「まぁ、飲みますか」
何気なく出された缶ビール。
「…智巳、いつのまに買ってたんだよ」
とりあえず、フタあけて渡されたら、飲んじまうわけで。
酔わなきゃやってらんねぇって気分でもあるし。
これ飲んで、即行、風呂で洗い流して。
寝るかなぁ。

そんなこと考えながら、二人で、俺の家に戻る。


玄関の鍵を開けようとしている最中だった。
智巳に腕を引かれてしまう。

「…智巳ちゃん…急がないといろいろと困るのですが」
早く、風呂に入って洗い流さないと…とかあるわけで。
「まぁ、やらしいね」
「…まぁじゃなくって…」

俺の背中を玄関のドアへと押し付けて。

思いっきりガンつける。
「俺だって、弟が突っ込んだ後に入れたくないですよ」

というか、やる気なんすか。
「…智巳ちゃん…すんの?」
「さぁ?」
そう言いながらも、智巳ちゃんは俺のズボンを下着ごと引きずりおろしてしまう。

しかも、酒回ってきた。
少しボーっとしてくる。
「智巳ちゃん、ちゃんと言ってくれないとわかんねぇし」
俺の両手を、それぞれドアへと押さえつけ、企むように笑ってみせる。
久しぶりに見るな…智巳のこの顔。
と同時にやばいなにかを感じる。
「智巳ちゃ…」
「ほら、出してくださいよ、ここで…。いまにも溢れそうなんでしょう? ナツのが」
「ばか言ってねぇで、離せって…っ」
「うるさいですよ。殴りましょうか?」
耳元でそう言って。
「…なぁ、お前、殴るとか…」
マジでやるもんな、こいつなら。
とりあえず、怒らせないように、しないと。
「出してください」
冷たく俺を見て、そう言うもんだから、俺は顔を俯かせその視線から逃れた。
「早く…」
マジだな、こいつ。
「っわかった…から…」
俺は、自分の両足に絡まるズボンから片足を引き抜く。



「んっ…っ」
智巳に見守られながら、中に入り込んでいるナツの出したモノが、足を伝った。
絶えれず、顔をそらすが、智巳はそれを俺の太ももから拭い取って、目の前に見せてくる。
「…馬鹿ですねぇ、ホント。こんなの出されて」
智巳が、2本の指をピースでもするみたいに開いて、糸を引かせて見せる。
と、その指を俺の口の中へと挿し込んだ。
「んっ…!!」
「俺は弟の精液なんて触りたくないんですよ、本当は。でも、深雪先輩はコレが好きなんでしょう? ちゃんと拭い取ってください」

言われるがままにするつもりはないが、智巳の指が俺の舌を撫でて、絡ませてくる。
「んっ…」
顔をそらすと、それに伴って智巳は指を口から抜いてくれた。

が、その手が俺の足の間を撫でて、そのまま、2本の指が入り込んでくる。
「んぅンっ…!!」
俺は、外ということもあり、慌てて両手で口を塞いだ。
「なに、口塞いでんの…? さっき、散々ナツの前では声だしてたくせに」
いやみらしくそう言って、空いてる手で俺の手を口からどかしてしまう。
「智巳っ」
「押さえんなよ…」
そう俺にガンつけて言ったあと、2本の指が俺の中をかきまわしていく。
「あっ…ぁあっ…んっ…!」
「すっげぇ、ぐちゃぐちゃですねぇ、ココ。女の子みたい…」

昔。
俺にとって一番、むかつく言葉だった。
女みたいだって。
よく名前のことで言われてて。
でも、今は違う。
名前じゃなくって、俺自身。
一番、羞恥心を煽られる言葉だった。
「あっ…」
つい、顔をあげ、智巳を見る。
「なに…? 恥ずかしいですか…?」
悟られないようなんでもないフリをしたいが、否定も出来なくて。
だけれど、智巳には全部、バレてるだろ。

「しょうがないでしょう? だって、こんなにぐちゃぐちゃになって、たくさん液漏らして、声だして。女の子よりいやらしいですよ…」
示すように、中でぐちゃぐちゃと音を立てるように指が動き回った。
膝がガクガクする。
涙が溢れる。
「ぁんっ…あっ…あぁあっっ」

智巳ちゃんとは、何度やっても、ヤリ友というわけじゃないし。
ナツのときとは全然、違う。
やってるところを見られるのと、直接相手にするのとでもだいぶ違うし。
学生のころはまだ、よかったかもしれないが、大人になった今、恥ずかしい気持ちが捨てきれないでいた。

「やっ…ぁあっ…ぁんっあっんぅっ…智巳ぃっ…」
目を瞑ると、涙が頬を伝う。
手探りで、智巳の腕を掴んでいた。
「やっめ…っぁあっ智巳っ…やっぁあっ」
中を強く刺激され、立っていられずその場に座り込む。
と、同時に智巳の指が抜けていった。
「ぶっちゃけたところ、俺はたぶん、ナツに比べたら、あなたの体こと知らないですよ。でも、それなりには知りつくしてるし。……酒が好きなくせに弱いのも知ってます」
酒。
わざとだったのか。
そう理解してももう遅い。

立ち上がれないでいる俺の体をかついで、智巳は俺の部屋へと入っていく。

ベッドに下ろされて。
全裸にされて。
ぐったりとする俺の上に覆い被さり、じっくり見下ろされる。

「智…巳……」
熱い。
さっきまで、智巳に手を出されていたせいもあるし、酒も入ってるし。
ただ、名前を呼んだだけなのに、ものすごく情けない声が出ていた。
「なんですか」
「っん……離れ…」
「離れろって?」
「……もう…やめ…」
そりゃ、体はすっごい欲しがってるかもしれないけれど。
ここでやったら。
酒、入ってるし。
絶対、変になる。
智巳の腕に手をかけるが、全然、力が入らない。

智巳は、俺の頭をやさしく撫でて。
それとは、逆に、口を荒々しく重ねる。
「んっ…ぅんっ…」
俺は、智巳の頭を離そうとするけれど、もちろん無理。
ねっとりと絡む舌のせいで、体温がますます上昇するような感覚。
「んぅっ…んっ…」
少し俺よりも冷たく感じる智巳の舌が、そっと俺の口から離れていく。
「あ…」
ジっと智巳を見ていると、俺の顔を横に向けさせ耳へと舌を這わす。
「あっっ…ンっ…ぅんっ…」
ものすごくゾクゾクする。
智巳の手が、俺の髪を絡め取りながら。
わざと、耳元で濡れた音を響かせる。
「はぁっ…ぁっ…」
首筋に口付けて。
胸元を舐められて。
その舌が、ものすごく気持ちよくて。

なにも考えられなくなってきていた。
「智巳ぃっ…もぉっっ…やめ…っ」
酒のせいなのかなんなのか。

やばいって。
醜態さらす。
そう思うのに。

「…深雪先輩…足開いて、腰浮かせて。誘ってるんですか」
耳元でからかうようにそう言って。
自分がそんな格好だったと気付かされる。
それなのに、体は上手く動かないし。

智巳はゆるゆると、入り口を指先で撫で上げて。
ゆっくり智巳が指を1本挿し込んでいく。
「あっ…んぅんーーっ」
1本の指が、中をゆっくりとかき回す。
さっきまで、ナツとしてたせいもあるのかもしれない。
もちろん、そんなんじゃ足りないわけ。


こいつわざとだ。
1本だけしか入れてくれないのも、ゆっくりかき回すのも。
焦らして楽しんでる。
俺から欲しがるの、待ってるんだろう。
それがわかるから、なおさら欲しがりたくないんだけど、無理。
思考が定まらない。

「あっ…智巳ぃ…っ…ぁあっ…もぉっ…やっ…」
「なに…」
「入れ…っ…んっ…はぁっ…はやく…っ」
そう言えば、入れてくれると思ったのに。
「駄目です」
あっさりそう言うもんだから、つい目を見開くようにして智巳を見る。
「…酔いすぎですよ」
俺を無視するように、さきほどと変わりない愛撫を続けるもんだから、じれったくて腰がいやらしく動いてしまう。
「あっ…やっ…」
そんな風に、腰を動かしてしまうのも恥ずかしいし、どうにもならなくて、智巳の左手を握る。
「はぁっっ…智巳ぃっらめぇ…もぉっ…あっっ」
舌、回らないって。
あいかわらず、俺をジっと見て、それでも、なにも変化をくれない。
「っあっっぁっばか…っんぅっ…もぉ…っ」
涙が必要以上に溢れる。
智巳の指が引き抜かれていった。
「あっ…智巳…」
「俺が誰かわかってますか」
「んっっ」
「じゃあ、自分で入れてくださいよ…」
もう、こんなこと、したくないって思ってるのに。
まぁ、智巳ちゃんに押し倒されてやられてしまうのはしょうがないにしろ。
お互い社会人にもなってるし。
こんな風に、刺激を求める自分が恥ずかしい。
ナツは、そんな恥ずかしい俺を昔っから全部見てくれてるから、まだいいけれど。

智巳は、普段の教師としての俺を知りすぎてるから。
だけれど、拒めないのは、自分が気持ちよくなりたいからと。
智巳の言うことを断れないのと、両方だ。

智巳を押し倒して、智巳のを取り出して。
俺は智巳の体を跨いで、ゆっくりと自分の中に収めていく。
「んっ…んぅんんっ…」
自ら腰を動かす俺を、じっくりと見上げられて。
その視線の羞恥に耐えながら、それでも腰を止められず、声を漏らす。
「ぁっあっ…んぅっ…あぁあっ」
やたら真面目な智巳の視線が突き刺さって。
一人だけよがっているのが恥ずかしくてたまらない。
「んっ…見な…っぁっぁああっ…くっぅんっ」
「やらしいね…深雪…」
そんなタメ口で、俺の事、呼ぶなっての。
「だっめ…っ…智巳ぃっ…やぁあっいくっ…あっあぁあああっっ」

智巳の体に自分の欲望を放ってしまう。
頭がボーっとした。
視界だって。

倒れこむ俺を逆に智巳が押し倒す。
視界がぼやけるのは涙のせいだけじゃないんだろう。
クラクラしてる。

イったばっかなのと、酒のせいで、体が熱くてしびれるような感覚。
それなのに。
追い討ちをかけるように、智巳は俺の中に入ったままだった自分のモノをそっと抜き差しする。
「あっ…やめっ…」
ゾクゾクした。
死にそう。意識、飛びそう。
「あんっ…あっ…ぁんっ…やっ」
「どうしたの、先輩…?」
「はンっ…あっ…変っ…ぁあっ…」
「ホント…さっきよりも、声、やらしくなってる…」
指摘されて、恥ずかしいのに、心地いい。
余計に感じる。
口を押さえようとする俺の手を、智巳は当然のように、押さえつける。
「やっ…んっ…ぁんっ…あっ…やぁあっんっ」
「へぇ…。いっつも、俺、先輩に気ぃ使って。そこまで酷いことしてこなかったけど。イってすぐ、やられると、そんな恥ずかしい声、出しちゃうんだ…? それとも酔ってるから?」
なんとなく、智巳の言うことが、理解出来る。
恥ずかしい声だって。
指摘されて、涙が溢れて。
なんで、なのに俺は、感じまくってんのかわかんない。
言って欲しいのかよ。
いやらしい声。
いまさらだけど、俺の声じゃないみたい。
「あ…んっ…ゃンっ…やっ…ぁんっ…あんぅっ…やぁあっ」
「エロい体ですね、ホント…」
「やっ…ぃくっ…あっぁあっ…らめぇっ…っ」

かわいいねぇ、深雪ちゃんは…って。
なんで言ってくれないんだろう。
あぁ、なっちゃんじゃないからだ。
誰だっけ。
「やっぁあっ…ぁんっ…あぁあああっっ」





意識が飛んだ。
2回、イかされたところまでなんとなく覚えている。
けど、智巳がその後、イったかどうかもわからないし。
俺がなにしたかも、わからなかった。


気付いたら、ベッドで2人。
俺が、先に起きた。

あのとき、俺、智巳のことわかってなかったよなぁ。
ナツじゃないってのはたぶん理解してたけど。
いま、ここに智巳がいるのと。
酒飲ましてきたのが、智巳なのと。
つじつま合わせると、智巳だったんだろう。

すごい罪悪感。

「起きて即行、その表情、やめてください」
「智巳ちゃ…っ」
起きてたのか。
ジっと俺を見る。
「ごめ…。俺…酒飲むと、よくわかんなくなっちゃって」
「わかってますよ。知ってて飲ませたんですから。…気にしないでください」
やっぱり。
気にするようなこと、ホントはしたんだろ。
「なにか…した?」
「覚えてなくて謝ったんだ?」
「いや、その、いろいろと、わけわかんなくなって、あんまりまともに相手できなかったから…」
「あぁ。そういうこと。ソレは別に、いいですよ」
じゃあ、なにか。
恐る恐る目を向ける。
「…別にいいんですけど。酒飲ませた俺が、間違ってたんで」
「なに…っ」
「俺のこと、なっちゃんって言ってました」

昔、智巳が、他の男の名前なんて呼ばれた日には、立ち直れない…って言ってたのを思い出した。
そりゃ、今と昔じゃ状況は違う。
違うけれど、相手してるときに他のヤツの名前呼ぶなんて、最低だ。
「結局、途中で、深雪先輩のこと、しばらく放置しました。覚えてません?」
「…覚えて…な……」
「なっちゃんって甘えた声で呼ばれて、いつもみたいにしてって、言われて。…冷めたんですけど、涙流してせがむもんだから、まぁとりあえずヤりました」

返す言葉がなくて。
目を智巳から逸らした。

「深雪先輩…。今、ナツと間違われたことに関しては、別にもういいです。ただ…ナツも俺も、深雪先輩の好きな相手じゃないんですよ。ナツは、自分の気持ち、押し殺して、深雪先輩の傍にいた。俺は、傍にいても友達じゃ意味がないから離れていた。その違いで、俺より、ナツの方が、大きい存在になっちゃうんすね…」

智巳の言うとおり。
どちらが好きとかじゃなくって。
ナツがずっと傍にいてくれたから。


「せめて、アキラさんって呼ばれたんなら、納得いきますけどね…」
智巳は、珍しく、苦笑して。
優しい目を俺に向けた。

「…智巳…」
「別にもういいんですけど。俺、2番とか3番とか嫌いだし。……1番が、いなくなったとしても、心ん中いるなら、一緒です。万が一、いまさら、深雪先輩が、綺麗さっぱり忘れてくれたとしても、2番目や3番目に見られた過去の事実は、変わらないだろうし…。…だから…もういいんです」

俺が気にしないようにそう言ってくれてるのかもしれない。
そう言われないと、智巳に走ってしまいそうで。
いまさら、来るなよって言ってくれてるみたいで。
切ないような、ほっとするような感覚だ。

実際、智巳よりもナツとの方が深い関係だったわけだし。
智巳の気持ちに応えられるわけでもないし。
「…ありがとう…」
「お礼なんて言わないでくださいよ。ただ、俺もナツみたいにしてりゃよかったかなぁってたまに考えるだけです。まぁ、無理ですけど。プライド高いんで」
智巳は一番でないと駄目なんだろう。

俺に、笑って見せてから、すっと背を向けた。
「智巳?」
「ん。もう寝ます。深雪先輩はずっと寝てましたけど、俺、寝てないんで」
起きててくれたのか。
「智巳…。たまに甘えていい?」
「…本当に、わがままですよね。ちょっと俺が優しい言葉かけたら、すぐソレですか…。……まぁいいですけど」

こいつが、2番目でもいいって言ってたら、また変わっていたのかもしれないな。
いまさらもう、どうにもならないけれど。

俺は、智巳の背中に少しもたれるようにして、もう一度、眠りについた。