4月2日
ハッピーバースデー♪



 今日は誕生日。
 数日前に和也くんから電話があって、春休み中だけれどデートすることになった。  

 嬉しいなぁ。
「久しぶりだね。朔耶くん」
「うん、久しぶりだね」
 なんだかドキドキしちゃう。
 学校でもなく、寮でもなく、こうやって外で会うの。

 電話ではしょっちゅう話してるけれど、半月ぶりくらい?
 その間、まったくHなこともしてないし。
 って、俺なに考えてんだろっ。
 今日、するの……かな。
 出先だし無理だよねっ?

 でも、最近してないし……。
 ああもう、駄目っ。
 変なこと考えないようにしよう。
 じゃないと、顔とか赤くなっちゃいそうだし。

 考えないように……そう思ってるのにね。
 なんでこんなに電車満員なの?
 
 春休みだから?
 目の前に和也くん。
 近い。
 ああ、駄目駄目っ。
 
 今日はしないっ。……たぶん。
 だって、無理だよぉ。
 するとしたら、ホテル……とか?
 そんなとこ入れないっ。

 考えないように。そう思うのに、正面にいる和也くんの足が俺の股間あたりに当たってくる。
 偶然なんだろうけど、すごいドキドキする。
「ん……っ」
 平常心平常心。
 ここで硬くしちゃったら、やばいしっ。

「……朔耶くん、酔った?」
「ど……して?」
「なんか、ぼーっとしてるかなって」
 やばい。感づかれちゃう。
「あ、大丈夫だよ」
「立ってんの辛かったら、俺にもたれかかっていいから」
 もたれかかっていいって。
 やっぱり優しい。
 電車の揺れに合わせる形で、少し体を引き寄せられる。

 あ。和也くんの匂い。
 って、俺なに考えてんだろ。
 もう嫌だ。
 でも、なんかね。変わったシャンプーみたいな匂いで。
 これ嗅ぐと和也くんだって感じがして。
 抱きしめられたときとか、Hのときとか、いつもふんわり香る匂いなんだ。

 駄目。
 ホントにボーっとしてきちゃったかも。
 俺の腰、和也くんが支えてくれてて、その手の感触だけで、体がやばいよ。
 そう思っていたときだ。
 もう片方の和也くんの手が、腰より少し下……お尻に触れる。
「っ……」
 違うよ、これは。
 俺の体支えてくれてるだけ。
 だけなのに。

 熱く……なってきちゃった。
 電車が揺れるたび、和也くんの足は相変わらず俺の股間にぐにぐに当たるし。
 
「っ…ぁっ……っ」
 もう俺……このままじゃ勃って……っ。
 やばいと思い、和也くんから少し距離を取ろうと試みるが、こんな満員電車の中じゃ無理だ。

 違うこと考えなきゃ。
 そうだ、これから行くところのこと考えよう。
 一緒に桜を見に行くんだ。
 ちょうど、桜祭りが開催されてるから。

 なんとか。
 なんとかHじゃないことを考えてやり過ごす。
 やっと駅着いたよ。
 助かった。

 人の流れに合わせるように俺たちも降りて。
 ほっとひと息。

「和也くん、カメラ持ってきてる?」
「うん、持ってきた」
 
 そんななんでもない話をしながら、桜の咲く公園へと向かう。
 うん。
 落ち着いてきたかな。
 落ち着いてはきたけど。

 せっかく久しぶりに会ったんだし。
 やっぱり少しはなにか……って、俺ホント、なに考えてるんだろ。
 変態?
 ううん、普通だよねっ?

 手……繋ぐとか。
 男同士じゃ変……か。
「朔耶くん、誕生日だしさ。なにか欲しい物とかある?」
「え……」
 つい一人で考え込んでいると、和也くんがそう声をかけてくれる。
 買ってくれるのかな。
「あ……どうしよう。すぐには思いつかないんだけど……」
「じゃあ、して欲しいこととか」
 して欲しいこと。
 そんな。
 ……エロいことしか浮かばないよぉ。
 和也くん、そんなつもりで言ったんじゃないだろうに。

 手、繋ぐ。
 さっき考えたことが過ぎる。
「……男同士じゃ、目立っちゃうし」
「なにが?」
「あ……そのっ……。ちょっと手とか……」
「繋ごうか?」
 嘘。
 恥ずかしい。
「見られちゃうよ。男同士で繋いでたらおかしいよ」
「……朔耶くんなら、女の子みたいになれるんじゃない?」
 どういうこと?

「帽子被って。スカート履いたら、ぱっと見、女の子に見えそうだなって」
 ……そりゃ、背もそんな高くないし。
 体もごつくはないし。

 帽子被ったら、女の子の髪型っぽくなりそうだし、自分でもいけるとは思うけど。

「……でも」
「そしたら、堂々と手、繋げるけどな」  

 和也くんと手繋いでデートとか。
 したい……けど。
「和也くんは? ……手……」
「繋ぎたいよ?」
「俺が……スカート履いたら、繋いでくれるの?」
「そうだね」
 どうしよう、女装だよ?
 でも和也くんも繋ぎたいって言ってくれてるし。
「する?」
 そう聞かれ、戸惑いながらも頷いてしまう。
 ……って、俺、ホントに大丈夫かなあ。
 でも、手、繋げるんだよっ?  

 とりあえず、一緒にショッピングセンター内の雑貨屋で帽子を選ぶ。
 深く被れるタイプのふわふわした帽子で、被った後、和也くんが俺の髪を帽子の間から出して整えてくれた。
「……うん、大丈夫。女の子に見えるよ」
「……ホントに? 大丈夫?」
「うん」
「じゃあ……スカートは無くても」
「一応、履こう?」
 やっぱり、履かないと厳しいよね。
 スカートも、一緒にお買い物。
 
 膝くらいの丈の。
 男女兼用の車椅子が入れるようなトイレでこっそり着替えてみたけれど。
 やっぱり恥ずかしい。

「あの、和也くっ」
「あ、着替えれた? じゃ、行こうか」
 トイレから少しだけ顔を出す俺の腕を引っ張ってしまう。
 やっぱり無理だって言おうと思ったのにっ。  

「っ……待ってっ」
「かわいい」
 な……っ。
 かわいいって。
 顔が熱くなる。
「嘘……手、繋ぎたくてこんなんしちゃったけどっ……気持ち悪いよねっ」
「大丈夫。しゃべらなきゃちゃんと女の子に見えるから」  

 ホントに?
 でも、手を繋いでもらえるとやっぱり嬉しいなって思えるし。

 緊張しながらも、手を繋いで公園へとまた足を進める。

 みんなの視線が怖くて仕方ない。
 これなら、男同士で手繋いだ方がマシだったんじゃないかって思えるくらい。

「ホントに……女の子に見える?」
「見えるよ。だからさ、もっと力抜いて」
 
 和也くんがそう言うなら。
 女装はともかくだよ。
 和也くんとこんな風に手を繋いでデートってのも初めてなわけだし。  

 ドキドキするよ。
 でも嬉しい。
 たくさん歩いて。
 桜の写真を撮って。  

 結構時間、経っちゃったな。
 辺りが暗くなると、みんなの視線が怖くなくなる。
 これだけ暗ければ、俺、完全に女の子だよね。

「朔耶くん、手繋ぐだけでよかった?」
 あ。
 して欲しいことってやつ?
 だから、そんなこと聞かれてもエロいことしか……っ。
 
 手、繋げて、いつもと違うデートが出来てすごい満足してたんだけど。
 どうせならって思っちゃう。
 なんて欲深いんだろ、俺。
 すごい心臓、ドクドクしてる。
 
「……俺……」
 ないなら今日はもう帰ろうってなっちゃうのかな。
 
 でもまだHしてないし。
 って、しなきゃ駄目ってわけじゃないけれど。
 昔、H避けてたのは俺の方だしな。
 
 でも、それは恥ずかしいからであって。
 本当はしたい。  

 この格好なら……ホテルとか入れるかな。