なんでもないことのはずなのに、一人でベッドにいることでさえ、寂しいと思ったり。
ただ、ここが啓吾のベッドってなだけで、変に、感情が昂ぶった。

つよく布団に指を絡めて、感触を味わって。
包まったまま、そっと、眠りについた。


「寝てんのん…?」
どのくらい時間がたったかはわからない。
小さくそう声が聞こえて、そっと、髪の毛を絡めとられる感触に目を開く。

「ん…」
優斗だ。
一瞬、啓吾の声に似てるなとは思ったけど、啓吾が戻ってきて、こんな対応するとは思えないし。
すぐ優斗だってわかった。
「なに…」
「いや…。どこに行っても凪いないし? もしかしたら、この部屋いんのかなって。そんだったら、なんつーか…。俺が凪、ひきとろうかと…」
つまりなに?
凪先輩ひきとって、俺と啓吾が二人きりになれる空間を作ってくれようとしたわけ…?
だけど、啓吾はいねぇんだよ…。
優斗がやさしすぎて、なんだか悲しくなってくる。
「…っ…啓吾…いねぇもん…」
「来たら、いなかったん…?」
「…いなくて…。一回来たけど…また、友達んとこ行った…」
「そっか…」
よくわからない、やさしい口調でそうとだけ言うと、優斗は、ベッドに乗りあがって、俺の隣に寝転がる。
「なんだよ」
「いいやん。入らせて」
軽いノリで、そう言って、布団の中へと入り込んでくる。
少し強引に、自分のペースで入り込んできて。
勝手すぎる。
だけど、なんていうのかなぁ。
俺のためにしてくれてる気がして。
というか実際そうなんだろう。
俺が、啓吾とうまくいかなくって暗くって。
そういうの見て、なんでもないことみたいに、こっそり慰めてくれる気なんだ。
わかるから、逆にそのやさしさが身にしみるっていうか…。
変に泣けてくる。
「…っ……」
無理だよ、涙が、溢れそう。
我慢しすぎて喉が痛くなってきた。

俺、いつのまに、こんな涙もろくって弱い人間になったんだよ。

悲しいから…ってのもあるけど。
なんていうのかな。
優斗がやさしくしてくれるから…?
こうやって人のやさしさに触れると、苦しいほどに泣けてくる。

優斗は、そっと俺を抱き寄せてくれて。
俺は、されるがまま。
優斗の胸元にすがりつくみたいになる。
「我慢、しんでいいよ…。別に、恥ずかしいことじゃないし。いいと思う」
頭を撫でながら、優しくそう言われると、もう限界だった。
「…っ…ぅん…」
我慢してた涙が、ポロポロ溢れ出てくる。
やさしく、髪の毛を絡めとられて。
少し強く、引き寄せられて。

こういうの、すっげぇ暖かい感じ。
「優斗…。真似…しろよ…」
自分でもこんなこと言うなんて馬鹿だと思う。
だけど、そう言ってしまっていた。
「いいん…?」
あぁ。わざわざ、聞くんだ…?
こいつって、ホント、ただからかうときとかは、なんでもないみたいに真似するくせに。
こうやって、真面目なときは、ちゃんと聞いてくれる。
冗談とのケジメがつけれてるってやつかな。
「…ぅん……」
「…ん…。深敦…」
耳元で。
少しかったるそうな声。
その声で、そのトーンでそう囁かれるだけで、ドキドキする。
啓吾の声…。
優斗は、そっと俺を押し倒して、髪をかきあげてくれながら、耳元でもう一度、俺の名前を呼んだあと、そっと、舌を這わす。
「…ぁ…」
いきなり優斗の手が、ズボンの上から股間に触れて、軽く撫で上げてくる。
「っな…」
「深敦…」
耳元でまた、そう呼んで。
何度も、ズボンの上から擦りあげられ、体が熱くなってきていた。
「っン…っ…ぁ…」
片手で、ズボンのチャックを下ろされて、今度は直接、俺のを手で包み込んじゃって。
「ゃめ…優…っ」
俺の言葉を消すように、優斗は、俺の口に自分の口を重ねてしまっていた。
「っンっ…」
直に掴んだ俺のを擦り上げながら、俺の口内を優斗の舌が這いまわっていく。
舌を絡めとられて、吸い上げられて。もう片方の手は、俺の髪の毛を何度も弄んだ。
「っンっ…んぅ…っ」
「…かわいい…」
口を離すとまた耳元で、そう言って。
低めのトーン。
真似してんのかな…。すっげぇ、啓吾くさい声。
もしかしたら、不意に出た台詞かもしれないけど…。
真似じゃなくっても、こう真面目っぽいときの優斗って、普通に啓吾に似てるから…。
「っ…ンなこと…啓吾、言わな…」
「そぉ…?」
軽く笑って、そう答えてくれて。
被っている布団をめくり上げた。
「なっ…」
部屋は暗めだけれど、羞恥心はある。
だけど、啓吾の布団だし、汚すわけにもいかないし。
って、俺、行為をやめる気はないのかよ…。
止められそうにない。
「じゃぁ、なんて言うんだろな…。かわいい…より、やらしい…かな…」
俺の足もとに移動すると、手にした俺のモノを、そっと舐め上げる。
「っひぁ…ぅん…っ」
「もう溢れてきてんやん…。やらしぃやつ…」
指先で、亀頭を撫でて、俺のに舌を這わしながら、少し楽しむような口調でそう言う。
「んっ…あっ」
啓吾みたい。
なに俺。
そんな風に言われて嬉しがってるなんて、マゾくさいじゃんか…。

啓吾だったらまた『うるさい』とか言い返してんのかな。
今は、相手が優斗で。
啓吾の真似してくれてるだけだから、素直に受け止めれるっつーか。
止めないで欲しいし。
「っはぁっ…優斗…っ」
ズボンと下着を引き抜くと、先走ってしまっている液のヌメりを取って、指先を後ろの秘部へと差し込んでいく。
「っあっ…ゃめっ」
「最後まではしんて…。そこまでやったら、さすがに啓に怒られてまうでな」
「っンっ…ぁっ」
「…最後までじゃなくとも、怒られてまうかもしれんけど。内緒な…」
指先が、どんどんと奥へと入り込んで、少し抜き差しされるだけで体中にゾクゾクと変な電気が走るみたいだった。
「あっ…ぅンっ…っや…あっ…」
「深敦…」
目も開けられなくって。
つぶっていると余計に啓吾と重なってくる。
「はぁっ…ぁ…くっ…ぅんっ」
指を増やされて、中を広げられ、やさしい手付きでかき回されると、頭がいろいろと考えることを拒む。
もう、なんにも考えられない。
「あっ…やぅっ…ンっ…んっ…はぁんっ」
「深敦…。でらかわいいわ。もっと、声出しゃぁって」
「やっぁっ…あっ」
少しだけだけど、人にやられるのって久しぶりだし。
こんなの、もうイきそう。
気持ちいい。
「はぁっそこっ…あっ…あっ」
「ここ…?」
「ひぅっ…ぁっ…ぅンっあっイくっ…いくっやぁっ…あぁああっっ」



優斗にイかされて。
変に罪悪感を感じた。
だって似てるんだもん、しょうがねぇよ。
でも啓吾以外でも感じるんだよなぁなんて思うわけで。
そんなの、しょうがない。

内緒だって言われたけど、俺、嘘つくの下手だし。
っつーより、隠し事とかやっぱ嫌なんだよ、後ろめたくって。

啓吾…。




「ゆっくり寝やぁな」
優斗は、優しく俺を抱き締めてくれて、そっと寝かせてくれる。
優しいな…。
だけどもう、足りない。
俺ってなんてやらしい子なんだろう。
もっと、して欲しいって思うのは、俺がいやらしいからなのか。
もしかしたら、啓吾じゃないと満足出来ないとか…?
一応、肉体は満足できても、駄目なのかもしれない。

わかんねぇよ。

少しだけ消化不良な気分のまま。
それでも優斗に撫でられながら、ゆっくり眠りについた。





「深敦…」
そう言われる声に目を開く。
優斗じゃない、啓吾だった。
優斗はまだ、俺の隣で眠ってる。

やっぱり俺は啓吾が好きなんだと再確認させられる感じ。
そうやって、俺の名前呼んでくれるだけで、すっげぇドキドキするから。
「啓吾…」
あぁ、なんかふにゃふにゃした声だ。
弱々しいっていうか。

「なんか…したん…?」
優斗に軽く視線を向けたあと、俺にそう聞く。

別にお前には関係ない…って、前なら言ってたと思うけど、気にしてくれるのが少し嬉しくて。
「…ちょっと…」
嘘つけないこともなかったんだよ。
だけど、気にして欲しいから、そう答えていた。

「…そっか」
だけれど、啓吾はそっけなくって。
そっけないこともないんだろうけど…なんなのかなぁ。
やさしい口調。
いままで俺が散々、反抗してたから、逆に啓吾は引いてくれてんのかもしんねぇけど。
もしかしたら、本当に、どうでもいいのかもしれなくって。

俺ってそんなポジティブに考えられる人間じゃないから、優しく言ってもらえても、へこむんだよ。
すっげぇ小心者っていうか、こんなネガティブな自分、もう嫌だ。

「…そっかって…?」
なんで、そんな風にやさしく言うんだよ。
見上げて言う俺の頬をそっと啓吾が触れる。
「……聞いていいわけ…? 答えれる? 聞いて欲しいわけ…?」
少しそっけない口調でそう言って、俺をジっと見た。
「っ…よくねぇけど…聞けばいいのに…っ」
あぁ。俺、何言ってんだろ。
聞いて欲しかったんだ。

お前は俺のこと考えて、そういった対応、してくれてたりすんのかもしれねぇけど?
そうやってうぬぼれたいけど、なんか駄目だよ、全部、不安に変わっちまう。

俺はそっと、頬に触れられた手に自分の手を重ねた。
「…なにか…あったん…?」
啓吾はもう一度、そう聞く。
呆れてる感じでもなく、やさしくそう聞いてくれた。
でも、俺が『聞けばいいのに』っつったからだろ…?
また『ちょっと』とか言ったら、ホント呆れられるんだろうな。

頬に触れていた指先が、そっと俺の唇に触れて軽くなでる。
それだけで、顔中が熱くなる感じ。
ドキドキする。
啓吾の親指が、そっと俺の唇を割り開いて、口の中へと差し込まれる。
「……っ…」
少し舌を撫でられるだけで、蕩けそうだ。
俺、前よりももっと、啓吾のこと好きになってる…?

あぁ。
なんか心理学であった気がする。
いったん離れられたりすると、余計に気になるんだって。

それなのかな…。

俺は、答えるべきなんだろうか…?
でも、なにも言えない。
啓吾も、なにも聞かないでいてくれた。


啓吾は、指を引き抜いて、俺を見下ろすと、ドサっと俺の腹の上になにか置く。
「…っ?」
「食堂、8時までだっての。やるよ」
袋に入った状態。
なんだろ。
起き上がって、袋の中を覗く。
「あーっ!冷やし中華だ、冷やし中華っ!」
「…ん…深敦くん…?」
っとと。
つい、大声ではしゃいじまって、あとから恥ずかしくなってきた。
優斗が起き上がってくる。

「あ、啓。なに? 冷やし中華?」
「てめぇの分は、ねぇよ。だいたい、人のベッドで勝手に寝てんじゃねぇよ」
「はいはい。じゃ、俺は凪のベッド借りよっと」
「はじめからそうしろや」

優斗はノロノロと啓吾のベッドから凪先輩のベッドへと移動する。
俺らがいる方向とは逆の方を向いて寝転がってくれた。

…なんか。
このベッドに寝るのって。
俺だけ、許してもらえてる感じでちょっとうれしいかも…。
「じゃ、俺は水城と約束してるから」
「…うん…」
「…あぁ。夕飯、まだだったんだよな…?」
今、俺が、『もう済ませた』とか言ったらどうするんだろ。
「まだだった」
実際、済ませてたとしても、啓吾がわざわざ買ってきてくれたりしたら、申し訳なくって『まだ』って言うだろうけど。
もしくは、『済んだけど、またお腹すいた』とか。
俺のこと、気にしてくれてたんだ…?
今回は、うぬぼれてもいいよな。
っていうか…うぬぼれとかじゃなくって、ホントに、気にしてくれたよな…?

「あり…がと…」
ありがとうなんて、なんか妙に恥ずかしい。
「ん…」
啓吾は、少し、やさしく笑って俺を見る。
「………」
なんか、こんな啓吾、初めて見るんだけど…。
ちょっと、かわいい感じの顔。

俺がありがとうって言ったの、そんなにうれしいって思ってくれてるのかな…。

「っ…」
俺に見られてるのに気づいてか、また、いつもの啓吾にスっと切り替わるような感じ。
「じゃぁな…」
素で笑っちゃったのが恥ずかしかったのか、少しそっけなくそう言って、俺の目を隠すように、顔にタッチした。
「っんぅっ」

啓吾の手が離れかけて、引き戻される前に、俺がパシっと掴み取る。
…って、掴み取って、どうするんだろ。
ちょっとした条件反射…?

俺は、どうにもならずに、そっと手を離した。

そっと、啓吾がかがむようにして。
もしかして、キスしようとかしてる…?
そういえば俺って、よく逃げてたよな…。
上を向く俺に、啓吾はそっと口を重ねた。
「…ん…」
軽く重ねて、すぐ離されて。
それだけのキス。

そっけねぇよ…。
もっとネチっこくすりゃいいのに。
物足りないくらいだ。
だけど、キスしてくれたのはもちろん嬉しかった。

啓吾は、少し、困ったような、苦しいような歪んだ表情を見せていた。
なにそれ。
なんの表情なのか、わからなくって、こっちまで不安になってくるじゃんか。

啓吾は、俺の頭に手をおいて、指で髪の毛を絡めとって。
俺は、いつもならどかしてただろうけど、今は、なんか素直でいたいし、それ以前に、意味わかんなくって、黙ってた。
「…深敦…」
そう呼ばれ顔を上げると、やっぱり、よくわかんねぇ表情で。
言いとどまってるって感じ。
だけど、啓吾って『言えよ』って催促すると、余計に言わなくなりそうだよな。
俺と、そういう変なとこだけ似てる気がすんだよ。
だから、俺は、黙って啓吾を見たまま、言葉を待った。
「…好き…なんだよ…」
「…っ…」
いくらなんでも、そりゃないだろうってくらい唐突に、んなこと言われて、体が一瞬固まった。

俺に、どう答えろってんだ? こいつは。
なに、いきなり言ってんだよ。しかも、苦しそうに。
春耶の変なのが移ったんじゃねぇのかっ?
馬鹿馬鹿、変なとこだけ、春耶から伝授されやがって。
こっちの身にもなってみろってんだ。
恥ずかしいったらありゃしないっつーか、対応に困る。

あぁあ。晃だったら、どうするんだろ。
うん、僕も…なぁんて、言っちゃうわけ?
んなもん、言えるかーっってもう、ちゃぶ台心の中でひっくり返すよ?
そしたら、ソースが入ったビンとかが、畳にこぼれて大変なんだよ、きっと。
だいたい、ちゃぶ台ってひっくりかえるのか。
なんて軽いちゃぶ台なんだ。
だから畳も傷つけないって?

ってかもうそんなのどうでもいいじゃん。
ちゃぶ台とか、畳とかソースとか。

俺、思った以上に混乱してるのか?
だって、啓吾がいきなり、そんなこと言うからいけねぇんだよ。
やってる最中とかに言えばいいのにっ。
こんな素の状態で、しかもなんか、自分の精神弱ってるってときに、一気に突き刺さりますっての。

「じゃぁな」
「え…」
啓吾が、何事もなかったみたいにポンっと軽く俺を叩いて、ドアへと向かおうとする。
そりゃ、さっきから行こうとしてたから、不思議じゃねぇけど。
俺、考えすぎてて、全然、啓吾のこと、見てなかったな…。
けっこう、時間かかってたかも…。
すっげぇ、ドキドキしてた…。今もちょっと持続中だけど。

振り返る啓吾に、もう一度、冷やし中華を見せて、
「さんきゅー」
って、あんまりありがたがってないみたいに言うくらいしか、俺には出来なかった。
けど、啓吾はまた、軽く笑ってくれていた。
「あぁ、冷蔵庫のマヨネーズ、使っていいから」
去り際に、そういい残して、啓吾は、部屋を出て行った。
マヨネーズ…。俺、かけないんだけど…。


にしても。
なんか、よくわかんねぇけど、あらためて啓吾っていいやつなんだなとか思ったり。

俺のこと、『わかってやれねぇ』とか言ってたけど。
結構、わかってくれてると思う。
少なくとも、わかろうとしてくれてる…なんて。
そんな風にうぬぼれてもいいのかな。
俺も。
好きなんだよ…。