『拓耶×陸』
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一応、読みきりですが、本編を読んでいただいてからの方が、 よいかもです。




俺って、そこまで性欲の強い人間ではないのだろう。
まったくないわけじゃないけれど。
そこまでやりたいとか思うわけじゃなくって。
ただ、傍にいれたら幸せで。
あったかくって。
それでいいと思うから。

だけれど、拓耶が求めてくれるのなら応えたいって思うし。
もちろん、気持ちいいわけで。
嫌ではない。

体の問題じゃないだろう、こういうのって。

自分が欲求不満だからじゃなくって。
ただ、求めてもらえるのが嬉しくて。
一番、近づけて。

拓耶の方も、ものすごく俺のこと気遣ってくれるから。
体だけじゃないんだなってのが伝わるし。


だから。
拓耶とやるのは好きなんだろう。
好かれている実感が持てる。


つまり、やりたいというよりも、求められたいわけ。

拓耶は、俺の性欲が強くないことをわかっている。
だから、手を出すこともほとんどない。

以前、手を出されて、Hして。
たぶん、それで俺らは、少し満足する部分があったんだろう。

いままでは、体の関係がないことに不安を感じてて。
それは、俺も感じていたし、拓耶もだろう?

俺らが、H出来たことで、その不安から開放されて。
1つ、壁を乗り越えられた。

拓耶はそれで、満足なんだろう。
俺と出来たって。
そういうのがあって。
もちろん、俺もそれで、すごく嬉しかったけど。

でも、駄目みたい。
定期的に欲しいというか。

また、不安になる。


どうして、してくれないのかって。
聞けたらラクだけれど、そんなの理由もわかってる。

拓耶は、俺が求めないから。
それに合わせてくれているんだろう。

拓耶が悪いわけじゃない。

少し。
通じてないなって気がした。

一回出来て、それで満足って?
おかしいよ。

だけれど、拓耶は拓耶なりに、俺のことわかってて、考えてくれてて。
それがこの結果。

もちろん、拓耶に不満を持つことはなかった。
俺が、拓耶に伝わるように。
なにか行動を起すべきなんだろうって思う。

だけれど、どうすればいいのかわからなくって。
少し、憂鬱になっていた。

拓耶の方だって、そこまで性欲が強くはないのだろう。
というか、普通。

俺は嫌がらないよ。
でも、普段、欲しがったりもしない。
だから、やりたがらない俺を、自分に付き合わせるのは悪いなって考え方でもしてくれてるんだろう。
それでいて、拓耶自身も、それほどやりたいと思わないのなら、俺らがやる必要性というか、利点というか。
そういうものが見当たらなくって。

いままでも、散々体の付き合いなくして、ここまで長く付き合ってきていたから。
いまさら。
ないと不安だと、俺が思っているだなんて。
拓耶は考えてないんだろう。


俺って、こんなにマイナス思考だったっけ。

俺相手じゃ、よくなかったかな……なんてことを考えてしまう。
そんなことはないはずだと思うけれど。
手を出さない理由はそんなんじゃないって思ってるけれど。

少しだけでも可能性があるのなら、悪く考えてもしまう。


帰りのSTが終わって。
バラバラと生徒が教室から出て行く中。
「陸……なんか、元気ない…?」
すごく不安そうに声をかけてくれたのは担任の宮本先生だった。

わかってしまうんだろうか。
「…俺、そんなに違いますか…?」
「いや、違うっていうか。もしかしたら元気ないかなって思って…。
そっとしておいた方がいいのかなとも思ったけど、陸には俺もいろいろ相談に乗ってもらったこともあるし、やっぱり気になって…っ」
宮本先生って。
まだ、先生という職業に慣れてない感じ。
すごく初々しいというか。
好感が持てる。
俺は好きだった。

確かに、わざわざ声かけてくれなくてもいいよって、他の先生なら思うかもしれないけれど。
宮本先生は、そういうの全部考えてくれている。
声、かけない方がいいかなぁって思いながらも、迷いに迷って、声かけてくれたんだなってのが伝わるから。

いつも、素直に相談することができた。
宮本先生とは結構、価値観が合うような気もするし。

「……ちょっと、恋愛のことです」
「恋愛…」
宮本先生は、俺が拓耶と付き合っていることを知っていた。体の付き合いがあることも。
俺も、宮本先生には柊先生という相手がいることを知っている。

お互いに、知られているということもわかっていた。
「……求めて欲しいなって。そう思っちゃうことありますよね」
「求めてっていうのは……精神的なモノ? それとも…肉体的な…」
「…肉体的なものです。というか…肉体的に求めてもらえて……そういうのがあってやっと、求めてもらえてるんだぁなって、精神的に理解できたり…するんですよね」
宮本先生は、優しく息を吐いた。
「…肉体的なつながりがないと……精神的に不安だってこと…?」
そう解釈してくれる。
やっぱり。
俺らの考えることってたぶん似てて。
すぐ伝わってしまうんだろう。
「そうです…。でも、拓耶は、俺を気遣って、そういうことしないでいてくれるんですよね。お互い別にやりたいわけではないと思うんです…。ただ、不安に思ってしまうわけで…」
「あ…でもそれは分かるよ…。俺の場合は…柊先生って、別に性欲がそう強いわけではないんだけど、でもよく手を出してきて…。だから、不意になくなるとたぶん、俺は不安でたまらないと思うんだよね。ただ、自分がやりたいわけでもないし、自分から誘うこともできなくって。でも不安だから、して欲しいって思うわけで……そういうことだよね…?」

宮本先生は、自分を例に出して、そう言ってくれる。
ものすごく、同意見で、なんだか嬉しくなってしまう。
わかってもらえた…?
そうなんだよ。
やりたいわけじゃなくって。
して欲しいんだよ…。

「そういうとき…どうすればいいんでしょうね…」
そういう俺に対して、宮本先生は考え込んでくれる。

「…でもね、もしかしたら相手も、待ってくれてるかもしれないよ。陸から求めることは今まであった? …肉体的なことじゃなくって、精神的なことでもいいんだけど」
俺から。
…思えば、俺っていっつも受身で。
拓耶から求められてばかりで、自分からは…告白したときだけかもしれない。
「…もしかしたら、拓耶は俺とやって、気持ちよくなかったのかもしれないって…不安で…」
「そんなことはないんじゃない? 二人、両思いで付き合ってるわけだし…」
「…気持ちよかったとしても、俺以外の…元彼相手の方がよかったとか…あるかもしれませんよね…」
俺が考えている不安要素を打ち明けると、宮本先生は優しく頭を撫でてくれた。

「気持ちいいって感じるのは体だけど、それを考えるのは頭なんだよ。だから精神的なモノって大きいと思うし…。陸を好きで相手しているときに、そんな前がどうとか考えてないよ、きっと」
宮本先生って優しいなぁ…。
「ありがとうございます…」
「あ…なんか、俺、生意気なこと言っちゃって申し訳ないけどっ」
ホント、なんかかわいい人なんだよな。
俺より何年も長く生きてて、先生で。
それなのに『生意気なこと言っちゃって』って。
普通、言わないよ。
「陸…。素直にさ…いろいろ言ってみた方がいいかも…」
「素直に…?」
「そう。不安なら不安なこと、伝えてみたら?」
不安なこと。
そうだよな。
俺ら、いままで隠し事なんてなかったのに。
今は自分の気持ち、隠してる。
そんなのおかしいよ。

だけれど、求めて欲しいって、どう伝えればいい?

これ以上、宮本先生に聞くことも出来ず、とりあえずお礼を言って、部活へ。

部室である科学室には、顧問の柊先生がいた。
つまりは宮本先生の彼氏だ。

この人は、本当に宮本先生にベタ惚れって感じだから。
いつもいつも、宮本先生のこと求めてる気がして。
まぁ、勝手な想像の部分もあるけれど。
でも、俺の目から見て。
そう思えるんだよ。

宮本先生がうらやましいだとか思ってしまう自分に恥ずかしくなる。
別に、拓耶がなにもしてくれないわけじゃない。
しょっちゅう部屋に来てくれる。
メールだってしてくれるし電話だって。
あぁ。俺はいったいなにが不安なんだろう。

拓耶に他の相手がいるだとか、そんなこと不安に思っているわけじゃない。
ただ、肉体的に求められないことで、友達と恋人の境界線がわからなくなったりするわけだ。

もちろん、肉体的なつながりはあるけれど、友達同士だって人たちもいる。
逆に、肉体的つながりがなくても、恋人同士だと。
そういう関係があっても、おかしくはないだろう。

おかしくはないんだけど。
友達よりも上の存在が恋人だと思うから。
だとしたら、友達がしてることを出来ないのは、おかしいのではないかと思うわけで。

その行為を避けていたのは俺だけど。
だからこそ、拓耶はいま、あまりやらないでいてくれるのだろうけど。

…恋人同士なんだし。
恥らう必要なんてあるのか?
そりゃ、その行為自体は恥じらいを持つかもしれない。
だけれど、拓耶としたいって思って、悪いわけ?
悪くないだろ。

俺から求めたことなんてなかった。
それなのに、求めて欲しいとだけ願い続けるのは我侭なのだろう。

「すいません…先、帰ります」
気が気じゃなくて、そう柊先生に伝える。
「…はい。大丈夫?」
「…大丈夫ですよ」
なんとなく、そっけなくそう答えて。

美術室へと向かった。

とはいえ、いま、他の部員たちがいる前で、拓耶を呼ぶわけにはいかないだろう。
恥ずかしいし。
拓耶だって、恥ずかしいかもしれない。

携帯で呼ぶことも出来るけれど。
いま、部活中じゃんか。
俺はよく早退するから平気だけれど。
それに拓耶を付き合わせることなんて、おかしいだろ。

求めるのと、我侭って。
微妙なラインだなぁなんて思ってしまう。

美術室の前まで来て、少しだけ立ちすくむ。
結局、拓耶を呼び出せないまま。
ユーターン。

恥ずかしくてなにも出来ない自分と。
それでも求めて欲しいだとか、求めたいだとか思ってる我侭さと。
行動が伴わないイラつきに、泣きそうになっていた。
いまにも涙が溢れそう。



「あれ? 陸ちゃん?」
寮へと戻ろうとする途中、そう声をかけられ、反射的に顔を上げてしまう。
俺、泣きそうな顔してんのに。
優斗先輩だ。
拓耶の部…美術部の部長。
それがわかってなのか、俺の顔をみた瞬間に、優斗先輩は表情を曇らせた。
「…こんにちは」
少し目線をそらして、なんでもないフリをしてそう答える。
「…どう…したの?」
「え?」
「なんか…辛そうだけど」
「ちょっと頭痛が酷くて…」
苦笑いしてそう答えるが、信じてもらえたかどうかはわからない。
「あ。拓耶に会いに来たの?」
俺が美術室の方向から帰ってきたからか、そう聞いてくれる。
「違いますよ。…図書館に少し寄ってたんです。頭痛いから、今日は部活サボって帰ろうかと」
図書館は美術室と同じ方面だから。

「そっか。じゃあ、気をつけてな」
そう言って、手を振ってくれた。

また。
嘘つくほどのことかよ、俺。
求めてなにが悪いのかって。
優斗先輩の言うとおり、本当は拓耶に会いに来た。
優斗先輩に引き合わせてもらえばよかったことなのに。

そりゃ、拓耶が部活中なのに、呼び出すのもどうかと思うから、やっぱり駄目だと思うけど。
それならそうで、『会おうと思ったけど、部活中なんでやめます』とか言ってもよかったし。

やっぱり泣いてしまいそうで。
俺は走って寮へと戻った。

幸いにも、ルームメイトの雪は部活中なのだろう。
俺は一人。

ベッドに寝転がる。

俺って、どうして上手く求められないんだろう。
拓耶は、ちゃんとわかってて。
俺が暇なときに来てくれて。
電話くれて。

俺なんか、部活中に邪魔するみたいなタイミングで訪ねてしまって。
結局は、会えてないけれど。
突発的に、求めたいと思ったとき、あとさき考えずに行動に出てしまうから、タイミングが悪いのだろう。

拓耶は、俺とは違うんだってわかった。
俺のこと考えて、求めてくれてるんだ…?

それがわかって、嬉しくて。
自分が出来ないことに、悔しくて涙が溢れた。