少しして、携帯が鳴り響く。
…拓耶だ。
「もしもし?」
『もしもーし♪ 陸? 今から会えるかなぁ?』
そう元気よくいつものノリで拓耶は言う。
「いまから?」
『そ。急だけど。駄目?』
なんで?
拓耶も、俺と同じタイミングで?
違うだろ。
絶対。
俺が、部活中だと思ってるだろうに。
拓耶だって、部活中だろうに。
いつも、部活が終わってから、来てくれる。
つまりは、あと1時間か2時間くらいすれば会えるのに、あえてこのタイミングって?
そりゃ、こんな変なタイミングで訪ねたのは俺の方だけど。

優斗先輩…?
なにか、伝えたのかなぁ。
「どうして…?」
ついそう聞いてしまう。
『ん? 会いたいからだけど? 急に会いたくなったの♪』
俺は、そんなこと素直に言えたことない。
なにも出来なくて、背をむけたんだよ。
それなのに。

拓耶が俺に求めてくれる度合いが高すぎて。
俺はそれを返せてなくて。

しかも、もっと恋人らしい行為がしたいだとか願っていた自分を悔いた。
こんなにも求めてくれて。
足りないなんて、俺、おかしいんじゃないの?

「あ…」
会いたい。
そう言いかけて、声が続かなくて。
「…いいよ…」
そうとだけ、答えている自分がいた。
こんな暗い状態の自分、晒せたもんじゃないけれど。
会いたい。

『じゃ、行くから』
そうとだけ言って、電話が切れる。
行くからって。
どこに俺がいるか、わかってんの?
やっぱり、優斗先輩からなにか聞いたんだ…。

溢れる涙を拭って。
顔を洗おうとベッドから立ち上がり洗面所へと向かう途中。
インターホンが響いて、すぐにドアが開く。

「やっほー♪ 陸」
拓耶だ。
早…。
泣き顔、見られるじゃん…。

「拓耶……」
「今日はもう部活面倒でさぁ。早退しちゃった」
嘘つきだ。
そんなの絶対、ありえない。
毎日、楽しそうに美術部の話してくれるくせに。

拓耶は俺の体を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。
泣いてんの、気づいてるくせに。
拓耶は絶対、すぐには理由を聞いてこないやつだった。
拓耶なりの優しさなんだろう。

「陸も早退? 一緒だねぇ♪」
なにも答えられないでいる俺を、拓耶は責めなかった。
しばらく沈黙のまま時間が過ぎて。
拓耶に誘導されるようにベッドに座った。

「……どうした…?」
やっと。
拓耶はまじめな口調でそう俺に聞いた。
俺だけが知る拓耶だ。
よくわからないけれど、いっぱいいっぱいで、涙が溢れる。
そんな俺を見てか、拓耶はそっと手を握ってくれていた。

好きなのに。
こんなにもうまく行かないのは、俺が素直じゃなくて我侭なせいなんだろう。

「拓耶…」
搾り出した声は、聞き苦しく、みっともなかった。
「なに…?」
優しい声で俺に聞いてくれる。
「拓耶に…俺…我侭言ってもいい…?」
拓耶は、俺を抱き寄せて、
「いいよ」
そう答えてくれた。
「…拓耶が会いに来てくれたりするの、嬉しいよ。でもなんか、もっと…して欲しくて…」
声が震える。
そんな俺の言葉を聞いて、拓耶は俺をより一層強く抱きしめてくれた。

「陸…気づけなくて、ごめんね…」

拓耶の方が謝ってくれる。
そんなの、ありえない。

拓耶が気づかないのが悪いんじゃなくって。
俺が、なにも言わずに求めずに溜め込むのが悪いんだよ。

あいかわらずなにも言えず俯く俺の頬に触れ。
拓耶は自分の方へと俺の顔をあげさせると、そっと口を重ねた。

熱くて、ゾクゾクするようなキスだった。
舌が絡まって。
顔だけじゃない。
体中が熱くなる。
そっと俺を押し倒して、拓耶はじっくりと俺を見下ろす。
「なっ…」
いつもなら、目線をそらしてくれるのに。
今日に限って。
「なんで…っ」
恥ずかしくてたまらない。

「俺も、我侭言っていい?」
「っ………なに…それ…」
「陸のこと、もっと見たい」
もちろん拒むことなんて出来ないから。
俺は拓耶に見られたまま。

拓耶は俺のズボンと下着を脱がせて。
股間のモノをゆっくりと擦りあげてくれる。
「んっ…ぅんっ…」
顔を横に向けるけれど、視線が突き刺さる。
何度も擦られて、体中が熱くてたまらなかった。
「はぁっ…あっ…んっ…拓耶ぁ…っ」
「陸も…普段からもっと求めていいんだよ…?」
「だっめ…ぁあっ…んっ…はぁっ…ぁあっ」
「…いきそう?」
そう目を合わせて聞かれると、恥ずかしくてたまらなかった。
だけれど、逸らす事もできずに頷くと、拓耶は耳元まで顔を近づけて、
「いいよ」
そう伝えてくれる。
顔を見られないのは少しマシだった。

そのまま、横から拓耶に擦りあげられて、体が変にビクついた。
「あっ…拓耶ぁ…っんっ…あんっ…あぁああっっ」

拓耶の手の中へと自分の欲望をはじけだしてしまう。
放心状態だった。

恥ずかしくてたまらない。

俺の精液を纏った指先が、ゆっくりと、さぐりながら俺の中に入り込んでくる。
「ンっ…んぅンっ」
「力抜いて…。陸…」
「んっ…」
時間をかけて、ソコをほぐしてくれて。

拓耶は、俺のこと知ってるから。
心配してくれてるだろうけど、なにも聞かないでいてくれた。


指を引き抜いて、かわりに慎重に、拓耶のが押し入ってくる。
「くっ…ぅんんっ…ぁあっ」
「陸…。もちろん求めてくれるのは嬉しいけど…。陸が言うから…陸に合わせてしてるわけじゃなくって、俺も、したいんだよ…」

ほら。
俺が、自分に合わせてしてくれてるだけなんじゃないかって。
そう不安に思ってること、分かってくれて、ちゃんとそう言ってくれる。
頷いて、拓耶の手に指を絡めた。
「陸…好きだよ…」
「んなのっ…ぁあっ」
「今、言っちゃ駄目…?」
真面目な顔でそう言うもんだから、つい視線を逸らしてしまう。
「かわいいね…陸」
「っ嘘…っ」
「嘘じゃないって」
ゆっくり拓耶のが俺の中で出入りして、体が大きくビクついた。
「はぁンっ…んーっ…あっ」
「陸…好きだよ…大好きだから…」
俺の不安を取り除くように、拓耶は何度もそう言ってくれる。

こういう行為をしているせいももちろんあるけれど。
体中が熱くて、顔も熱くて。
恥ずかしい。
そっと目を向けると、拓耶は真剣な顔で、俺の体を眺めていた。

いつも、笑ってばっかで。
おちゃらけてて。
でも、俺の前では真面目な姿、見せていいんだよって、そう言ったのは俺だけど。

そんな顔、見せられたらたまらない。

「やっ…ぁあっ…んぅっ…拓耶ぁ…っ…あっだめぇっ…もぉっ」
「いいよ…。イこうか…」
「んっぁっ…あっ…あぁあああっっ」


拓耶のが、流れ込んでくる。
ぐったりと、俺に倒れこむ拓耶の背中に、そっと腕を回した。
「拓耶……」
「ん…?」
「ホントは…今日、美術室に行った…」
「うん」
「俺…拓耶が部活中だってわかってんのに、あっ……会いたくなって…」
言ってて、恥ずかしくて涙が溢れそうだった。
普段の雰囲気だったら、たぶん言えてなかっただろう。
やり終わったあとの、独特な、この雰囲気。
ほんわかするような、少し羞恥心から開放されるような。
和むような、こんな雰囲気の中だから言える。

「…拓耶のこと…上手く求められない…」
拓耶は、俺に抱かれたまま、俺の頭を撫でてくれる。

「どうして? いいじゃん。来てくれて嬉しかった」
「…部活の、邪魔しただけだよ…。拓耶は、ちゃんと、俺のこと考えて…会いに来てくれるのに…」
「実際は、陸、来てないし」
「恥ずかしかったから、顔出さなかっただけだよ…。もし、拓耶が一人だったら、やっぱり邪魔してたと思う」
顔を逸らす俺の耳に、拓耶は優しく口付けてくれる。

「邪魔だなんて思わないよ。陸に求められて、邪魔とか迷惑とか感じるわけないし」
「でも…っ」
「俺ね…。高校生活、陸中心に回ってるから」
また、そういう馬鹿なこと…。
いまは、冗談なんて言って欲しくないのに。
拓耶へと顔を向けると、予想外に、真面目な顔。
「な…拓耶…?」
「陸のためなら、部活辞めてもいいし?」
「…ばか……。そんな重荷になりたくない…」
「重荷じゃないって。当たり前。時間に従って、お腹が空いたり寝たり起きたりするのと同じ。陸に動かされんの、普通だから」
「また…邪魔するかもしれない」
「邪魔にならないよ。問題ない」
口角を上げ、笑ってくれる。
けど、もちろん、いつもとは違って。
真剣な拓耶だ。

「拓耶…あとで後悔すんなよ…」
「しないって」
「すごく…我侭になりそう」
「いいよ。大好き。…ねぇ。俺も、もっと求めていい?」
もっと?
これ以上?
「…なに…」
「あぁ、もちろん、迷惑かけないようにするけどっ」 <Br>不安そうに聞き返してしまった俺に対してか、慌ててそう付け加える。
拓耶は、全部、迷惑じゃないって言ってくれたのに。
「迷惑とか…考えんなよ」
「少しは考えるよ」
「拓耶、言ってること、矛盾してるよ…。俺のときと違う」
「陸はいいよ。なにしても、迷惑じゃないから」
……これ以上、言い合っても無駄だなぁ。
「…わかった…。俺も、拓耶が求めてくれること…迷惑なんて思わないから…」

そう言うと、顔をまた背けている俺の頬を撫でて上を向かせ、そっと口を重ねる。
舌を絡め取られて、体が熱くなるような、激しいキスだ。
「んっ…ぅんっ…」
俺の髪を拓耶の指が梳かしていく。
ゾクゾクして。
そっと口が離されて。当然のように、顔を横に向けようとした。
が、それを拓耶が手で制す。
両手で、俺の顔を優しく掴んで。
「見て…?」
そんな風に言うもんだから。
もちろん、拓耶の手を押し退けてまで、顔を横に向けることなんて出来ないし。
視線だけ、逸らすけれど、拓耶がこっちを見てるのがわかって、盗み見るようにした俺の視線とぶつかる。

「さっきも言ったけど…。俺、陸の顔、いつももっと見てたい」
真正面でそう拓耶は言う。
「あ…なんでっ」
「好きな人のことは、そりゃあ見たいでしょう…? 迷惑?」
今度はわざと、ちょっと冗談っぽく聞いてくれる。
真面目に聞いたら、俺が断れなくて困るの、わかってるからだ。
……どっちにしろ、拓耶にそんな風に言われたら、断れないけど。

「…迷惑じゃ…ない」
「ん。陸…好きだよ。陸は…?」
いつも、こんなの聞かないくせに。
俺が、好きだっての知ってるくせに。
不安なんて、感じてないくせに。今、言う必要ないのに、言わせたいんだろう?
……でも、拓耶が求めてることがなんなのかもわかるから…。

「…好き…」
拓耶に見られたまま。
目を合わせて、そう告げた。


『拓耶×陸』
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拓耶×陸で甘々か、悠貴×真綾とのことだったので、拓陸にさせていただきました♪
前半、甘々のラブラブオーラは出ておらず、陸が涙を流しておりますが、彼らの持ち味と思っていただければ…っ。なんとなく、最後は甘めに仕上げたつもりです(爆)
だいぶ前から書き出してはいたのですが、なかなか進まず、他の更新ばかりしてしまい申し訳ないですっ(汗)遅くなってしまいました…。
今回、この子達にとってHをするのはポイントですが、精神的なモノでありエロさは重要視していないため、あえて軽めの描写でスルーしております。

果菜子さんへささぐvvリクエストどうもありがとうございましたvvvv