いったん、げた箱で凍也の体を降ろす。
靴を履き替えた後、凍也は俺の手首を掴んできた。
「ねぇ、須藤さん……もっかい、先に抜いちゃダメ?」
「あと5分もあれば着くよ」
「須藤さんのおんぶ、気持ちよすぎて勃っちゃった」
確かめてみてとでも言うように、凍也は俺の手を自分の股間へと引き寄せる。
「ん……ほら……わかるよね。俺の、めちゃくちゃ硬くなって……」
凍也に逆らうようにして、そっと手を離す。
「寮でするから」
「……またおんぶしてもらったら、須藤さんの背中でイッちゃうかも」
「いいよ」
凍也は少しつまらなそうに俺から視線を逸らした。
「須藤さんの背中でイクより、いま、須藤さんにイかされたかったなー」
「少し移動するごとに抜いてたら、キリないだろ」
理解してくれたのか、凍也はこくりと頷いた後、俺の顔を覗き込む。
「じゃあ、キスだけしていい?」
「したら我慢する?」
「うん」
凍也の言葉を鵜呑みしたわけじゃないけれど、キスくらいならしてもいいかと頭をよぎった。
凍也と軽く唇を重ねて、すぐに離れる。
……つもりでいたけれど、凍也は俺の頭を抱き寄せて、あろうことか舌を差し込んできた。
煽っているのか、鼻からいやらしい声を漏らしながら、俺の舌を絡めとっていく。
「ん……んぅ……ん……」
薄く目を開くと、凍也とばっちり目が合った。
凍也の目は、どこか企んでいるように見える。
それならと、俺は凍也の両方の耳を塞ぐように頭を両手で掴むと、凍也の舌と溢れる唾液を、音を立てるようにして吸ってやる。
「んんっ!? んぅんっ!!」
凍也の体がビクリと震え、目からは余裕が消え失せる。
引っ込んでいく舌を追いかけながら、口内に溜まった唾液を凍也に送り込む。
「んぅっ……ん、んっ! はぁっ」
少しだけ口を離した瞬間、凍也は口の端から唾液を零した。
それを舌先で舐め取り、凍也の口内へと戻してやる。
「あっ……ん……んっ!」
俺の頭に回されていた手が、今度は俺の腕をぎゅっと掴んだ。
凍也が足元をふらつかせていることに気づく。
凍也は後ろのげた箱にもたれかかりながら、ずるずるとその場に座り込んだ。
それに合わせて、俺もまたしゃがみ込む。
「はぁっ……あっ……須藤さ……んくっ!」
少しだけ離れてしまった口をもう一度、重ね直す。
息をしやすいように全ては塞がず、開かれた口の隙間から差し込んだ舌で、中を探っていく。
「あっ……ん、んっ! はぁ……んっ……あっ、んぅっ!」
本当は、凍也の声が聞きたいだけなのかもしれない。
凍也を相手にしていると、自分がオスであったことを自覚させられる。
こんな声、こんな場所で出させない方がいいことくらいわかっているけれど、凍也だってそれは理解しているはずだ。
なんとか抑えようとして、それでも漏れてしまう声がめちゃくちゃいやらしく聞こえた。
「すどうさっ……ん、んぅ……ぁっ……ん! ん、いっ……んんっ……ぃく……」
あいかわらず凍也の両手は俺の腕を掴んだまま。
触れてもいないのに、キスだけでイキそうになっているらしい。
外に出してやるか、口で受け止めるか。
ひとまず、どれくらいの状態か確認しようと、手探りでズボンの上から凍也のモノにそっと触れる。
「ああっ! んっ……んっ、あっ! んぅんんんっ!!」
俺の手に擦りつけるみたいに、凍也の腰が揺れたかと思うと、その直後、すぐにビクビク体が跳ねた。
どうやらイッてしまったらしい。
「ん……はぁ……」
「……凍也、腕回して。抱えるから」
「ん……」
首に手を回させると、凍也を立たせてお姫様抱っこする。
「行くよ」
授業中ということもあって、どうやら誰にも気づかれずに済んだようだ。
すぐにここから移動しようと、歩き出す。
「ん……須藤さん、俺、我慢出来なくて……」
「我慢出来なかったのは俺だよ。凍也は、宣言通りキスしかしてないし」
凍也は、ぎゅっと俺にしがみつく。
「須藤さんってずるいよね……。冷静で落ち着いて見えるのに、めちゃくちゃやらしいキスするんだもん」
「……普通だよ。媚薬入ってるから、そう思うだけ」
「耳塞いでキスすんの、すごいエロかった……」
そう言うと、凍也は俺の両耳を手で塞いで、唇を重ねる。
差し込まれた舌が絡むと、頭の中に濡れた音が響いた。
「はぁ……ね? やらしい音、聞こえるでしょ」
「重いから、ちゃんとしがみついてて」
「はーい」
自分でも自覚している。
少し調子に乗った。
我慢しているのは凍也だけじゃないんだって、言いたくなったけど、さすがに凍也の方がキツいだろう。
「凍也は、どうして俺に連絡したの」
「ああ……ごめん」
「そうじゃなくて。やる相手、いるだろ」
凍也がルームメイトとそういう関係だってのは俺も知っている。
他にも、やろうと思えば、抜いてくれる友達の1人や2人――
「いるよ。でも……ちょっと触られただけでめちゃくちゃ声出そうだし。てか出ちゃったし。攻めてんのに喘ぎまくってすぐイクとか恥ずかしいじゃん」
どうやら、攻める前提らしい。
「受けて喘ぎまくるのはいいんだ?」
「いいっていうか……どのみち、かっこつかないし。まあ、見せられる人は限られてるけど」
その限られた人の中に俺がいて、1番……かどうかはわからないけど、声をかけてくれたってことになる。
「一応、言っておくけど、俺には入れさせないよ」
「ハメたら須藤さんがどんな風に乱れてくれるか、ちょーっと気になるけど……」
「感度悪し、演技下手だし、俺は乱れない。凍也、自信なくしたくないだろ」
凍也は少し不安そうに俺の顔を覗き込んできた。
「……冗談だよ。やる気失せた?」
「どうせ、やらせてくれないんでしょ」
「やりたいのなら、俺は助けてあげられない」
少し冷たいかもしれないけれど、無理だと先に伝えておく。
「わかってる。昔の俺もそんな感じだったなーって思っただけ」
そう告げた後、凍也は俺にぎゅっとしがみついてきた。
「やられたい……」
少し恥ずかしそうに、小さな声で凍也が呟く。
別にナカが疼くとかそんな状態ではないだろう。
ただ、相手が俺ならおのずと立場は決まってくる。
俺を呼んだ時点で、やられる意識はしてくれていたのかもしれない。
「俺にハメるよりは、気持ちよくさせるよ」
「ふふっ、ありがと」
寮に戻った俺は、凍也を抱っこしたまま、1階奥にある空き部屋へと向かった。
「管理人室でしないの?」
「こっちの方が、気兼ねなく出来そうだから」
「誰の部屋?」
「誰の部屋でもないよ」
凍也をおろすと、用意しておいた鍵でドアを開ける。
2人部屋という性質上、トラブルが起きたときなんかのために、寮には数部屋、こういった空き部屋が用意されていた。
いつ誰が来てもいいように、掃除もちゃんとされている。
「須藤さん、仕事、大丈夫?」
「寮の管理だけが仕事じゃないから。寮生の管理も仕事のうちだよ」
「へへ、やった!」
心配してくれるくせに、素直に喜べちゃうのが凍也のいい所なのかもしれない。
ちなみに、普段、寮内の掃除を担当してくれるスタッフが、午前の仕事を終えて、食堂でだらだらしていたため、少しの間、管理人室にいてもらっている。
なにかあれば連絡をよこすよう伝えてあるだけで、当然、代わりに仕事をさせる気はないけど。
今度、ランチでもおごってやるとしよう。
「ねぇ、須藤さん。俺……ズボンの中、ぐちゃぐちゃだから、ちょっとシャワー浴びていい?」
少しくらいぐちゃぐちゃだったところで、俺は構わないけど。
「いいよ。その間に、タオル用意しておく。着替えとか他にもいろいろ取ってくるから。凍也の部屋、入っていい?」
「えー……いいけど、一緒にシャワー浴びてくんないの?」
そのつもりはなかったけど、自分も汗くらいかいているし、キレイなわけじゃない。
「……じゃあ、後で入るから。先にシャワー浴びて待っててくれる?」
「んー……待たなきゃダメ……?」
少し不満そうな……それでいて甘えるような視線を向けられてしまう。
ローションもゴムも着替えもタオルも用意していない状態で、出来ないこともないけど……。
「俺、たぶん須藤さんが思ってる以上に、やばいよ……?」
凍也は、俺に見せつけるようにして勃ちかけの性器を取り出す。
「はぁ……あ……また、こんなに……」
凍也の状況は理解しているつもりだ。
とはいえ、げた箱でも抜いたし。
「ルームメイトが戻ってきたら、着替え取りに行きにくいだろ。タオルも取ってくるから」
「……俺がこんななのに、須藤さん、全然、その気になんないんだ?」
もうずいぶん前からその気になっている。
ただ、我慢してるだけ。
もちろん、俺の我慢なんて、凍也の我慢に比べたら大したことないんだろうけど。
「ねーえ、須藤さーん。準備とかいいから……しない? はぁ……これ、風呂で抜いてよ……俺も、須藤さんのするから……」
誘っている……というより煽られているようにすら感じた。
このまま優しく甘やかしてやりたいけれど、心を鬼にして、凍也の肩を強く掴む。
「え……」
壁に凍也の背中を押しつけると、すぐさま精液まみれのモノを掴んで擦りあげる。
「ひぁっ!? あっ、ああっ!」
「凍也が思ってる以上に、俺もやばいから。煽られると優しく出来ないよ」
前に凍也が出してしまった精液が絡んで、そこはぬるぬるになっていた。
擦るというより、手が滑っていく。
「あっ、ああっ、あっ……あっ、だめっ……あっ! すどうさっ!」
いまさら焦ってくれても遅い。
煽ったのは凍也だし。
「ひゃあっ……んんっ! あっ、あっ、それ……あっ、ああっ! つよいっ」
わかってる。
いつもの凍也ならどうってことないんだろうけど、今の凍也にはキツいだろう。
「痛い?」
「ああっ、ん……ぅん……! いっ、ああっ、んぅんっ、いひゃっ……あうっ」
「どうして痛いか、わかる?」
凍也は涙目で俺を見ながら、コクコク頷いた。
「はぁっ、ああっ……感じ、すぎてるっ……ああっ、やうっ」
「感じすぎて、わけわかんない?」
「ああっ、わかんなっ……あああっ、いくっ……いくいくっ!」
凍也の足がガクガク震える。
もう立っているのも辛いらしい。
それに気づきながら、擦り続けてやる。
「あぁあっ、いっちゃう……やあっ……すどうさっ……やっ! あっ……あぁあああっ!!」
少し強引にイかせると、凍也はずるずるとその場に座り込んだ。
「はぁ……はっ……ん……んぅ……」
やり過ぎたか。
凍也の前にしゃがんで、頬に手を添える。
「大丈夫……?」
「ん……」
「俺とするの、いやになった?」
「なってない……」
「もっと優しくしたいから、煽らないで、いい子に出来る?」
凍也は、少し申し訳なさそうにコクリと頷いた。
「でも俺、本当にやばいのに……須藤さん、めちゃくちゃ落ち着いてるんだもん」
「いまのでわかっただろ。全然、落ち着いてなんかないよ。めちゃくちゃ抑えてる。凍也の状況だって、理解してるつもり」
「うん……」
凍也が、頬に添えられていた俺の手を掴む。
すると、まるで事前準備でもするみたいに、人差し指に舌を絡めてきた。
「ん……ぅん……須藤さん……」
「煽らないでって言っただろ」
「うん……ん……でも……もう、平気なフリ、できない……」
もちろん、無理して平気なフリして欲しくはない。
凍也が、いつもはそういうことしてくれる子だってのもわかってる。
「ちゃんとわかってるから。あとちょっとだけ待って」
「あとちょっと待ったら……たくさんしてくれる?」
「するよ」
凍也は、そっと俺から手を離して、深く深呼吸した。
「はぁ……さっきの須藤さん……」
「……ごめん。怖がらせた?」
「ううん……いつもより素って感じがして、なんか……すごく興奮した……」
いつも全部取り繕っているわけではないけど、多少は抑えている。
欲望のままがっつかないようにだとか、優しくしようだとか。
相手のことを考えているからなんだけど。
「ねぇ……俺、また煽りたくなっちゃった……」
「俺は、凍也のこと焦らしたくなった」
「えー……。俺のこと、こんなに興奮させたの……須藤さんなのに」
さっきの、いつも以上に焦った様子の凍也は、正直、やばいくらいにかわいかった。
興奮させられたのは、こっちだ。
凍也にまた触れそうになってしまうのを、なんとか抑える。
「1人で、風呂場まで行けそう?」
「行けないって言ったら、須藤さん、運んでくれそうだね」
凍也の言う通り、運ぶだろう。
保健室からおんぶしたのだってそう。
本当は歩けることくらいわかってる。
ただ、俺に運ばれたいか、遠回しに聞いてるだけ。
「……行ける?」
「……行けない」
「……わかった」
凍也の体から、ズボンと下着を引き抜く。
靴下と、上に着ていた服も脱がせていく。
その間、凍也はおとなしく俺の手元を見ていた。
裸の凍也を抱きかかえ、風呂場へと連れて行く。
イスに座らせてやっても、凍也の手は俺の首に絡みついたまま。
「……凍也」
「ちょっとだけ、耳貸して?」
なにか言いたいことでもあるのかと、凍也に耳を傾ける。
「……待ってるから。早く戻ってきて」
耳元でそう告げた後、凍也は俺の耳をペロリと舐めてきた。
「須藤さん……優しくなくてもいいよ」
また、完全に煽ってる。
そっちがその気なら……。
しゃがみ込んで、手も触れないまま、凍也の唇を塞ぐ。
「ん……ぅん……」
誘うように差し出された凍也の舌先に舌を絡めて、これからってところで、すっと身を引く。
「え……」
「じゃあ、着替えとか取ってくる」
「なんで……なんで、キスしたの? そんなんしたら、やりたくなるのに」
「知ってるよ。煽っただけ」
凍也は、物足りなそうに顔を歪めていた。
「優しくなくていいんだろ」
「……やっぱやだ」
「じゃあ、いい子で待ってて」
凍也の頭を軽く撫でて、俺は風呂場をあとにした。
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