『裏ﾊﾞﾚﾝﾀｲﾝ』〜啓吾〜
｢啓吾ー､明日ﾊﾞﾚﾝﾀｲﾝだけど｣
水城に言われてやっと2/14を意識してみる｡
｢別にさ､男同志だし? 関係ねーんじゃねーの｣
｢そぉ? 珠葵はあげるっつってたけどな｡俺もｱｷにあげようと思ってるよ｣
まぁこいつはｱｷにベタ惚れだしな｡
普通は珠葵が好きな奴にあげるように、女役って感じの奴があげそうだけど｡
でも男子校だし? どうなんだか｡
『明日2/14だけど去年とかなんかあった?』
なにげなく兄貴にﾒｰﾙを送ると､やはりというか､それらしい事はあったようだ｡
今は男役である自信が俺にはある｡
女役でない俺にとっては考えなくてもいい事なのかもしれない｡
｢水城､お前はさ､男役だけどあげるんだ?｣
｢んー…男とか関係なく愛情表現｣
なるほどね｡
俺が女役になりたくないのと同じで､深敦もそういう考えがあると思う｡
だいたい深敦はそんな女々しい事は出来ないだろうし?
｢…俺もやるかな…｣
｢誰に｣
｢深敦に決まってんだろーが。水城に触発されたってのもあるけど、まぁ一応付き合ってるし深敦はぜってぇくれそーにねーし?
のくせしてそーゆう行事ん時になんもねーと淋しがるだろ､あいつは｣
水城はにっこり笑って俺の髪の毛をくしゃくしゃ撫でる｡
｢さすが深敦のｺﾄ考えてんね､あいかわらず｣
とりあえず用意だけはしてみるかと2人でﾁｮｺを買いに｡
…なんか嫌な光景だな…｡
次の日､朝すぐさま凪先輩がﾁｮｺをくれた｡
この人はこーゆうことしても似合うよな…｡
教室で深敦に呼ばれ､何かと思えば別のｸﾗｽの奴からの呼出しで､どうやらﾁｮｺをくれるらしい｡
噂でか俺に付き合っている奴がいるのは知ってるみたいで｡ただ貰ってくれさえすればいいと言われた俺はとりあえず笑顔でそれを受け取った｡
深敦は､そんな俺を一体どんな目で見てるのか｡
気になりはしたが目を向ければ物欲しそうだとか思われそうで｡
俺は顔をそらしたままにした｡
昼食時間や深敦と一緒にいる間にもいくつか貰った｡
深敦はどう思ってる…?
それ以前に俺は受け取らないでいるべきなのか…｡
でもそんなのはいちいち｢2月14日｣という日にちの意味を重く考えているようで｡
なんとなくそれもふに落ちなかった｡
深敦がくれる気配はない｡
別にそれは構わない事だった｡
深敦はそういう性格じゃないし｡
ただ周りがこれだけ騒いでいる中､俺らはなにもなくて､このまま一日が過ぎて｡
そういう関係でいいのだろうか｡
深敦がいいと思うのならば構わない。
けれど少しでも引っ掛かりがあるのならばどうにかならないもんかと思うわけだ｡
放課後｡
水城も俺同様､数個のﾁｮｺを手にしていた｡
｢水城はｱｷにあげた?｣
そう聞く俺に頷いて｡
｢昨日…じゃなくて0時に｡あげたよ｣
こいつらは､あっさりそういう事が出来るからある意味羨ましい｡
｢その調子だと啓吾はあげてないんだ?｣
｢まぁ…ね…｣
｢無理してあげる必要ないと思うけど?深敦とか周りどうこうじゃなくて｡啓吾自身は?あげたい?｣
俺自身…｡
あげるべきだと思うし｡…あげたいんだろうな…｡
｢…もう少し考えてみる…｣
｢ま､がんばりなよ｣
深敦はなにも思わないのだろうか｡
俺がﾁｮｺを貰って｡
それなのに俺ら2人は何事もなくて｡
こんな風に考えてるのは俺の方だけだったりしそうで｡そう思うとやり切れないようなむなしい気持ちにさせられる｡
夕方､部屋に戻って今日貰ったﾁｮｺをとりあえずﾍﾞｯﾄﾞの上に放置して自分も寝転がった｡
それでもやっぱり気になって｡
深敦の部屋まで行ってみる｡
どうすればいい?
会ってどうする?
意識しすぎか?
なんでもない､そうだろ…
そう自分に言い聞かせてﾄﾞｱに手をかける｡
俺の緊張を裏切るように､ﾄﾞｱの鍵はかけられていて､開くことはなかった｡
少しだけ安心してしまいながらも、部屋に戻る。
軽く眠ってから、ちゃんと考えをまとめよう。
今、なにか考えれるような状態じゃなかった。
混乱してる部分がある。
俺はベッドに寝転がって、目を瞑った。
どれくらいの時間がたっただろう。
電話で呼び出された。
伊集院先輩だ。
「なんすかね…」
断る理由も大してなくて。
俺は、凪先輩に一言告げると、伊集院先輩の部屋まで行った。
「今日、バレンタインデーだから。ほら」
そう言って、俺にチョコを渡す。
「なに、似合わないことしてんすか」
軽く笑って。
それでも、なんでもないみたいに受け取って、制服の大きめのポケットにしまった。
貰えないだとか、少しでも迷うと、チョコをくれるって行為を重くみてるみたいで。
それが嫌だから、軽い気持ちで。
「…絶対、啓吾くんは、くれないだろうからね」
「彼女さんからは、もらったんすか。黒崎憂くんだっけ」
「いや、貰ってない。夜、くれる気なのかもしれないけど。啓吾くんは？」
俺…？
「深敦くんから。もらった？」
「貰ってないですよ」
「夜、貰えそう？」
「別に、期待してないから。悪い意味じゃなくって…あいつはそういうバレンタインデーにチョコとかあげるタイプじゃねーよ」
俺が貰ってないのがわかってなのか、少しだけ、笑顔を見せる。
「いやみなやつ」
「俺？ そりゃあね。俺はそういうやつだよ」
無理矢理、俺を壁に押し付けて。
腕を取られる。
「結構、貰ったんだろ？」
「…先輩こそ。生徒会長さまですし？ 貰ったんじゃないの？」
「ある程度ね」
そう言って、俺に口を重ねようとするから、そっと顔を背ける。
軽く笑って。
思いがけず、耳元を舌が這う。
「っンっ…」
予想外の行動に、不覚にも体がビクついた。
「…かわいいね…」
俺が、なにかを考える間もなく、手が、上着を開かせ、シャツの中に潜り込む。
「っ…離しっ…」
押さえつけられるくらいなんでもないし。
変に意識したくないと思って、反応しなかったけど、ここまでくると、反抗しないわけにはいかない。
だけれど、遅かったっつーか。
押しのける手に力が入らない。
股間のモノをズボンの上から掴まれて。
もう片方の手でシャツを捲り上げ、胸の突起を舌で舐め上げられる。
「っはぁっ…んっ…くっ」
ズボンを片手で脱がしていきながらも、愛撫を続けられ、力がぬけていく。
「あいかわらず、感じやすいね」
「っ…やめ…」
「どうして？」
「っ…深敦んとこ…行きたいんです…」
「チョコ、貰わないんだろう？ 期待もしてないって」
「っ…ん…。そう…だけどっ」
「やっぱり、少しは期待してるんだ？」
「違…。俺がっ…あげるから…」
そこまで言うと俺のことを抱き寄せて。
後ろから、下着の中へと手を忍ばせる。
「っやめっ」
すでに、ズボンはずり落ちていた。
濡れた感触。
いつのまにか、舌で濡らしたんだろう。
「やめたげないよ」
そう言うと、ゆっくり、指が中へと入り込んできた。
「っんぅんンっ」
体中が強張る。
「後ろだけで、イけるだろう？」
楽しそうに耳元で囁くように言いながら、２本、差し込んだ指を抜き差しした。
「っやっくンっ…っ…ぅんんっ」
「そんなに、声、殺すなって」
俺が声を殺したのが気に食わなかったのか、もう１本、指を増やして、少し激しく中をかき回す。
「イっ…ぁあっあっ…くっ…んっ…あっ」
つい、刺激に耐えるように、伊集院先輩の背中に手を回してしまっていた。
「っゃあっ…んーっ、やっあっ…んぅんっ」
「気持ちいいんだろう？」
「っんぅっ…あっ、やっ…」
「よくないなら、止めるけど？」
じゃあ、止めてくれ…なんて、言えるような体じゃなくて。
悔しいけれど、して欲しくてたまらない。
「やっ…ぁあっ…いい…っ」
「気持ちいいって？」
「ンっ…」
「して欲しい…？」
俺は、頷いていいわけ？
駄目だろ…。
駄目に決まってる。
不意に指を引き抜かれ、俺の体を反転させられる。
後ろから腰を引かれ、その拍子に傾いた体を支えようと、壁に手をついた。
髪を絡めとられて。
それだけの行為にゾクゾクと体が震え上がる。
「欲しがってくれて、かまわないよ」
意味がわからない。
なにがかまわないのか。
別に、あんたの彼女に申し訳ないとか考えてるわけじゃない。
もちろん、それもあるかもしれないけれど、俺は深敦のことを考えているのに。
たぶん、わかってて、あえてそう聞いてくるんだろう。
背中を撫でていた手が、双丘を掴んで、その狭間を伊集院先輩のモノが擦り上げる。
「っく…ン…」
「欲しいんだろう？」
何度も、入り口を行き来して、それでも、入ってくれなくて。
もどかしくて、入れて欲しくて。
つい腰が後ろへと寄ってしまう。
「っはぁっ…んっ…ゃ…」
「なに…？」
駄目だって。
わかってるつもりなのに。
「っゃくっ…はやくっ」
「欲しい？」
「っんっ…。欲しい…っ」
俺がそう言ったのに満足したのか、ゆっくりと、中へと伊集院先輩のが入り込んでくる。
「っぁあっ…んっあぁああっ」
こんな自分は嫌で。
やっぱり欲しがってしまうから。
深敦のことも信用できなくなってしまう。
深敦が、欲しがってくれたりするのだって、もしかしたら、好きじゃなくって。
ただ、気持ちよくなりたいだけじゃないかって。
そういう考え方をしてしまうから。
実際、俺がそうだから。
嫌になる。
深敦は、俺じゃないから。
俺みたいに、いやらしくないから、そんなつもりはないだろうに。
そうだったら、どうしようかとか考えちゃうわけだ。
他のやつにだって、襲われたりしてるみたいで。
そういう時、俺が相手のときと変わらず、欲しがってるんだろう？
欲しがってしまうのはしょうがないって、身をもってわかってるつもり。
それなのに、自分のことを棚にあげて、深敦に不信感を抱く自分が嫌になる。
俺と、そいつの違いがわからないから。
俺は、深敦に対して、不信感を抱いたり。
そんなこと出来る立場じゃないだろうに。
「どうして欲しい？」
奥の方まで入れるだけ入れて。
なにも動かないで、俺に聞いてくる。
こんな風にされたら、欲しがらないわけにはいかないだろう？
そんなやめれる状態じゃない。
わかってるくせに。
わざと、俺に言わせるんだろう？
いまさら、羞恥心はない。
それよりも、欲しがらずにはいられない自分に、腹がたったり、凹んだり。
いろいろ考えることが多すぎて、精神がおかしくなりそうで。
「っも…ぉっ」
俺が、言いかけると、伊集院先輩は、中から全部引き抜いてしまう。
「っな…」
「ちゃんと入れてあげるから、そんな不満そうな声出さないでよ」
軽く笑われて、ものすごく欲しがってる自分を思い知らされる。
伊集院先輩は、俺の手を取って、ベッドの方へと引っ張っていく。
「おいで？」
深くベッドに腰掛けた、伊集院先輩にそう言われ。
俺には拒む権利があるのに。
誘われるがままに、先輩の体を跨いだ。
「っ…んっ、ぁああっ」
言われるでもなく、自分から伊集院先輩のモノを、飲み込んでいく。
先輩は俺の体を支えて。
背中に回した手が、シャツの中をいやらしく這い回るようだった。
「誘ってくれる…？」
「っな…に…」
「普通にしてても誘ってるように見えるけど？ 咥えて…」
そう言って、俺のシャツの前を捲くりあげると、胸元が見えるくらいに、まとめて口に咥えさせる。
ボタン取ればいいだろうに。
それでも、俺はその方が、声が殺しやすいかもと思い、従った。
「っん…」
露わになった、胸の突起を親指で押しつぶして愛撫しながら、俺の体を掴んで。
そっと体を動かされる。
「っんっンぅっ…んーっ…」
俺自身も、先輩の首に手を回し、頭を掴み込んで、自ら体を動かす。
「んぅっンっ、んっっ」
気持ちよく、リズミカルに体を動かして、動かされて。
すごく感じるトコロを突かれて、ついシャツを口から落とす。
口を抑えてないと、変なことまで口走りそうだけれど、もう駄目だろ…。
「っはぁっあっ…せんぱ…っぁっ」
「イイ？」
「ぃいっっ、あっ、やあ…やっ、もっとっ」
「かわいいね…」
「ぃっ…から、ぁあんぅっ…ゃくっ」
「イきそう…？ 出して…いいよ」
「っんっ、あっ…ぁあっん、ゃっやぁあっ、あぁあああっっ」
俺は、伊集院先輩に抱きついて。
自らの欲望を放った。
自己嫌悪に陥る。
いやらしい声を出して。
「…帰るよ…」
ここにずっといると、考えがまとまらなそうで。
俺は伊集院先輩に別れを告げ、自分の部屋へと戻った。
部屋に戻ると、凪先輩はいなくて。
代わりでもないけど、深敦が俺のベッドに寝転がっていた。
妙に、胸が締め付けられるようで。
やっぱり罪悪感に近いものを感じる。
深敦の手を取ってはみるが、起きる様子はない。
この手で、触られたら…。
そう思うだけで、緊張が走る。
やっぱり。
他のやつとは違うんだって、思わされたりするわけだ。
俺は、風呂に入って。
さっぱりした状態で、あらためて深敦を眺めた。
こんな、チョコまみれのベッドで。
どんな気持ちなんだか。
やっぱり寝顔がかわいくて。
そっと頭を撫でる。
撫でれば撫でるほど、愛しさが募っていく。
「深敦…」
俺も。
寝転がりながら、もう一度、深敦の頭を撫でてやる。
時計を見ると、もう９時で。
あと３時間で、今日は終わり。
べつに、大して気にするわけではないけれど。
一応、チョコも用意したわけだし。
迷ったあげく、携帯のアラームを１１時３０分にセットして、俺も、そのまま眠った。
疲れていたのか、ぐっすり眠ってしまっていた。
１１時半のアラームにも気づかなく、代わりに、深敦が俺を起こしてくれていた。
寝ぼけた状態で、頭が働かなくて。
ただ、チョコをあげるつもりだったんだと。
それだけははっきり覚えていた。
俺だって、チョコをあげるようなタイプじゃない。
寝ぼけててよかったと思う。
渡すと、嬉しいと感じてくれたのか、一瞬、笑顔を見せるが、すぐまた表情を曇らせる。
不安そうで、泣きそうにも見えて。
あぁ。
こいつも結構、今日のこと、いろいろ考えてくれてたんだろうかと、考えてしまう。
やっぱりあげてよかったと思ったり。
大好きでたまらない。
自分がチョコを用意してないことに、罪悪感とか感じているみたいで。
別に、お前がくれる必要はないんだと、伝えてやる。
安心したのか、また、泣きそうな表情を見せて。
すべての行動がかわいく思る。
代わりでもないけれど、深敦は、お菓子を持ってきていた。
一緒に食べようと言ってくれて。
伊集院先輩とやったりして。
深敦に対して、いろいろ考えたけれど。
実際会って、触れてみて。
いままで、自分が悩んでたこと、忘れさせてくれる。
安らぎを与えてくれる場所みたいなもんで。
こいつがいるから、俺は、いろんなやつとやったりしちゃってる状態でも。
中学と違ってこうやって、学校にくる価値を見出せているようだった。
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