桐生の家に来たら、することになるのはもちろんわかってた。
というか、そういうつもりで声をかけたわけだし。
してくれなきゃ困る。
移動中の車で、桐生が俺に触れてくれることはなかった。
すぐ2人で部屋にあがるのに、車の中で見つかるリスクをおかしてまでなにかすることもない。
これだけ待たされたんだから、あと5分や10分、伸びたところで変わらないだろう。
そう思いたいけど、実際は、1秒でも早くなにかして欲しい。
また焦らされているような感覚に陥りながら、桐生に促されて部屋にあげてもらう。
「適当なとこ座って」
そう言われて、俺はソファに座らせてもらった。
上着を脱いで、ネクタイを緩める桐生の姿を見つめる。
オンからオフに切り替わる姿を見せてもらえている気がして、なんだか気恥ずかしい。
「雪之、お風呂入ってきたよね?」
「入ってきましたけど……」
「じゃあ、俺も入ってこよっかな」
「え……」
つい顔をあげてしまう俺を桐生が見下ろす。
「なに?」
まだ待たせる気かと、少しもやもやしたけれど、たぶんわざと焦らしてるんだろう。
俺から欲しがるまでくれない気だ。
とはいえ、風呂より先に欲しいなんてことも言いづらい。
「なんでもないです」
そう告げて、じっと待つつもりでいたけれど、体の方はすでに期待しすぎていた。
桐生もそれに気づいているのか、俺の正面から体をかがませて右耳に顔を近づける。
「待てそう? もう反応しちゃってるみたいだけど」
桐生の吐息を感じて、体が震えそうだった。
ゾクゾクして、それだけで気持ちいい。
「ん……待てないっつっても、待たせんだろ」
「……どうしようかな。学校のあとは、ちゃんと我慢した? 1人でしてない?」
「してない……」
学校で散々煽られたけど、桐生の言いつけ通り、抜かないできた。
「へぇ……イイコだね」
あいかわらず俺の耳元で囁くように話しながら、桐生の手がズボンの上から俺の股間に触れる。
「あ……」
「ああ……すご。いつからおっきくしてた?」
いつからだろう。
車に乗せられたときから?
家に入ったときから?
もうずっと前から期待してたし、欲しくてたまらなかったし、何度、反応したことか。
大きくなってしまっている形を確かめるみたいに、股間のモノを手のひらで包み込まれて、腰がびくりと跳ねた。
「んん……!」
そのまま腰を少し浮かせると、桐生の手がそこを撫でてくれる。
「あ……んん……」
欲しかった刺激がもらえて、つい腰を揺らしてしまう。
「はぁ……ん……ん……」
「なにしてんの? 俺の聞いたこと答えてくんないし。また1人H?」
気持ちよくて、ついさっきのことなのに、なにを聞かれたのか頭が働ない。
ただ、1人Hのつもりはないと、首を横に振った。
「んー……ん……く、ん……!」
「俺の手にいっぱい擦りつけてるくせに。腰とまんない?」
桐生の言う通り、腰がとめられなくて、何度も何度も擦りつけてしまう。
すごくはしたないことをしている自覚はあった。
でも、ここには桐生しかいない。
学校でもないし、こういうことをしていい場所だ。
「はぁ……はぁっ……ん、んん……」
「はい、腰とめて」
「はぁっ……ん、んんっ……やっ」
「いやなの?」
俺は頷いて、腰を揺らし続ける。
もっと味わいたい……そう思ったのに、桐生の手が、すっとそこから離れていく。
「あ……」
これでは腰を振っても意味がない。
「学校ではちゃんと我慢できたのに。できなくなっちゃった?」
できない……というより、する必要性を感じない。
「したく……ない」
「そっかぁ」
俺の話を聞いてくれているようで、結局なにもくれない桐生に苛立ちを感じる。
それと比例して、桐生が欲しくてたまらない気持ちが膨れ上がっていくようだった。
「そこ、どうなってんの? 見せてよ」
桐生は俺の右隣に横向きになって座ると、股間に視線を落とす。
「なんで……」
「……つーか、どうせお前、見て欲しいって思ってんだろ」
「思ってない……」
たぶんだけど。
「今日学校で、いっぱい欲情してるの気づいて欲しいって、めちゃくちゃアピールしてきたくせに」
してない。
してない……はず。
でも、気づいて、察して、なにかして欲しいと思ったのは事実だ。
「雪之がして欲しいこと、俺は全部するつもりだけど。雪之は、俺がして欲しいこと、してくれないの?」
桐生がして欲しいって思ってくれるなら、それに応えたい気持ちはある。
あるにはあるけど……。
「桐生がして欲しいことじゃないだろ」
「して欲しいよ。見せて欲しいな」
しろって……見せろって、命令すればいいのに。
見せて欲しいなんて言われたら、断り辛い。
どうせわざとだろう。
これじゃあ桐生の思うツボだ。
わかってはいるけど、俺も、はやくどうにかして欲しい。
見せたらどうにかしてくれるかもしれない。
恥ずかしい気持ちも、屈辱的な気持ちもあったけど、それどころではなくなってきた。
仕方なく、ズボンのボタンを外してチャックをおろす。
躊躇したけれど、結局、下着をずらして性器を取り出した。
「はは。すごい大きくなってる。どうして欲しいの、それ」
抜いて欲しい、なんて言っていいんだろうか。
迷っていると、桐生は左手で俺の頭を撫でながら、右手の人差し指で先端をつついてきた。
「んん、ん!」
「かわいいね、雪之ちゃん。さきっぽから、お汁出てきてる」
桐生は、出てしまっているものを見せつけるみたいに、先端に触れた指を離して糸を引かせる。
「あ……」
何度も何度も、桐生の指が優しく先端に触れるたび、どんどん溢れてきて滴り落ちそうなくらいだった。
「ふぅ……う……ん……んん……」
ぺたぺたと、指でノックするみたいに触れられる感触が気持ちよくて、もっと欲しくて、また腰が浮いてしまう。
「じれったい?」
「ん……う、ん……」
もっといっぱい擦ってくれたら、すぐにでもイける。
そんなことは、桐生も当然、わかっているだろう。
桐生にとって、俺を気持ちよくさせることなんて簡単だ。
簡単なのに……とっとと済ませてしまうことだってできるのに、いっぱい、ゆっくり、感じさせてくれる。
そう思うと、たまらなくて、頭が桐生でいっぱいになってしまう。
「ああ……ん……んぅ……んー……」
ときどき、ご褒美みたいにほんの少しだけ強めに先端を押さえてくれて、すぐさま指は離れていく。
そのたびに俺は、追いかけるみたいに腰を浮かせて、恥ずかしい姿を晒す。
「はぁ……はぁ……ん……」
「どうしたの、そんなに腰くねらせて」
欲しい。
けど、すぐイきたいわけでもない。
長く桐生を味わいたくて……つまりは、焦らされたいのかもしれない。
気持ちが矛盾していて、自分でもよくわからなかった。
「ん……さわって……」
「触ってあげてるよ。ほら……いっぱい溢れてるとこ、とんとんって」
「ん、ん……もっと……ぁあっ、あっ……ん、んん、ずっと……!」
「ずっと触れてて欲しいんだ?」
俺の要求をのむみたいに、桐生の指が亀頭に触れて、軽く押さえつけられる。
でも、それだけで、撫でてくれたり擦ってくれたりはしない。
「はぁ……あっ……んん、ふぅ……」
少し腰を浮かせると、桐生の指で先端が撫でられて、じんじんと痺れるみたいな快感が走った。
「ぁあっ……んん……」
もどかしくてじれったい刺激だけれど、ズボン越しとは違う。
直接、触れられている。
桐生の指を求めて、また何度も腰を揺らしてしまう。
「はぁ……ん……ぁっ、あっ、んぅ、んー……」
与えてもらえたわずかな感触を最大限に感じたくて、桐生の指先に集中する。
集中して腰を揺らし続けると、桐生に触れられている一点が、ものすごく敏感になっていくのがわかった。
「ぁあっ、あっ……んんぅ……ぅんっ!」
「気持ちい?」
「はぁっ、ぁう……きもちぃ……あぁ、ぁん……あっ」
「いいよ、もっと声に出して言いな。言った方が感じられるだろ」
たぶん、口にすることで自覚するんだろう。
気持ちいいか聞かれて、気持ちいいって口にすると、それを理解して気持ちよくなれる。
もしかしたら、自己暗示に近いなにかなのかもしれないけど。
「ぁあっ、あっ……んぅう……いぃ……きもちい……はぁっ……あっ、あぁ……そこぉ……」
「うん……さっきよりいっぱい、ぬるぬるになってきちゃった。どうして?」
どうして?
「はぁ……あっ……わかんな……」
「いつもは俺が教えてあげてるからなー。今日は自分で考えようか」
なんで?
どうしてこんなにぬるぬるになってるか。
「う……はぁ……あっ、あっ……感じて……んん……久しぶり、で……」
「うん、それで? 久しぶりでどうなってんの」
「ああっ……ん……いつも、より……ぁあっ、あん、あっ、あっ!」
「言おうとすると、いっぱい感じちゃうね」
桐生の言う通り、やっぱり口にしようとすると、体が反応してしまう。
いつも桐生が言わせるのも、それが狙いだったのか。
「雪之、ちゃんと教えて?」
俺が腰を揺らして桐生の指に撫でつけてたのに、今度は少しだけ桐生の方から撫でてくれる。
「あぁあっ……あっ、あっ!」
「いつもより、なに?」
「はぁっ、あっ……敏感に……ぁん、んっ……桐生のゆび……ん……きもちい……あっ、いく、いくっ」
いきそうなときにいくって言ってしまうのも、桐生に言わされてるからだって思ってた。
でも、これも、自分を高めるためのものだったのかもしれない。
「はーい……じゃあ、指離しちゃうね?」
駄目。
欲しい。
そう思っても、さっきまで触れてくれていた先端から、桐生は指を離してしまう。
「はぁ……はぁっ……や……」
頭を撫でてくれていた手で桐生の方を向かされると、桐生と目が合った。
興奮してる目。
その目で見つめられた瞬間、体がゾクゾクして、まるで触れられてたときみたいに、性器がじんじん疼く。
「あっ……あっ……んぅ、ん!」
「なに? 言える?」
「うっ……いく……」
「触ってないよ」
わかってる。
恥ずかしいのか、焦らされて苦しいのか、わからないけど涙が溢れて、そんな俺を見ながら、桐生はさっきまで俺のに触れていた指先に舌を絡めていた。
「あぁっ、あっ……ん、んぅ……!」
「いいよ。しっかり見てあげる。ほら、もう1回、言って? いくいくーって……」
涙で視界がにじむ中、桐生の視線が、また性器に向くのを理解する。
たぶん、からかわれてる……でも、桐生も興奮してる。
「んん! ぁっ、ん、くぅ……ん……いく……いくぅ……んんっ、んぅんっ!!」
興奮している様子の桐生に見られて、言わされた瞬間、俺は我慢できずにイってしまっていた。
せっかく焦らしてもらったのに、自ら終わらせるなんて、こんなの望んでない。
桐生のこと、もっと感じてイキたいのに。
「はぁ……はぁ……ん……や……」
「……ホント、雪之ちゃんえらいよねぇ。自分で触って擦ればいいのに。じゃあ、イッちゃったし、いったんやめようか」
俺は、ダメだと首を横に振る。
「大丈夫。また焦らしてあげるだけだからね」
ここでいったんやめるけど、本当は続いてて、焦らしてくれてるってこと?
「終わって、ない……?」
「終わらせるかよ。イッちゃったから、もっと焦らすだけ」
目元にキスを落とされて、また、桐生が欲しくてたまらない感覚がよみがえってくる。
ずっと欲しいままだけど、一度イッて、少しだけ落ち着きかけたのに。
「ぁ……ん」
「次は根元縛っとく? また前みたいにリボンつけて、かわいくしようか」
「ふざけ……」
「ふざけてないよ。それとも、なにもされないで待ってる?」
なにもされないで、ただ待たされる?
それも嫌で、俺は小さく首を横に振った。
俺の答えを確認すると、桐生は立ち上がって机のある方へと向かう。
なにもされないのが嫌ってだけで、結んで欲しいと答えたつもりはないけど。
戻って来た桐生の手には、リボンが握られていた。
「……縛られるの、期待してんの?」
桐生が俺の下肢に視線を落として、少し笑いながら言う。
気づくと、俺のモノはまた勃ちかけてしまっていた。
「ちゃんと、いけなかった、から」
「ああ、イききれなかった? でも、まだすっきりしちゃいたくないだろ。もっと味わいたいよねぇ」
自分でもよくわかっていない感情を、桐生は明確にしてくれる。
ここですっきりしたくはないし、もっと味わいたい。
桐生に言われて自覚したのかもしれないし、そう思わされているのかもしれない。
結局、勃ちかけているモノの根元に、桐生がリボンを絡めてくれるのを俺は止められないでいた。
きゅっと根元を縛られた瞬間、体が小さく跳ね上がる。
「んん……」
「ふっ……今日はもっとかわいくしようねぇ」
どういう意味かわからないでいると、桐生は、根元を縛ったリボンとは別のリボンを、竿にクルクルと巻き付けていく。
「あっ……なに……」
「こっちの方がかわいいし、じれったくない?」
根元だけ縛られて、ただ我慢すればいいのとは違う。
竿を緩く圧迫される感触は、心地いいとさえ感じた。
桐生が巻きつけてくれたリボンだと思うと疼いてくる。
「おっきくしたら、もっと気持ちよくなっちゃうかもしれないね」
桐生は俺の頬に手を添えると、顔をあげさせて口を重ねた。
「ん……ふぅ……」
たっぷり舌を絡めてくれて、俺がその気になってきたところで、桐生は容赦なく顔を離す。
「雪之の髪、いい匂いするね。シャンプーの匂い? じゃあ、俺もシャワー浴びてくるから、待ってて」
こんな状態で待ってろだなんて、あきらかに嫌がらせだ。
眉を顰めると、それに気づいた桐生が、にっこり笑った。
「ああ……ドMの雪之ちゃんは、かわいいかわいいってしてあげるだけじゃ足んなかったかぁ」
わざとらしくそう言うと、緩めるだけ緩めて首にかかったままのネクタイを引き抜く。
「手、縛られたい? それとも目、塞がれたい?」
「……いらない」
「手は縛られ慣れてるだろうから、目塞ごうか。初めてだっけ」
これまで目を塞がれたことはない。
どうせ桐生がこの場からいなくなるのなら、見られるわけでもないし、どうでもいいような気がしたけど、いざ桐生が1日つけていたネクタイが目元に触れると、妙にドキドキしてしまう。
頭の後ろで、きゅっとネクタイが結ばれて、真っ暗な視界の中、耳元で桐生の吐息を感じた。
「ベッド、運んであげるね。力抜いて」
どうすればいいのかわからないでいると、桐生が俺の体を抱えてくれる。
「ん……」
手探り状態で、俺は桐生の胸元に顔を埋めた。
「おろすよ」
柔らかいベッドの上に寝かされているのだと理解する。
桐生のベッド……当然ながら、桐生の匂いがした。
「どう、すれば……」
視界も暗いし、初めての状況で少し混乱する。
「ただ、俺がシャワー浴び終わるまで待つだけ。ネクタイもリボンも、ちゃんと取らずに待ってられたら、いっぱいかわいがってあげる」
両手は自由なまま。
ネクタイもリボンも、簡単に取れる。
そうやって、どうにでもできる状態にしておいて、それでも我慢させる気だ。
「雪之なら、できるよね?」
まるで試されているみたい。
「ん……」
小さく頷くと、桐生は俺の口を塞いで、舌を絡めてくれた。
「ん……んぅ……」
すごい……前にしたキスより感じる気がする。
自分から目を伏せてするキスとも違う。
視界を強制的に奪われるだけで、こんなにも感じ方が違うらしい。
「はぁ……あ……ん、ん……」
いっぱい舌を絡ませられて、桐生の味が口内に広がっていく。
「んぅ……んー……」
「ん……じゃあ、待ってて」
もっと欲しい……そう思った瞬間、口が離れてしまう。
抱き寄せていたら、なにか変わっただろうか。
……引きはがされて、終わるだけかもしれない。
俺の頬に触れていた桐生の手も、離れていく。
桐生の気配……足音が、遠ざかっていく。
それでも、桐生が普段使っているベッドや、ネクタイ、リボンの感触は残ったまま。
さっきまで触れられていたところも、まだ余韻が残っていた。
ネクタイもリボンも、取るはずがない。
桐生が『できるよね』って、期待してるから。
捨てきれていないプライドか、ただ期待に応えたいのか、自分でもよくわからないけど。
なにより、桐生にしてもらえて、与えられたものを手離したくはない。
結び直したら、それは桐生がくれたものじゃなくなってしまう。
だからこのまま。
「はぁ……」
桐生はここにいないのに、心も体も桐生に支配されてるみたい。
昂ってきてしまうのを、俺は抑えられないでいた。
|
|