夜。
誰か捕まえようかと一人でフラフラ外をぶらついているときだった。
ホテルの中庭で拓耶と陸を遠めに見かける。
 なんだかほほえましいなぁなんて思い、この場所は駄目だと引き返したときだった。


「深雪先輩」
 遠くからかすかに聞こえる声。  
 
あえて無視をして、一目散にその場を走り去る。  
その声がしたのとはたぶん逆の方向に。

 しばらく走って後ろを確認。
 外は無理だな…。
 しょうがなくホテルの中へと入り込むと、すぐそこで柊と会った。

「桐生ちゃん、どうした? すごい勢いで…」
「あぁ…。ちょっとな」
「少し前に、着いたんだけどさ。結構迷っちゃって。無事着けてよかったよ」
 本来、修学旅行に同行予定のなかったはずのこの人ってば、わざわざ愛する宮本先生のために、仕事を終えてから飛行機で飛んできたらしい。

 俺と智巳ちゃんは、仕事放棄して飛んできてるってのに、なんとも真面目なやつだよな。
 そこら辺、宮本先生へのサプライズと焦らしのためらしいが。


「いまから宮本先生のところ行こうかと。桐生ちゃんは? 誰か捕まえるつもりだったの?」
「んー…凪ちゃんフリーかなぁ。呼び出しちゃおっかなぁ」
 そうだよ、はじめっから携帯で呼びだしゃよかったんだよ。
 でもたまには外でフラついてる新しい奴、誘ってみようかなぁとも思うわけでさ。
 一人でうろついてる奴なんていないか?
「凍也は? 彼女1年じゃなかったっけ」
「凍也かぁ。したことないし、イイかもねぇ」
「飲みまくって誰かとやってる可能性もあるけど」
 あぁ。あいつ酒好きだからな…。

「ありがっとー。柊ちゃん」
 聞き覚えのある声が、背後から響く。
 なんなんだ、その変なテンションの高さは。
 恐くて振り返れねぇ。

「智巳ちゃんってば、テンション高いねぇ。珍しい」
「そりゃあもう。久しぶりに愛しの先輩とヤれる機会が出来たわけですから」
 やっぱり智巳ちゃんだ。  
逃げ出そうと走り出す俺を柊が掴む。
「ってめっ…。グルかよ。離さねぇと殴るよ?」
 柊のやろう、わざと俺を引き止めてたのか。
「…うーん…。相当、焦ってるねぇ。キャラ変わってるよ」
「さんきゅぅ、柊ちゃん」
 その声を近くで確認したと同時に、あえて振り返らずに確認してなかった背後から、打撃的攻撃を感じ取る。
「なっ…ぁ…」
「智巳ちゃん、そりゃあちょっと…」
「大丈夫です。打たれ強いんで」
 お前が答えんなよ。
「……だから、嫌なんだよ、てめぇは…。すぐに人、殴りやがる…」
 加減してんのかしてねぇのか。
 すっげぇ痛ぇんですけど。
「俺、そんなに人殴らないし? 桐生だけだから、殴るの」
 すっげぇ嫌な感じ。
 
 柊に掴まれたままだった手首に、ウォークマンかなにかのコードが巻きつけられる。
「ちょっ…縛りますか!?」
「じゃなきゃ逃げるでしょう」
 そう言って、もう片方の手首と固定する。
 なんかもう、逃げる気が失せる。
 っつーか、どうすりゃいいのか思考巡らして背中の痛みに気が行ってるうちに、手を奪われたのが事実だ。

 こりゃ自分じゃ解けねぇなって位に縛り付けられたら、少しはおとなしくした方がいいかなとか思うわけだ。

「ちょっと。外来てくれます?」
 そう智巳ちゃんに言われてとどまる。
「……なんで」
「やりたいからですけど?」
「………っつーか、智巳ちゃん、敬語使わないでよ…。やな感じ…。なんで外?」
「ココで犯されたい?」
 どうすりゃいいんだよ。
 とりあえず、背中、めっちゃ痛くて苦しいんですけど。
 つい、その場にしゃがみこむ。
「なに子供みたいなことしてるんすか」
「…そうじゃねぇけど、でら痛ぇんだよ。背中」
「打たれ弱くなりましたね」
「……お前に罪悪感はないのか」
 そう言う俺を肩に担いで、外へと運び出す。  
柊が、手を振るのが視界に入ったがもちろん振り返す元気などない。  
手も縛られてるしな…。


 外。
 中庭へとつれてかれる。
「…いや、ここは…」
 拓耶と陸が遠くに見える。
 が、木が生い茂った所へ入り込むと、視界には入らなかった。

 芝生の用な所の上へと落とされ、そのまま起き上がる元気もなく、とりあえず見上げると、智巳ちゃんは、しゃがみこんで俺を見下ろす。

「大丈夫ですか」
「……しばくぞ、おい」
「……先輩にそう言われるの、久しぶりで燃えますね」
 手がすでに、ズボンの上から俺の股間を擦り上げる。
「…おいおい…」
「いいでしょ…。俺とセックスして」
「…な、たまには俺が智巳ちゃん犯すってのはどぉ?」
 なぁんて…言っても無駄だよな…。
「冗談を」
 そう言って、片手で俺のズボンのチャックを外してジッパーを下ろし、直に俺のを掴む。
 何度も擦られて、なにか言い返す気が薄れていた。
「やる気、しねぇんだけどー…」
 そう洩らすと、智巳ちゃんは不敵な笑みで俺を見下ろす。
「そう言って、俺がやめると思った?」
 ……やめねぇのか。
「…やる気のない深雪先輩のこと、何度犯してきたと思ってるんですか。もう平気なんですよ、こんな風に、やる気のない目線送られても」
 そう言って、一旦、手を離すと指を口に含んで見せる。

「智巳…」
 なにも言わずに、智巳ちゃんは俺の下着の中へと手を突っ込んで、奥の蕾へと指を這わす。
「…やめろって…」
 マジでやばいな、このままじゃ。
「先輩のそういう顔、好きなんですよ。強気な言葉を発しながらも、不安が隠しきれてないみたいな」
 俺の口に口を重ねて、智巳ちゃんは指先をゆっくりと中へと納めていった。
「んーっ!」
 口を開放され、上から見下ろされ。
 俺は智巳ちゃんの視線から逃れるように顔を背けた。
「はぁっ…あっ…ホント、やめっ…」
 智巳ちゃんは、なにも言わないまま、ただ俺の中をそっとかき回していく。
「んっ…ばっかっ…はやく、ぬけっっぁっ…んぅんっ…」
 熱い。
 その気がなかった俺でも、そりゃその気になるってもんだ。
 もう、駄目だろ。
「ぁっんっ…くっ…智巳…」
「なんですか」
 智巳ちゃんの方を盗み見るが、なんでもない表情で俺を見下ろすだけ。
「っあ……もぉっ…や…っ」
「…はっきり言ってください」
 言えないから濁してんのに。
「ぁっあっんっ…んぅっ…」
「一人で腰動かしてないで、なんとか言えって…な?」
 恐くなってますよ、智巳さん。
 素に戻ってやがる。
「はぁっ…あっ…イきそぉっ…」
「ふぅん…。やっぱ後ろ使われると弱いねー…」
「もぉ……あっ…んーーーっっ」  
 
たった1本の指であっという間にイかされる。  
体中の力が抜けた感じ。  
視界がぼやける。
「智巳……」
 智巳ちゃんの表情がわずかに企みの笑みを洩らした。
 智巳ちゃんは指を引き抜いて、俺のズボンと下着を抜き取って行く。
「下半身丸出しとか、マジ、キツいって…」
「すぐ忘れますって」
「もう…マジで、やめよって」
「ここでやめれる体じゃないでしょ」
「……俺にも、多少理性とか世間体とか、あるからさぁ」
 と言ってみても、もちろん、無視される。
 俺の膝を折り曲げ太ももを使って、智巳ちゃんは自分のを挟み込む。
「や…だって、それ」
 智巳ちゃんのが、俺のと擦れあって、中途半端な刺激に体がビクつく。
「はぁっ…ぃかんて…それ、我慢出来んやんか…っ」
「どう我慢出来んの…?」
 焦らしやがって、こんにゃろ。
「ばっか…ぁっ…んっ」
 さっきまで、指が入り込んでた箇所が熱くてたまんないっつーか。
 そこに入れて欲しくてたまらない。
 今、俺の足の間で前後しながら俺のと擦れあうソレが、入り込むのを想像するだけで狂いそう。
「っ…あっ…ばかっ…はやく…っ」
「なに」
「んっ…入れ……っ」
 俺が、まだ恥らって言い終わってもいない時だった。
一気に自分のを俺の中へと押し入れる。
「っひぁっ!? やっ…んぅんーーーっっ!!!」
「っ…思ったより声、抑えましたね……」
 鬼かこいつは。
「ばっか……気づかれ…たら…」
「それも狙いですから」
 あっさり言われると、どうすりゃいいのか。
「…ぃたい…」
「すぐ、忘れるでしょ」
 智巳ちゃんは突っ込んだまま、俺の股間のモノをやんわりと掴みあげる。
「…あっ…智巳…」
 イったばっかだからか、こういった甘ったるいぬるい愛撫が物凄く気持ちいい。
 優しく何度も、擦りあげられて、気分がトロトロになってきていた。
「もぉ…っあっ…んぅ…っあっ…あっ…」
「んー…深雪ちゃん、気持ちいい…?」
「はぁっ…あんっ…やっめっ……っ…」
「…『あん』って…かわいい声、出すようになってきましたね…。感じてる…?」
やっべぇ…。
 すっごい恥ずかしいのに、俺ってSMリバーシブルだし?
 こんなんされたら、感じまくってまうっての。
「はぁっ…智巳ぃ…っあっ…も…駄目…っ」
「駄目って…?」
「んっ…動いて…っ…あっ…はやくっ…」
「うーん、どうしよう」
「ばっかっ…あんっ…あぁあっ…もぉっ、我慢できなっ…」
「我慢出来ないって?」
「っ動いて…あっ…やぁっあんんっ」
「そんなに、締め付けないでくださいって」
 すっかり、2人の世界に入り込んでしまっているときだった。


「ココ、イんじゃねぇ?」
 そういう声が響き、一気に体が強張る。
 智巳ちゃんが声のする方へチラっと視線を走らせるのがわかった。

「ぁあ? 向こうに人いるぜ?」
「あれ、拓耶と陸ちゃんだねぇ。ラブラブじゃぁん?」


「凍也と霞夜と凪だな…」
 そう言い当てて納得したのか、また俺を見下ろして、股間を探る手つきを少し強める。
「っなっ!!?? ぁっ…んぅんっっ」
 左手が、俺のシャツを捲り上げて、乳首を探っていく。
「ひぅンッ…やっ…」
「へぇ…乳首、久しぶりで感じちゃう…?」
 やらしい聞き方してんじゃねぇよ。
 でも事実だ。
「はぁっ…あっ…ンっ…んっ」
 後ろに突っ込まれたまま、股間と乳首弄られて、感じないわけねぇっての。
 やべぇって。

 3人も、すぐ近くに生徒がいるのに。
「もぉ…っやっくっ…」
「……バレなきゃいいんでしょ」
 冷たくそう言うと、智巳ちゃんは自分の上着を脱いで、俺の頭から上半身が隠れるようにそれを被せた。
 直後、入れてたモノでそっと中をかき回す。
「ひあっ…んーっ…っくぅンっ」
「もっと、声出してくださいって」
「あっくっ…やっぁっんうっ」
 服のせいで、自分の声がものすごくこもるような響くような感じだった。

「ありゃぁ? 誰かいますねぇ」
 凪の声だ。
 わかってんなら、どっか行けよ?
 一番、こういうとき覘きかねないのは凍也か。
 いや、さすがにそれはないか。  

「じゃあ、ココらへんで、あえぎ声ツマミにして飲むのは?」  
馬鹿だろ、凍也。  
俺がそっちの立場だったらたぶん、やるけどっ。
「死ねよ、お前ら」
 そう言うのは霞夜だ。
 あぁ、嫌いだもんな、お前はこういうこと。

「お前ら、未成年は飲酒禁止だぞって」
 そう声を張り上げたのは、智巳ちゃんだ。
 くっそ、すっげぇ馬鹿だろっ!!???
 しかも、腰を動かしたまま。
「んっぁんんっ…」
 声、殺せないっての。

「あれぇ。智巳先生?」
 一応、生徒は覘かないでいてくれてるみたいだが。
「えー、相手だれ?」
「おい、聞くなって、凪。あとが恐いだろ」
「でもでも、悠貴はさっき部屋にいたから大丈夫かなぁって」
 深山悠貴だったら、後が怖いよな…。
 ってか、悠貴以外ならいいのかよ。お前らは。
「そっかぁ。んじゃ、誰だ?」

「教えない…けど、声だけ聞かせてやるから、1分たったらこっから消えて?」
 そういう智巳ちゃんに納得したのか、
「はーい」
 二人そろった声が聞こえる。
 ため息が聞こえるのは霞夜のだろう。

「っつーわけで。いい声出して…?」
 耳元でそう言うと、俺に被せていた上着を取り去る。
「っな…っ!?」
「お前ら覘くなよ」
智巳はそう釘を刺すものの、いつ覘かれてもおかしくないだろうが。

 ゆるやかにかき回してただけの智巳のモノが、ピストン運動を開始させる。
「ひぁあっ!!…ゃっ…んっんぅっ…あぁあっ…」
 馬鹿、俺。
 もっと、声抑えろって。
 わかってるけど、もう無理。
「はぁあっ…あんっ…あっやめっ…やぁっあぁあっやあっ」
 体がビクついて、涙が溢れた。
 智巳が俺の耳をそっと舐め上げていく。
「…もうイっちゃうんですか…。聞かれちゃいますけど?」
 そう囁くように言われて、体中がゾクゾクした。
「ぁああんぅっ…もぉっやぁっあっんっあぁあああっっ」  
もうイク…そう思ったときだった。  
不意に、動きを緩められる。
「なぁっあっ…やっ」
「駄目……まだ…ね」
 耳元で、不気味なくらい優しい口調で俺に言い聞かす。
「や…ぁっあっ…ばかっ…イかせっ…ぁあんぅっ…」
「それが人にモノを頼む態度?」
 駄目だ。
 飛ぶ。
 生徒のこととか、全部忘れそう。
 もう、どうでもよくなる。

「いかせてくださ…っ…ぁあっ…もぉ、やぁあ…」
「どうやって?」
 馬鹿。
 聞くなっての。
 答えちまうだろーが。
「もぉっと…っ…あっうごぃてっ…うごいてよぉ…っ」
 智巳ちゃんが、俺の耳元で小さく笑った。

「…久しぶり…。ここまで狂ってくれるの。外だから? 聞かれてて恥ずかしすぎて飛んじゃった? そんなにされたらもう俺も、自制効きませんけど?」

 そう言うと、激しく腰を突き上げる。
「ぁあんっ…! やっやああっ…あんっ…ぃいっいいよぉ…」
 気持ちよすぎだっての。
 もう生徒はどっか行ったんだろうか。
 それすらどうでもよくなってる。
「もっとっ…もっとぉ…智巳…っあっあぁあああっ」

 さっきから我慢してたせいもあって、すぐにイってしまう。
 が、智巳は、腰を止めてくれない。
「やっ…もぉ、だめ…っ」
「駄目って、かわいい言い方するね。誰の調教ですか、それ。妬けちゃうね」
「やっんっやああっ…」
「声、止まんない…?」
「あぁあっあんっ…とまんなっ…もぉっやっやぁあっ…」
 智巳が、俺の体を起こさせて、逆に体を跨がされる。
騎乗位状態にされ、頭がほぼ真っ白だった。

 智巳が、俺の手を縛っていたコードを解いてくれる。
「…ね…。人に聞かれて感じた?」
 楽しそうにそう言われ、自分の変態さを自覚した。

「俺、まだイってないんで、動いて…」
「…無理…っ…」
「嘘でしょう?」
 そう言って、智巳は俺の腰を掴んで動かし始めた。
「ひあっ…あっ…もぉ…っあんっ智巳っ」
「さっきは、とりあえずイかせましたけど。もっとトロトロに感じさせますから」
 変な予告をされて、馬鹿らしいと思いつつも感じてしまう。  
 
今度は、直接、前立腺を智巳がグリグリと擦っていく感覚。
「やっ…駄目だってっっ…それ…っ」
「もっと、理性飛ばしてください」
 もう飛んでますよ。
「はぁあンっ…やぁあっ…もぉやっあっ…変っ」
「変なの? どう変…?」
「やっ熱ぃっ…智巳ぃっ…もっとぉ…っ」
「もっとしちゃっていいんだ?」
 なにしてんの、俺。
 智巳の体を跨いで、地面に手を着いて。
 無我夢中で腰を振る。
「っやあっ…すごっ…あたって…っぁあっあぁあんんっ…」
「大丈夫? 深雪ちゃん…」
「だっめっ…あっ…もぉ駄目ぇっ…はぁっ智巳っ…やぁっ…やぁあああっ」
 大きな声を出して、また達してしまう。
 智巳のが俺の中に流れ込んでくるのを感じて、そのまま、倒れこんでいた。
「おい…」
 そう言う声に、力なく目を向けると、学年主任の片山先生。

 俺は、もう力が出なくって、言葉も出ない。
「俺らは仕事中じゃないから、いいじゃん」
 そう智巳が言う。
「うるさいから。学校の恥さらしだろ。とっとと中はいれ」

 意外と理解はあるな。
 っつーか、こう見てたのが理解のある人でまだよかったけど。
しかも、中入らせてくれるのか。

「深雪先輩…。一応、聞きますけど、俺と付き合う気はないんですよね」
 ったくこいつはなにをいきなり言い出すんだ。
「お前、今、尋臣と付き合ってんだろって。俺だって雪之丞と付き合ってるし」
「尋臣のことは大好きだよ。深雪先輩に似たところもあるし。まぁ俺も、深雪先輩が俺と付き合ってくれるなんてことはないだろうって思ってるからこそ尋臣と付き合ってるんだけど」
 たまに。
 こういう話しだすよな、こいつ…。
「…俺、智巳ちゃんのこと、もう10回以上フった気がすんだけど」
「…もし、俺がフリーで深雪先輩もフリーだったら考えた?」
「遊びで付き合う気ないし」
「あっさり、俺のこと遊びとか言いましたね」
 俺は、だるい体を起して、まだ入ったままだった智巳ちゃんのを自分の中から抜いた。
「…んっ…。っつーか、見れないよ、智巳のこと、恋愛対象には」
「……ふーん。…じゃあ俺以外に、彼氏作らないで」
「…彼氏…は作る気ないけど…」
 智巳ちゃんに言われることなのだろうか。
 変な独占欲なんだろうけど。

「もういいじゃん。いまさら。智巳ちゃんもさぁ。10年以上たってるよ? 俺のことなんてほっとけって。たんなる友達でいいだろって」
 智巳ちゃんに初めて告られてから10年以上はたっている。
 いつまで俺にくっついてくる気なんだろう。

 智巳ちゃんは、不機嫌そうにじっと俺を見る。
「なに…」
「10年以上たってるのに。深雪先輩の気持ちは変わらないんですね」
 逆にそう言われてしまう。

「…いまさら…だろ」
「いまさらですか」
「いまさらだよ」

 いまさら。
 こいつと付き合うだなんて考えもつかない。
 たとえば、男女で結婚する人と恋愛する人は違うだとかそういう考え方もあるかもしれないが。
 だけれど、俺らは男同士で。
 確かに、一緒に暮らすだとか考えると、この人とはやりやすい。
 でも違う。
 それじゃあただの同棲友達だ。

「恋愛とは違うんだよ、お前は」
 そう俺が言うと、やっと納得したのか、体を起した。
 つっても、また忘れたころに話振ってきそうだけど、こいつ。

「まぁいいや。とにかく。俺は深雪ちゃんのこと、ずっと好きだから」
「…どさくさまぎれに、俺のこと、ちゃん付けで呼ぶなよ…」

なんで。
 俺みたいなの、好きなんかなぁ?
 無理だっつってんのに。  
 
俺はもう彼氏は作らないって決めたんだから。  
いまはただ、彼女を大切にすることしか考えてないのに。

「智巳ちゃんはね。大切な大切な友達なんだよ」
「…わかってますよ。…帰りますか…」
「ん。帰ろうかね。彼女の元へ」  

 俺らは本来、修学旅行に来ていいわけじゃないからな。
明日…帰るかな。
短い修学旅行だったけど。
 智巳ちゃんも俺も。
 彼女の元から離れて、少しだけ昔に戻れた気がした。