「玲衣はバレンタイン、美和にあげたりすんの?」
 時期が時期だからか、唐突に誠樹が俺に問う。
「なんで?」
「だって、お前ら付き合ってんだろ」
 なぜか付き合ってはいるけどさ。
「でも、それはないだろ。……え、もしかしてあげたりした方がいいわけ?」
「どうだろう」
「どうだろうって。誠樹はどうなんだよ」
「俺は、明確に付き合ってるってわけでもないし」
 いや、完全にお前は百合音と付き合ってるだろ。
「誠樹って、百合音とは恋人同士じゃないって言いたいんだ?」
「っつーか、いつのまにかそれっぽい関係になってたからさ。なんにしろ、いきなり今年からなにかあげるとかそういうのは無いかなって」
 ずるいよなー、そういうの。
「つまりさ、一応恋人っぽい関係ではあるけど、毎年あげてないってことだよな。じゃあ俺も……」
「まあ、俺は百合音の方がくれるからね」
 ですよねぇ。
 百合音は誠樹にあまあまだもんな。
 あげなかったところでなんも影響ないだろう。
「俺も、美和から貰う側になるからいいや」
「そういう感じなの?」
「わかんねーけど。とりあえず、用意しないってこと」



 そんな話をしたのは数日前のこと。
「玲衣くん、そろそろ起きない?」
 耳元で響く声。
「……ああ、美和か」
 確か、帰りのSTが始まる前くらいから眠くて眠くて。
 誠樹のやつ、起こしてくれなかったな。
 辺りを見渡すと、教室にはもう俺と美和以外の誰もいない。
 どうしてこう誰もいなくなるまで起こしてくれないかなぁ。
 わざとなんだろうけど。
 でも、それ聞いたら『声かけたけど、起きなかったのは玲衣くんの方だよ』なんて言うに決まってる。

「玲衣くん、今日、バレンタインだよね」
 あー、やっぱりそういうの気にしちゃう?
「そうだなー。お前、くれるの?」
 先手必勝っつーかなんつーか。
 ようは俺が貰う側になればいいじゃん?
 美和がくれたらホワイトデーに返すつもりだったんだーなんつってさ。
 普段、俺らって美和が男役で、俺が女役みたいになっちまってるから、普通に考えたら、美和は待つよな。
 用意してないだろ。
 だからさ。
 バレンタインとかホワイトデーとか、そういうの男同士では別にいいんだって。
 いくら、欲しかった、なんて言われても俺は罪悪感なんて覚えないよ。
「うん、あげるよ」
 バレンタインより誕生日とかの方が重いよなー。
「玲衣くん、甘いの平気だよね」
 誕生日って、そういえば聞いてなかったような。
 ……じゃなくって。
 え。
 こいつ、なんて言った?
 あげるよって?
 甘いの平気かって。
 平気っつーか好きだよ。
 え、まじでくれんの?
「……美和、くれるの?」
「うん。その前にどうせだから、やらせてくれる?」
「……え、なに、どうせだからって。全然意味わかんねーし」
「2人きりで教室っつったら、やるしかないでしょう?」
「そうでもねーよっ」
「でも、俺ら的には自然な流れでしょ」
 だから、不自然ですってば。
 なに、こいつと教室で2人なたびにやってたらキリねーし。
 まあ確かに、何度か教室でやっちゃったことはあるけどさ。
「ここで脱ぐのはもう今の時期寒いだろ」
「ね、玲衣くんはなにか用意してくれた?」
 なに。
 用意してねーよ。
 でも罪悪感とかねーからっ。
「俺は……ホワイトデーにでも……」
「じゃあそれ、前倒しで」
「っつーか、まだお前から貰ってねーし」
「まあ、結局のところ、ただやりたいんだけどね」
 でしょうね。
 素直に腹のうち見せてくれてありがたいですよ。
 座ったままの俺の顔をがっつり掴んで見上げさせられる。
「ね? キスさせて」
「……えー……」
 なんかなー。
 こいつの思い通りにさせんのっていまいち腑に落ちない。
「じゃあ、舐めさせて?」
 え?
 意味を理解しようとしている隙にも、美和が顔を近づけ俺の唇をペロリと舐める。
 なに。
 ばかだろ、こいつ。
「待て待て。これってキスじゃね?」
「唇舐めてるだけだけど」
「俺は、いいって言ってないよな」
「駄目とも言ってないね」
 あー、むかつく。
「ね、もっと舐めさせて」
 意味わかんねぇよ。
 また唇を舐めて、ゆっくり舌を挿入させる。
 だからもう、これはキスでしょう?
 深く口を重ねられ、舌が絡まった。
 一応、舌を舐めてるってことなのかもしれないけど。
 机の横から、顔を取られて変に体ひねらされるし。
 上向いてんのつらいし。
 けれど、舌先が絡まって、なんかやらしー音が響いて。
 唾液を送り込まれると、変な気分になる。
 そっと、美和の指先が俺の喉を撫でた。
 なんとなく、反射的にゴクリと唾を飲み込んでしまう。
「んっ…」
「……玲衣くん、俺の唾液、飲み込んじゃったね」
「ばっ……」
 バカだ、こいつ。
 そう思うのに、妙に恥ずかしい。
「いやらしい顔してるし」
「してねーって」
 椅子の向きがっつりかえられるし。。
 思いっきり机どかされるし。
「しよう?」
「……だから、ここじゃちょっと」
 正面にしゃがみこんだ美和が、じっと俺を見上げる。
「お前さ、常識的に考えて教室でってのは……」
 そうだ。
 いくら付き合ってるとはいえ、拒むもんは拒まねぇと。
 立ち上がって逃げよう。
 それしかない。
 そう思ったときだ。
「逃げようとか考えてる?」
 見透かされてて体が固まる。
「っ……そんなことねーよ」
 いや、俺むしろもうそこは肯定してもよかったんじゃねーの?
 これじゃ、逃げにくいだろ。
 ズボンの上から、やんわりと股間を撫でられ体がビクついた。
「ん……美和? ……部屋でなら……いいから」
「ここでしたいな」
「前に、渡り廊下でして、見られてただろ……っ?」
 それで、気に入られて告られたりしてさ。
 まあ、告られたのはいいんだけど、見られてたってのが問題なわけで。
「ね……。また誰かに見られちゃうかな」
「だからっ……」
 やだって。
 って、言ったところでこいつはやめるんだろうか。
 何度も、布越しに擦られて体が熱くなってくる。
「……ん……っぅんっ……」
「そういえば、前に教室でしたときは、玲衣くん、ほとんどなにもしてないのにイっちゃってたよね」
「なっぁっ……」
「覚えてる? 一ヶ月くらい間空けたら、ホント、やりたいって顔しちゃってて。かわいかったなぁ。犯して中だししようかって言ったら、想像して興奮しちゃったんでしょ」
 覚えてる。
 入り口付近を撫でられて、言葉で煽られただけなのにイっちゃったこと。
「も、それ、いいからっ」
「さっきからじれったくてたまんないって顔してる。本当はやりたいんでしょ」
 っつーか、ここまで煽らされたやりたいけどっ。
 でも、ここじゃ駄目だってば。

「いやなら、もっと抵抗して?」
 そう言いながら、ズボンのチャックを下ろしていく。
「なっ……あ、部屋の方がっ……落ち着いて出来るしっ」
「落ち着いてやりたいの?」
 そうでもないけど、そう言うしかない。
「う……ん」
「すごいねぇ。そんなこと言いながら完全に勃たせて。舐めていい?」
 やめろよって。
 そう思うのに、美和が俺のを見て舌舐めずりするのがマジっぽくてゾクっとしてしまう。
「舐めさせて……」
 舌先が触れてしまう。
 逃げないと。
「んっ……」
 美和は手も触れずに、俺のを舌先だけで何度も舐め上げる。
 熱い。
 気持ちいい。
「はぁっ……ぁっっ」
 跪いて。
 妙な優越感。
 ピチャピチャといやらしい音を立てながら、美和が俺のを……。
「っ……だっめ……っ」
 ヤバイ、俺。
 早いって。
 せめてもうちょっと我慢しないと。
 だって、ほら。
 いまイったら美和にかかるし。
 美和に顔射とか。
 ……駄目だ、考えたら余計にっ。
 その前に、教室だし。
「ゃっあっ……っ……」
 美和の舌、やらしい。
 俺のに絡みついて。
「んぅっ!! あっ、んぅんんんっ!!」

 やば。
 美和にかかった?
 目を向けると、うまいこと口で受け止めてくれていた。
「立って」
「はぁ……? も……」
 俺を無視するように、強引に立たせ後ろから抱く。
「後ろからなら、あまり見えないよ」
 確かに、運動場の方を向いていれば廊下側からはそんなに見えないかもしれないけれど。
 でも、そもそも部屋ですればいいわけでさ。
 そう考えてるうちにも、後ろから手に取った俺のをゆるゆると擦り上げる。
 さっきの、舌先だけの刺激とはまた違う。
「はぁっ……っんぅっ……美和っ……駄目だってっ」
「運動場から見られるから?」
 顔を軽くあげると、下校中の生徒たちの姿や、サッカー部員の姿。
 俺たちの教室は2階。
 目に付きやすいかもしれない。
「っ……」
 無理矢理、美和の手からすり抜けるようにしてその場にしゃがみこむ。
「……残念だなぁ」
 美和はあいかわらず楽しそうにそう言うと、しゃがんだ俺をひっくり返すようにして、壁へと押さえつける。
 俺はしりもちをついて、美和を見上げた。
「っつーか、寒いし」
「本当?」
 まだ暖房を切られてそんなに時間は経っていない。
 それに、俺の体は熱い。
「……うん」
 嘘を付く俺の頭をそっと撫でられる。
「ばか、ガキ扱いすんなよ」
 美和の手を払いのけようとするが、その手首を取られ、後ろの壁へと押さえつけられた。