やっぱり来るんじゃなかった。
 会わないはずないだろう、ココで。
 そりゃ、久しぶりに会いたいって気持ちも多少あったけどさぁ。
 


 ことの始まりは智巳ちゃんだ。
「お盆ですよー。…地元、戻らない?」
「…俺はいいよ。4年生の面倒見てるし。ここにいる」
 そう言ったのに。
「…チケット買った」
 新幹線の切符を俺の前に差し出す。
「…キャンセルしてこいよ」
「今日のだから。あと3時間後、出発だから、早く準備して」
 って、ありえねぇって。
「なんでそんな急なわけ? 毎度毎度さぁ」
「だって、急じゃなかったら断るでしょ」
 確かにそうだけどっ。

 で、新幹線の切符も買っちゃったらしいし?
 まぁ、最近、地元戻ってなかったしなぁ。
 急だが、家に帰ることにした。


「あれ。深雪ちゃん、どうしたの? 帰って来るなんて珍しい」
 昼過ぎ。
玄関開けると久しぶりに見る父親の姿。
「…別に。たまにはな」
 そう言い、自分の部屋へと向かう。

「どうも、光流さん。お世話になってます」
 後ろで智巳ちゃんがなぜかやたら丁寧に父親に挨拶するのが聞こえてくる。
「あ、水泳部の智巳くんだ」
「覚えて戴けたようで、光栄です」
「もちろん、覚えてるってば。あれ、智巳くん、今、深雪と付き合ってんの?」
「違いますよ。フラれてるんで」
「智巳くんなら、安心して深雪を嫁に出せるのになぁ」

 あぁ、こいつらほっといたらずっとしゃべり続けそうだ。
 でもまぁ止めるほどのことでもないし。
 俺は一人で自分の部屋へと入った。


 いやなこと。
 いろいろ思い出しそうだな、この部屋。
 いやなことっつーか。
 いまじゃいい思い出かもしんないけど。

 いろんな奴と、ここでやったなぁ、なんて思い浸っちゃうわけだよ。



少しして、やっと智巳ちゃんが俺の部屋に入ってくる。

「…智巳ちゃんは、家帰らないの?」
「別に。今日のお祭りに行きたかっただけだし」

 あぁ。そういえばここの地域、いっつもお盆に祭りだったな。
 智巳ちゃんって、意外にも祭り好きだから…。

 
 そんなわけで、夜、智巳ちゃんと祭りに向かって。
 一緒に行こうとか言っておきながら、すぐ離れ離れになってしまう。  
まぁ、あえて携帯で呼び出すほどでもないし。
 俺はしばらく一人でうろついた。
 人ごみに疲れ、少し奥の公園のベンチへと腰を下ろす。

 っと、目の前に人の足。
 そっと、顔を上げると見知った顔。
「…あ…悠堵…?」
「こんばんは」
「こんばんは。俺、ツレ置いてきちゃってるんで…」

 と、あからさますぎるが、すぐさまその場を去ろうとする。
「もうちょっと待ってくださいって」
 悠堵。
 智巳ちゃんの弟の彼氏だ。
 こいつが、俺を引き止めるってことは、智巳ちゃんの弟である夏彦が来たりしそうで。

「…待つ必要性は…?」
「…ナツが深雪さんの写メ、いろんな奴に送っててさ。見つけたら即連絡入れるようになってんだよ」
「…へぇえ…」
 別に『会おう』って言われたら素直に会うんだけどな。
 俺が、地元戻ってきてるってのは、智巳ちゃんがバラしたんだろうか。
 いや、別に駄目ってことはないけれど。

「…俺、試してみたいんだけど、いい?」
 ナツのこと考えてると、悠堵が俺を引っ張って木のある暗闇の方へと連れて行く。
 試してみたいってさぁ。
 やるってことだよな。
「…そりゃ、やばいだろ。お前、ナツの彼氏だし」
「だから。ナツって深雪さんのことばっかり考えてて、全然、俺のこと見てくんねぇし」
 あぁ。
 ナツが好きなのはたぶん、俺だからなぁ…なぁんて思ってしまうけど。
 
 悠堵がそっと俺に口を重ねてくる。
 あぁあ。
 俺の彼女の雪之は家に帰ってるし。
 夏休みだし。
 欲求不満な部分とかあったりもして。
 つまりなんつーか、久しぶりなわけ。

 やっちまうかなー…。
 こいつとやるとどうなるんだ?
 ナツは、俺と悠堵、どっちを恨むんだろう。
 だいたい、こいつらどういう関係なんだ。
 恋人同士だってのはわかってるけど、どっちが攻めてるんだか。

 木にもたれるようにして、キスされて。
舌が絡まってくると、頭がすこぉしぼーっとした。  
結構、好きかも。  
悠堵の手が、俺の股間をズボンの上から撫でていく。
「…っあのさ。…確認するけど、俺が受ける方?」
「そりゃそうだろ。だって、ナツとやってたときもずっとそっちだったんだろ」  
そうだけどさぁ。
「どう聞いてるんだ?」
「…いや、詳しくは聞いてねぇけど」
 どう聞いているのかは教えてくれず、悠堵は俺のズボンのジッパーを下ろして直擦りあげる。
「っん…やっぱ…やばいだろ…」
 ナツとは別につきあってたわけじゃねぇけど。
 それに近い関係だったわけで。
 つまり、今彼と元彼がやっちゃうってどうなのよ。
 
 そんな俺の考え方なんてシカト状態で下着の中まで入り込んだ指先が後ろの入り口を撫でていく。
「っ…くっ…んっ…」
 駄目だ。
 必要以上に体がビクつく。
 だから、俺、マゾだしね。
 そういう、やったら駄目だろ的な展開になると、余計に燃えてきてしまうというか。
 理性と世間体と性欲が頭の中で格闘してやがる。
 でも、そんな間にも悠堵の指先がゆっくりと入り込んでくる。
「んぅンっ…!!…はぁっ…やめ…」
 悠堵の肩に手を置いて、少しだけ引き剥がそうと試みるが、もちろん力なんて入らない。
「…やめて欲しいようなことを言うわりには、すげぇんだけど」
 やべぇ、俺自覚なかったかも。
 自分の股間を盗み見ると、先走りの液がもう溢れてる。
 俺は、早漏かよ。
 っつーか久しぶりのせいだって。
「やらしいな…」
 悠堵が耳元でそう言うもんだから、つい反応して指を締め付ける。
「深雪さんって、M?」
 悠堵の指が、中をゆっくりと探るように掻き回す。
「はぁっ…あっ…違ぇよ…っっ…」
「ふぅん。Mっぽいねぇ。普通のHじゃ物足りないんじゃないの?」
 煽られれば煽られるほど、感じてきて、我慢出来なくなるじゃんかよ。
 
 悠堵の指が、中でぐちゃぐちゃに動いてて。
 少し俯く俺を、わざと下から覘き見る。
「あっ…あっ…ンっ…ぁんっあっ…」
 気持ちいい。
 死にそうだ。
 久しぶりにこんな後ろやられたらもう、飛んじゃうって。

「悠堵っ…ぁっ悠堵…、早く…っ」
 耳元で悠堵が笑うようなのがわかった。
 けどもうどうでもいい。
 だって、高校戻ったらもうこいつと関わることもそうないだろうし。

 悠堵が指を引き抜いて。
 俺の体を反転させる。
 俺は木に手をついて、悠堵を待った。
 ズボンも下着も下ろされて。
 悠堵が俺の腰を掴んで場所を確認するように手で撫でる。
 入れられる。
 そう思ったのに。
 悠堵の手が離れていく。
「っ…なぁっ…はやく…」
 そう振り返ると、そこに悠堵はいなくって。
 代わりにナツがいた。
「っな…ぁ…」
 少しだけ離れたところに、悠堵が座り込んでいる。
 祭りの雑音で、全然気がつかなかった。
 俺はまた木を背にして、ギリギリまで後ずさる。

「なぁにしてんのかなぁ、深雪ちゃん…」
 
 俺をガンつけるようにして言うけれど。  

 別に、ナツになにか言われることではないだろ。
 恐がる必要ないし。
 俺が誰とやろうが関係ない。
 ナツが悠堵を怒るならわかるけど。
 って、なに俺、責任逃れみたいなこと考えてんだよ。

 ナツの手が上がり、叩かれると予測し、つい目を瞑って覚悟する。
「…かわいーねぇ…」
 ナツが、俺の頬を撫でて、俺はそっと目を開けた。
「恐がってんの?」
 恐ぇよ、お前。

「なんで、深雪ちゃんが悠堵としてんの?」
 そう聞くってことは、悠堵がナツを呼んだわけではなくって、偶然、来た…のか。
「途中で止めるかなと思って見てたんだけど。このままじゃ最後までやりそうだったよね」
 見てたんか。
 そりゃ、入れる直前で偶然居合わせるなんていいタイミング、めったにないだろうけど。

「しかもさぁ。なに悠堵のこと欲しがってんの?」
 そりゃ、いやだよな。
 自分の彼氏を他の男が欲しがってたら…。
「…悪ぃ、ナツ…。その、別にお前の彼氏取るつもりじゃなかったんだけど、なんつーか流れで…。もう帰るから」
 しょうがねぇけど、家で智巳ちゃんと続きすっかなぁ。
 そう思ったけれど、ナツの指が、俺の股間のをそっと撫でる。
「っんっ…」
 体が必要以上にビクついた。
「こんな敏感な体のまま、帰るつもり? どこかで誰かにやられるよ」
 もうそれならそうでいいですけど、とか思えてくるし。
 
 ナツの指先が何度も俺の股間の裏筋を撫でて。
 じれったい感覚にまた体中が熱くなる。

「俺はね…。深雪ちゃんが俺以外の男とやる姿なんて見たくないんだよ」
 お前、悠堵か俺か、どっちに嫉妬してんだよ。
 
「深雪ちゃんの体は俺が一番よく知ってるんだから…」
 見せるようにナツが自分の指を舐め上げて。
 その指がそっと俺の中へと挿し込まれる。
「んっんーっ…」
「たぶん、深雪ちゃんよりも知ってるよ?」
「っばか…なに言って…」
「ホントだよ。教えようか? 深雪ちゃんはね…こうやって2本の指を中に入れて。中指の腹でココの内壁を何度もこすってあげると、すぐイっちゃうんだよ…」
 耳元で教え込むようにそう言いながら、言葉通りの行動を取る。
「あっ…んっんーっ…ナツ、やめっ…」
「ね、感じるでしょ。いっつも、こうするとすーぐイっちゃうもんね…」
 俺、そんなに早くイってたか?
 だいたい今回は、悠堵にも嬲られてて、もともとかなりイきそうな状態で。
 溜まってたし。
 なんて考えてる余裕ない。
「イってもいいよ。イきたいんでしょ。わかってる…」
「はぁっ…やっ…ぁあっ…もぉ、やめ…」
 何度も、ナツの指がイイところを行き来して。
 悦すぎて、イきそう。
 ナツの前でイくのは別に初めてじゃないのに。
 言葉通りの反応をしてしまう自分がなんだか無償に恥ずかしい。
「ほら…今、恥ずかしいって思ったでしょ。いつもより我慢してる…。涙流すほど感じてるくせに…」
 わざとなのか、わかんねぇけど、羞恥心を煽ってくる。
「ぁっあっ…やぁっ…ナツっ…あんっぁあっ…」
「恥ずかしい? でも深雪ちゃんは我慢すればするほど、恥ずかしい声出ちゃうから、早くイった方がいいんじゃない?」
 なんで。
 なんで、そんなに俺のこと知ってんだよ。
「やらぁっ…ぁあっナツっ…あんっぁあっんーっ」
「ね…いやらしい声、出ちゃうと恥ずかしいでしょ? いいよ。イこ?」
「もぉ、やあっ…やぁあああっ」


「我慢してたから、たくさん出ちゃったね…」
 ナツは、2本の指を挿し込んだまま、もう1本指を増やす。
「っあっ!!! …ナツ…っ」
 3本目の指が入ると同時に、背筋がゾクっとした。
「イってすぐ。中拡げられると、また、エロくなってやりたくなっちゃって。入れて欲しくてたまらなくなるんだよね…」
 催眠術師ですかってくらい。
 ナツの言葉通りに、体も精神も反応してる。
「ばかっぁっ…あっ」
「拡げて欲しいくせに。拡げんなって言いたそう」
 こいつ。
 ホントに俺のこと知り尽くしてる。

「入れてあげる…」
 もう。
 駄目だ、俺。
 
 ナツの指が引き抜かれて、力の入らない俺は、その場に座り込む。
 押し倒されて、ズボンと下着を全部引き抜かれて足を広げられて。
何のためらいもなく、俺の中へと自分のモノを押し込んでいく。
「んーっ…ぁっあぁあっ…」
「言わなくても自然に、受け入れてくれるよね、深雪ちゃんは。入れて欲しいって体がねだってる」
「違…」
「俺が動かないと、自分から腰、揺らしてくんだよ」
「っだからっ…違うっ…てっ」
「違わないよ。ねぇ、俺今、動いてないよ。深雪ちゃんが腰、揺らしてんの…」
 そりゃ、少しは動いちまうけどっ。
 なに、お前はまったく動いてなくて。
 この刺激、全部、自分でやってんの? 俺。
 恥ずかしすぎ。
「やっ…あっ…」
「いままで知らなかった? でももう、腰、止められないでしょ」
「やっ…やめっ…あっやめろってっ」
「だから、俺はなにもしてないよ。このまま動かないで、深雪ちゃんのいやらしい姿見てるのも楽しいかもね。騎乗位でもないのに、こんなに自ら腰振ってくれてさ」
「やぁっあっ…あぁあっ」

「…なかなか、おもしろいプレイすんのな、お前」
 誰。
 声、智巳ちゃんだ。
 視界がぼやける。
 涙のせいか。
 見上げると、俺の横にしゃがみこむようにして、智巳ちゃんが。

 ナツとやってるとこ、智巳ちゃんに見られるの、初めてだ。
「やっ…あっ…」
「…いやらしいでしょ。兄貴よりも俺の方が、深雪ちゃんのこと気持ちよく出来るから」
「ふーん。別に、俺、お前なんてライバル視してないし」
「別に、ライバル視とかどうとか関係なく、ただ、兄貴よりも俺とやる方が深雪ちゃんはいやらしいってだけ」
「お前、俺と深雪先輩がやってるとき、どんだけ先輩がいやらしいか知らないくせに」
「へぇ。そんなに自信あるわけ?」
 冷戦みたいな二人の攻防が続く。

 もう。
 駄目だ、俺。
「ぁっあっ…なっちゃぁっ…あぁあっ」
 智巳ちゃん、悪いけど、構ってられない。
 涙が溢れていた。
 ナツのシャツを掴んで引き寄せる。
「なぁに、深雪ちゃん…」
 俺の耳元でそう聞いてくれて、頬を撫でてくれる。
「っ…もぉ…っ」
「んー…なぁに…?」
「ぁっ…出来なぁっ…」
「んー、感じすぎて、腰砕けてる? うまく腰、動かせなくなっちゃった?」
「んっ…」
 頷くと、ナツは俺に軽くキスをして。
「ん。じゃあ動いてあげる」
そう言って、中を出入りする。
「ひぁあっ…んっあっあっ…なっちゃんっ…」
「気持ちイイ?」
「ぃいっ…あっあんっ…ナツ…っん、もっとっ」
 あぁ。
 なんか、智巳ちゃんの冷たい視線を感じるけれど。
 もう無理なんだって。
「なっちゃぁあんっ…もぉ、やぁっやっ…ぃくっ…あっやぁあっ」
「じゃあ、中で出すね…?」
「ぅンっあっ…ぁあっっ…やぁああああっっ」



気持ちよすぎて意識が遠い方に行ってる感じ。
かすかに智巳ちゃんとナツの声が聞こえて。

ナツが智巳ちゃんに追い払われているのが理解できた。
智巳が俺を覗き込んでいるときにはもう、ナツと悠堵はどこかへ行ってしまったのだろう。

「…まだ、ボーっとしてますね…。そんなによかった…?」
「ん…」
俺は、肯定とも否定ともつかない声を洩らして、少し顔を背けた。


「深雪先輩のあんな姿、見たくありませんでした」
「なに…シリアスになってんの、智巳ちゃん…」
 冗談めかそうとしても、もう無理っぽいな。
こいつ、真面目モードだ。
「…俺はフラれたんです。深雪先輩に。……深雪先輩が、男を欲しがる姿なんて、見たくなかったですよ」
「…男欲しがったわけじゃねぇよ。ただ、体が自然に、気持ちいいこと求めちゃっただけだって」
「似たようなもんでしょ…」
「……違うよ…。気持ちよくなりたかっただけだから。感じれれば相手が誰でもよかったし、そんなんじゃ嫌だってお前は言ったけれど、ナツはそれでもいいって言った。だから、俺はナツと会えば気負いすることなく出来るんだよ」  
 
智巳ちゃんは、なにも言わずにただ俺の腕を取って立ち上がらせた。
「ただのセフレだろって言われたら言い返せないけどな」
「ん……」
「ん。帰るか、そろそろ」

もう10年も前にケリつけた話なのに。
今頃持ち出しやがって凹みやがって。

ホント、世話が焼けるやつだな、こいつは。
「智巳…」
 声をかけ振り返る瞬間に、口付けてやる。
 智巳ちゃんの頭を押さえて、たっぷりと舌を絡めて。
 智巳ちゃんもそれに応えてくれていた。

「…しょうがないだろ…? 俺だって…忘れられない人がいるんだよ」
「わかってますよ…」
 もう一度、キスをすると、甘えるように智巳は俺に抱きついた。
「…俺も…深雪先輩以外の男、好きになりませんから」
「お前、尋臣がいるだろ」
「尋臣は、男じゃなくて女」
「…俺の場合、アキラさんやお前にはやられる側で、雪之に対してはやる側だから女だって分けれる気もするけど、お前が俺と尋臣区別すんのは理解しがたいな」

 なにか智巳なりに分け方があるみたいだけど?
「あぁもう、離れろって。暑いから」
「やです」
「…綿アメ買ってやるから」
「…………なに、子供扱いしてんですか」
 馬鹿馬鹿しくなったのか、俺から離れてくれる。
 まぁ、結果オーライだ。
「じゃ、帰るぞ」

 俺が家の方向へと体を向けると、腕を引っ張って逆方向へと体を進める。
「帰らないわけ?」
「…綿アメ」
「……いや…それはさぁ」
 冗談だったし。
 確かに、こいつが甘いの好きなのは知っててあえて綿アメ出したけど?
「大の大人が綿アメ買ってたらはずかしいだろっ? しかも、アニメの絵とかの袋でさぁ? なに? 羞恥プレイなわけ?」
「買ってくれるって言ったし」
「お前、なに甘えてんだよ。…あーもうわかったから。にらむな、すねるなって」
 しょうがなく綿アメ売り場に行くけれど。
 なんだかなぁ。

「すいません…。これください」
 なんかもう、とりあえずよくわからんアニメの袋を指差して。
 店の人が取ってくれてると横から智巳が
「あと、これとこれも」
 って。綿アメそんな買ってどうすんだよ。
 たかが砂糖のくせに高いし。

 まぁ、これで俺がこいつにしょうがなく買わされてるってのが、店の人にはわかって恥ずかしさはないけれど?

 と思ったのに。
「で、あってるよね? 兄貴が欲しがってたやつ。うちの兄、オタクなんですけど、わがままで、自分でまともに注文できないんですよ」
 なんて、営業スマイルかましやがった。

「なっ…死ね、お前っ」
「最近のアニメ、暴力多いですからねー。口も悪くなっちゃって」  
酷ぇ。

 久しぶりにこんな恥ずかしさ味わったぞ。  
泣きたくなってきた。  
智巳は俺のポケットから勝手に財布を取ってお金払いだすし。
 
しょうがなく絶えながら綿アメを受け取って、家へと向かうけど。  
まだ恥ずかしい。

「…深雪先輩…? 忘れてました? 俺は二人のときだけ甘えるかわいいツンデレとは違って、ただのサドです」
 忘れてたよ、馬鹿…。  

「…智巳って、ついでにオタクだよな」
「それは違います」
「だって、たまにオタク用語使うし」
「………そっちの世界にも詳しいだけですよ…」
 充分だろ、それ…。

 でも、ホントに、ちょっと。
 甘えられたときはかわいいとか思ったんだけどなぁ?

なんにしろ。  
落ち込んでたのが綿アメのおかげか、機嫌よくなったみたいで。
 
 やっぱり、結果オーライかな。