クリスマスは、彼氏と一緒に過ごしたい…
なぁんて、乙女チックなこと考えるようになっちまったのは、啓吾と付き合い始めたから…?

毎日毎日…
学校で顔をあわせて…
土日は、部屋に遊びに行ったり…

しょっちゅう会ってて、それが普通みたいになってたから、こんなに会えない期間が長いと、苦しくなるもんなんだよ。

夏休み…
あのころはまだ、それほど2人の関係が深くなかったというか…
それに、バテててあんまり、会えなくて寂しいだとか考えてなかったり。
秋とか冬とかって…
なんか、寂しくなる時期だよなって。
もとから1人だったらいいんだろうけど、相手がいるのに一人ってのがすごく寂しく感じていた。

冬休みに入ってから、もうずっと何にも話していなかった。
もちろん会ってもいない。
自宅の電話番号なんてものは聞いてなくて…。
無駄にいつもより、携帯の充電をしっかりチェックたり…
着メロの音量をあげて…
家の中でも持ち歩いたり、何度もセンターに問い合わせてみちゃったり…
なんて…女々しくて、恥かしい奴なんだろうと自分でも思う。

それでも、自分から携帯にかけることなんて出来なかった。
なんの用かと聞かれたら…?
用なんてなくって…
ただ、話したくて。
何を話したいのかもわからないけど、声が聞きたくて。

自分が、こんなにも寂しいのに…
啓吾は寂しくないの…?
それとも、俺みたいに…寂しがって、待っててくれてる…?
はじめは、何の連絡もなくってむかつきさえ感じていたけれど…
だんだんと、寂しさだけが付き纏って、不安になってきていた。

啓吾の家はどこらへんなわけ…?
全然知らない。
学校から遠いってことぐらい。
でも、それって俺の家の方向なのか、逆方向なのかもわからない。

寂しがってても、クリスマスはやってきて…
結局、何事もなく過ぎていく。

去年も、一昨年も…
何事もなく過ぎたクリスマス。
同じはずなのに、なんだか今年は違うんだよ。
こんなに寂しいクリスマスは初めてだった。


クリスマスが過ぎてからはもう、なんの気力もなく、ただただ、家でゴロゴロしていた。
掃除をしなきゃだとか考えても、結局やる気がおきなくって、コタツに入って寝てばっかり。

もう、明日は正月で…
今年が終わってしまう。

そんな時だった。
携帯の着メロが大きく響き渡る。
また、誰か友達だろ…?
期待して外すと、辛いから、あまり期待しないように…
そう思うけれど、やっぱ期待してしまってるのだろうか。
緊張が走る。
携帯を手に取ると、そこには、啓吾の名前が表示されていた。

「…啓吾…?」
『あぁ…深敦…? 出て来れねぇ…?』
なんで?
いつもならそう聞くけれど…
理由がなくても会いたいと思ったから…
なにも聞かずに出て行った。

待ち合わせたのは学校。
俺の家からも、啓吾の家からも学校は遠い。
それでも、共通で知っている建物だとかが、学校しか思いつかなかったのだろう。

街灯に照らされた学校の門にもたれかかる様にして、啓吾が俯きながら待っていた。
「…啓吾…」
「あぁ…久しぶり」
久しぶり…じゃねぇっての。
「…ギリギリセーフってとこ? もうすぐ12時」
啓吾は俺に腕時計を見せて示す。
あと5分くらい…。
「深敦ん家、結構遠いんだ?」
電話されて、すぐにでも家を出たけれど、それでも普段寮生活してるだけあって、俺の家は学校から離れている。
1時間以上はかかっていた。
「…啓吾ん家は俺ん家より近いんだ?」
「…さぁ…そーゆうわけでもねぇと思うけど…? 俺、こっから電話したし…」
そっか…。
携帯だから、どっからでも電話できるのか…。
「…って…お前、ずっとココにいたわけ?」
「だって、いつ深敦くるかわかんねぇし」
「…ばっかじゃねぇの? こっから電話したって…もし、俺が出て行けないっつってたらどうすんだよ」
「そんときはそんときで、まぁ、帰るし…?」
馬鹿…。
「…なんで…そんなに待つわけ…」
「待ちたかったからだろ…」
啓吾の考えることって…いつもいつもよくわからなかった。

トボトボとたいした会話もなく、鐘のなる神社の方に向かって歩きだした。
「…せっかく会ってんだから、もっと楽しそうにしろって」
啓吾にそう言われても…
なんだか、楽しく出来なくて…。
「だって…お前、馬鹿だもん…」
いつくるかも分からない奴を待つ?
こんな寒い中。
待ちたかったから…?
「なぁ…なんで、待ちたいわけ…? おかしいって」
「…待たせるより、待ってる方が良くねぇ? なんか、いつくるか…楽しみやん?」
だからって…
待ち合わせ場所から電話をするまで待たなくてもいいだろ…。
理解出来ない。
いつくるか楽しみ?
そんなわけないだろ?
不安で苦しくなる。


「…そう思うなら…待たせるなよ…」
今日、待ち合わせ場所に俺の方が遅く行ったのは事実だけれど…
冬休みに入ってから、ずっとずっと待ってた。
「…待ってた…?」
俺は、啓吾の方も見ずにそっと横に並んだままの状態で頷いた。
啓吾からの連絡をずっとずっと待っていた。
「…楽しくなんかねぇよ」
「…ん…。来るか来ないか…わかんねぇのを待つのは楽しくねぇわな」
今日は…?
俺が確実に来るってわかってたから、楽しいって?
「…今日…もしかしたら…途中で寒くて、行かなくなるかもしんねぇよ。そーゆうこと考えねぇの?」
「…来るだろ…? 行くっつったら深敦は来るだろ…?」
そんなに…俺って、信頼とか…されちゃってるんだ…?
「…行くけどさ」


「お前さ…待ってたって言うけど……。それはお互い様だろ…?」
お互い様…?
「…俺も…待ってたっての…」
そっと抱き寄せて…
「…でも、待てなくなった」
耳元でそう言うと、頬に手をあてて、そっと口を重ねた。

あぁ…俺も待ってて…苦しくて…
それでもなにも出来なくて、ただただ、不安に見舞われた。

自分から連絡して、それで付き合ってもらってもなんだかそれって無理やり付き合ってくれてるみたいで…。
だから、待っていた。

「…ま、俺はクリスチャンじゃねぇからクリスマスはこの際、いいよ。でも…正月は外せねぇだろ…?」
啓吾の理屈は相変らず理解出来ないけど、俺も…
年の終わりと始まりを啓吾と過ごせるのは、うれしかった。

「…ほら。12時過ぎた」
あぁ。もう、今年が去年になって…
新しい年…。
啓吾と出会った年が去年になってしまっていた。
去年…。
男同士の恋愛なんて考えられなくって…。
啓吾に会って。
ただ…ただ、信じられないことばっか。
啓吾のことが信じられなくって、
自分のことも信じられなくて。
こうゆう形の恋愛もあるんだなぁって…。
そう思った。

「今年も…よろしくな…」
恥かしくって、よろしくなんて言葉は言えなくて…。
頷く俺に啓吾は軽く笑うと、了解したように頭に手を置いた。

今年も…
いい年になりますように…。