「お兄…。啓ちゃんがおかしいんだぁ…」
 高校3年の1学期。中ごろに差し掛かった土曜日だった。
 優斗の弟の透が学校までわざわざ来て泣きそうになりながらそう言った。
「おかしいって…なんやん」
「いじめられてるもん」
 透は、はじめて出来た弟だからかものすごく啓吾のことをかわいがっていた。
「いじめ?」
 同じ部屋に居合わせた俺は、優斗と透の会話に、そう口を挟んでしまっていた。
 俺から見て、啓吾はいじめられるようなタイプではない。
 頭もよく、容姿だって悪くない。
 いや、だからこそ逆にねたまれるとか?
 でも、友達付き合いだって悪くはないと思うのだが…。
 俺と優斗は、首を傾げて、透の言葉を疑った。
「透、ホントなん…?」
「ホント…だよ…」
 少し、悔しそうにそう言った。
 思えば、俺も優斗も寮生活で、長い休み以外は家に帰っていないから、啓吾とだって、あまり話していない。
 啓吾が中学でどんな風だとかなんか、知るわけがなかった。
「なんで、透は知ってるん…?」
「体にたくさん…っ赤い痕とかあるし…」
 傷跡…?
 違う。キスマークだろ?
 前、啓吾の部屋でローションを見つけたことがある。
 あのときから、啓吾は、そういうことしてるんだろうなって考えてはいた。
 優斗が言うから、啓吾の方が女役だと思ってたけれど、もしかしたら、啓吾が男役でも相手のためにローションを持っているかもしれないな。
 しかし、体にたくさん痕があるとなると、やはり啓吾の方が女役であっていたようだ。
「それなら、別に、平気やん。愛されとる証拠だで、傷じゃないから気にすんなや」
 優斗がなだめるように透の頭を撫でてやっても、透は首を横に振って違うと示す。
「啓ちゃん、おかしいもん…」
 透はそうとだけ言って、泣き出してしまい、優斗に抱きついた。
 泣いている状態の透になにか聞くことも出来ないようで、優斗は俺に目配せする。
 俺は軽く頷いて部屋を出て行った。



 啓吾と俺は、わりと仲がよかった。
 そりゃ、優斗と啓吾ほどではないけれど、頻繁に会っては遊んだりしてもいた。
 今日が土曜ということもあり、俺は、啓吾の家へと向かった。
 電車で3時間くらい。
 啓吾がいじめられてるだなんて嘘だろうと思いつつも、透の泣く姿を見たら気が気じゃなかった。
 いじめられてなかったにしろ、少なくとも啓吾がおかしいというのは嘘じゃないのだろう。
 啓吾の家のインターホンを押すという行為だけでも、なにか緊張が走ってしまっていた。
「あら…榛くん。優斗、帰ってきてないわよ…?」
 不思議そうに、啓吾の母親がそう言った。
「…いえ、啓吾に会いに来たんですけど…」
 そう言うと、少しだけ、困ったような表情を見せる。
「あの子、誰が来ても入れるなって言うのよ。でもちょっと待っててね。聞いてくる」
 とりあえず、その時点ですでに疑問が生じた。
 誰が来ても入れるな…?
 誰とも会いたくないだとか、そういった状態…?
 隠し切れない不安が、表情に出てしまいそうだった。
「大丈夫みたい。部屋、来て欲しいって」
「おじゃまします」
 俺は、啓吾の母親に見送られて、啓吾の部屋のある2階へと向かった。
「…啓吾…? 入るよ…?」
 ドアの向こうには、以前会ったときとなんら変わりないように見える啓吾の後ろ姿があって、俺が声をかけると笑顔で振り返った。
「榛くん、ひさしぶり」
 そうだよ。
 啓吾がいじめられるはずがない。
「ひさしぶり」
 啓吾に合わせてカーペットの上に座り込む俺の視界に、啓吾の首筋の赤い痕が入ったが、大して気にはならなかった。
 彼氏でも出来たのだろう。
 それで、透は嫉妬でもしているのではないだろうか。
 そう思うと気分が晴れてきていた。
 大丈夫。
 そう思い、もう一度確かめるように考えを整理した。
 啓吾には彼氏が出来て…。
 透は啓吾をかわいがっていたから、そんな彼氏に甘えたりだとか恋愛感情を示す啓吾をおかしいと言っている。
 それでいい…よな。
 それでも腑に落ちない箇所が思い出された。
 なんで、啓吾は母親に『誰が来ても入れるな』なんて言ってるんだ…?
 彼氏とちょっとした喧嘩中で会いたくないだとか。
 しかし、そんなことではない気がする。
「久しぶりにゲームしよ。ほい」
 啓吾がコントローラーを俺に渡すとき、視界に入った手首にも、なにかで縛られたような痕が残っていた。
 縛りだとか…そーいうプレイもあるわけで…。
 いじめだったら痕が見えないように隠すよな…。
 いや、プレイの方が隠すか?
 どっちにしても、逆にわざとらしくなるから隠さないかもしれない。

 俺は、表情には出さないようにして、それでもまだ疑いが晴れないでいた。
 なにげなく進めるゲームにもあまり力が入らず、作り笑いをするばかり。
 少したつと、ピーンポーン…と、インターホンの音が響いた。
 そのとき、啓吾の体が強張るように見えた。
 あくまで、そんなのは俺がそう思っただけで実際はどうかわからない。
「ちょっと、トイレ借りる」
 俺は、そう言って、1階の方へとさりげに様子を見に行った。


「あのね。今、体調悪くて…。ごめんなさいね。せっかく来てくださったのに…」
「いえ。お大事に…」
「ありがとう」
 そう耳に入った。
「…今の、啓吾の友達ですか…?」
 俺が、来ていた2人がドアを閉めた後にそう言うと、啓吾の母親は振り返って『そうみたい』と言った。
「来てくれるのに啓吾が会いたがらないから…申し訳なくって」
 なんで会いたがらない…?
 友達が来てくれているのに。
 俺がさっき考えた喧嘩中の彼氏たち…?
「学校は、彼らと違うんですかね。学校でも会うだろうに…」
「…啓吾、最近、あまり学校行ってないの…。あまり無理やり行けとも言えないし…」
 いくらなんでも男同士の恋愛で、学校を休むだとかそこまで女々しい行動をするだろうか。
 いや、啓吾の場合、ただ面倒で行かないとかいうのもありえる。
「原因は…なにかあるんですか…?」
「…啓吾は、心配するなとか…聞きすぎると関係ないとまで言うし…。あまり触れて欲しくないみたいだから聞けないの…。…しょうがないけど、啓吾にしたがって、何も聞かないでいるのよ」
「…そうですか…。あ、でも今はとりあえず元気に俺と遊んでますんで…」
 それを聞いてか、ほっとした様子で、4人も子供を生んだとは思えないかわいらしい姿の母親は、にっこりと笑った。
「ちょっと、買い物行かせてもらうわね。鍵持ってるから…もし啓吾とどっか出て行くならかけてってもらえるかしら」
「はい。わかりました」
 俺は、啓吾の母親を見送ってから、また、2階へと戻った。



 母親には言えないだろう。
 だからって、啓吾が一人で悩むのもつらいはずだ。
 それがいじめであっても、彼氏とのいざこざだったとしても…。
「啓吾の母さん、買い物行ったよ」
「ふぅん」
「…あと…啓吾の友達、2人来てたよ。帰ったけど」
 啓吾は目線をテレビに向けたまま、軽く鼻で笑う。
「友達なんていないって」
 啓吾はそんな風に、毒を吐くような言い方をするような奴じゃなかったはずだ。
 そりゃ、中学でいろいろあって、性格の少しくらい変わるかもしれないけれど…
 中学でいろいろ…?
「なにか…あった…? お前、学校あんまり行ってないって聞いて…心配で…」
「俺のことなんて心配しなくていいって」
「心配だってば。学校でなにがあったんだよ。啓吾」
 啓吾の肩を取って、強引に自分の方へ向かせる。
「なんもないってば」
 俺を見て、にっこり笑ってそう言った。
 でも、啓吾も限界だったようで、すぐさま、俺から顔をそらす。
「啓吾…? いじめ…られてたりする…?」
 直球で聞いてみた方がいいと思った。
 たとえば、俺が啓吾と同い年だったら、恥ずかしくて打ち明けられないかもしれない。
 もしくは兄でもだ。
 だが、3つ上の友達というこの関係は、その点では一番気楽なのではないだろうか。
「榛くん、なに言って…」
「…啓吾。なにがあったか言えって。たまには頼ってよ」
 なにも打ち明けてもらえないせいで、俺の方まで悔しくなってきていた。
「…榛く…」
 顔をあげた啓吾の目には、涙が溜まって今にも溢れ出しそうだった。 
 瞬きした瞬間に流れ落ちる涙をそっと指で拭ってやると、それが引き金になったみたいで、声も出さずに、ポロポロと涙を次から次へと溢れさせた。
 見てられなくて、啓吾を抱き寄せると、啓吾の方も、俺の服をギュっと掴む。
 こんな風に泣きつく啓吾なんてもちろん初めてで、理由もわからないのに俺までもらい泣きしそうになっていた。
「…榛くん…ごめん…」
「…なんで謝るんだよ…」
 顔をあげると、啓吾はいきなり俺の口に自分の口を重ねる。
「ン…」
 そのまま、啓吾は俺の体をまたぐ様にして乗っかった。
 俺をきつく抱きしめて、後頭部に手を回し、欲しがるように俺の舌に自分の舌を絡ませる。
「っはぁっ…榛くん…俺…」
 口を離して、俺にギュっと抱きつくと、啓吾は、俺の耳元で、
「やらしいんだ…」
 小さな声でそう言った。
 俺の背中に回した啓吾の手に力が入るのがわかる。
「ぁっ…榛く…ごめ…」
 そう言いながらも、ゆっくりと腰を動かして、布越しに自分のモノを俺のモノへと擦り付けた。
「ンっ…ぁっ…榛くん…ぁふっ…く…」
 俺が、どうすればいいのかわけがわからなく、思考回路が定まらないうちにも、啓吾が俺に出来る限り密着したままで、俺のズボンのチャックを片手で下ろした。
「っ啓…」
「ごめ…榛く…」
 何に対して謝っているのかもよくわからない。
 啓吾は、俺のモノを取り出したあと、自分のモノも取り出して、俺のへと摺り寄せた。
「ぁあっ…んぅ…」
 ギュっと俺に抱きついて、上手く腰を使いながら何度も2人のモノを擦り合わせられると、次第に硬さを増していく。
「っ啓吾…っん…駄目…だって…」
「んぅっ…ぁっ…榛くっ…ぁっ…あっ…気持ち…ぃいよぉ…」
 腰を動かしたまま、啓吾は泣きそうな声でそう言った。
 いや、抱きつかれているせいで見えないが、実際は、泣いているのかもしれない。
 片方の手を、俺の背中に回したままで、啓吾はもう片方の手を自分と俺の間に入れる。
 見れば、その手で啓吾はシャツのボタンを上から順に外し、前をはだけさせていた。
「榛くん…して…」
「…な…に…」
「犯してよ」
「…そ…んな…俺…」
 躊躇してる俺を見てなのか、俺から少し体を離して、シャツをすべて脱ぎ去った。
「啓…吾…」
 露わになった胸の突起に、光る金属物が絡まっていて、俺はついソレを凝視してしまっていた。
「…変態だって、思う…?」
 啓吾は、胸のピアスを指で軽く弾いて見せながら、もう片方の手を俺のモノに絡めた。
「…っぁ…痛く…ねぇの…?」
「もう平気…。それに外すと怒られるから」
 怒られる…?
 誰に…?
「啓吾…なんでお前がいじめられるんだよ。喧嘩、強かったろ…? 友達…いないわけ…? 学校、行ってないって…」
「…大丈夫…。そんな深刻な感じじゃないから…。友達だってまぁ普通にいるよ。普段は普通に授業だって受ける。ただ…放課後に、少しガラの悪い奴らと遊んでるって感じで…。まわりの奴らだって、ただ遊んでるだけだって思ってるだろうし。そう、普段は俺も、そいつらもなんでもないフリするから、わりと自然に過ごしてられるんよ」
 それでも、啓吾自身はそれが嫌なはずだ。
「…なんで…じゃぁ、遊ぶわけ…?」
「…友達の晃って子がね…弱い奴で…。はじめはそいつが狙われてたんだ。で…俺が変わりになるって言ったんよ」
 啓吾は、なんでもないみたいにそう言って、立ち膝状態になると、ズボンと下着を膝まで下ろす。
「なんでそんなこと、言うんだよ。…その…晃が好きだった…とか…?」
 少し、笑ったように見えた。
「…好きじゃない…。それに…あいつの代わりにこんな風になってると思うとなおさら…。俺が勝手にやってるんだろうけど、たまに…嫌いになることがある」
「啓吾が代わりになることねぇよ。もうやめろって」
 俺の手を取ると、そっと自分のモノを握らせて、少し目を細めながら『しょうがない』みたいな表情で俺を見た。
「俺は平気。だけど、あいつは弱いから…。なにも抵抗せずにやられるのをさ…知らないフリしてるだとか、そんなの自分がむかつくし」
「もう、十分だよ。もうやめろって」
「…今、やめたらアキが、やられるんだぜ…? 駄目だよ…俺の代わりにアキがやられるなんて…」
 元は、逆だろう?
 啓吾が代わりにやられてたんだから…。
「…イライラしたり…したんだ。嫌なら嫌って言えばいいのに…曖昧に断ったりしてるあいつ見てると…女々しくて…。絡むやつらももちろんむかついたけど…。だから、俺が、てっとり早く…」
 てっとり早くじゃねぇよ…。
「何言って…っ」
 そう、つい怒鳴りかけたけど、啓吾が、泣いてるのを見て、言いとどまった。
「…くやしいよ…榛くん…。俺…間違ってんの…?」
 啓吾は俺の手を押さえたまま、そっと腰を動かした。
「っんっ…っ…榛くん…して…。お願い…」
 俺はなにも言えなくて、ただ呆然としてしまっていた。
 啓吾は、先走りの液で少し濡れてしまっている俺の手を取って、丁寧に舐めあげる。
「…啓吾…。俺まで、啓吾のこと、やりたくねぇよ」
 啓吾をいじめてるやつらと同じことなんてしたくなかった。
「ん…別にやつらにやられるのだって、死ぬほど嫌だとか感じなくなってきたし…。セックスは好き。でもやつらが嫌いだから…榛くんにして欲しいん…」
 啓吾は、もの欲しそうに、俺の指先に舌を絡めた。
 俺がもしやらなかったら…?
 啓吾は欲しがって…やつらにねだるんだろうか。
 そんなのはもちろん嫌だ。
 体がもう…覚えこんじゃってるのか…?
「…わかった…」
「…ごめんね…榛くん…。ありがと…」



 啓吾は、ズボンと下着から足を抜き取ると、手を後ろについて、俺にむけて足を広げた。
 俺は、啓吾が濡らしてくれた指先を、そっとアナルに触れる。
「っくっ…ぁ…」
 それだけで、啓吾の体はビクついて、すがるような視線を送った。
「…榛くん…入れて…」
 俺が戸惑っているのを読み取られたのか、啓吾がそう言うもんだから、従ってゆっくりと差し込んでいく。
「ひっぁっ…んぅっ…ぁっあぁあっ…」
 入り込んでいく指先を啓吾が見ているのがわかる。
 奥まで入ってしまうと、啓吾は少しだけ腰を動かして、欲しがった。
「んっ…榛く…。もっと…入れて…」
 ずいぶん慣らされたような啓吾のソコは、もう一本の指もなんなく飲み込んでいった。
「ぁふっ…くぅっ…榛く…っ榛くん…っ」
「…啓吾…大丈夫…?」
「イイっ…ぃいよぉ…もっとっ…奥っ」
 欲しがるように啓吾は、もっと足を広げて、腰を俺の方へと進める。
「啓吾…俺…」
 見たことのない啓吾に、戸惑いが隠せないでいた。
「ごめ…榛く…俺っ…ぁっ…おかしぃん…」
 戸惑ってる俺を見てか、啓吾がそう言った。
「…おか…しい…?」
「…はぁっ…ぁっ中…熱ぃん…っぁっあっ…ソコ…」
 俺…このまま、啓吾のことしちゃっていいわけ…?
 啓吾が欲しがるようには、指を動かせないでいた。
「啓吾…俺…」
「…俺が…やるよ…」
 俺が出来ないのがわかってなのか、そう言うと、啓吾は俺の手を取って、入り込んでいる指を引き抜いた。
「榛くん…。俺見て…感じてくれた…?」
 啓吾の手に取られた俺のモノは、すでに立ち上がって硬くなってしまっていた。
「ごめ…啓吾…俺」
 啓吾が悩んでるっていうのに、感じたりして、ものすごく申し訳ない気になる。
 ホントに、こんなんでやっちゃったら、俺も、啓吾をいじめてる奴と変わらないよ。
「いいよ、榛くん…。榛くんだもん…」
 啓吾は頭を下げて、手にした俺のモノに、舌を絡めた。
「っ…啓吾…いいって、そんなことまで…っ」
「はぁっ…んっ…ど…して…。悦く…ない…?」
 濡れた水音を響かせながら、啓吾は口の中に俺のモノを含んでしまっていた。
「っ啓…」
 絡む舌先に、思考回路が定まらなくなってきていた。
「やめ…、啓吾…っ」
「ん…っんぅっ…ぅんんっ」
 腰が動いてしまいそうになる。
 あぁ…俺、めちゃくちゃ感じてる。
 しょうがないよなぁ? こんな風に口でやられてちゃ…。
「ぁ…啓吾…ごめ…ん…」
 それでも、謝らずにはいられなかった。
「…は…ぁ…っ…なんで…? いいよ…」
 啓吾は体を起こし、濡れた唇を舌で少し舐めてから、また、俺の体を跨いで抱きついた。
「榛くん…。俺、こんな風にするの…初めて…。ね…入れて…」
 頼むように言われると、どうしても断れなく、俺は啓吾が誘導するがままに、自分のモノを啓吾の中へと収めていった。
「ひぁっ…ぁああっ…」
「…啓吾…大丈夫…?」
「はぁっ…平気…。榛くんは、優しいね……」
 俺は別に優しくなんかない。
今の啓吾には、普通の態度でも優しく感じてしまうのだろうか。
「俺は…普通だよ…」
「っそっか…。コレ、普通なんだ…」
 少しだけ、苦笑いを見せて、また俺に抱きつく。
耳元に響く喘ぎ声に、少し、泣き声が混じってるように聞こえた。
「啓吾…」
「ん…ぁっ…大丈夫…。気持ちいいよ…。…動く…から…」
 わざわざ宣言してから、啓吾はそっと腰を浮かして自分の体を揺さぶるように動かす。
「ぁっあっ…駄目っ…ゃあぅっ」
 駄目と言われても、啓吾自身がしていることを止めることも出来ず、ただ、その行為を見守るような立場になってしまっていた。
「あっ…榛く…ん…っ俺っぁっ…変態っ…やんか…っ」
「…違うって…。啓吾…」
 俺は、啓吾に対して、どう言葉をかければいい…?
「はぁっ榛くンっ…ぁっあっんっ…来てっ…下から…ぁっあっ…突いてよっ」
 俺って、精神力なさすぎ。
 啓吾の言葉とその動きに、体がすでにもう、反応しちゃっていた。
「あっぁああんっ…やぁあっ」
 ただ、啓吾のリズムに合わせて、下から啓吾を突き上げてしまっていた。
「っ啓吾…はぁ…ごめ…」
「ぅ…ぅんっ…いい…からぁっ…ぁっアっ…やぁあっ…ソコっっ」
 啓吾がビクンと体を仰け反らせ、俺の頭や背中に回した手に力が入るのがわかる。
 俺は、やめて欲しいのかと思って、慌てて動きを止めた。
「ちが…っぁっ…イイっ…ソコっ…もっと…っ」
 ギュっと、抱きしめられながら、俺は啓吾の望むようにソコを突いてやると、啓吾は俺のモノをキツくしめつけた。
「榛くっっ…やぁっ…あっ…あんっ…やぁあ…出ちゃ…ぅっ」
「ん…啓吾…っぁ…俺…」
「ぁっあっ…いいよぉ…出してっぁっ…中に…っキて…っ」
 内壁が俺のに絡まりつくようで、キツく締め上げられると、もう限界だった。
「啓吾…駄目…もぉ…っ」
「ぁっあんんっ…やっあっ、ぁっあっやぁあああっっ」
 啓吾が俺のモノを奥深くまで飲み込んだ状態で、俺は啓吾の中へと欲望を吐き出してしまっていた。





「ごめん…啓吾…」
 罪悪感でいっぱいになる。
「ん…違うって…。俺が、付き合わせちゃったから…ごめん…」  


 透は、こういうの、全部知ってるんだろうか…。
 晃って友達は…?

「榛くん、どうしてイキナリ今日来たわけ…? 透兄になにか…聞いた…?」
 はじめはまだしも途中からは、何かを聞いてココに来た、という態度を、俺はとっていただろう。
 なにも聞いてないだなんて、言ったって、うそだとすぐわかるはず。
 でも、啓吾はたぶん、聞かないだろう。
 もし、俺が、なにも聞いてなくってただ来ただけだって言ったとしても…
 啓吾はそれを嘘だとわかっていながらも受け入れてくれる。
 だからって、嘘をつくのも嫌だった。
「…透…啓吾を心配して…来たよ…。でも、なにがあったのかは教えてくれなかったけど…」
 おかしいとしか聞いてなかった。
「透兄には話してないよ…。なにか…察してるだろうけど…。ちゃんと話したわけじゃない」
「…そっか…」
「…兄貴には…言えないよ…」
 啓吾って…。
 まだ、中学生で、俺より3つも年下で…。
 それなのに、すごい悩んでて…。
 そりゃ、俺にだって悩みはあるけれど…啓吾ほどじゃないような気がする。
 そんな啓吾に対して、俺はなにもしてやることが出来ないんだろうか。
「俺、あと半年で卒業だし…大丈夫だから…。平気…」
「…啓吾…。もっと、相談とかしてな…。1人で悩まんで…」
「…ん…。兄貴には…もうわかられてるかもだけど…詳しいこととか言わんといて…」
 俺は、そう約束をして、その日、啓吾の家に泊まらせてもらうことにした。
「一緒に寝ると、また榛くんに変なことしそうだから…榛くんは優斗兄の部屋で寝て」
 少し、苦笑いして、啓吾はそう言った。




『…榛…? 家…?』
 夜中、優斗から携帯に電話が入った。
「…ん…。優斗の家…。お前の部屋にいさせてもらってる。啓吾は自分の部屋で寝てるよ」
『そう…。大丈夫そう…?』
 大丈夫なわけがない。
 啓吾がいくら、なんでもないだとか、平気だとか言っても、そんな軽いものではない。
「…ちょっと…彼氏と喧嘩して…いざこざあって、少し落ち込んでるだけみたい」
 それでも本当のことなんて言えないから、俺が最初に思った考えを言った。
『…ある程度、透に聞いたんよ…。なにか、わかったんなら嘘つかんといてや…』
 嘘をつく俺に、嘘をつかなければならないような状況をなにか想像したのか、優しくそう言った。
「ごめん…。俺も、どうすればいいのかわかんねぇよ…」
 啓吾のことをどこまで言っていいのかもわからなくって、ただ、謝って電話を切った。



「榛くん…。やっぱ、一緒に寝て…」
 啓吾は、しばらくしてから俺のところへマクラを持って来た。
 そういうところは子供らしくてかわいく思えた。
「うん…。いいよ」
 啓吾は、俺の寝転がっているベッドに枕を置いて、そっと俺の隣に寝転がった。
「榛くん…。俺もホントは弱いんだ…」
 俺の服の袖に指を絡めて啓吾はそっとそう言った。
「強がってるけど…ホントは…誰かに知って欲しくて…。1人で、こんな苦しんでても、誰もわかってくれないなんてつらくって…」
 啓吾の頭をそっと撫でてやる。
「…啓吾…」
「…榛くん…ありがと…。俺、あと半年、がんばれるわ。強くなれる気がした」
 俺は、そう言う啓吾にどう答えてやればいいのかわからなかったが、そんな俺がわかってか、軽く笑うのが聞こえた。
「おやすみ」
「…おやすみ…」
 平気ぶってるとかでなく、強くなろうとしている啓吾が見れて、とりあえず俺は今日、ここに来てよかったんだと思えた。