ありますか? あ、俺はいつでも暇なんで…」
「テスト後ね…。じゃ、来週の金曜日とか。放課後いいかな」
金曜なら、次の日、休みだし、気軽だよな。
ちょうど、一週間後。
「じゃぁ、その日で…」
「うん。深敦くん、俺の部屋、来てくれるかな。ほら、いろいろ器具とか」
そっか。
面倒だよな、器具の移動とか。
俺の部屋とか、なんもないし。
「わかりました。じゃぁ、金曜日…」
「うん。楽しみにしてるよ」

話が一段落つくと、榛先輩は、ジっと俺を見て。
「大丈夫?」
そっと、頬を撫でてくれる。
「え…」
「ホント、邪魔しちゃったみたいで…」
あぁあ、寸止めはつらいですけど。
「いや、あの子にイカされんのも…まぁ納得いかないし」
「納得?」
「だって、あの子、啓吾のこと、好きだからさ」
そいつ相手にイかされんのもな。
…さっきはイきたいって思ったけど、それはしょうがないだろ。
あぁあ。
だから、啓吾にも、いろいろイヤミ言われんのか。
こう、好きでもないやつ相手でも、どうとか。
「あのさっきの子、見ましたよね。すごくかわいくないですか?」
「うん。そうだね。写真、撮ろうかな」
にっこり笑ってそう言うけれど。
なんていうか、変なコレクションする変態ってな感じじゃないんだよな。
榛先輩だと。

「で、納得いかないって…。じゃあ、俺なら、いい?」
「え…?」
俺ならって…?
「どういう…」
意味なんだろう…。
「手伝ってあげるよ…」
少し笑って、そう言うと、そっと俺の体を隠していた布団をめくる。
「あ…」
「ギリギリでいけないと、つらいだろ?」
「っ…そう…だけどっ…俺、自分で…」
出来るって。
言いかけたところで、榛先輩は、俺の片足のひざ裏に手を入れると、折り曲げてしまう。
「っ…」
やっばい部分が、丸見えだって。
「自分で…満足…?」
出来ないと思う。
「っ…でも…っ」
俺が迷ってると、またひとつ、笑って。
ひざ裏に回していた手をそっと離して、俺の頭を軽く撫でる。
「冗談だよ。気にしないで。そりゃ、手伝って欲しいって言われればするけど。…いい子だね…。後ろめたい気持ちがあるんなら、それだけで、十分、いいと思うよ」
…なんか、すっごい救われること、言ってくれちゃうんだな、この人。

そういう風に、フォローしてくれるのって嬉しい。
俺って、こうやって流されて、別の人とでも、いろいろしちゃいそうだし。
後ろめたい気持ちはあるから。
逆に言うなら、後ろめたいって思うことを、忘れないようにしなきゃいけないんだよな。

「…ありがとうございます…」
「え…」
「なんか…すっごい、そうやってフォローしてくれる人って、いままでいなかったから…」
優斗は、確かにいろいろ相談のってくれてるけど。
啓吾のこと、言うから。
なんていうか、啓吾には悪気はないんだよとか、そんな感じ?

榛先輩とはまた違うんだよな。
俺の方を、言ってくれるのとは違う。

嬉しい。
「あまり、無理して、考えすぎないようにね」
「はい」

とりあえず。
テスト勉強のために、数学のノートとか、どうにかするべきなんだろうけど。
今日に関しては、ここで、眠ってしまおう…。