「行ってきます」
 優斗兄と俺の声が重なる。
 今日から、兄貴と同じ高校。
 優斗兄の車に乗って、高校へと向かって行った。

「啓…。男子校でよかったん…?」
 兄貴が運転しながら、俺の方を見ずに言う。
「…なんで…」
「いや。啓、男、嫌いかと思って」
 そういうわけじゃない。
 確かに、女の代わりに俺を使ったやつらは嫌いだ。
 でも、そいつらってのは、結局、女が好きな奴らなわけだから。
「優兄の高校、男好き多いんだろ?」
「うん。まぁ、そーゆう雰囲気」
 男が好きならば別にかまわない。
 女の代わりにされるのが嫌なのだから。
 むしろ、そーゆうやつらの方がいいかもしれない。
「啓もさ…。イイ奴見つけなって。あ、紹介しようか?」
「いらねぇよ。たとえばさ。もし、俺のこと、好きとか言っても、やられたら、そんなの信用できなくなる」
「どうして、そーゆう考え方するかな。好きだからやるのに」
「やりたいから、好きって言うんだろ」
 好きっていくら言われても。
 やってしまえば、『これのために言ってたのか』って思うだろ。
「じゃぁ、啓は、好きとも言われずにやられてもいいわけ?」
「そういうわけじゃないけど…。『好き』とか。そーいうのは最後でいい」
 自分でもよくわからなくなってきていた。
「啓がやれば…?」
 兄貴の言葉に、一瞬、思考回路が途切れる。
「…え…」
「啓が、やりゃいいやんか。そしたらわかるって。好きだからやるって気持ちがさ」
俺が、やる…?
「男なんて、好きになれるかよ」
「でも、別に女も好きじゃないんやん?」
 どっちも俺にとっては同じな気がした。
 中学のころは恋愛なんて考えてられなかったから。
「女の代わりにされてさぁ。そいつらも嫌だろうけど。女も嫌いになってたりするんじゃないん?」
 わかんなくって。
 それには答えず、窓の外を眺めていた。
「別に俺はホモじゃねぇよ」
「女が嫌いで、女が好きな男も嫌いで。行き着く先はもう決まってるもんやんか」
「男が好きな男もどうなわけ? 妊娠しないし、気軽にやれてイイって考え方、してそう」
 兄貴は、ため息交じりに、少しだけ笑って。
「啓…。受身だでかんわ」
「好きでやられてたわけじゃ…」
「そうじゃなくって。考え方とか、精神的に受身な部分が多いし。面倒なことは全部、自分で引き受けるし。……強いフリして弱いから…」
「どうせ、弱ぇよ」
「でも、それを隠して、同情買わせないとこは、いいと思うけど」
 男子校。
 決して、女に飢えてる男どもの集まりじゃなくって。
 もうちょっと、いいやつらがいればいいけど…。



「ほら。啓はココで降りな」
 校門の前で、俺を一人降ろしてくれた。
 入学式の行われる体育館へ向かう前に、外に張り出されたクラス分けを見て自分のクラスを確認する。
 俺が、自分の名前を探していると、目の前に、割り込んで来たやつが一人。
 背は俺より低いから、名前を探すのに、邪魔にはならなかった。
 それなのに、目についたのは、別に割り込まれたのが気に食わなかったからじゃなくて。
 目の前のその頭の色が、ものすごい金髪で。
 目立つなと思って。
 張り出された紙じゃなく、そいつの髪の方に目がいってしまっていた。
 1組から順に探していたそいつは、4組まで来ると、自分の名前を見つけたのか、すぐさま、去っていってしまう。
 1組で名前を探していた俺は、つい、4組の名簿の前へと足を進めていた。
 名簿の真ん中近くに俺の名前があって。
 目立つ金髪の奴と、同じクラスだった。



 入学式も、何事もなく終わって。
 俺より名簿が後らしいそいつは、式の最中は見ることができなかった。

 少し、学校内を1人で徘徊してから、寮の自分の部屋へと向かう途中。
 また、あの金髪姿が見えた。
 自分の部屋なのか、ドアの傍にもたれかかって、座り込んでいる。
「…おい…。大丈夫か」
 気分でも悪いのかと、見捨てるのもなんだかはばかられて、俺はしゃがみこんでそいつにしゃべりかけてみた。
 返事はないけれど、目を瞑っていて、気を失ってるとかでなく、気持ちよさそうに眠っていた。
 脱色された髪の毛は、軽く柔らかそうで、つい手に取ってみる。
 指先ですくうと、サラサラとすべり落ちていくのが、なにかと心地よかった。

 金髪だから、どんなおっかない顔してんのかとか勝手に想像してたけど、そんな予想は外れていた。
 どんな恐い人でも寝顔はかわいいとか、そういったことも聞くけど、それとはまた違うんだろう。
 ポカンと小さく開けられた口元とか。
 少し潤った唇とか。
 やわらかそうな頬だとか。
 ものすごい幼く見えて。
 なにも悩みなんてなさそうで。
 少しだけ、締め付けられるような感じになったのは、羨ましいという感情があったからかもしれない。
 きっと。
 汚れた事なんて、なにも知らないんじゃないかとか、そう思ったりした。

 顔にかかった横の髪を、かき上げてやって、初めてまともに顔を見る。
 やっぱ、幸せそうで。
 変に、胸が高鳴るのを感じていた。

 このまま、ココで寝てては風邪を引くかもしれないが、俺はなにかとバツが悪く、どうにも起こすことが出来なくて。
 そいつの部屋らしいインターホンを鳴らして、そのまま、自分の部屋へと向かった。
 ルームメイトの先輩が、気づくだろう。



「失礼します」
 一応、そう断って、決められた寮の部屋へと入る。
「…あ。もしかして啓吾くん…?」
 ルームメイトの先輩と思われる人が、そう言って、立ち上がった。
 まるで女みたいで。
 そりゃ、見た感じ、女と間違えたりするほどではないけれど、この学校では絶対に女役に回される方だと思った。

 いろいろと、ベッドや机をどちらをつかっていいのかだとか説明をしてくれる。
 一通り説明が終わると、一息ついて、先輩は俺と同じベッドに座り込んだ。
「中学でも、モテたんでしょ…?」
 俺の顔を覗き込んで先輩はそう聞いてくる。
「え…」
「だから。モテたんでしょって。経験豊富そうな感じがする」
 楽しそうに笑いながら、そう言うもんだから、
「別に。そんなに経験豊富ってわけでも」
 俺も、冗談交じりに軽く笑いながらそう言った。
「でも、したことはあるんだ…? 啓吾くんって、俺の彼氏に似てるな…。どこまで似てるか、やってみたいなって」
 彼氏…?
 やっぱ、男相手にやられてるんだ、この人。
「誰とでもやるんすか?」
「誰とでもってわけでもないけど…」
「彼氏に怒られたり…」
「俺の彼氏は、俺のほかに好きな人がいるんだよ」
 にっこり笑って。
 それがなんでもないことのように言った。
「それで…いいわけ…?」
「彼氏だとか、肩書きみたいなもんだから。まぁね。いろいろあるんだよ」
 そう言われて話を切られては、どうにも聞くことが出来ない。
「ね…。しようよ」
 先輩は、誘うように俺の頬に手を当てる。
「…俺…男とやるように見えます…?」
「え…?」
「男をさ…犯してきたようなやつに見える…?」
「彼氏と似てるから先入観かもしれないけどね。犯してきたって言い方はおかしいけど」
 そうか。
 俺って、兄貴と似てるわけだから、やられるよりやる方に見えるのか?
 あいつらと同じように見られるのは嫌だけど。
 少しだけ、安心した。
「今日は、ちょっと疲れてるんすよ」
 そう断って、少しだけいい気分で、俺はベッドに寝転がっていた。



 昨日、教えられた、教室に入ると、まだ時間が早めなせいもあり、ほとんどの席が空いている。
 席が指定されていないので、俺はとりあえず、後ろの方の席へと座った。
 早く来すぎたかもしれない。
 少し、ボーっと窓の外を眺めているときだった。
「席、決まってんの?」
 そう声がかかるもんだから、顔をあげると、少しネコ目ぽくって、髪が明るめの奴。
「いや、決まってないっぽい。とりあえず、適当に、ココ座ってんだけど」
 そう…と、一声言って、俺の前の席へと座った。
 こいつは、同性愛とか偏見ないのか…?
 ふいにそんなことを考える。
「…なぁ。男子校なんて、どうして選んだわけ…?」
 俺が、そう声をかけると、軽く笑って、後ろへと体を向ける。
「どうしてって…。よくない? 共学とは違って、素でいられそうだし?」
「…で、寮?」
「そうだけど?」
 つまり、わざわざ遠くまで来たわけで…。
「家の近くに男子校ないわけ?」
「まぁ、あるけどさ。なんで? お前だって、ココ、選んだんだろ? なんでだよ」
 なんで…?
「…兄貴がいて…雰囲気とかいいみたいだったし」
 別にそんな理由とかじゃないけれど、そう言っていた。
「雰囲気って…。ココ、男好き、多いみたいじゃんか」
 笑いながらそう言うところを見ると、そういうのに関して、偏見とかはないようだ。
「男好きね…。それ知ってて、入ったんだ?」
「お互い様だろ?」
「平気…なわけ? ほら、同性愛とかさ」
 わざと、冗談めかして聞いてみる。
 引かれたらおしまいだ。
「んー…俺は、平気だね。男好きだし。お前は、駄目なんだ…?」
 俺が引きそうにないような奴に見えるのか、あっさり男が好きだと言う。
 そりゃ、引かないけど。
 逆に、あっさり言われた方が、ホントかどうかよくわからなくって、いいかもしれない。
「一応…平気」
「付き合ったこととか、あんの?」
「ねぇよ。やったことはあるけど」
 単なる興味本意で、やるだけやっちゃったみたいな言い方をしてみる。
 別に、本気で男が好きでやったわけじゃなくって。
 ただ、欲求不満だったからやっただけみたいに。
「お前、モテそうだもんな」
 お前に、俺は、どう見える?
 やられてた? やってた…?
「まぁね。気持ちよければそれでいいって考え方だったけど」
「やられた相手がかわいそうじゃん」
 やられてたのは俺の方で。
 ポジティブな考え方をしているだけ。
「…まぁ…。かわいそうだとは思う」
 自分で、自分をかわいそうだとか。
 わけがわからなくなっていた。
「やられる側も、気持ちいいんなら、いいんじゃないの」
 俺を、やる側の人だと思って、こうフォローしてくれてるんだろうけど。
 俺の方がやられる側だったから。
 気持ちいいとか思ってた俺は、同情されない存在…?
 そりゃ、同情なんてされたくないけど。
『お前だって、気持ちいいんだろ?』とか、何度も言われた気がする。
 確かに、感じてしまっていたから。
 あいつらも、きっと。
 罪悪感とかほとんどないのかもしれない。



 そうこうしてるうちに、だいぶ教室に人が入ってきていた。
「…啓ちゃん?」
 ふいにかかった声に、視線を向ける。
 小、中と一緒の学校だったアキだ。
「なに?」
「ん…。また一緒だなって」
 何も聞けないくせに。
 何か聞きたそうな声を出して。
 別に、謝ってほしいわけじゃないし、感謝してほしいわけでもない。
 ただ、わかってもらえればそれで十分だから。
「アキが、どんだけ知ってんのかあんまよくわかんねぇけどさ。もう中学のころの俺のことは、忘れてな」
 急に顔を曇らせて。
 それでも頷いて、気まずそうにしながらも斜め後ろの席へとついた。

 もともと、俺はアキの代わりだったから、女顔ってわけではない。
 なにも知らないやつから見れば、普通に男で。
 たとえば、俺が男を相手にするならば、俺がやる方に見えるようだ。



「ねぇ。寮生活?」
 俺と前の席の奴との会話に割って入る声。
 振り向けば、オレンジっぽい茶髪のかわいらしい男。
「そう。お前も?」
「うん。どうだった? 先輩とか」
 ルームメイトのことだろう。
「俺んとこは、なんか普通に、真面目っぽそうだったけど。でも割と気楽に話せていい感じ」
 前の席のやつが、そう説明する。
「俺んとこはね。すっごい楽しくって。あ、今度、来てみて。いい先輩だから」
 続いて途中から来たやつがそう言って、2人の視線が俺に向けられる。
「あー、俺んとこはね。なんか、女っぽい先輩。俺が彼氏に似てるとか言われたね」
「じゃ、そのルームメイトの人って、男と付き合ってるんだ?」
 楽しそうに言う様を見ていると、こいつも、OKな奴らしい。
「…この学校、多いみたいだしな。そーゆう奴」
 ボソっと言う俺に、
「俺、だからココにしたもん」
 あっさり、カミングアウト。
「2人は違うの? どうしてこの学校にしたのさ」
 俺も、そういう事、考えてココを選んだ。
 女に飢えてそうな男が嫌で。
 普通に、男を求める男はいいんじゃないかって思ったし。
 共学で、男が女に尽くす様だとか、見てて嫌気がさしそうなのもあった。
 結局、心の中では、やる事考えてたりで。
 女の立場に立って、物事を考えがちになる自分が嫌だった。
「わざわざ寮生活で、ココまで来てたら、そーゆう考えの奴、多いんじゃねぇの?」
 俺が笑いながら言うと、
「自分のこと?」
 そう聞き返されて。
「一理あるね」
 そう答えておいた。



「じゃぁさ。ほか、誰が寮なんだろ」
 あとから来たそいつが教室を軽く見渡すのにあわせて、俺と前の席の奴も、教室全体に目を走らせた。
 ふいに目にとまったのは、金髪で。
 昨日の奴だとすぐにわかった。
「…目立つよな…。あの金髪」
 俺以外の2人もそう思ってたらしく、目線がすでにそっちを向いていた。
「寮かどうか、聞いてみようよ」
 あいつは寮だって、知ってるけれど、なにも言えず、俺ら3人はそいつの方へと向かった。



「お前も寮…?」
 そう声をかけ、振り向かれ、つい見入ってしまう。
 寝てるときとはまた違う表情。
「ルームメイトの先輩、どうだった…?」
「まじめそうなんだけど…」
 あれこれ説明するときに、さりげなく手振りするしぐさに目がいく。
 ほとんど、話なんて聞いてなかった。
「俺、見ちゃったんだよ」
 そいつが少し、声を荒げて言うもんだから、意識がやっと正常に戻る。
「なにをだよ」
 話を中途半端に聞いていたせいで、わけがわからず、すぐさまにそう聞き返していた。
「繋がっちゃってんの。ドア開けていきなり聞こえてきたのが喘ぎ声」
 驚きと呆れを交えた表情と口調。
 こいつは、男が好きだからとか。
 そういうの、考えて寮にしたわけじゃないんだ…?
 別に普通の人ってだけなことなのに、少しだけがっかりしている自分がいて。
「おもしろいじゃん」
 あえて、試すように聞いてみる。
「…え…。男同士だぜ?」
 あぁ。やっぱり。
 こいつって、ノーマルなんだ…?

 女が好きで。
 男子校にいたら、お前は、誰かを女の代わりに抱いたりしちゃう…?
 あいつらみたいなやつにはなって欲しくなくて。
 ノーマルなこいつが、嫌だった。

 違う。
 それだけじゃなくて。

「この金髪、狙ってんのかと思った」
 ものすごく人目を引く。
 実際、俺もはじめ、この金髪に目が行った。
「別に。中学厳しかったから、卒業したら抜くって決めてたんだよ」
 男は恋愛対象として興味ないみたいな態度で。
 別に、ノーマルだろうがかまわないはずなのに。
 それがこいつだと、なぜか苦しかった。
 


 担任の先生が来て、いろいろとクラスの役割だとかについて説明していたが、俺はもうずっと、金髪をボーっと眺めるのみ。
 話なんて聞いちゃいなかった。  



「佐渡ー」
 その声は、先生からで、呼ばれた俺は、教卓へと向かう。
「…別に、出席取ってただけだから、来なくてもいいんだけど…」
 そう言われ、自分が間違って前に出てきてしまったと気づいた。
「…えっと…気分悪いんで、保健室に…」
 どうにも引っ込みがつかなくって、そう言った。
「大丈夫か…?」
 ホントは全然、平気だけれど、あまり大丈夫じゃない…みたいな表情を作る。
 俺の顔色を伺いながらも、先生は目の前で眠っている金髪にふと目を落とす。
「高岡っ」
「え…あ、はい…?」
 高岡と呼ばれたそいつは、なにがなんだかわからない表情で、顔をあげる。
「寝るならせいぜい保健室に行けよーっ」
 笑い気味に先生にそう言われ、そいつはホントに気分でも悪いのか、ノロノロと席を立つ。
「マジでちょっと気分わりぃんで保健室行かせてくださいー」
 先生は、苦笑いで『大丈夫か』と声をかける。
 昨日、部屋の外で寝てたせいで風邪でもひいたのだろうか。
「…俺が付き添いますよ」
 先生は、俺も元から保健室に行く予定だったからか、あっさりOKしてくれる。
「一人で行けます」
 高岡はそう言ったが、先生は、別に俺が付き添うという理由だけで保健室に行くんだとは思っていないからか、聞き入れなかった。



トボトボと保健室へ向かう高岡の後を、一歩下がってついていく。
高岡はなんでついてくるんだと言いたげで、後ろを気にするように、何度も少し振り返った。
 かわいい…とか、思ってるんだろうか、俺は。
 昨日の寝顔を思い出す。
 抱いてもいい…?
 声も出さずにそう聞いて。
 伝わるはずもないけれど、保健の先生が外出中で。
 つい、保健室に入り込んで足を止める高岡の髪に指を絡める。
 それには気づかないで、高岡は、保健室の中を見渡していた。
「すっげぇ、好都合」
 もう、了解なんて得られてられなくて。

 つい、後ろからその体を抱きしめた。
「ちょっ…なにっ」
 高岡は驚いた声を出す。
 なにかと聞かれてもわからない。
 抱きたいと思ったから抱いただけで。
 それだけ。

 そうだろう…?
 なんで、首をかしげたのか、とか。
 そういったことを聞かれても、答えられないのと一緒で。
 理由なんてわからなかった。
 あまりにも無防備で、つい、気づいたら、本能ってやつなのだろうか。
 抱きしめていた。

 少し、腕の中で暴れられ、やっと我に変える。
「お前、男同士のよさっての?知らねぇみたいだし?」
 平静を装って、そう言っていた。
 俺だって。
 男同士のよさなんて知らないし。
 別に知りたいと思ったこともなかったし。
 自分が、男同士のよさを知れるとも思ってなかった。

 けど、なんていうか…。
 こいつとだったら、知れるんじゃないかとか、そんな考えがよぎった。

 まだよくわからないけれど。
 好きになったんだと思う。
 好きだと、伝えてみたい気もする。
 ただ、今、言って、どうして信じてもらえる?
 会ってまだ2日。
 それでも、俺は、好きになっていた。
 まだ、深く高岡のことを知っているわけじゃない。
 それでも、たとえどんなに性格が悪かったとしても、それが高岡ならば、そのすべてが好きになれる自信があった。

 好きだと言えば、やりたいから言うみたいで。
 そんな風には思われたくないから、俺は言いとどまった。



 兄貴の言ってることがやっとわかった気がした。
 好きだから…やりたいって。


 こいつにもわかってもらえるだろうか。
 好きだから、やりたいって思う気持ちとか。



 好きだなんて言えなくて。
 こんなときに言ったら、やりたいから言ってるだけだって思われそうで。



 なにも言わずに、やるけれど。
 好きで好きで、たまらなかった。