「もっと、いやらしい玲衣くんが見たいんだよね」
 にっこり笑うと、美和がごそごそとポケットからなにかを取り出す。
 俺の右手を壁に押さえつけたまま。
 なにそれ。
「玲衣くんにね。あげようと思って」
 そう言うと、嫌な機械音が響いた。
 ほら、携帯のバイブみたいなさ。
 ローターだ。
 現物は初めて見た。
「な……に」
 いや、わかるけどっ。
 美和は指先でそれを掴み、出しっぱなしだった俺のモノへと押し付ける。
「んぅっ!!」
 体が跳ね上がった。
 美和にはあいかわらず顔を覗き込まれるし。
 震えたそれが、裏筋をゆっくり撫で上げる。
「ぁあっ…んっ! んぅっ」
「玲衣くん、そろそろ俺との普通なHに飽きてないかなって思って」
 飽きてねぇよ。
 って、わざわざ言いたくねぇけど。
 なんにしろコレ、気持ちいいかも。
「はぁっ……んっ…ンぅっ」
「すごいねぇ。腰浮いてるし」
 うるさい。
「んぅっ! んっ」
 駄目だ、頭ボーっとしてきた。
 それなのに、美和の手がそっと離れていく。
「……美和?」
「気持ちよかった?」
 まだ頭がしっかりしない。
 軽く頷くと、ズボンと下着をずり下ろす。
「待っっ……」
「ボーっとしちゃってるね。抵抗する気、失せた?」
 ああ。
 計算済みなのね。
 これって思うツボってやつか。
「お前さぁ。なんか常識とかっ」
 ズボンと下着は中途半端に膝下に絡まったまま。
 美和は片手で、俺の足首を掴むと高い位置まで持ち上げてしまう。
 片足しか掴まれてないけど、ズボンのせいで両足セット。
 空いた手で俺の腰も引かれる。
 頭、壁にぶつけたし。
 これ、すごい丸見えじゃんかよ。
 なんていうか……そうだ。
 赤ちゃんがオムツかえてもらうときってこんな感じじゃ……。
 あぁああ、駄目だ。
 そういう変なものに例えるのはやめよう。
「美和っ。離せって」
 せめてもう片方の足で蹴ってやろうかと思うのに、ズボンのせいで……っ。
 だからって、片足抜いたら、大股開きにさせられそうだし。
 どうすりゃいんだよ。
「こんな位置だし、すぐには目に付かないよ」
 まあね。
 俺の顔は廊下からすぐには見えないかもしれないけどっ。
 でも、見えちゃいけないとこ見えるだろ。
「さっきので、後ろも撫でてあげる」
 美和の手元が見えなくて、不安になる。
「美和っ? 待てってっ。それっ」
 俺の言葉を無視して、震えたローターが入り口に触れた。
「んぅっ!!」
 触れるか触れないかくらいの距離でそっと撫でられ、体がゾクゾクと震え上がる。
「はぁっ……」
 気持ちいい。
 なんなんだよ、これ。
「美和……っ……も、部屋で……っ」
「落ち着いてしたいって?」
 っつーか、欲しがりそうな自分がいる。
 けど、ここじゃ駄目だって思ってるし。
 だからとっとと部屋移動して、好きなようにHしたい。
 声も、出したい。

「……ここで、ローターだけ入れよう?」
「え……」
 一旦、ローターが離される。
「入れ……んの?」
「なんで? 入れないと思ってたの?」
 だって、入れる必要性ないっていうか。
 美和、自分の突っ込むだろ? だったらそれでいいじゃん。
 ローターは、トッピング的な扱いでさ。
 乳首弄ったりすればいいじゃん。
 入れるの?
「舐めてあげたから。入れるよ」
「いや、だからちょっと待っ」
「入れたら待ってあげるから」
「だから、入れるのを待てってっ」
 足を掴んでいる美和の手を思いっきり叩いてみる。
 けれど、離してくれないどころか、足首を強く掴み返された。
 また、震えたままのローターが入り口を這い、体が震え上がる。
 気持ちいいには気持ちいいんだよ。
 すっげぇ、まだ入り口だけなのにゾクゾクする。
 そりゃ、美和の指で撫でられたときだって結構感じたけど。
「んぅっ……」
「教えてあげようか。すごいヒクついて欲しそうにしてる」
「ばか……んぅっ」
「ゆっくり……ね」
 そう言うと、少しだけ先端が入り込む。
「んっ……んーっ!!」
「すごいねぇ。少し押しただけで飲み込みそう。ほら」
 ほらとか言われても全然わかんねぇってば。
 それでも、割と抵抗なく入り込んでくる。
「半分入ったかな。ねぇ、そっとさ、締め付けてみて。見てみたいんだよね。玲衣くんが自分から飲み込むところ」
 そんなこと言われたら絶対やりたくねぇ。
 けれど、震えたローターが入り口を拡げて刺激してくるもんだから、我慢出来なくなる。
 美和が、押し込むのに合わせて、そこを締め付けてしまっていた。
「ぁあっ…んぅっ!!」
 ずるりと楕円形のそれが中に入り込む。
 俺ん中、まるっと全部入ってるんだ。
 そんなに大きい物ではないけれど。
 前立腺を少し避けるような位置で、緩やかに震えてくれる。
「ぁっ…あっ……」
「すごいねぇ。玲衣くん、上手に飲み込めたね」
 なんだよそれ。
 むかつく。
「ふざけっ……んぅっ!」
「コードだけ、中から出てていやらしいよ」
「ふぅっ! んっ……やっ」
「記念に、写真撮ろうか」
「ゃめっ……」
 俺の言葉が伝わるはずもなく、パシャっという携帯のシャッター音が響く。
 最悪だ。
「やだってっ……んっ! 美和っ」
 美和がやっと足を下ろしてくれるが、体勢を変えたせいで、少し中に入り込んだ気がした。
「ひぁあっっ…ゃあっんっ!」
「じゃあ、約束だったし。待ってあげるから。ズボンはいていいよ。一緒に部屋行こう?」
 立ち上がり、俺に笑顔を向ける。
 涙で視界がぼやけた。
「やっ……んぅっ! やっだっ!」
 体がビクついて、どうすればいいのかわからず、床に爪を立てる。
「やぁっ…あっ…ンっ! んぅっ」
「ね。早くはいて。はきたくないの?」
 はいたら、これ抜けねーじゃん。
 けど、このままここでってわけにもいかねーし。
 そうだ、あいつが電源切ってくれたら。
 そう思うのに、伝える余裕がない。
「人、来ちゃうかもしれないからさ。とりあえず、ね?」
 見られるのは困る。
 はかなきゃ。
 手に力が入らなかった。
 なんとか、ズボンと下着を定位置まであげチャックをしめる。
 あ、スイッチ?
 コードに繋がったそれを手に取るが、当たり前のようにしゃがみこんだ美和に奪われた。
「これは、ポケットに入れておこう?」
「やっ……」
「それに、遠隔操作だから、そっちは本体じゃないよ」
 こっちじゃ、切れないってこと?
 頭が上手く働かない。
 長めのコードに繋がれたそれを、俺のポケットに勝手に押し込める。
 俺は、壁にもたれ、膝を曲げたまま、ビクビクと震える体を抑えられないでいた。
「んぅっ! ぁあっ」
「もうズボンはけたから、見られても平気だね」
 ズボンの上から、まるで確認するように足の付け根を撫で回す。
 コードを辿って、入り口付近をぐっと押さえこんだ。
「ぁあっ!」
「ココに、ちゃぁんと入ってるんだよね」
「やっぁっあっ」
 イきそう。
 涙が溢れる。
「ね、聞いてる? 入ってる?」
 抵抗する余裕も無く、そっと頷いた。
「っんぅっ!…やぁっ!」
「行こう? 立って」
 俺の右手を取って、美和が立ち上がるが、もちろんそんな状態ではなかった。
 掴まれた右手を掴み返すようにして美和の手に爪を立てる。
「あっ……ゃっあっ」
「教室でいやらしいことしたくないって言ったのは玲衣くんの方でしょう? それなのに、イっちゃいそう?」
 恥ずかしいと思う気持ちは、たぶん誰かに見られるだとかそれだけじゃない。
 美和にだって、こんな姿を見られるのはやっぱり恥ずかしい。
 こんな、1人でローターで感じてるとか。
「ゃあっあっ……んぅんんんっ!!!」  

 ズボンも下着もはいたまま達してしまう。
「立てないの? しょうがないね」
 俺がイったのに、気付いてるはずなのに。
 美和は俺の体を抱き上げる。
 抱っこするみたいにして。
 駄目だこれ。
 ただの駅弁スタイルじゃんかよ。
「ちゃんと、部屋まで連れてってあげるから。ね」
 このまま?
「んっやっ……だっ」
 抱っこされて、尻を撫でられる。
 あいかわらずローターは動いたままで、俺はその刺激に耐えるよう美和にしがみついた。
「だっめ…ぁっ美和っ」
「耳元で、そんな声出してくれるなんて、かわいいね」
「ばっかぁっあっ……」
「行こうか」
「無理っ…っぁっやだっ」
「どうして? 服もちゃんと着てるし。抱っこされて運ばれるくらい大してみんな気にしないよ」
 確かにそうかもしれないけど。
「ああ。玲衣くんのコート長いし、俺の入れたまま移動しようか?」
 これは脅しだ。
 そんなの無理に決まってる。
 決まってるんだけど、可能で、こいつならやりかねない。
「っやっだっ……」
「だったら、おとなしくこのまま……ね」
 一旦、俺を机の上に下ろして、コートを着せてくれる。
 体の自由が利かない俺を、美和は再度抱きかかえた。
 俺は、美和の肩に顔を埋めるようにしてしがみつく。
「くっんっ! …ひぁ……っ」
 美和の歩く振動で、ローターの位置がずれていく気がして、何度も体がびくついた。
 そうでなくとも、緩やかに動き続けるローターの刺激はおさまってくれない。

 周りの様子なんて伺ってられなかった。
 下手に顔をあげて、目を付けられても困る。

「玲衣くんのルームメイト、いるかな」
 いつもは用意周到に、ルームメイトに対しても根回しをする美和のこと。
 美和の差し金でいないのならば、わかっているはずだ。
 俺を困らせたいのかもしれないし、美和の考えは本当によくわからない。
 けれど、ルームメイトがいたら困るのは事実だ。

「ゃうっあっ……やあっ」
「なぁに? 気持ちいい?」
 軽くジャンプして抱きなおされる。
 俺の尻を何度も撫でていく。
 寮の廊下なのに、耳に舌を這わされる。
「ゃあっ…んっ!」
 誰かが急に部屋から出てくるかもしれないのに。
 見えない階段のところに人がいるかもしれないのに。
 なるべく小さな声で。
 そう思うのに、難しい。
「っ…んーっ……」
「……誰も見てないから、キスしよう?」
 バカじゃねぇの? こいつ。
 けれど、美和は壁際に寄ると俺を片腕で抱きしめて、もう片方の手で俺の頭を掴む。
 いやでも美和と向かい合わせだ。
「すごい、たくさん泣いちゃってたんだね。かわいい。しよう?」
「やっ……」
「して。このまま下ろそうか」
 下ろして、置いてかれる?
 そしたら、震えるローターを入れたまま、どうにか自分で部屋に行くことになるのか?
 行けても先輩がいたら?
 それとも、先に抜く?
 抜くにしてもこの場で?
 わからなくて、美和に口を重ねた。
「んっんぅっ! んーっ」
 舌が絡まる。
 頭の中にくちゅくちゅといやらしい音が響いた。
 美和はまた、両方の腕で俺を抱きしめながら、尻を撫で回す。
「んぅっ! ンっ…んぅっ」
 そっと口を離すが、美和に顔を近づけられもう一度。
 美和の舌先が、俺の舌の上をなぞってくれる。
 差し出すと吸い上げてくれて、それがまた気持ちよくてたまらなかった。
「んーっ! んぅっ」
 散々舌を絡め合った後、落ちないようしっかりしがみつく。
「……いやらしいね。玲衣くん。本当にたまんない」
 耳元でそう言った直後、首に舌が這いそのまま吸い付かれる。
「やぁあっ……」
 また、美和の腕が一つ離れた気がした。
 が、すぐさま両腕で抱きなおしてくれる。
 抱かれて、俺はしがみついて。
 廊下なのに。
「美和っあっ……早くっんっ…部屋」
「うん。俺の部屋、空いてるから」
 ほら、やっぱり。
 根回ししてるくせに。
 早く、美和の部屋まで。
 そう思うのに、中の振動が少し強まる感触。
「ぁっ! んぅんっ!」
「……わかる?」
 そうか。
 さっき、スイッチ取り出してたのか。
 なんて理解してる場合じゃない。
 じわじわとゆるやかな刺激ばかりで若干、麻痺しかけていたのに。
 強まっていく刺激に、射精感が高まってくる。
「ぁっあっんっ…やっ」
「中に入ってちゃ音もよく聞こえないし。教えてくれないとよくわからないなぁ」
 楽しそうにそう言うと、振動がまた大きくなる。
「ゃああっ……駄目っあっ」
「なに? 教えて?」
「ぁんっ! っ…中ぁっ……」
「なんにもなの? おかしいね。壊れてるかな」
「違っ……ぅんっ! 強くなっ……あっ」
「んー? 強くない?」
 強くなってきてる。
 それだけの言葉が繋がらない。
「ゃあっ……強ぃっあっっ…だめっあっ……んっぃくっ」
「声、抑えて。誰か出てきちゃうかも」
「やぁっあっんっ! ……ゃあっ…あっ」
 無理だと首を振るが、意味を成さない。
 必死で、美和へと顔を埋めた。
「んぅっ! ゃあっ、んっ! んぅんんんんっ!!!」

 大きく体をビクつかせ、イってしまうが美和はローターを止めてくれなかった。
 しがみついたまま、体が何度もビクつく。
「じゃあ、部屋行こう?」
 そう言ったかと思うと、方向転換し、すぐさま後ろのドアが開く。
 そんなに近かったのかよ。
 最低だ。
 コイツ、廊下でわざとっ。
 誰か出てきたらすぐさま、隠れる気満々だったのかもしれない。
 だから1人で余裕ぶりやがって。
 でも、こいつのことだから、出てきてもローターの振動止めるくらいで抱っこしたままかもしれない。
 もしくはすぐさま下ろされるとか。
 ……その方が、自然か。
 でも、現状維持って可能性も無くはないし。

 なんにしろ、最低だ。
「せっかくのバレンタインなんだし。部屋でもっと愉しもう?」
 これ以上なにすんだよ、こいつ。
 けど、うっかりバカって言っちまったし、絶対何か企んでそう。
 そう思うのに、やっぱり、むかつくよりも怖いよりも、期待が勝ってしまっていた。