「ねぇ、芳春。おすわり……できる?」
 耳元で囁くように優しい口調で言われて、体が強張る。
 唐突過ぎるんですけど……。
 おかげで反応が遅れてしまう。
「……え?」
 聞き返すように右を見ると、柊先生はにっこり笑って、俺の頭を撫でてくれた。
 冗談か、聞き間違いか。
 少しほっとしたのもつかの間、
「おすわり」
 そう改めて言われてしまう。
「な……」
 なに言ってるんですかって、言おうとしたけれど、冗談じゃないのかもしれない、そんな気がして言い留まる。
 そういえば、柊先生は飲み会でお酒を飲んできた状態だ。
 酔っちゃったみたいだって言ってたし、少し、気が大きくなったりしてるのかもしれない。
 酔った柊先生を見られるなんて、すごく貴重だ。
 電話越しに酔ってるっぽい柊先生と、話したことはあったけど。
 あのときは、少し意地悪だった気がする。
 それ以外は、いつも俺の方が酔っちゃって、柊先生の様子を窺う余裕はない。
 いまなら、酔った柊先生のこと、ちゃんと知れる……?
「できない?」
 できないって答えて、それで終わってしまうのは惜しい。
 終わってしまうかどうかもわからないけど、とりあえず俺は首を横に振った。
「でき……ます」
 そう伝えた後で、ふと気づく。
 従順すぎるのは、あまり柊先生の好みじゃなかったような。
 なにが正しいのかわからないまま、俺はソファの上で正座してみる。
「うーん……」
 なにか違ったのか首を傾げられてしまい、俺もまた首を傾げた。
「えっと……」
「それじゃあ、エサもご褒美もあげらんないなぁ」
 おすわりってことは、たぶん、俺のこと犬みたいにしたいんだろう。
 でも正座をすると、俺の方が柊先生より少し視線が高くなってしまう。
 だったら、床?
 俺はソファから降りると、近くに敷いてあるラグマットの上で正座してみることにした。
「あの……こんな感じでしょうか」
 足を開いて、浅く座り直した柊先生が、俺を手招きする。
 そもそも正座が正しいのかどうかもよくわからないけど、柊先生の足元に近づくと、優しく頭を撫でてくれた。
 頭を撫でられるなんてそうそうないし、褒められた気がして嬉しくなってしまう。
 撫でられるがまま視線を落とすと、柊先生の股間が視界に入った。
 じっくり見るつもりはないけど、頭は撫でられたままだし、視線を逸らせる距離じゃない。
 柊先生のは勃っているみたいだった。
 なんで、もう勃ってるんだろう。
 一応さっきキスはしたけど、俺みたいに触られたわけじゃない。
 わからないけど、興奮している様を見せつけられて、したくなってしまう。
 そもそもこっちは、さっき煽られたにもかかわらず、焦らされてる状態だ。
「えらいね、芳春」
 普段、俺のこと宮本先生って呼ぶし、敬語で話してくれるのに。
 タメ口で名前で呼ばれて、より一層、その気にさせられる。
 そんな中、柊先生は俺の目の前でベルトを外しはじめた。
「さっき芳春も見せてくれたし、俺も見せるね?」
「あ……えっと、はい」
 見せて欲しいわけでもないけど、柊先生がそのつもりなら、拒む理由はない。
 ズボンのボタンが外されて、ゆっくりチャックが下ろされる。
 下着がずらされると、すでに大きくなった柊先生のモノが、目の前に現れた。
 もしかして、意外と見られて興奮するタイプなんだろうか。
 というより、見せたときの相手の反応で、興奮できるタイプなのかもしれない。
 俺は大した反応できないけど。
 視線を逸らした方がいいのか、見たままでいいのか、わからなくなってしまう。
 ただ、柊先生がしようとしていることは、なんとなくわかった。
 これはエサだったり、ご褒美だったりするんだろう。

 触れていいのか、触れた方がいいのか。
 それともやっぱり、舐めるべきなのか。
「あの……俺、どうすれば……」
「考えてみて」
「ええ……」
 俺が、自分で考える……のか。
 目の高さにあるわけだし、たぶん、舐めるのが正解だろう。
「……舐めても、いい、ですか?」
「舐めたいの?」
「そういう……」
 わけじゃないって言いかけたけど、柊先生が求めてくれるなら、それに応えたいって思ってる。
 つまり結局、舐めたいってことなのかもしれない。
 俺自身、この行為に抵抗は薄れていた。
 俺が柊先生を感じさせているんだって、実感できる。
「芳春?」
 催促するみたいに、唇を親指でなぞられたけど、言うことを催促されているのか、舐めることを催促されているのか、よくわからなかった。
 ただ、この状況で、言わずに舐めるのもおかしいし。
「舐め……たいです」
 言った後、すごく恥ずかしいことを告げてしまった気がして、顔が熱くなる。
 でも、正解だったのか、柊先生はまた、頭を撫でてくれた。
「いいよ。その前に……脱いで」
「え……あ……」
 いずれ脱ぐことにはなりそうだし、脱がして欲しいって告げるのもなんだか恥ずかしい。
 柊先生も、すでに性器は出してるし。

 シャツを脱いで、それでも待っている様子の柊先生を前に、ズボンと下着も脱いでいく。
 脱いでしまった後で、とくに全裸になれとは言われてないし、俺だけ脱ぎすぎたんじゃないか気になった。
「あ、あの……」
「うん、いいよ。あってる」
 どうやら、あってるらしい。
「じゃあ、しようか」
 準備は整ったといわんばかりの柊先生を前に、俺は心を決めると、床に手をついて、差し出された性器に舌を這わせた。
 俺の舌に反応した性器がピクンと跳ねる。
 反射的なものなのかもしれないけど、感じてくれてると思うと嬉しくて、もっと続けたくなってしまう。
 何度か舌先で裏筋をなぞった後、さっきよりも大きくなっているモノの先端を、思い切って咥え込む。
「んぅん……!」
 亀頭が上あごに触れた瞬間、くすぐったくて思わず鼻から声が漏れた。
 むず痒いような妙な感触だけど、柊先生はまた頭を撫でて、俺の行動を褒めてくれる。
 少し舌を動かすと、亀頭で上あごを擦られて、明確にくすぐったいだけではなくなってきた。

 感じ始めてる……気持ちいいんだって、自分でも理解する。
 そもそも俺の体はもう、そういうモードにさせられちゃってるし、感じてしまうのも仕方ない。
 そうでなかったとしても、こんな大きくなってるのを咥えたら、その気になるだろう。
 たぶん、柊先生もすごく感じてくれている。
「ん、ふぅ……」
 だってすごく硬いし、大きくなってるし。
 でも、息を荒げたりするほどではないようだ。
 少し心配になって、柊先生の方を見あげる。
「ん……? 気持ちいいよ。すごくね。上手……だから、もっと続けようね」
 間違ってはいないらしい。
 羞恥心もあるけど、嬉しくなった俺は、口に含んだものに舌を絡めながら、顔を前後に動かして、擦っていく。
「ん、んぅ……ん……ん……」
「うん……いいよ。上手……」
 また、頭を撫でられる。
 柊先生は上手だって言ってくれてるけど、俺自身、その自覚はなかった。
 実際、前よりは上達したかもしれないけど、あいかわらず、口から溢れた唾液で、柊先生モノを濡らしてしまう。
 零さないように、ときどき吸いあげて、飲み込んで、歯を立てないようにして。
「ん、んぅ……んく……ぅん!」
「はぁ……えらいね。歯立てずにごっくんできて」
 ああ、全部わかってくれてる。
 小さく頷くと、頭のてっぺんを撫でていた手が、後頭部へと移動していくのを感じた。
 髪の毛を優しく梳かれて、後ろから首筋を撫でられる。
「力抜いて……」
 そう言われると、逆に強張ってしまいそうだったけど、柊先生の意図を察した。
 たぶん、もっと奥まで入れる気だ。
 初めてではないけれど、あれをされると少し苦しいし、頭がぼんやりして気が遠くなる。
 いや……というより、妙な感覚で、まだ慣れていない。
「ん……」
 柊先生を見あげると、笑みを漏らしながら、俺を見おろしていた。
 全然、力なんて抜けないし、心臓がバクバク音を立て始める。
 待ってくださいって、伝えるべきだろうか。
 でも、待ってもらってどうする?
 結局、心の準備なんて、いつまで経ってもできないだろう。
「芳春?」
 名前を呼ばれて、俺は咥えたまま頷くようにもう一度、下を向く。
 首から後頭部にかけて、大きな柊先生の手に支えられたかと思うと、ゆっくりそのまま頭を引き寄せられた。
「あ……ん……んん……」
「ああ……まだ緊張してる? さっきも、すごく不安そうな顔してたし、震えてるね」
 入り口に触れていた先端が、喉を押し開くようにして入り込んでくる。
「んぐ……う、ん……ん……」
「大丈夫だからね……」
 優しい口調でそう言い聞かせながら、奥へ、奥へと、柊先生のモノが押し進められて、自然と溢れてきた涙が頬を伝った。
 うまく息が出来なくて、苦しいって思った瞬間、引き抜かれる。
「んぁっ……! かはっ、はぁっ」
「うん、上手に息継ぎしようね」
「あっ……俺っ……」
 柊先生は、俺の頭をよしよし撫でながら、亀頭で俺の舌と上あごをくすぐってくれた。
「ぁっ……ふぁっ……あう……ん……」
「気持ちいい?」
「はぁっ……はぁ……はぃ……」
 気持ちよくて、少しだけ緊張が和らぐ。
「じゃあ、もう1回、いくよ……」
 優しい口調で、ゆっくりだけど、してることはたぶん優しいものではない。
 それでも小さく頷くと、上あごを掠めるようにして、喉の奥までまた亀頭が入り込む。
「んん……ん……!」
 やっぱり少し苦しい……でも、いっぱい柊先生が入り込んできていると思うと、たまらない。
 従わされてるこの状況も、嫌いじゃない……というか、好きなんだと思う。
 舌も、柊先生のに触れたままだし、頭や耳を撫でられて、触られてもいない自分の性器が疼く。
 いや、ずっと前から疼いてた。
「興奮すると、すぐ息あがっちゃうよ?」
 柊先生の言う通り、俺の心臓がバクバクしてるのは、緊張だけじゃない。
 たぶん興奮しているからだ。
 わかってるけど、こんなの興奮するに決まってる。
 鼻から息を吸って、喉を鳴らして、少しだけ出来た隙間から息を吐き出す。
「うぅ……う……ん!」
「上手だね」
 褒められて、嬉しくなったところで、柊先生は次のステップに進むように俺の頭を揺らしてきた。
 優しく、ゆっくりした速度で、喉から抜かれた亀頭が、上あごや舌を擦りながら、また入り込む。
 頭を引き寄せられると同時に、柊先生は腰を寄せて、何度も、何度も、繰り返される。
「んぐ……ん……はぁっ……んんっ」
 口に入ったまま、一番、退いたところで息をして、喉に到達した瞬間は、ぐっとこらえて。
 リズムを掴んで体から力が抜けてくると、だんだん頭がぼんやりして、気持ちいいことしか考えられなくなってきた。
 こんなこと、されてるのに。
 頭が回ってないのかもしれない。
「ふぅ……ん……ん……んぅん……!」
「はは……かわい……」
 熱っぽい声で柊先生に言われると、恥ずかしいけど、嬉しくて、なぜか従順でいたくなる。
 従順すぎるのは、柊先生の好みじゃないんだろうけど。
 俺はちゃんと従順でいたいのに、疼いていたモノがもう限界だった。
 右手で自分の性器に触れる。
「んぁっ!? んぅんんっ!!」
 触れて、少し擦った瞬間、我慢する余裕もなく射精してしまう。
 俺が思っていた以上に限界だったらしい。
 それに気づいた柊先生は、俺の口から性器を引き抜くと、両手で頬を掴んで顔をあげさせた。
「はぁっ……はぁ……あっ……」
「イッちゃった? 自分で、触ったよね」
「あ……う……俺……あ……ごめ、なさ……」
 別に、触っちゃいけないなんて言われてないし、イッちゃダメとも言われてないけど。
「いいよ。いっぱい我慢してたんでしょ。口でたくさん感じるようになったね。喉も、気持ちよかった?」
「はぁ……あ……ちが……」
「違わないでしょ」
「あ……」
「あとちょっとで、触らずイけそうだったけど。惜しかったなぁ。本当に芳春は、おちんちん大好きだね」
「ちがっ……ちがいます」
 恥ずかしいことを言われて、かぁっと、顔が熱くなる。
 慌てて否定してみたけれど、実際そうなのかもしれない。
 喉も気持ちよかったし、自分で触れた性器も……。
 というか、嫌いなやつなんているのか?
「違わないなら、いっぱい俺が、弄ってあげようって思ってたんだけど」
「え……」
 つい期待してしまう俺を見おろしながら、柊先生は指を2本、俺の口内に差し込む。
「ん……」
「たくさん、溶けちゃうくらいに弄って、いじめたいなぁ。ああ、もちろん、あとでおしりのナカも弄ってあげるからね」
 指先で、舌や上あごの弱いところを的確に擦られて、落ち着く間もなく、また体がゾクゾクし始める。
「はぁ……ん、んぅ……ぁ……あっ」
「いっぱい泣いちゃったね。よだれもこんなに零して……」
「あ……俺……」
「うん……お仕置きしよう?」
 お仕置き……?
 頭で理解するより早く、柊先生は、引き抜いた指の代わりに、また性器を押し込んできた。
「んぐ……んん!」
「イッたばっかで、脱力しちゃってるね。そのまま……」
 頭を固定されたまま、柊先生が腰を揺らす。
 入り込んできたモノが、ぐちゅぐちゅと音を立てて、喉を何度もこじ開けた。
 出たり入ったり……さっきみたいにたくさん引き抜いてはくれなくて、短いストロークで、奥を突かれてしまう。
「んんっ、ん……ん、ん!」
 苦しい。
 また、涙が溢れてくる。
 でもこれはお仕置きだから、しかたない。
 そう思うのに……感じてる柊先生の息遣いが届いて、腰つきがいやらしくて、伝染するみたいに、俺もすごく、エロい気分になってしまう。
 もうずっと、そういう気分なんだけど、理性が崩壊していく。
「ふっ……はは、すごいね、芳春。こんなに奥まで咥え込んで。えらいえらい。苦しいね?」
 顔はあげれないけど、柊先生は、指先で俺の頬を伝う涙をぬぐう。
 喉の奥まで、こんなものを突っ込んでる本人だとは思えないくらい優しい手つきで、頭も撫でてくれた。
 そうやって、頭をよしよしされると、苦しいのに嬉しくて、体がどんどん熱を帯びていく。
 柊先生の性器は、すごく大きく熱くなっていて、感じているのは明らかだった。
 最初からそうだと思っていたけど、本当にエスなんだと思う。
 普段は理性で押さえてたのに、酒のせいか、はたまた俺が煽ってしまったのか。
 わからないけど、おそらく冷静じゃない欲情してる柊先生に、俺もまた欲情させられる。
 柊先生が酔っているのなら、俺だけは保ってないと。
 ……いや、俺がおかしくなっても忘れてくれる?
「はぁ……芳春……いくよ。手前で出してあげるからね」
「ん、んぅ……うっ……んん!」
 ……もうすぐ柊先生がイッてくれる。
 柊先生の性器が脈打っているようにも感じた。
 めちゃくちゃ感じてくれているのが伝わって、まるで感覚を共有したみたいに、俺も気持ちよくなっていく。
「芳春……んんっ……!」
 柊先生の腰が小さく跳ねて、奥に入っていたものが手前まで引き抜かれた瞬間、喉と上あごと舌をいっぱいカリで撫でられて、俺の体もビクリと跳ねた。
 直後、舌の上に精液が吐き出される。
「んん……ん……!」
 イッたのは柊先生なのに、なぜか俺もイッみたいに、体がじんわりしていた。
 出さずにイッたときの感覚に似てる。
 イッた?
 違う……と、思う。
 わからないけど、気持ちいい。
 ゆっくりと、柊先生のモノが引き抜かれて、そのまま軽く口を開けていると、柊先生は、俺の頭を撫でながら、そっと上を向かせてくれた。
「……もっと、おクチ開けて」
「はぁ……あ……」
「うん……零さないようにね」
 左手で頭を支えながら、右手の指をまた入れられて、確認するみたいに舌を撫でられる。
 いっぱい柊先生の味が広がって、気づくとまた、俺は自分の右手で自分の性器を擦っていた。