浅ましい…という言葉はこういうときに使うのだろうか。

柊先生に、キスされて、煽られて。
体中が熱くなっていたのに、先生は『おあずけ』だと言った。

翌日仕事だからしょうがないことだ。

わかってる。
けれど、俺の熱は収まりそうになくて。
家までは我慢した。

家についてすぐ、玄関だというのに、立ったまま自分のモノを取り出す。
「っ…はぁ…」
思い出すのはもちろんさっきまでの柊先生。
指を絡め、擦りあげていく。
「はぁっ…んっ…んぅっ…」

耳元で俺を呼ぶ声を想像して。
夕方に、保健室でやられたことも思い出す。

けれど、思い出そうとしてもうまく想像出来ないし。
足りない刺激にイラっとする。

ものすごく体は熱くてイきたいのに。

「くっ…ぅンっ!」
イけない。

そうだ、電話……いや、さすがにこんなの恥ずかしいし。
電話くらい出てくれるだろうけれど。

翌日の仕事に差し支えないようにって帰してくれたんだよな。
でも、一人Hくらいなら差し支えるレベルではない…と思う。
というか、もう抜かずに終わるとか、苦しいだろ。

このままじゃ、消化不良。
家にあるバイブを取るか携帯を取るか。

迷ったのち、つい、手元にあった携帯で、柊先生に連絡を取ってしまっていた。

『宮本先生? なにか、忘れました?』
声を聞くだけで、充分、さっきよりは想像力が働く。

「っ…あの…10分ほどお時間いただけますか…?」
『かまいませんよ』
「なにか…話してくれませんか」
『…急ですね。なにを話せばいいでしょう。そりゃ、宮本先生と話したいことはたくさんありますが』

理由…言った方が早い…かな。
あぁ。最悪だ。

「…さっき…あなたのせいで熱くなってしまったものが、収まらないんです…」
『他ごと考えて、落ち着かせれば大丈夫ですよ』
「あ…抜いた方が早いと思うんですけど…」
『…抜きたいの…?』
その言葉だけで、体がビクつく。
柊先生の声には、変な力があるようにさえ感じていた。
なんなんだ、この人は。
自分のを擦る手に力が入る。
「…は…い…っ」
『おあずけ…って、言ったでしょう?』
「そう…ですけどっ…一人で、抜く分には、問題ないんじゃ…っ」
『許可を、得ようとしてくれてるんですか? しょうがないので、いいですよ。一人で抜いても』

絶対に、一人じゃイけないってわかってて、そう言ってるんだろう。
意地悪だ。
「あ…っ、俺…っ」
『別に、金曜日、怒ったりしませんから』
違う。
『電話、切ったほうが、集中できるなら、切りましょうか?』
違うってば。
駄目だ、この人、言わないと絶対してくれない。
俺が、恥ずかしくて言いとどまってるってのも、絶対、わかってるし。
「…せんせ…、協力、してくれませんか…」
極力、恥ずかしくない言葉で言ってみるが、それが通るかどうか…。

『…どうしよう?』
愉しそうな声。
俺で遊ぼうとしてる。
それがわかるだけで、また体が熱くなった。

「ぁっ…んぅっ…」
『…もう、触ってるんですか?』
「っっは…いっ…」
『いつから?』
「……帰って…すぐ…」
耳元で、クスって笑われた気がした。
『いやらしいね…』
「っ…んっ…っ…」
ゾクゾクする。なんでこんなに。
いやらしいのは柊先生の声の方だ。
さっきまで、あんなにも刺激が足らずもどかしかったのに。
いまじゃ、先走りの液まで溢れて、手を濡らしている。

『自分でもそう思いません? いやらしいって』
「っ…は…ぃ…っぁっ…わかって…ます…っ」
なんで、こんなに。
恥ずかしい。
自分から、柊先生にこんなこと頼むなんて。
『一人でやる分にはかまいませんが、俺がおあずけしてることには変わりないんで』
つまり、協力してくれないって…?
「あのっ…でも、実際に、貰うわけではない…ですしっ」
『そうですねぇ…』
迷ってるような口調。
このままじゃ、本当にこの人、『バイブあげたでしょう? それでがんばってください』
なんて言いかねない。

「先生……あの…っ」
『もうすぐ10分だし、切っちゃおうかな』
切られる。
そう思ったとき、妙なあせりを感じて、一瞬、恥じらいが飛んだ。
「っ…一人じゃ…イけないんです…っ」
言った直後、ものすごい羞恥心にかられた。
耳元で笑う声。
恥ずかしくて、こっちが切ってしまいたい気分にもなった。

「っ…すいませ…っ…なんか、すごいわがままを…っその…っ」
『いいですよ。…ちゃんと、擦りあげながらしゃべってますか』
擦りあげながら…。
「は…ぃ…してます…」
『そう…。指、後ろに入れてごらん』
「……入れなくても…柊先生に少し話して貰えばイけそうなんですが…」
今回は、本当に抜くだけが目的と言いますか…。
『言うとおりにして?』
切られても困るし、しょうがない。
「…は…い……」
ズボンと下着を膝あたりまで下げ、すでに濡れてしまっている指先を、後ろへと挿しこんでいく。
「ぁああっ! んっ…んぅっ」
…すごい、声、出た…。

『2本くらいすぐ入るでしょう。指で中、ちゃんと掻き回すんだよ』
恥ずかしがる間もなくすかさず、柊先生が指示をくれる。
それにあわせる形で、しなければならないような威圧感を感じるのはなぜだろう。
2本、差し込み、指で中を掻き回していく。
「ひっ…ぁっ! んっんっ!」
『声、殺すんなら、切りますよ』
「ゃっぁあっあっっ…や…っ」

『かわいいね…。中、入れたいな』
少しだけ熱っぽいように聞こえた、柊先生の声。
ゾクゾクする。
「せんせぇ…っあっ…くっ…ぁあっ」
足に力が入らなくて、その場に座り込んだ。

『…気持ちイイ?』
「はぁっあっんっ! …ぃい…っ」
『…俺の声、好き?』
声。
柊先生の声は、ものすごく骨に響く。
たまらなくて。

欲情してる。
そう自覚すると、体の熱がまた上がった気がした。
「は…ぃ…っ」
『…どう好き?』
どうって。
骨に響いて欲情するだなんて。
言えないだろう?
「…っわかんな…っ」
『それは残念』

そう聞き取った後だ。
プツっと、電話の切れる音。
え…。
あと少しなのに。
なんで。
イきそう。
イけそう。
だけれど、空気は最悪だ。
この状態で、イっても、後味は悪いに決まってる。

かけ直す?
でもわざわざ最後だけ聴かせるのも。

そうこうしているうちに、電話がかかる。
柊先生だ。
すぐさま、受話器のボタンを押す。
「ぁっっ…んっ!!」
『…俺の携帯で、別の人がかけてたらどうするんですか。そんな声出して』
「すみませっ…ぁあっ…急にっ…切らないでくださ…っっ」
『わかりました。答えは出ました?』
柊先生の声が、どう好きかって?
「…ぁ…声…っ」
『そう』
言わなければ切るんだろうな、この人。

「せんせぇの声…っ、すごぃ、クるんです…っ」
言ってて恥ずかしい。
なるべくなら濁したい。
それなのに、柊先生はそれを許してくれない。
『クるって?』
「…感じ…るんです…っ。腰にキて、ぉかしく…っ」
『じゃあ、おかしくなって…。乱れてください』
もうすでに、おかしくなってると思う。
こんなこと口走るなんて。

あいかわらず中で単調に動かしていた指に力が入る。
「はぁっあっ…せんせ…っもっとっ…」
『もっと?』
「ぁんっ! あっ…欲しぃ…っぁあっ、はゃく…っ」
『それは、おあずけですから。今は、一人で俺の声で、満足してください』
もちろん、本当に今、もらえるわけではないとわかってる。
声で。
耳から犯される。
「ひぁっ…んっ…ぁっ…あっっっ…ぃくっ」
『…芳春…。イく声、聴かせて』
芳春って。
「ぁっあっ…ンっ! あぁあああっっ!!」

名前…たまに呼ばれるせいで、妙に意識する。
玄関だというのに、こんな場所でイってしまって。
…場所のこと言い出したらキリがないけれど。
とりあえずなんとか息を整える。

「…っ……すみ…ません…。もう夜も遅いのに…」
『構いませんよ。俺も、宮本先生の声、すごくキますよ』
俺の声が?
「そんな…」
『だから、こうやって電話越しにでもたくさん声出してくれると、欲情します』
なにを、変態みたいなこと…っと言いたいが、自分の方がそれならば変態だろう。

『一人じゃイけない…っての、すごいよかったです』
それは言葉のあやです…と言いたいとこだが実際、そうだったわけで。
……痛い。
なんだか自分が変態化しているような。

「…本当に…すみません…。最近……ちょっと溜まってたのかも…しれなくて…」
昼に1回やりましたけど。
『それは、俺の責任ですね』
…いや、違いますけれど。
『こんなにもいやらしくなってしまって…』
…それはあなたの責任だと、否定出来ませんけれど。

「すみませんでした…」
俺が謝ることなのかよくわからないが、とりあえず謝ってしまっていた。
『いえいえ。また金曜日に』
…なんだか、一回抜いてしまうと、土曜日でもいいような気がしてしまうあたり、自分って結構、自己中なんだなぁなんて感じたりもする。
「金曜の夜…ですね。伺います」
『わかってるとは思いますけど。『おあずけ』守れてないんで『お仕置き』しますから。一応、覚悟しておいてくださいね』
「え…」
確かに、悪いとは思っている。
柊先生の貴重な時間を貰ってしまって。
おあずけだと約束した…にも関わらず、電話してしまったけれど。
「一人で…あなたのモノは貰ってませんよっ?」
自分で言ってて馬鹿な言い分だとは思いますが。
『一人じゃイけない…と言ったにも関わらず、さきほどイけたってことは、俺になにかしてもらった自覚はあるのでしょう?』
そりゃ…柊先生に声をかけてもらって…。

でもっ………いや、無理だ、この人を敵に回すのは。
諦めよう。
「痛いのは…ちょっと…」
『では痛くないお仕置きで』
「あまり、いじめないでくださいね」
『それは、いじめないとお仕置きにならないので、約束出来ません』

いじめる宣言ですか。
なんだろう。
こんなのは嫌だと思うのが普通だ。
それなのに、柊先生の愉しそうな声を聞くと、体が熱くなりかける。

「…しょうがないので、覚悟しておきます…」
そう伝えるものの、本当は期待してるだなんて。
言わなくても、柊先生にはバレているのかもしれないな。