「っ…水城く…っ…」
っと、その声に目を開く。
そういえば、俺、晃の部屋で寝ちゃってて…。
もう、9時…?
見上げると、そこで春耶とキスしてる晃が…。

「っ…」
「…ん、あぁ、深敦、起きちゃった?」
「…春耶ってそういうやつだよなー。人いる方が燃えるーとか平気で言うやつだろ」

くっそぉ。
甘々な雰囲気出しやがって。
「…やな感じ」
「っごめんね、深敦くんっ」
「あ、晃はいいんだよ」
って、俺、なに言ってるんだか。

「深敦、明日、なんの日か知ってる?」
明日…?
2月14日…。
あぁ、バレンタインデーか。
「戦争が終わった日だっけ」
「そういう起源とかじゃなくって…。啓吾にあげんの?」
「はぁ? なにを」
「チョコ」
「あげるわけねーだろ、気持ち悪ぃ。んな女々しいことすっかよ」
「あっそ。まぁいいけど」
晃は…?
って、春耶のいる前じゃさすがに聞けないから、言わないけど…。
「珠葵はあげるみたいだけど」
そう春耶が教えてくれる。
「あぁ、告白するってのは聞いてたけど、バレンタインデーとかけてたんだ?」
「深敦くん、気づいてなかったの?」
あれ、晃は気づいてたのか。
「うん。ただ、日にちとか関係なくかと思ってた」
っつーか、男同士であげるもんなわけ?
変なの…。

でもなんか、どうなるのか、明日楽しみだな。
もちろん、もらえなくっても男子校だから当たり前だし?
誰が誰にあげるか、見るのは楽しみかも。

「…とりあえず、俺、帰るわ」
邪魔そうだし。


どっか遊びに行こうかなー。
珠葵んとこ?
「じゃあな」
2人に別れを告げて、俺は珠葵んとこへ行った。



「あー、深敦くん、やっほい♪」
「甘―。すっごい匂い」
作ってるわけ?
愛が大きいこって。
「それ、明日、あげるやつ?」
「そう。あ。余分にたくさんあるから、深敦くんも貰ってねー」
男同士で義理チョコって。
うーん…。
でも、恋愛対象が男となると、そこら辺、また違った世界なんだろうな。
「サンキュー」

…なんか、楽しくなってきた。どうしよう。
他の部屋にも偵察に行きたくなってくんじゃん?

「なぁ、珠葵―。それ、キリつきそう?」
「うん。もうすぐ」
「じゃ、終わったら、偵察行かねぇ? 誰か、他にチョコ作ってるやついるか。とか、誰か、あげるか聞きに」
「あいかわらず、変なこと考えるねー。でも、楽しそうだね。いいよ、行こ♪」
珠葵なら、絶対ノってくれると思った。

珠葵が、チョコの整理をし終わって。

「じゃ、どこ行く?」
って。
…そうだ。どこ行こう…。
「珠葵みたいにさ、こういう作ってるとか見られても平気な子のとこがいいよな」
作ってるかどうかはわかんねーけど。
「晃は、あげるとか言ってた?」
「部屋に春耶がいるから聞くに聞けなかった」
「そっかぁ。深敦くんとこのルームメイトは?」
悠貴先輩は、あげるよりも貰う方だろ。

「…一応、聞いてみる?」
というわけで、まずは、俺の部屋に。

「たっだいまー」
「おかえり。あ、珠葵くんも一緒なんだ?」
「こんばんわー」
今日は、悠貴先輩は一人。
一人で、勉強…?
「悠貴先輩。明日とか…バレンタインデーだけど…」
あげますか? って聞くのはおかしいか、やっぱ。
「んー…。深敦くんは、彼氏にあげるの?」
ぎゃー、俺が聞かれてるし。
「っあげないよ。それより、悠貴先輩は…」
「あげるよ」
思いがけず、あっさりそう言う。
「えー」
俺と珠葵の声が重なった。

「うそ、誰にっ? 彼女さん?」
俺よりも先に、珠葵が聞く。
早っ。
「んー。智巳先生」
ぎゃーっ! 先生?
「いつもお世話になってるから」
あぁ、義理ってことか…。
義理堅い人だな…。
「彼女にもあげるんですか?」
「智巳先生にあげて、彼女にあげないわけにはいかないからね」
だよな。

「去年も?」
「うん。俺の彼女もくれるけどね。あの子は、誰にでも配りまくる子だから」
そうなのか…。
「珠葵くんは?」
「あ、俺は、あげますよー。明日、告白するんで」
「へぇ。そうなんだ。え、誰?」
意外にも、悠貴先輩って、ミーハーだったりするんだろうか。
ノリノリだ。
「悠貴先輩、知ってるかなぁ。御神隼人先輩」
「知ってる、知ってる」
自分の知ってる人だったのが、よっぽどうれしかったのか、にこにこだ。
「俺の友達の彼女の友達」
遠くないか、それ。
一応、御神先輩自身が、この学校の人だから、わりと顔見知りだったりするのかもしれないけど。
「俺は、友達のルームメイトなんだ」
春耶のルームメイトだもんな。
珠葵って、春耶んとこ、よく行くから…。
「そっか。がんばって」
「ありがとー。がんばる」
うん。がんばって欲しいもんだ。
「深敦くん、次、どこ行く?」
「うーん」
「なに? どっか、回ってんの?」
悠貴先輩が、不思議そうに聞く。
「ちょっと。みんなが明日のバレンタインデーに対して、どんくらい意識してるか、偵察に」
ある意味、俺が一番、意識してるんだろうか。
いや、みんなだって、ノってるし。

「じゃあ、拓耶んとこ、行ってみなよ。きっと、あいつ作ってるから」


その意見を、参考に、俺らは2人、拓耶先輩の部屋へと向かった。


「こんばんわー」
「あれ。みつるくんと珠葵くんだ。こんばんわ♪」
快く迎えてくれて。
中には、やっぱり、チョコの匂い。
「作ってたんだ?」
「憂と一緒にね」
拓耶先輩のルームメイトは憂だもんな。
「憂、誰かにあげるの?」
俺がそう聞くと、少し困った表情を見せて
「まだ、迷ってるけど…」
って。
「どうして? あげればいいじゃん」
そう言ったのは、珠葵。
「でも…うーん…」
「こんな調子なんだよ。でも、とりあえず、一緒に作るだけ、作ったってわけ。あんま重く考えないで、軽いノリで、いつもお世話になってますーって感じであげちゃえばいいじゃんね♪」
拓耶先輩がそう言うと、やっと、少し、決心がついたような。
なんか、かわいいな、憂って。

「やわらかそー。生チョコ?」
珠葵がいつのまにか、テーブルの上のチョコをジっと眺めてる。
「あー。それ、俺がしくじって。湯が中に入って、そんなんになった」
湯…入れたんだ…。
「…生チョコ、苦労して作るやついんのに、失敗のと一緒になるなんてね…」
つい、冷めた口調でぼやいてしまう。
「あはは♪食べていいよ」
「いいの?」
「生チョコは、持ち運びにくいでしょ」
だから、生チョコじゃないだろう、ってツッコミはさておき。
俺と珠葵は、言葉に甘えて、そのチョコを口に入れた。
「あ、おいしい…」
あまりにも意外だったせいで、そう口から洩れる。
「でしょ。俺もさっきつまんだけど、わりとおいしくて」
「でー。この焦げ付いてるやつは、もしかしなくっても、湯銭じゃなくって、そのままあっためちゃったんだ?」
珠葵って、ホント、いろいろ見てんなー…。
鍋に、チョコがこべりついてる。
「大丈夫かなーとか思って。だって、早く溶けるんじゃないかって思わない?」
…チョコ作りで、こんなに周りがグチャグチャになるなんて…。
さっきの珠葵の部屋とは大違いだ。
「憂は、教えなかったの?」
俺が、こっそり聞く。
「だって…あまり口出せなくって…」
チョコ作るのでさえ、拓耶先輩の方が、憂をひっぱってはじめたことだ。
あまり口出し出来ないんだろう。

「でも、無事出来たからさー。暇だったら、明日、美術部おいで♪」
「美術部?」
「うん♪」
くれたりしちゃうんだろうか。
「わっかりました♪」
珠葵はもう行く気まんまんみたいだし。
俺も行くか。


「あ、チョコフォンデュやらない?」
いきなり、なに言い出すんだ、この人は。
「チョコ、あまったりしてんの?」
「そうそう。前、テレビで見てさ。あれは焦げ付かないわけ? 弱火だといいのかな」
そう言いながら、焦げ付いた鍋を眺める。
「俺、やってみたいなー」
珠葵がそう言って。
「みつるくんは?」
「うん…。やってみたいかも…」
すると、その鍋の中に、あまったみたいな板チョコの欠片をいろいろ入れていく。
その鍋でやるのか…。
焦げ付いてるのは、チョコだし、なんの問題もないけど。
「この鍋でやってもいいよね」
っと、入れたあとに俺らに確認を取る。
俺らは、もちろん、いいよとOKを出す。

…こんな調子だったら、憂も、いろいろ口出しする間ないか。


こうして、俺らは突発的に、チョコフォンデュをやって。
バナナとかいちごとかにつけまくって。

あまりにも、果物とか、つけるためのものが、拓耶先輩の部屋に大量にあるもんだから、遠慮もせずに食べまくっちゃって。
お腹が膨れたら、もういろんなところへ回る気力がなくなってしまっていた。
俺って、単純だなー…。
でも、珠葵も同じ気持ちみたい。
時間も、だいぶ遅くなっちゃったし。


今日はもう、引き上げだ。
「じゃ、珠葵、明日な」
「うん。楽しみだねぇ」
…告白すんのに、緊張とかしねぇのかな。
とにかく、俺は、自分の部屋へ戻った。



「ただいまぁ」
「おかえり。どうだった? いろいろ回ってきた?」
悠貴先輩が楽しそうに聞いてくる。
「んー。結局、拓耶先輩んとこにずっといて、終わっちゃった」
「そっか。で、それは?」
それ…?
あぁ。拓耶先輩から預かったんだった、バナナチョコ。
っつっても、さっきの残りで、バナナにチョコがついただけだけど。
「これは、お土産。俺の分と悠貴先輩の分」
2本。
「貰っていいんだ? 冷やした方が、おいしいかな」
そう言って、ありがとうって、1本受け取る。
確かに、あったかいチョコをつけたばっかならともかく。
今は冷やした方がおいしいかも。
俺と、悠貴先輩は、バナナを、冷凍庫へとしまった。