こんな簡単に手に入る媚薬だし、どうせプラセボ効果? ってやつだと思ってた。
 実際、思い込みなのかもしれないけど、体が熱い……気がする。
 ちょっと、心臓もバクバクしてきたし。
 無性にやりたい。
 いますぐ抜きたい。
 つっても、まだ授業中だし。
 凪なら付き合ってくれそうだけど、この状況じゃ、愛撫もろくにせず雑に突っ込みそうな自分がいる。
 その上、めちゃくちゃ早くイきそうだし。
 下手すりゃ、感じ過ぎて声とか出そうだし。
 いくら気心知れてる友人とはいえ、それはちょっと抵抗がある。
 相手が恋人であっても、そんな姿は見せたくない。
 じゃあ、1人で抜けって?
 てか、これって抜けば落ち着く?
「……凍也? 気分悪いの?」
 そう声をかけてきたのは、5時限目を担当する宮本先生だ。
「いや……」
 宮本先生を見て、ふと浮かんだのは保健室にいる柊先生だった。
 2人はかなりいい関係らしい。
 柊先生なら、媚薬についてもいろいろ知っているかもしれない。
「……ちょっと保健室行ってきまーす」
「え……あ、うん。気を付けて」
 俺は媚薬をポケットに入れて、宮本先生に見送られるようにして教室を出た。



 保健室へと向かう前に、俺は近くのトイレに駆け込む。
 ……めちゃくちゃ勃ってるし。
 我慢出来ず、個室で自分のモノを取り出す。
「んん! はぁ……」
 取り出すだけなのに体がビクついて、俺はすぐさま手を離した。
 上を向いた性器の先からは、すでに透明の液が溢れてて、いまにも零れそう。
 いつもより大きい……気がする。
 気がするだけかもしれないけど、少し痛い。
 早く抜かないと、たぶん駄目なやつ。
 それが正しいのかどうかもわからないけど、外気に晒されただけでゾワゾワして、また蜜が溢れてきた。
 なんだかめちゃくちゃだらしない。
 媚薬飲んだら性欲高まってやりまくれるとか思ってたのに、こんなの誰にも見せられないし。
 恐る恐る自分のモノに手を這わす。
「あっ……ん……」
 いつもとは違う感覚に、思わず声が漏れた。
 感じすぎて痛いのかもしれない。
 だけどとにかくイきたくて、手で擦りあげていく。
「ひぁ……ん……あっ……あっ……ん……んぅ……」
 普段なら声くらい抑えられるのに。
 左手で口を押えると、息苦しくて、涙が溢れそうだった。
「ん……んん……ん、く……!」
 誰かとやってるならともかく、授業中に1人でトイレでオナニーとか、バレたら恥ずかしすぎだし。
 必死に声を殺しながら、手を動かし続ける。
 いつもと同じ風にしてるつもりなのに、やっぱりなんだか痛い。
「んぅ……ん、んっ……はぁっ……ん、んんんーーーーっ!!」
 気持ちいのかどうかもわからないまま、俺はすぐ射精していた。
 そういえば、少し久しぶりだったっけ。
 ただ、久しぶりって理由だけじゃないのは明白だ。

 もう1度、この場で抜こうかとも思ったけど、おさまる気配がなさすぎて、少し心配になってしまう。
 2回、3回抜いたところで変わらないんじゃないかって。
 その前に、薬について聞いておこうかと、保健室へ向かうことにした。



「……柊先生、いる?」
 保健室のドアを開けると、柊先生が笑顔で迎え入れてくれる。
「いるよ」
「1人……?」
「うん、1人。どうかした? 顔、ちょっと赤いね」
 赤いのか。
 それよりもう、ズボンの上からでもわかるくらい勃起してる。
 気づかれてるかどうかはわからないけど、俺はすぐさまベッドに向かう。
 寝転がって、布団をかぶって、その後、やっとポケットから取り出した媚薬を柊先生に差し出した。
「これ……なんだけど……」
「ああ、どうしたの、これ」
 柊先生は、すぐ傍のイスに座って、俺に尋ねる。
「通販で買った。今度、罰ゲームにでも使おうかと思って……。その前に、安全かどうか自分で試してみたんだけど……」
「優しいね。飲んだのは、昼休み?」
「うん……」
 先に試しておいて正解だったかもしれない。
「先生……これ、大丈夫……?」
「んー……副作用がまったくないわけじゃないけど、問題あるものじゃないから大丈夫。ただ、だいぶ強い影響が出ちゃってるみたいだね」
 問題はないとわかって、少しだけほっとする。
 でも、体は熱いまま。
 たぶん気の持ちようってだけの話じゃない。
「血流をよくしてくれるものだから、低血圧の人はやめた方がいいかな」
「自分の血圧なんて……知らないし……」
「凍也、朝弱いみたいだしなぁ……容量は、守った?」
「……少し……多めだったかも」
 柊先生は怒るわけでもなく、俺の頭を軽くポンと撫でるように叩いた後、冷蔵庫の方へと向かう。
「水飲んでおこうか。一緒にチョコ食べたりコーヒー飲んだりしてない?」
「なんで、わかんの……?」
「わかるわけじゃないけど……食べたんだ? 興奮するものばっかり、取っちゃってるね」
 そう笑いながら俺の体を起こすと、ペットボトルを差し出してくれた。
 受け取って少し水を飲むけれど、正直、それどころじゃない。
「ん……ねぇ……このまま、水飲んで、おとなしくしてろって?」
「気持ち悪くないなら、抜いてもいいけど」
「気持ち悪くないよ……。そういうのはないから、平気……でも……」
 柊先生の手が、俺の髪を少し撫でるだけで体がゾクゾクした。
 ペットボトルの蓋を閉めて、もう一度寝転がる。
「……手伝おうか?」
 横を向く俺の頬に触れた柊先生の手は、冷たくて心地よかった。
「はぁ……」
 抜いて欲しい。
 抜いて欲しいけど、気をつけてって俺を送り出してくれた宮本先生の顔が浮かぶ。
 あの人の手前、柊先生とはなんとなくする気になれない。
 宮本先生に柊先生の連絡先を教えたのは俺だし。
 それに、めちゃくちゃはしたなく乱れそうで、少し抵抗もある。
 柊先生は経験豊富な大人で、いろんなもん見てきてるかもしれないけど……。
 するなら、やっぱり……。
「ん……須藤さんが……いい」
 熱くて、苦しくて、ぼんやりしていたせいか、俺は甘えるみたいにある人の名前を出していた。

 須藤さんには恋人がいて。
 それでも以前、何回か俺の相手をしてくれた。
 俺はフリーで、でも、どうしてもしたくて。
 タイミング的に傷ついてたってことあってか、須藤さんは俺のワガママに付き合ってくれた。
 ずっと相手をするわけにはいかないって、そのときから言われていたけど。
 俺も後輩と付き合いだしたりして、須藤さんとは、ここ最近、ずっとしていない。

 俺は普段やる側で、須藤さんは逆にやられる側だから。
 お互い逆の立場でする行為は、恋人とするものとは違うって線引き出来るような気もする。

 ……なんでもいいけど、とにかく抜いてくれるなら須藤さんがいい。
 というかこんなはしたない状態で、誰かをやれる気もしないし、須藤さんしかいない。

「須藤さん呼ぶ? それとも寮まで送ろうか?」
「ん……」
 起き上がるのもめんどいし、寮まで我慢するのも結構キツい。
「須藤さん……来れるかな……」
「少しなら、抜け出せると思うよ。電話してみるね」
 柊先生が、自分の携帯を操作する中、俺はやっぱり我慢出来なくて、つい自分のモノに手を伸ばす。
「あ……」
 ズボンの上から触れてみて、そこが蒸れているような、濡れているような感じになっていると自覚した。
 やばい。
 出したい。
 早く抜きたい。
 触らなきゃよかったけど、もう遅い。
 手だけなら柊先生に抜かれても――
 なんかもう頭が働かない。
「はぁ……ん……」
 チラッと柊先生の方を窺う。
 俺の視線に気づいたのか、携帯を手にこっちに来てくれる。
「須藤さん、来てくれるって。電話、代わる?」
「ん……」
 布団の中で、右手はズボンの上から性器に触れたまま、左手で携帯を受け取る。
「……須藤さん……?」
『凍也、大丈夫?』
「ん……大丈夫じゃない……」
『いま行くから。我慢出来る?』
 呆れてるのかもしれないけど、落ち着いた須藤さんの声を聞いていたら、無性に甘えたくなった。
「我慢……しなきゃ、ダメ?」
『とりあえず、俺が行くまで』
「……わかった……すぐ来て……」
『ん。じゃあ、柊先生に代わって』
「うん……」
 なんだか名残惜しいけど、柊先生に携帯を返す。
 柊先生は、どこまで説明したんだろう。
 ある程度、理解しているみたいだったけど。

 須藤さんがここに来るまで、5分くらいか。
 いや、須藤さんも仕事してただろうし、それを切り上げて、寮を空ける準備をして……って考えると、もう少し、かかるかもしれない。

 長い。
 それでも、我慢しなきゃいけないような気がして、布越しに掴んでいた自分のモノから手を退かす。
「んん……抜きたい……」
「須藤さんにめちゃくちゃ釘さされちゃった。俺が行くまで凍也に手出さないでくださいね……って。1人でする分にはとめないよ。声も気にしないから」
 そう言って、柊先生はカーテンを閉めてくれる。

 声くらいなら……。
 1人Hでめちゃくちゃ声出しちゃうのって、やっぱ恥ずかしいけど、状況が状況だし、仕方ないって柊先生もわかってくれるはず。
 布団をどかして自分の股間を見てみると、改めて勃起していることを自覚させられた。
 とりあえず熱いし、ベルトと、ズボンのホックを外す。
 シャツのボタンもいくつか外して、外気を取り入れた。
 もう10月だけど、まだ全然暑い。
 暑いのか熱いのか、よくわからないけど。
「柊せんせー……クーラーいれてぇ……」
「入れてるよ。少し温度下げるね」
「ん……」
 このままじゃ下着がぐちゃぐちゃになる。
 てかもうたぶん、ぐちゃぐちゃなんだけど。
 窮屈で苦しくて、ズボンのチャックをおろす。
 下着の盛り上がってる部分に、じんわりシミが出来ていた。
 やめておけばいいのに、つい指先で触れてしまう。
「あ……ん……」
 また、なにか出た気がする。
 シミが広がって、トイレでしたときみたいに、たぶん、たくさん先走りの液が溢れてるんだと思う。
 そっと指を離すと、下着越しにも関わらず、透明の糸が引いた。
「はぁ……」
 自分でもいやらしい気がして、どんどん体が高ぶっていく。
「んぅ……須藤さん、まだぁ?」
「まだだねぇ」
「あー……もう我慢できない……」
 なんとか触れないでいようと、右手の指を唇で食む。
「んぅ……ん−……」
 約束しちゃったし、須藤さんが来るまで我慢したいけど。
 来てくれたら、すぐにでもまず1回抜きたい。
 須藤さんは、いつも落ち着いてて、淡々としてくれるんだけど、手つきはやらしくて、すごく興奮させられる。
 俺だけ興奮してるみたいな温度差も、ちょっと恥ずかしいけど、面倒見てもらえてるって感じがして好き。
 そうかと思えば、実は須藤さんもすごい勃起してたりして、興奮してたんだってのがわかると、たまんなくて。
 そのまま、硬いので、奥の方まで――
「ああ……っ! ん……」
 やば……想像だけでイきかけたし。
 てか、すごい変な声出たし。
「はぁ……あ……ん……須藤さ……」
 枕を引き寄せて抱きしめてみるけれど、そんなんで落ち着くはずもない。
 苦しい。
 熱い、痛い。
「んん……うぅ……」
 うなされていると、扉が開く音がした。
「柊さん、凍也は?」
 須藤さんの声。
「そこのベッドに」
「凍也、カーテン開けるよ」
 わざわざ断りを入れてから、カーテンを開けてくれる。
「んぅ……須藤さぁ……」
 遅いって言いたくなったけど、たぶん全然遅くない。
 俺が勝手にそう感じてるだけだ。
 須藤さんの手が、枕を抱く俺の手に触れる。
「……柊さん、なんでこんなになるまでほっといたんですか」
「手出さないでって言ったの、須藤さんでしょ。凍也にも我慢するように言ってたみたいだし」
「それは……こんなにひどい状態だと思ってなくて」
 俺、そんなにひどい?
 わかんないけど、須藤さんのせいでも柊先生のせいでもない。
 俺は、須藤さんの手をぎゅっと握り返す。
「須藤さん……俺が、待ってる間、須藤さんのこと思い出して、勝手に興奮しちゃってただけだから」
 水飲んで、どこにも触らずおとなしくしていたら、たぶん、ここまでの状態にはなってなかったはず。
「ねぇ……それよりさ。も、我慢しなくてい? 須藤さん、来たし……はぁ……」
 須藤さんの手を掴んでいない方の手で、下着から性器を取り出す。
 思った通り、ぐちゃぐちゃだったけど、構わず掴む。
「んんっ!」
「待って、凍也」
 せっかく抜けると思ったのに、須藤さんはなぜか俺の手首を掴んで止めてしまう。
「なんで……? あ……俺、柊先生に聞かれてもいいし……も、我慢出来な……」
「敏感になってるみたいだから。いつもの調子でしてたら、強すぎるだろ」
 そう説明して、俺の手を性器からどけると、須藤さんは俺のに顔を近づけて、ふぅっと息を吹きかけた。
「ああっ! あっ、あっ!」
 息がかかっただけなのに、めちゃくちゃぞわぞわする。
「……1回くらい抜いた?」
「あ……ん……ん、ここ、来る前……トイレで……」
「うまくイけた?」
「ん……イけた……けど、なんか、痛くて……」
 あれ、強すぎたんだ。
 やっぱり、感じすぎてるってこと?
「じれったいかもしれないけど、やみくもに抜いても苦しいだけだから」
 たしかにじれったい。
 けど、気持ちいいのかよくわからないまま、ただ抜き続けるのも辛い。
「須藤さん……媚薬、飲んだことあんの?」
「……俺のことはいいから。触るよ」
 そう言うと、須藤さんは手で俺のを優しく包み込む。
「あっ、んっ!」
「いい? 少し擦るよ……どう?」
「ああっ! だ、め……ああっ、いくっ、いくっ! ああっ、あっ、あぁあっ!」
 少し擦られただけなのに、我慢しまくっていたせいか、すぐにイってしまう。
「はぁ……あ……」
「強かった?」
「ん……わかん、ない……」
「じゃあ、もう少し優しくする」
 イったのに、まだ治まっていない俺のモノから手を離すと、今度は指先だけで根元の方から、ツーッと線を描かれる。
「んぅん……あっ、ん!」
「大丈夫?」
「ん……うん……ああっ、あっ……あっ……ん!」
「イッたばっかだし、なおさら敏感になっちゃってるね」
 須藤さんは落ち着いたトーンで、俺のを見つめながら、何度も何度も、指を行き来させる。
「ああっ、あっ……須藤さ……あっ! ん、んんっ!」
「苦しいだろ。声、殺さなくていいから」
 俺が少し声を我慢したことに、須藤さんはすぐ気づいてくれた。
 ちらっと、こっちを窺う須藤さんを見つめながら、こくりと頷く。
「はぁっ……あっ……ああっ……ん……すごい……あっ……声、出る……」
「いいよ」
「あっ……あっ……ちょっと、しか……はぁっ……されてな……のに……」
「大丈夫。先の方は……触らない方がいい?」
 さっき出した精液やら先走りの液やらでぬるつく亀頭に、須藤さんの指が少しだけ触れる。
「んぅんんっ!」
「……わかった。少しずつ……ね」
 なにがわかったのか、須藤さんは指先だけで俺の竿を支えるみたいに優しく掴んだかと思うと、表面を撫でながら、亀頭めがけて、また優しく息を吹きかけた。
「あぁあっ……あっ……須藤さぁ……ぁんっ」
「ん……うまく感じられそう?」
 撫でられながら息を吹きかけられるたび、腰が勝手にピクピク跳ねあがる。
「はぁ……ぅん……あっ、あっ……きもちい……ああっ……ん……あっ……それ……きもちいい……」
「じゃあ、続けるよ」
「うん……あっ……つづ、けて……あっ、須藤さ……あっ! ああっ……あっ……いい……!」
 こんなの、普段だったらきっと物足りないと思うけど、いまの俺にはちょうどいいらしい。
 さっき自分でしたときみたいに、とにかく抜きたくて勢い任せに抜いたのとは全然違う。
 刺激は弱いはずなのに、よすぎて、身も心も高まっているみたい。
 つーか、蕩けてる。
「はぁっ……あっ、ああっ! ん……いきそ……あっ、ああっ……あん……いく……ああっ、あっ」
「いいよ」
 わずかに須藤さんの指を動かす速度があがった。
 絶妙に、少しだけ刺激を強めて、射精を促してくれる。
「ひぁっ……あっ、ああっ……いくっ……あ……いくっ……あっ、ああっ、あぁあああっ!」

 立て続けに、二度も須藤さんの手で……というか指で射精を迎えると、少しだけ体が落ち着いた。
 もっとしたいし、まだ足りないけど、とりあえず、痛いとか苦しい状態からは、抜け出せたのかもしれない。
「待ってて」
 須藤さんはそう俺に告げると、一旦、ベッドから離れる。
「柊さん、タオルとティッシュいいですか」
「はい」
 戻って来た須藤さんは、俺のお腹に乗っかった精液をティッシュで拭った後、体を濡れたタオルで拭いてくれた。
 気持ちいい。
「須藤さんて、すごい尽くしてくれるよね。面倒見いいのか」
「そんなことないよ。これくらいのこと、するだろ」
「そう?」
 もしかしたら、須藤さんが普段、当たり前のようにされてることなのかもしれない。
 須藤さんの恋人がめちゃくちゃいい人だから、須藤さんの当たり前のレベルが高いのかも。
「ねぇ、須藤さん……終わりじゃないよね?」
 体を起こしながら、須藤さんに尋ねる。
「……保健室でする気はないよ」
「寮でなら、してくれる?」
 だったら早く寮に行きたいと、身だしなみを整える。
「凍也、授業は?」
「今日は早退する。体調不良」
 須藤さんは、どう思ったのか、何も言わずにタオルを洗面台へと持っていく。
「柊さん、あと頼んでいいですか」
「え……」
 須藤さんの言葉を聞いた俺は、慌ててベッドから降りた。
「なんで……!」
 須藤さんは軽くタオルをゆすいだ後、俺の方へと戻ってきてくれる。
「須藤さん、してくれないの?」
「……そうじゃなくて。タオルの洗濯。他にもカバンとかあるだろ」
「……俺のこと頼んだんじゃない?」
「タオルもカバンも凍也のことだけど」
 柊先生は笑いながら、
「洗濯は、頼まれなくても俺の仕事だよ」
 そう答えた。
「カバンは、あとで俺から凪ちゃんにでも伝えておく」
「いま行ったら、宮本先生が授業してるよ」
「ああ……いいね。でも邪魔しちゃ悪いし、休み時間に合わせて、教室の前で待ち伏せでもしようかな」
 楽しそうに話す柊先生をよそに、須藤さんはあいかわらず落ち着いたトーンで俺を気遣ってくれた。
「歩ける?」
「歩けないって言ったら、運んでくれんの?」
「……いいけど」
 落ち着いてるっていうか、冷静っていうか、少し冷めているようにも思えるんだけど、結局付き合ってくれるから、須藤さんって、やっぱり、すごく温かい人なんだと思う。
「歩けないかも……」
「おんぶ? だっこ?」
「須藤さんはどっちがラク?」
「しなすぎてどっちがラクかわかんないから、どっちでもいい」
 たぶん、おんぶの方がラク……かな?
 抱っこは目立ちそうだし。
「おんぶにする」
 須藤さんは背中を向けて少しかがんでくれた。
 俺は遠慮なく、その背中に乗ると、須藤さんの体をぎゅっと抱きしめた。