あっさりと否定する俺を見て、榛はしばらく黙っていた。
「……違うって…?」
「俺のルームメイト。啓と同中なんだ。…聞いたから」
「なにを…」
榛の表情が強張っていく。
聞きたくないけれど、聞きたい。
そんな葛藤があるのかもしれない。
「…啓が好きで…アキに手を出せば、啓が助けに来るだろうって。予測してたって。俺のルームメイトがじゃないよ。あいつは当事者じゃない」
「ホントに…?」
「…もちろん、アキだってかわいいから普通にアキに言い寄ってたヤツもいるんだろうけれど。それが全部じゃないって」
いまにも泣き出してしまうんじゃないか。
そんな表情の榛に、言い続けるのもどうかと思うけど。
ここで言いとどまる気にもなれなかった。

「啓は、後からだけれどそれに気付いてる。
だから、アキに対して申し訳ない気持ちもあると思う。
アキは気付いてないよ。
啓は『申し訳ない』って思ってくれてるアキに対して申し訳ないんだ。
実際、アキ自身はなにもされていなくて、まだよかったと思う。
本当は、真実をアキに伝えて、罪悪感から逃れさせてやってもいいんだよ。
でも、啓は散々、気持ちの上で、精神的にアキが悩んで苦しんでたのを知ってるから、いまさら言い出せないんだよ」

榛は俺をジッと見たまま、それでも目に涙を溜めていた。

ごめんね、榛。
俺、黙ってた方がよかったかなぁ。

「だからね。今、啓が中学のことをなんでもないフリしてアキに接してるのは、アキが心配しないように。罪悪感にかられないようにしたいから。
アキが、なんでもない風に接してくれなきゃ、苦しむのは啓の方なんよ」

あぁ、もう見てられないな。
俺は榛の体を抱きしめた。
そんな表情、見てられないって。
でも、伝わる。
俺の腕の中で、震える榛の体が。

「優斗…。俺、アキに…」
「…いや、別にお前は悪くないよ」
アキに対して怒りを覚えたことに、榛が罪悪感を感じる必要はない。
それは、真実を知らなければ当然のことだから。

「啓吾…どうすれば…っ」
そう。
啓にしてやれることって、なんか見つからなくって。
本当に、啓とアキ、本人自身の問題で。
俺らはなにも出来ない。
しょうがない。
もやもやした気持ちを抱えたまま、待つしかないんだよ。
きっと時間が解決してくれる。
だけれど、その時間、俺らはなにも出来なくて歯がゆくて。

そんな歯がゆい期間、榛に味わわせたくなかったから。
黙ってたのにな。
啓のこと、大好きな榛だからなおさら。
優しすぎるから、なおさら。

苦しいだろ。

「榛…。大丈夫だから。啓は強いし、アキも強いよ。
悩んでたアキも、啓に対して申し訳ない気持ちがあったみたいだけれど、啓と深敦くんが仲良くなる姿を見て、ほっとしてるみたいだし。
アキ自身も、春耶くんっていうイイ相手がいて。
落ち着いてきてるんだ。
俺らがいまさら、どうにかする問題じゃないだろ…」

榛が、俺の腕の中で、それでも頷くのがわかった。
「榛…アキに、伝えようとか考えてる…?」
「…わからない」
「ね…。啓自身は、たぶん無理だよ。でもね…。春耶くんが、なんとかしてくれると思う」
「春耶…くん…?」
「そう。今、啓の一番の友達で、理解者で。アキの恋人。ね。彼が一番、適任なんだ。
あの子に任せよう…? 啓もアキもフォローできるのはあの子だよ」

榛はまた、俺の腕の中で頷く。
少し体を離して、榛を伺うが、顔は下に向けたまま。
少し屈んで、俺は榛の口へと自分の口を重ねた。




「んっ…」
榛のシャツの中へと手を滑り込ませる。
抵抗する様子もなく、それでも榛は少し体をビクつかせた。
「っ…優斗は…ずるいよね…」
「なに…?」
「…全部知ってるくせに…隠して、俺…が心配しないように…。
憎まれ役、買って出て…。俺一人…馬鹿みたいだ」
「…んなことないよ。啓のこと、本気で心配してくれんのって、兄貴として嬉しいし。 まぁ、少しは嫉妬するってのは、ちょっと本気だけど?
……言っていいかわからなかった。榛の心配ごと増やすだろうし、アキと啓吾に対しても、いいことなのかわからないし、俺に教えてくれたルームメイトに対しても。
でも、心配してくれる榛に聞いてもらえて、俺、結構一人で抱え込んでたから、やっぱり榛に言えて、少し荷が軽くなった気もする。
聞いてくれてありがとう」
「なにが…ありがとうだよ…。お前、別に礼言う立場じゃねぇよ…」
胸元を撫でながら、空いている片手で、榛の股間のモノを取り出し直に擦りあげてやる。
榛は、片方の手で自分の口を押さえ、もう片方の手は、俺の腕を掴んだ。
抵抗するわけでもなし。
ただ、掴んでくれている。
「ぁっ…んっ…ン…っ」

何度も擦りあげて、溢れ出た先走りが奥へと伝う。
そのぬめりを借りて、指先で入り口をなでてやると、榛は薄目がちに俺を見た。
「…っ…すんの…?」
「…イヤ…?」
「……別に…」
「じゃあ、する」
指先をゆっくり差し込んでいくと、俺に見られたくないのか、顔を背ける。
「んっんーっ…」

結構、何度もやってるのに、全然慣れないよね、榛は。
「力入れすぎ…」
「んっ…あっ…」

凪ちゃん、ごめんね。
本当に、好きなんだよ。
でも、榛も愛おしいんだ。

二股?
浮気…かな。

榛だって、わかってる。
俺には彼女がいるって。

この行為は、恋人同士の行為とは違う。
かといって、ただの欲求不満の解消でもない。

友人である大切な榛を。
俺のモノにしてしまいたい独占欲に近いかもしれない。

「んぅンっ…優斗…っ」
入り込んだ指先で、中をかき回すと、榛は身を捩じらせて、その刺激に耐える。

あぁ、この中に、早く入りたい。
2本の指で、中を押し広げていく。
解して、榛が俺を受け入れてくれるように。
「あっぁあっ…んっ…やっ…ぅンっ…!」
少し久しぶりの行為に、榛はあいかわらず素人みたく新鮮な反応をしてくれる。
それでも、ある程度、受け入れれる体になっているソコは、次第にほぐれ、力が抜けて、いい具合に俺の指を締め付けていた。
「はぁっあっ…んっ…優斗…っ…」
「…ね…俺以外の誰かとした…? こんな風に乱れる榛って、俺以外に誰か見たの?」
耳元でそう聞いてやると、余裕がなさそうに、それでもさりげなく俺とは反対方向へと顔を背ける。
「ぁっ…んっ…んぅっっ…あっ…」
「じれったい…? そりゃそうやんね…。イイトコロ避けて、押し広げてんの。辛い…? 気持ちよくして欲しい?」

焦らして焦らして。
榛から欲しがってよ。

榛は、涙を浮かべながらも、体をよじらせ、俺の指がイイ所に届くよう腰をくねらせる。
きっと、ほぼ無意識だ。
体が動いてしまうんだろう。
「はぁっ…んっ…んーっ…」
「いやらしいね…。腰動いてる。どうして欲しい? 榛の好きなトコロ…あるやん?」
避けていた場所を、榛が腰を動かすがままに、指先で突いてやると、大きく体を震わせて俺の腕に爪を立てる。
「ぁああっ…やっ…」
「すっごい、感じてるやん…。久しぶりだで、感じすぎる? ココより…もうちょっと奥…好きでしょ。俺ので突いてあげる…」
俺は指を引き抜いて、榛のズボンと下着をずり下ろす。
後ろから抱きなおし、榛は前のドアへと手をついた。
「久しぶり…入れるよ?」
ゆっくりと。
いままで指が入っていた箇所へと自分の昂ぶりを押し込んでいく。
「あっんっんーーっ!!」
「力抜いてって。忘れちゃった?」
「はぁっ…あっ…んーっ」
忘れてしまって寂しいのと。俺以外、相手にしてないんじゃないかっていう嬉しさが入り混じった。

奥の奥。
入りきってしまう。
「あっ…優斗…っ」
「なに…?」
「無理…っ」
「なんで…?」
榛の言葉を無視するように、俺は緩やかに腰を動かし、内壁を擦っていく。
「ぁあっあっ…んっ…」
張り詰めた榛のを手で扱きあげながら。
榛が一番好きな所を、突き上げていく。
「んっぁんっ…あっっっ…んっ…!」
壁にしがみ付いて、体制を維持しながら、腰を突き出している榛の中を何度も出入りして。

久しぶりに聞く榛のこういう声が心地よかった。
もっと聞きたくて、場所とか考えられなくなってくる。

榛が声を出すように、前立腺の辺りを何度も擦った。
「あっぁあっ…やっあぁあっ…優斗ぉっ…やめっ…あっそこっ…」
「イヤ…? 感じすぎる? 狂いそう?」
それでもやめてあげない。
感じてイってしまえばいい。
俺だって。
感じすぎる。
榛の中は、気持ちよすぎて限界だった。
「やめっあっ…んぅっ…あっ…あぁあああっっ」



榛の声が、俺の頭に響いていた。
気持ちいいって、感じてくれただろうか。
気持ちいいよね?
だって、こんなにたくさん。

ぐったりしている榛の体を抱きしめ、俺らはしばらく無言のまま。

風が冷たくて気持ちよかった。



「…春耶くんに、任せていいのかな」
先に口を開いたのは、榛。
…やっぱり。
気になるんだろう。
「榛…やった後にさ。そういうのって、デリカシーないね」
冗談っぽく言う俺に
「ごめん…」
榛は、本気で謝ってくれる。
…ま、いいんだけど。
いつもの榛らしくない。
いつもなら『別に恋人同士じゃないんだし、そんなの求めんな』って言いそうだ。

本気で、考えてくれてんだな。
啓のこと。

ちょっとやっぱり妬けるけど。
しょうがない。
「大丈夫だよ、春耶くんなら」
「…俺じゃ、無理なんだよな…」

辛いだろうけれど。
榛じゃ、啓の立場にばかり立ちすぎる。
やっぱり、アキのことも同時に救って欲しいから。
春耶くんが適任なんだと思う。

「榛は、いままで通り、啓の傍にいてあげて…。それだけであいつは救われるだろうから。榛が、無理に解決しようと動く必要ないよ。…見守ろ…?」

きっと不満はあるだろう。
一番、救ってやれるのが自分じゃないことに。

啓のこと、ずっと心配してくれてたから。
でも、俺も。
同じだよ。
兄貴だからこそ、相談もされないんだよ。
言いにくいってわかってる。
兄弟ってさ。たまにそうだよね。
頼られたいのにな。

でもしょうがないんだ。

お互いの意思を確かめ合うように、俺らはもう一度、口を重ねた。