昼ご飯も食べたし、今日はなにしようか。
……なんてのん気に考えてる場合じゃないよな。
あと3日で夏休みも終了。
もちろん、宿題は終わってない。
まあ、提出するのはそれぞれの科目の授業時間だし。
厳密には、夏休み明けすぐってわけじゃないんだけど。
やばいよな。
いや、7月は結構な勢いで進めたよ。
そりゃもう半分以上。
けど、ある程度進めると安心するじゃん。
このペースなら夏休みラク出来るぜ、って思ったらもう安心してちょっと止まっちゃうもんでさ。
そのまま、きちゃったわけだけれど。
みんな済ませてんのかな。
あわよくば手伝ってもらえないだろうか。
ほら、答え写させてもらうくらいなら……。
そんなわけで、いざ隣の部屋へ。
「あ、深敦くん。今日も暑いね」
そう出迎えてくれた晃の後ろには春耶の姿。
「ホント、あついね……」
あいかわらずラブラブだな。
「なに。2人で宿題?」
「ううん。宿題はもう終わって。一応、少しだけテスト勉強」
テスト勉強?
「え、なに、テストって」
「課題テストとかいうの、あるでしょ。夏休み明けに」
聞いてねーよ。
……って言ったら、聞いとけよって言われそうだ。
いや、晃は言わないだろうけど。
「それって、宿題の範囲から出るの?」
「うん、そうみたい。だからそんなに勉強しなくてもいいと思うんだけど。宿題、だいぶ前に終えちゃって、ちょっと忘れちゃってるから……」
あれ、俺はいまから宿題の残りをやるわけだし、むしろ宿題と勉強、一緒に出来て一石二鳥じゃないか。
まあ、早めに宿題終えた人だって、内容覚えてる人は勉強しないんだろうけど。
しかしテストがあるとなると、自分でやらなきゃなって気にさせられるな。
でもとりあえず、最低限、宿題を済ませないと……。
とはいえ、晃と春耶は宿題のプリントやらを見ながら勉強してるし、借りるのもな。
もちろん、特定の科目だけ借りてってことも出来るけど。
俺、まんべんなくいろんな科目、中途半端に手つけてて、残ってるし。
いちいち借りたり返したりするのも面倒だ。
かといって、ここでやらせてもらうのもなんか邪魔っぽいし。
「……じゃあまた」
「え……またって」
「あ、うん。俺も部屋で勉強してくるよ」
「うん、わかった」
本当は宿題だけど。
……くそう。
なんだかんだで、言えなかった。
珠葵なら、まだやってないの? もー……とか言いつつも見せてくれそうだ。
けれどやっぱり珠葵の勉強資料を借りちゃうのは悪いよな。
さりげに、珠葵ってテスト勉強とかすげぇしそうだし。
……となると啓吾だ。
なに俺。
結局、啓吾に頼っちゃうわけ?
なんかちょっと悔しい。
そうだ、これは頼るとかじゃなくて、啓吾が都合いいんだよ。
そうそう。
……都合よく使うってわけでもないんだけど。
あいつ、あんま勉強しないみたいだし。
啓吾、寝てたら結構面倒だな。
一応、インターホンを鳴らしてドアを開ける。
「…………おっと」
開けたドアを一瞬また閉めたくなった。
啓吾は起きてるよ。
けれどなんか、すげぇ人いるんですけど。
ルームメイトの凪先輩と、その友達の凍也先輩、霞夜先輩、功先輩。
今日はここが溜まり場なわけね。
「お、深敦、ちょっと久しぶりだな。お前、宿題終わったの?」
凍也先輩だ。
この人は宿題終わってない組か。
「まだですけど。先輩たちもですか」
「まあね」
あんまり4人ともが同じタイプには見えないんだけど。
そう視線を向けると凪先輩と目が合ってしまう。
「あのね。俺は結構順調に進めてたよ。だからあと少しだし。計画的」
「そうなんですか」
「凍也は、ぎりぎりまで溜めちゃうタイプで、霞夜くんは最後にまとめてさらっとやっちゃうタイプだから」
同じように宿題やってるように見えるけど、違うんだな。
「功先輩は?」
「あ、俺は一応、出来る限り早めにとは思ってるんだけど」
「ま、こう見えて功が俺たちの中で一番、成績悪いからな」
一番、真面目そうなんだけど。
「なかなか進まなくって。部活もあるし」
時間かかっちゃうってことか。
で、啓吾は?
ベッドで寝転がる啓吾へと視線を向ける。
「啓吾、宿題やった?」
「やってないけど」
「え……」
やってないって。
いま、やってないって言った?
「なんでお前、やってないのにそんな余裕なんだよ」
「それ、俺も言った」
凍也先輩も俺と同じ疑問を抱いたわけですね。
「……少しはやったけど。なんだっけ。始業式翌日に担任に出さないといけない感じのやつ」
科目ごとじゃない読書感想文とかそういうやつか。
それは終わってるわけね。
「科目ごとのは?」
「提出する前日にそれぞれやればいっかなって思ってんだけど。まず課題テストが3日あるだろ。その後の授業で提出だから、結構日付あるし」
あるかもしれない。
けど、課題テストの勉強とかあるだろ。
「じゃあお前、課題テスト終わってから課題やんのかよ」
「そうだな」
「課題から、問題出るんだろ」
「つっても、課題ってそもそも1学期の内容だろ」
ああもう、こいつはホント、こういうやつだ。
「もうちょっとあせろよっ」
「深敦、焦ってんの?」
「焦ってるよ。お前どうせ自分の課題やるつもりないならちょっとくらい手伝えよ」
「……いいけど」
「いや、あっさりいいとか言われると申し訳ないしっ。しかも終わってないやつに頼めるわけねーだろ」
「どっちなんだよ、お前」
なんにしろ、ここで言い合っては先輩たちの邪魔になってしまう。
「……とりあえず、ちょっと来れる?」
「ああ、いいけど」
俺は4人の先輩に見送られながらも、啓吾を連れ出すことに成功した。
……さて。
どうしようか。
啓吾は俺が答えを写すための課題を済ませていない。
やっぱり、写す作業くらいは最低限やらなきゃいけないかなって思ってたりもするし。
「いまからさ、お前自分の宿題やって。それを流れ作業的に俺に貸してくれるとありがたいんだけど」
「ああ、別にいまから一緒にお前のやるよ」
「駄目なんだよ、それじゃ。一応俺にも罪悪感とかあるから。それにどうせお前だっていずれはやるつもりなんだろ、宿題」
まあギリギリまでやりたくないって気持ちはすごくわかるけど。
「……俺の部屋、先輩たちがいてさすがに無理っぽいけど。深敦の部屋? 図書室?」
図書室?
なんだその選択肢。
考えてなかったけど、ちょっと行ってみたいな。
「図書室って、なんだかんだで行ったことないし、ちょっとおもしろそうだな」
「っつーか深敦、途中まではやってあんだろ。俺、全然進めてねーから少し待たせるけど」
え、こいつ科目ごとのやつ、全然進めてねーのか。
さすがに、俺のやってないところからやれよとは言えないしな。
「まあいいよ。啓吾がやってる間、俺は図書室探索するし」
「いや、少しは進めろよ」
「あ、そっか。じゃあとりあえず図書室集合な」
啓吾と別れ部屋に戻る。
うん、考えてみたら宿題の用意をわざわざ持ってく手間を考えるとここでやった方が都合がよかったか。
まあいい。
図書室満喫しようじゃないか。
「深敦くん、出かけるの?」
あいかわらず空気のように部屋にいた真綾先輩が俺に声をかける。
悠貴先輩はその隣で眠っていた。
「はい、図書室まで宿題やりに」
「調べ物でもするわけ?」
「いえ、なんとなく。友達と一緒に。真綾先輩は宿題終わってるんですか」
「ああ、そういうのは夏休み前に終わらせるタイプだから」
夏休み前?
出された時点で即行終わらせるってこと?
「いくらなんでも無理じゃないですか」
「後に溜めてぎりぎり短時間でやる人と、してることは変わらないよ」
「読書感想文とか、時間かかっちゃうじゃないですか」
「そういうのは毎年のお決まりだし。別にだいぶ前からやっておけるでしょ」
え、この人だいぶ前から読書感想文やってんの?
すげぇ。
「意外と真面目なんですね」
「まぁね。こう見えてクラス代表だし。ふふ……君もクラス代表だけど」
全然、クラス代表の仕事出来てませんがね。
「ああ、図書室なら、姫さまに会えるかも」
「姫さま?」
「見ればすぐわかるよ。2年の中じゃ有名な子。眠り姫だって」
「寝てるってことですか」
「そう。でもってすごいかわいいから」
それで姫さまなんてあだ名がついてるのか。
ちょっとどれくらいかわいい子か気になるな。
いまのでかなりハードルあがってるけど。
「じゃ、ちょっと見てきます」
「うん、その代わり、手は触れないように」
「いや、俺、別にいきなり知らない人触ったりとかしないですよ」
「そう? ま、いいけど」
そんな話を聞き、図書室へと向かう。
初めてだけれど場所は知っていた。
4年の教室の近くだ。
図書室の扉を開けると涼しい空気が流れてくる。
クーラー最高。
にしても静かだな。
一応、運動場から生徒の声やらが聞こえてはいるけれど。
数人の生徒が本を読んだり、ノートになにか書き込んだりしていた。
その中の1人、机に顔を伏せている生徒。
……よく見えないけれど、寝てるってことは、あれが姫さまか。
啓吾の姿は見当たらない。
真綾先輩と結構しゃべっちゃったし、俺の方が遅いかなーとも思ってたんだけど。
まあ、啓吾の部屋、たくさん先輩いたしな。
ちょっと捕まってるのかもしれない。
どこに座ろうか。
どこでもいいのなら、やっぱりちょっと気になるし、姫さまのいる机でしょ。
6人ぐらいが作業できるような大きい机と椅子。
他の机だってちょこちょこ人埋まってるんだし、おかしくはない。
眠りの邪魔をするわけでもないし、眠ってる姫さまと同じ机、それでも離れた対角線上の位置へとカバンを置いた。
せっかく図書室来たんだし、ちょっと本でも見ようかなーなんて思ったけれど、まあ宿題終わらせるのが先ですよね。
なんて思うんだけど、どうにもやる気が出てこない。
そうだ、啓吾が来るまで休憩しよう。
俺は腰を下ろし、ボーっと姫さまを眺める。
まあ、この子が姫さまかどうかはわからないんだけど。
髪、さらさらっぽいなー。
黒。
俺、がっつり脱色してるからあんなさらさらにはどうしてもなんねーし。
でも、脱色してるわりには痛んでない方だと思うんだけど。
眠ってる人間を見ると、眠気って移ってくるよな。
俺だけだろうか。
この部屋、心地いいし。
せめて姫さまの顔をおがみたいんだけど、やばい、睡魔が。
そうだ、啓吾が来るまで寝るとしよう。
来たらたぶん、起こされるだろ。
それから始めても遅くはない。
どうせすぐ来るんだろうし。
少しだけ。
『……すみやかに、下校をしてください。繰り返します。午後6時になりました。校舎内に残っている生徒はすみやかに下校してください』
……ん。
いまなんか、放送が聞こえたな。
すみやかに下校しろとかなんとか。
顔をあげると、空が赤い。
夕焼け。
そうだ、俺、図書室に来てて。
啓吾来るまで寝てようって思って。
……何時間経ってんだよ。
隣に目を向けると、机に顔を伏せて眠ってる啓吾が。
くそう。
こいつも寝てたのか。
そうだ、姫さまは?
さきほどまで眠っていたであろう生徒が、帰りの準備をしている。
さらさらの髪。
めちゃくちゃかわいい。
姫さまと呼ばれるだけあるな。
あんまりジロジロ見ちゃいけないんだろうけど。
目が離せない。
「……君、1年生?」
うわ、声かけられちゃったし。
声もかわいいし。
ってか、俺やっぱり見すぎちゃったな。
「はい、そうです」
「そう。すごいぐっすり眠ってたね」
「その……ここ、なんか気持ちよくて」
「俺もよく寝ちゃうんだけど。寝てる間って、周りがどんな感じかわからないでしょ」
そりゃ、眠ってますからね。
「なんだか、幸せそうな表情してたよ」
幸せそう?
「あ、俺、お昼ご飯食べたあとで、お腹いっぱいだったし、幸せだったのかも」
「ああ、君じゃなくて隣の彼ね。友達でしょ? 君を見て幸せそうにしてたってこと。君自身の表情は、こっちからは見えなかったから」
幸せそうな啓吾?
なんだそれ。
レアだ、ちょっと見たかったかもしれない。
にしても俺、自分と勘違いしてこの先輩に、お腹いっぱいとか言っちゃったじゃんかよ、恥ずかしい。
「そう……ですか」
「いいね。なんかそういうの」
「そういうの?」
「寝顔で、幸せを感じて貰えるって、よくない?」
寝顔か。
チラっと啓吾の寝顔を窺う。
……うん、俺も何度かこの寝顔にムラムラ……じゃないや、なんだろう、見とれたことがある。
寝顔見て冷められるよりは、いいのかもしれない。
「そうですね……」
「そろそろ帰らないと。隣の子、起こしてあげなよ。じゃあね」
「あ、はい。さようなら」
……思いがけず、姫さまと話してしまった。
いや、姫さまじゃないかもしれないけど。
かわいいし、優しいし。
なんか、いい人っぽい。
というか、ホントかわいい。
さてと。
啓吾起こしますか。
そもそもあの放送で起きないくらいだもんなぁ。
「啓吾―。……もう下校時間だって」
軽く体を揺らす。
図書室の生徒は、もう俺たちだけ。
カウンターの奥に司書らしき人がいるようにも見えるが、きっとたぶん俺たちに早く帰って欲しいだろう。
「啓吾って」
「ん……」
伏せていた顔を横に向け、眩しそうに俺を確認してくれる。
「もう下校時間なんだけど」
「ああ、深敦いままで寝てたん?」
「違ぇよ。ちょっと前には起きてたって」
ちょっとだけだけど。
「ふーん……」
「いや、ふーんじゃなくて。寝るなって。こんなことなら部屋でやればよかったし」
まあ寝ちゃったのは俺なんだけど。
啓吾は、かったるそうにしながらも、一応起き上がってくれる。
自分が下敷きにしていたプリントをしまうと、少しふらふらしながらもドアへと向かった。
大丈夫か、こいつ。
途中で寝るんじゃ。
様子見しつつ、少し後ろを付いて歩く。
案の定、ドアにそのまま激突していた。
すげぇ鈍い音したんですけど。
「……ん」
「お前、それで細胞だいぶ死んでそうだけど」
「はぁ……。ちょっと目、覚めたかも」
それはよかった。
「寮戻るか。っつーか深敦、ずっと寝てたのかよ」
「さっきも言っただろ。ちょっと前には起きてたって。啓吾が来るまで寝てようと思っただけだし」
「ああ、4年の教室でちょっと捕まってさ」
啓吾の兄貴、4年だもんな。
知り合いもたくさんいるんだろう。
「起こしてくれてよかったんだけど」
「……まあ寝てるんならいっかって」
あ、そういえば、俺見て幸せそうにしてたって、姫さまが言ってたけど……。
ホントかな。
「あのさ。啓吾、俺の寝顔見た?」
「なに、見られたくねーの? 結構何度か見てるけど」
幸せ?
なんて聞けるわけねーし。
「……別にいいけど」
「深敦って、幸せそうな顔して寝るよな」
「自分の寝顔なんて見たことねーし、わかんねーけど」
「してんだよ」
それで、啓吾も幸せな気分に?
ちょっと嬉しいかも。
「ふーん……」
「なにがそんなに幸せなわけ?」
「いや、別に意識してねーし。お腹いっぱいでクーラー効いてたからじゃねーの」
「お前ってそれだけで幸せなのかよ。ホント、幸せだな」
なんだか、バカにされてるような気もするけど。
啓吾だって、そんな俺見て幸せそうな顔してたくせに。
……事実かどうかわからないし、幸せそうな顔ってだけで実際にそうとは限らないけど。
「それよりさー。寝ちゃって全然進んでないんだけど。まあ今寝たおかげで夜は起きてられるか」
「ああ、俺は終わったから、深敦、部屋で写せよ」
ああ、俺は終わったから……。
「え、終わったってなに?」
「宿題の話じゃねーの?」
いや、そうなんですけど。
「待てって。何枚プリントあった?」
「5教科、各10枚ずつだろ」
「50枚? お前50枚終わったの?」
「はあ? 1時間に10枚って考えたらそんな速いペースでもねーだろ」
速えよ。
てか俺、5時間も寝てたんだな。
正直、写すだけでもそのペースでいけるかどうか。
まあ半分以上は終わってんだけど。
「……はぁ」
「手伝おうか」
「いいよ。やろうと思えばそんだけ速く出来るってわかったし」
啓吾の場合だけれど。
そうこうしているうちにも、寮についてしまう。
先輩たち、啓吾がもう宿題終わらせたって聞いたら驚くだろうな。
「で、見返りになにくれんの、深敦」
見返り?
そんな話はしてませんけど。
なんだそれ。
どうしよう。
「……あと2日で無事に終わったら、夏休み最後の日、遊んであげる」
「なにそれ。まあいいけど。ってかそんくらい今日中に終わらせろって」
「お前と一緒にすんな」
「手伝ってやるから」
「だからいらんって」
「じゃあとっとと1人で今日中にやれよ」
「なぁもう、わけわかんねーよ」
「今日中に終わらせて、残り2日はだらだら遊ぼうってことだよ」
なんだ、啓吾くん、俺と遊びたかったのか。
素直じゃないやつめ。
「ま……まあいいけど。終わるかどうかわかんないからな」
「はいはい」
「……終わったら部屋行く」
「うん。じゃあ、またな」
……さてと。
今日は夜更かしして宿題やりますか。
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