『啓吾×深敦』
他校カウンター28282番v
ホワイトデーネタ。一応読みきりですが、本編&バレンタインを読んでから推奨です。




「深敦くん、深敦くん! 明日なんの日だ!」
 明日?
 明日って、14日だろ。
 3月14日っていうと……。
「ああ、ホワイトデーか」
 忘れてた。
「楽しみだなー。御神先輩、なにかお返しくれるかなー」
 だから珠葵はやたら上機嫌なわけね。
 あんまり期待すると貰えなかったときのショックも大きくなるぞ。

 あ、俺くれた人たちになにか返すべきなのか?
 まったく考えてなかった。
 1ヶ月早いな。

 珠葵は俺にもくれたけど、やっぱ少しは期待されてんだろうか。
 でも、俺ってお菓子とか配るキャラじゃないし。
 まあ、パイ配ったことはあるけど。

「深敦くん、なにか悩んでる? ああ、俺へのお返しは気にしなくていいよ」
「え、でもさあ」
「あれは、ついでにあげたんだし。全然かまわないから」
 さすが珠葵さん。
 俺に気を使ってかそう言ってくれる。
 実際、あげるあげないは別として、少しだけ肩の荷がおりた。

 他にくれた先輩たちも、たぶんそれほど気にしてないだろう。
 みんなついでだ。
 ホワイトデーなんて、バレンタインからしてみれば少し影薄いし。
 絶対、返すのが礼儀ってわけでもないだろう。
 ただ、問題はある。
 啓吾だ。
 3月14日に返せって、言ってた気するぞ。
 それも、ちょっとした冗談なのかもしれないけどさ。
 でも、他の先輩たちと違って、たぶん本命チョコだったわけだし。
「あれ。そういえば珠葵って、御神先輩から貰ったって言ってなかったっけ」
「うん、貰ったよ。でも俺もあげた」
「そういう場合、珠葵は先輩に返すの?」
「うーん。小さい物を少し、かな」
「小さい物?」
「バレンタインのとき、俺の方がおっきいものあげたから。今回も俺の方がおっきかったら、なんか気、使わせそうじゃん」
 そもそも先輩は、珠葵にあげるんだろうか……って疑問はおいといて。
 結構考えてんだな。

 そうこうしてるうちにも、担任の渡部先生がやってくる。
 なんとなく中途半端だけど、俺たちの会話はそこで終わった。

 義理とはいえ、くれた相手にホワイトデーのことを相談するのもちょっと違う気がするし、ちょうどよかったか。
 だったら誰に相談するかって、それもまた微妙なんだけど。
 たまには自分で考えよう。
 そもそもホワイトデーって、なにあげるのが一般的なんだっけ。
 クッキー?
 マシュマロ?
 あ、マシュマロはあっためるとうまいんだよな、確か。
 あと、あげる物によって意味が違うとかあったような。
 まあ、啓吾ならなにあげたって深い意味は考えないか。
 つーか、あげれんの? 俺。
 普通に、飲みかけのジュースあげたり唐揚げあげたりすんのは平気なんだけど。
 ひとまず、今日は、学校すんだら買い出しだ。
 ……1人でか。
 その前に、情報収集だな。



「渡部先生って、ホワイトデー誰かにあげるんですか」
 ホームルームが終わるなり出ていこうとする渡部先生へ、すかさず声をかける。
 バレンタインあげるんですか、より数倍聞きやすい。
 それに答えやすいんじゃないかな。
 辺りはざわついてて、言わば自由時間みたいなもんだ。
 少しくらい話していても大丈夫そうな雰囲気。
「まあ、あげる予定だけど」
「なにを?」
「なんでまた」
「ちょっとした調査」
「社会人と学生じゃ違うだろ」
 つまり、金のかかるもんあげるつもりか。
「食べ物じゃないんですか」
「どうせだし、そんとき欲しがってる物あげるよ。じゃあ、もう行くから」

 これ以上追求されたくないのか、一時間目の授業の教室が遠いのか、出て行ってしまう。
 それでも教えてくれた。
 ……そんとき欲しがってる物……か。
 啓吾って、なにが欲しいんだろうな。
 あんま物欲しがるイメージは無い。
 性欲はあるみたいだけど。
 俺の体が欲しい……なんつって。
 俺はバカか。


 今日は数学の授業がある。
 智巳先生は俺のことを少し知ってくれちゃっている。
 俺も少しだけ知っているし。

「高岡深敦はなにか俺に聞きたそうだな」
 あいかわらず少しだけ授業より早く来て、俺を見つけるなりあっさりと見破ってくれた。
「なんでわかるんですか」
「お前が、俺のことすごい見てくるから」
「そうなんですけど」
「なに」
「ホワイトデーって、なにかします?」
「します」
「えっと……なにかあげたり?」
「そうだな」
「なにあげるんですか」
「体」
「え……」
「体」
 え、体あげるの? この人。
「……先生、やられることもあるんですか」
「望まれれば構わないけど?」
「……望まれるんですか?」
「望まれないね」
「じゃあ、なにあげるんですか」
「はっきり言おうか? 精液って」
「あ、すいません」
 この人、ホワイトデーに精液あげて済まそうとしてんの?
「なにか言いたいことある?」
「いえ……」
「ホワイトデーだし。ホワイト祭りな」
「若干、引きましたけど」
「お子さまだな」

 渡部先生はちゃんと好きな物あげようってしてるのに、すごい差だな。
 ……まあ、渡部先生のあげる物だってなんなのかわからないけど。

 なんて参考にならない人たちなんだ。
 大人に聞いたのが間違いか。
 けど、生徒にあんまり相談したくないし。
 なんか、ホワイトデーで迷ってるとか、女々しいし。
 あれ、ホワイトデーってのは貰った側……つまり、男の行事なわけで。
 迷うのは女々しい行為ってわけでもないのか?
 もうあっさり啓吾に聞いちゃってもいいけどさー。



「深敦くん、今日の放課後って、暇?」
 晃だ。
 そうか、晃ももしかして水城に……?
「なんか、買い物?」
「うん。僕、ホワイトデーが明日だって忘れてて。バレンタインのとき、水城くん、くれたから」
 確か、晃も春耶にあげてたよな。
 お互い、またあげあうってことか。
「いいよ。付き合う」
「ありがとう。深敦くんは、貰う側?」
「……いや、俺バレンタインのとき、啓吾にあげてねーし」
「そっか」
 啓吾って、自分が俺にあげたこと誰にも言ってないのか。
 意外とたぶん恥ずかしがりやだからな、あいつ。
 ……俺がそういうの言いふらされたくないってわかってるからかもしんないけど。

「うーん。実は貰ってるから、返そうかとは思ってんだけど」
「そうだったの?」
「一応、秘密な」
「うん。わかった」



 晃と一緒に、近くのショッピングセンターへと向かった。
 なんとなく晃に釣られて、俺もクッキーなんか買っちゃってさ。
 でもそれとは別で、おいしそうな輸入菓子も買った。
 完全にカモフラージュみたいになってるけど。

「明日、楽しみだね」
 そう晃は言うけど、全然楽しみじゃない。
 そりゃ、晃がクッキー用意して渡したら春耶は喜ぶだろうよ。
 ……啓吾だってまあ喜んでくれるかもしれないけど。
 渡せんのか、これ。
 むしろなんでもない日だったら、渡せた。
 うまそうなクッキーあったからついでに買ってきてやってぜって。
 ホワイトデーなんか意識されたら、渡しにくいし。

 ……そっか。
 違う日に渡せばいいんじゃねーの?
 いや、意味がちょっと変わってくるからよろしくないけど。
 今日なら……なんとなく日付ごまかして、12時過ぎちゃえば。

「いいこと思いついた!」
「え、どうしたの、深敦くん」
「ああ、うん。ちょっといいこと思いついてさー」
「なに?」
「啓吾の部屋の時計を1時間くらいずらす」
「……どうして?」
「……いろいろとあるんだよ。秘密な」
「うん……」

 啓吾的には11時だと思ったらホントは12時過ぎてて14日でした作戦だ。
 たぶん、いける。
 なんとかなる。
 万が一失敗したら、とりあえず退散して、14日中にまた新たな作を練ろう。



 時刻は夜9時。
 わりといい時間だな。
 大きめのカバンに、今日買った菓子と、借りっぱなしだったゲームを詰め込む。
 こういうときのためのゲームだ。
 また、なにか借りて来ないとな。
「悠貴先輩、俺、今日戻らないかも」
「ああ、彼氏んとこにでも泊り込み?」
「……そういうわけじゃ」
 なくもないけど。
「ふふ……まあ、悠貴と気兼ねなくH出来るからありがたいよ」
 真綾先輩は俺がいてもわりと気兼ねなくHしますよね?

 さておき、啓吾の部屋へ。
 啓吾にはなにも伝えてない。
 あ、もしかして春耶とかいたらどうすんだ、俺。
 ……いや、春耶ならたぶん晃といる。
 ホワイトデーになったと同時に、恋人タイム開始したいとか考えるやつだ、あいつは。
 だから、たぶん今日から明日にかけて、春耶は晃といちゃつくに決まってる。
 ……あーあ、考えただけでも恥ずかしい2人だな。
 いや、晃はいいんだよ。
 恥ずかしいのは春耶だ。

「啓吾? 借りてたゲーム持ってきたんだけど」
 鍵のかかっていない中に入りこむと、啓吾と、ルームメイトの凪先輩。
 ……と、凍也先輩。
 結構いるし。
 なんで、この人たち、ホワイトデー前夜に普通にいるんだよ。
 いや、いるか。
 前夜なんてまったく関係ないか。
「深敦、不満そうな顔してっぞ」
「してませんよっ」
 やばい、凍也先輩に見破られた。
「そろそろ俺は帰ろうと思ってたから。気にすんなよ」
「……帰るんですか?」
「帰って欲しいだろ?」
「そんなことないですけど」
 帰って欲しいです。
「俺も、ちょうど出かけるとこだったからさー」
 凪先輩まで。
 ……なんか、たぶん気を使ってくれてるような。
 妙に恥ずかしい。
「別に、いてもいいですけどっ」
「いや、本当に出かけるつもりだったんだよ」
 ホントかなぁ。
 まあいいけど。
 ってか、ありがたいけど。

 2人が出てってくれると、なんとなく妙に気まずい。
 はじめっから啓吾だけだったらたぶん、平気だったのに。
「あのさ、借りてたゲームの7面、進めねーんだけど。啓吾出来る?」
「出来るよ。出来てなきゃ貸してねーよ」
「あっそ」
 そう言いつつも、啓吾のゲーム機にソフトを入れる。
 よし。
 あとは、啓吾の見てないうちに時計を……。
 どっか行ってくんねーかな。
 一時的に……。
「……あのさ。俺、7面まで進めとくから」
「データ保存してねーのかよ」
「別に7面までならすぐ進めれるし。だから啓吾、風呂とか入れば?」
「…………なんで」
「なんでって、そろそろそういう時間だろ。もう入ったとか」
「まだ入ってねーけど」
「じゃあちょうどいいじゃん」
「っつーか、なんで深敦が遊びに来たタイミングで風呂入るんだよ。おかしーだろ」
 おかしくない。
 おかしーかもしんねーけど、おかしくないから入れ。
「別に、俺ももう入ってきたし。啓吾も入れば、あとはゆっくり出来るだろ」
「まあいいけど」
 


 啓吾は結構、折れてくれる。
 納得したのかしてないのか、どうでもいいのかわかんねーけど、風呂場へと向かってくれた。
 この隙に、部屋にあった時計を1時間前にずらしておく。
 これで、この時計が23時のとき、本当は24時で、ホワイトデーなわけだ。
 だから、23時過ぎになんでもないみたいに菓子を食えば、俺のミッションは成功する。

 いいぞいいぞ。
 とりあえず、ゲームを進める。
 7面まで進めておこう。
 クリア出来ないのは本当だからな。

 少しテンションあがってきたのが自分でもわかる。
 なんとなく、思惑通りにことが進むと、気分ってよくなるもんだな。
 3面まで進めたあたりで、ドアの開く音がした。