「霞夜ー。もうすぐバレンタインだぜ! 功にやるんだろ、チョコ」
「功くんって甘いもの好きなのかなぁ」
「意外とチョコプレイ的なのもイけんじゃね?」

 2月になって、真乃と白石はますますウザくなった。
「……なんで俺がやんだよ。やるわけねーし」
「またまたぁ。俺だって岬にやるよ?」
「んなこと関係ねぇよ」
「俺も、いろんな人にあげる!」
「俺はあげねぇ」
「霞夜、入れられる側だろ? もっと女の子みたいなことしたら?」
 にやにやと喧嘩を売って来る真乃に蹴りかかるが、すぐさまその足を手で止められてしまう。
 むかつくけれど、バレンタインのこと、まったく気にしてなかったわけじゃない。
 けれどもそれを相談出来るとすればたぶんこいつらしかいなくて。
 こいつらの答えが『あげればいい』ってことくらい予測は出来ていた。
 あげなくてもいいんじゃねぇのって、俺が言って欲しいことくらい気づいてるだろうに。

「もういい。行く」
「功くんのとこ?」
「……今日、土曜日だし」
「あー、功とセックスする日だっけ?」
「違ぇよ。ただ毎週末会ってるだけだっての」
「はいはい」

 図星だけれど、やる日だと決めているわけではない。
 なんとなく流れでそうなってしまうことが多い。
 ……というかほぼ毎回だった。
 今日だって、するに決まってる。

「……駕崎? いる?」
「いるよ」
 一旦自分の部屋に戻り、用を済ませた俺は駕崎の部屋へと入り込む。
 駕崎はあいかわらず机に向かって勉強をしていた。
「真面目すぎんだろ」
「マジでついてけないんだって。霞夜、教えてよ」
「あー……、まあいいけど」
 俺は駕崎が行き詰っていたらしい数学の問題を解いてやる。
「さすがだね、霞夜は」
「んなことねぇよ」
 駕崎はノートを閉じると直後、くるりと回転イスを回し、俺の腕を取った。
「じゃあ勉強も終わったし、する?」
「……いきなり過ぎんだろ。終わったもなにも、俺が解いただけだし」
「でも途中式書いてくれたから、理解出来そう」
 立ち上がった駕崎は少しだけ強引に俺を抱き寄せる。
 少し強引だけど、今日は土曜日だ。
 だから構わない。
 構わないっつーか、俺もすぐにでもその気になっていた。
「それで……着てくれてる?」
 耳元で囁かれると、それだけで俺の体はピクリと跳ね上がる。
「……ん……」
「じゃ、見せてくれるよね」
 俺は、壁際へと寄り背中を預けた。
「……電気は?」
「もちろん、つけたままで」

 やれと言われたわけじゃない。
 それでもして欲しいと言われたら、それに応えられないことが嫌で、自分からやると言ってしまった。
 ちなみに初めてじゃない。
 ゆっくりとベルトを外すがなかなかその先が進められない。
「……駕崎がやれよ」
「ん? 脱がせてほしいってこと?」
「そういう言い方してんじゃねぇよ」
「選んで。自分で脱ぐか脱がされるか」
 むかつくけれど、付き合い出してもうだいぶ経つ。
 恥ずかしい部分はだいぶ見られてきた。
 俺だって、だいぶ駕崎には言いたいことを伝えられるようになってきたけれど、駕崎はそれをいいことに少しずつエスカレートしてきている。
 惚れた弱みだなんて言葉が頭に浮かぶけれど、まさにそれだ。
「だから……駕崎が」
「……いいよ」
 全部言い切れない俺を駕崎は許してくれるとズボンのホックを外し、ゆっくりと溜めるようチャックを下ろしていく。
「ん……」
 駕崎は、そこをじっくり見るよう俺の前に座り込む。
 ズボンを下ろされると、履いていた女性ものの下着が露わになった。
 薄手で、透けてしまいそうな生地の物だ。
「……ホントにまた着てきたんだ」
「……っお前が言うから」
「うん、そうだね。さっき凍也たちと会ってたんだろ。そんときも履いてたの?」
「んなわけねぇだろ」
「じゃあ、そのあとわざわざ着替えてくれたんだ」
「……も、いいから。とっとと脱がせよ」
「脱がして欲しいなんて、積極的だね」
「うるせぇ」
「でも、もう少し堪能させて?」
 駕崎は下着の上から指先でそっとそこをなぞる。
「ん……んっ……なぁ、駕崎……」
「なに?」
「……真乃と白石に言ったら許さねぇから」
「言わないって。絶対言わない」
「これだけじゃなくて……俺がいつもこんなだって、言ったら……っ」
「こんなって……すぐ勃っちゃうこと? 言わないよ」
「っ……ん……」
 恥ずかしくて、涙が溢れてくる。
 それでも駕崎の指先は形を確認するよう何度も何度もそこを行き来する。
「あっ……んっ」
「最近すぐ濡れちゃうよね」
 殴りたいのに、体がうまく動かない。
 下着越しに先端を指先で撫でられるとゾクゾクして、俺は自分のシャツをぎゅっと掴んだ。
「んぅんっ……んっ!」
「舐めていい?」
 俺が答える前に駕崎は下着越しに口づける。
 すでに濡れている所へと、舌先が這っていく。
「はぁっ……んぅっ……ぁあっ」
 マジで、パンツ舐めるとか頭おかしいんじゃないのって思うのに、自分もそれで興奮しているのだからなにも口に出来ない。
 少し吸い上げられてしまうと、さすがに体がビクついて、俺はずるずるとその場に座り込んだ。
「ベッド行く?」
「ん……」
 頷くと、駕崎はひょいっと俺の体を持ち上げベッドへと下ろしてくれる。
 すぐさま足元に絡まっていたズボンを引き抜かれ、足を開かれると恥ずかしい部分が丸見えで、俺は顔を逸らした。
 俺が逸らしても意味が無い事くらいわかってる。
 けれども、足の付け根へと注がれる視線は耐え難い。
 泣きたい気持ちを抑えつつ、駕崎の腕を取る。
「はぁ……ぁ……」
「どうした、霞夜」
 そう聞きながら、探るよう布地の上から俺のモノをじっくりと撫で回す。
「んぅっ……んっ……ぁあっ」
「霞夜、顔見せて」
 見られたくないのに、駕崎は容赦なく俺の頬を掴み上を向かせる。
 頬を撫でながら、差し込まれた親指で舌を撫でられてしまう。
「あーあ、また泣きそうな顔してるね」
 調子に乗るような駕崎の様子にイライラするも、それ以上に自分自身、興奮しているのは明らかだ。
 それを駕崎にも悟られていそうで俺は自然と顔を横に振った。
「ぁっ……んっ」
「よく、おしゃれな恰好したときだけおしとやかにしようとする女の子とかいるって言うじゃん?」
「はぁっ……知らなっ」
 駕崎の手から逃れるよう無理やり顔を背ける。
 けれども、駕崎はそんな俺の耳元へと口を寄せた。
「霞夜って、そんな感じだよね。女性モノの下着付けたときだけ、なんかすごくおとなしくて、女の子みたい」
 耳元で囁かれ、一気に顔が熱くなる。
 羞恥心を煽られ目が涙で潤った。
「っんっ……違……っ」
「ホント? 聞こえる? 布越しに濡れた音してる」
 そんなの聞こえない。
 聞く余裕などなかったのに、駕崎に指摘されクチュクチュと卑猥な音が響いて来る。
「はぁっあっ……ぁっん!」
「いやらしいよね。こうしてパンツ越しに弄られるの、好きでしょ」
「やっんっ……ゃあっ……ぁああっ!!」

 耳元でチクチクと責めたてられ、耐え切れずイってしまう。
 ぐちゃぐちゃになった気持ち悪いパンツをそのままに、布地を少しずらして駕崎は指先で入口をなぞる。
「はぁっ……待っ」
「霞夜がたくさん濡らしてくれたから、すぐ入りそう」
 下着の中でぐちゃぐちゃに掻き回された先走りと精液が、駕崎の指を纏う。
 首を振って待てと示すが、まるで反発するよう駕崎は少しずつ指を押し込んできた。
「ぁあっ! あっ! 待っ……あっ!」
「嫌?」
 脱ぎたいのに、駕崎は脱がせてくれなくて、本当に女みたいに扱われている気がして嫌で駕崎を叩く。
 けれど力が入らなくて、駕崎の指がぐるりと中を掻き回すと体がビクビクと跳ね上がった。
「ひっうっ……んっ! やっ、ぁんっ!」
「ふっ……いつもよりかわいい喘ぎ方してるね」
「ゃっあっ! もぉっっ……ぁあっ……いくっ」
「んー、そんな早くまたイっちゃうの?」
「ぃくっ……あっ駕崎ぃっ……ゃっやっ……んぅんんんっ!!」

 立て続けに2度もイってしまう俺を落ち着かせるよう駕崎はゆっくりと指を引き抜いていく。
 俺はぼんやりしたままで、指が抜けきると上半身を捻り手元の枕をぎゅっと掴んだ。
「はぁ……」
 これじゃダメだ。
 駕崎が勝手にしてきたこととはいえ、俺だけが気持ちいいんじゃ割に合わない。
 だから、俺も駕崎を気持ちよくさせないと……そう思うのに体に力が入らない。
「駕崎……やっぱこれ、ダメだ……」
「ん? コレって……下着のこと? なんで?」
「頭……働かねぇ……」
「いいよ。霞夜はすごく気遣ってくれるけど、もっと俺に任せていいから」
「なんか……それ上から目線っぽくてむかつくし」
「そんなつもりはないって。続き、していい?」
「……力入んねぇ……」
「いいよ。別にマグロでも」
 マグロという言い方はなんか気に食わないけれど、結局そういうことになりそうだ。
 不本意だけれど、今日は駕崎に任せよう。
 頷くと、駕崎はパンツを引き抜いていく。
 片方の足だけ引き抜いて、中途半端に片方の足にかかったままの状態にされてしまう。
 顔を逸らしつつ視線を向けると、ぐっと足を広げられ、駕崎はすでに昂ったモノを押し当てた。
「ゆっくり……」
「わかってるよ」
 駕崎は俺の言葉通り、ゆっくりと腰を寄せ中へと入り込んでくる。
「はぁっ……あぁあ……っ」
 いくらゆっくりとはいえ、駕崎のモノが俺の中を埋め尽くす感触に声を洩らさずにはいられない。
「ぁあっあっ! ぁあっ」
「霞ー夜。そんなに声出しちゃって……いつもよりエロ……」
 殴るのは後にしよう。
 腰を揺らされ中を少し出入りされるともう、なにもかも投げ出したくなった。
「ひぁっぁっあっ……あっん、ぁん」
「気持ちいい?」
「はぁっん……ぃいっ……あっあっ! あっ、あんっ!」
 ぐにぐにと内壁を押さえ付けられると、体にまるで電流が走るみたいで、たまらなくて。
 恥ずかしいのに、それよりももっと欲しくて仕方なくなる。
 こんな俺は、俺じゃない。
 けれど、ここでしなければまた1週間待たされて、ずっと我慢しないといけなくなる。
 だから俺は、欲しがらないといけない。
 俺は自分の腕で顔を隠した。
「はぁっ……あっ駕崎ぃっ……っん、もっと……っ」
「もう一度、ちゃんと言って?」
「もっとぉ……っ、あっ、あっ、してっ」
「なんか腰は砕けちゃってるみたいだけど、結局欲しがってくれるよね」
 顔を隠しているせいで、駕崎がどういう表情をしているのかまったくわからない。
 それでも、駕崎は俺に応えるよう腰の動きを激しくしてくれる。
「あぁあっ! あっあっ……いくっ……」
「いいよ。俺もイくから……」
 駕崎がそう言ってくれるとほっとして、俺は我慢出来なかった。
「あっあっ……あぁああっ!!」
 俺がイった直後くらいに駕崎は俺の中で精液を放った。

 ああもう、最悪だ。
 反論するだけの力は無いのに、欲しがっちまうなんて。
「……むかつく」
「パンツだけでこんなに大人しくなっちゃうなんて……霞夜が全身女装したらどれだけ女らしくなるんだろうね」
「しねぇよ。バカ」
「してよ。特別な日に……」
 特別な日。
 誕生日かバレンタイン?
 おそらく、このタイミングならバレンタインだろう。
「……似合うわけねぇし」
「似合う似合わないの問題じゃないよ」
「……それすんなら、チョコはやんねー」
「……チョコ、くれる気だったの?」
「やんねーっつってんだろ」
「……いいよ。チョコは俺があげる。だから霞夜は……」
 どっちが恥ずかしいかって言われたら、本当は女装の方かもしれない。
 けれど、駕崎にやらされることと、自発的にチョコを買って渡すのとでは大きな違いがあった。
「……絶対、誰にも言うなよ」
「わかってるって。楽しみにしてる」
 どうして俺は、駕崎の期待を断れない人間になってしまったんだろう。
 いや、前からそうだった。
 こいつが、調子に乗ってきたせいでやることがエスカレートしてるんだ。
 けれど、俺に嫌われないよういつも我慢してくれていたこいつに、なんでも言えって言っちまったのは俺だから。
 その上、俺は結局、こんなことをさせられても駕崎のことを嫌いになんてなれないから。
 めんどくさいだとか疲れるだとか、そんなことを思うこともなくて。
 ただ、駕崎が喜ぶのならそれでいいと思ってしまう。
「……ああもう、むかつく」
「嫌?」
「……別に。なぁ……今日……してないんだけど」
 チラリと目を向けると駕崎はすぐなんのことか理解し、寝転がる俺に、そっと口を重ねてくれた。