深く重なった口には、容赦なく舌先が入り込む。
「んっ…」
 いつものやつらは、たぶん、嫌がらせでキスとかするんだろう。
 気持ちよさとかは求めてない。
 そんなにされてねぇけど。  

 今は?
 こいつはどういう意味でキスしてんだろ。

 そろそろ、離れようと思うのに、そいつが俺の顔を掴んで上を向かせて。
 何度も重ねなおしては、舌を絡めてく。
「っはぁ…っ」
 苦しい。
 拒むように顔を俯かせるとやっと、離してくれていた。

「佐渡くんが嫌ならしない」
「…俺のこと好きでもないやつにやらせてんのに、好きって言ってくるやつ拒む理由、思いつかねぇよ」
 そりゃ、普段だって一応理由あってやってんだけど。
 以前は、来るもの拒まずだったときもある。
 嫌ではあったけど。

 いまも、別にやりたいわけじゃない。
 けれど、完全に嫌とは言えなくて。
 というか、やった方が、楽な気がした。
 後から、何度も聞きに来られても面倒だし。
 こいつとやるっつって、他のやつとやるの逃れてるし。

「好きだけど、どうにかなろうだなんて考えたことなかったんだ。いまだって…。でも、したいって思ってる」
「…いいよ」
 俺は机をどかし、そいつの目の前でシャツのボタンを上から順に外していった。
「ただ、入れたい? それともなにかしたい?」
 座ったまま、見上げて問う。
「…したいよ。いろいろ」
「…………いいよ」
 そう俺が答えると、そいつは床に膝をつき、俺へと視線を合わせた。
 恐る恐るといった感じで、俺の肌に触れていく。

「いい?」
 なにが?
 そう聞く前に、そいつの顔が近づいて。
 舌先が、乳首に触れる。
「っ……」
 ぬるっとした舌の感触。
 乳首なんて、無意味につままれたりしたことはあったけれど、こんな風に、愛撫されたことはない。
 ねっとりと這い、吸い上げられると体が少し震えた。
「ん…っ」
 こいつの口の中で、突起が転がされていく。
 もう片方の胸も、指先で撫でられ自分でもソコが固くなっているのがわかった。

 口を離すと、ピンと立ち上がった乳首を見て、確認するよう指先で押しつぶされる。
「っんっ…ぅンっ!」
「やっぱり…佐渡くんはすごくかわいいね…」
 ものすごく調子が狂う。
 無視していると、そいつの視線が少し下、俺の股間へと注がれた。
「……ん…いいよ」
 俺がそう言うと、そいつは俺のベルトを外し、ズボンのチャックを下ろす。
 中からすでに硬くなっている俺のを取り出して、口付けた。

「んっ…」
 まるで形を確認するように、舌先で竿をなぞっていく。
 俺はただ、その行為に見入ってしまう。
 ねっとりと舌を這わされ、体がビクついた。
「っぁっ…はぁっ…っ」
 下から見上げられ目が合ってしまうと、恥ずかしくて顔を逸らした。
 直後、咥え込まれる感触にまた体が跳ねる。
「ぁあっ! あっ…んっ!」
 やばい。
 すごい声出る。
 いつもみたいに強引じゃなくて。
 こんな風にじっくりゆっくりやられると、羞恥心を感じる隙が多すぎる。
 いつもは気にならなかったことが、気になってくる。
 舌が、唾液が絡みつく音が響いて、ものすごくいやらしく感じた。

「くぅ…っ…ぁっあっ…んぅ…っ」
 すげぇ、音。
 ぐちゃぐちゃ聴こえて、耐えられずそいつの髪を引っ張る。
 けれど、手に力が入らない。
 バカみたいに吸い付いてきやがる。
「はぁっっ…あっ…離っ…ぁっあっ」
「ん…どして…? 悦くない…?」
「もうっ…ぃいからっ、あっ、それ…やめっ…」
「佐渡くんのこと、悦くしたいけど…俺も、佐渡くんのコレ、もっと味わいたいから」
 なにそれ。
 俺を気持ちよくさせたくて…だけじゃなく、お前自身がしたいのかよ。
 こんなこと。
 変態かよ。
 こんな、俺なんかのにしゃぶりつきやがって。

 言葉を挟んで、すぐさままた俺のを口に含む。
 味わいたいとか。
 馬鹿だ、こいつ。
「はぁっ…あっ…あっ…やぁっ」
 俺も、すごく感じてくるもんだから、つい腰が浮く。
 髪を掴んでいた手を離し、自分の座っている椅子を押さえ腰を揺らしてしまう。

 自分でも、わかってんだよ。
 いやらしく腰くねらせてるって。
 けれど、止められない。
 俺の動きに合わせるようにして、口を動かし舌で絡めてくれて、音を立てられて。

「ぁあっん…っ…はぁっ…ぃくっ…」
「ん…」
「ぁっぁあっ…もぉっっあっ…あぁあああっっ!!!」

 出してしまった液を、最後の最後まで絞り取られるようにして、飲み下すのがわかった。
 
 ただ、俺は言葉が思いつかずそれを眺める。

「佐渡くん…。すごい、声かわいいね。…いい?」
 かわいいとか。
 こいつ、頭おかしいだろ。  

 なんにしろ、俺も1回イっただけじゃ足りなくて。
 後ろでもイかせて欲しい気分になってきている。  

 俺は頷いて、椅子から立ち上がった。

 机に片手を付いて、空いた手でズボンを下ろす。
 後ろに回ったそいつが、下着を下ろしてくれ、しゃがみこむと俺の太もも辺りに舌を這わした。
「ん…っ!」
 ときたま吸われるような感触。
 跡、残されてるのかもしれない。
 足の付け根まで移動した舌先は、躊躇無く入り口までをも舐めあげた。
「ぁっんっ…んぅ…っ…」
 ヒクつくソコを、チロチロと舐められるとじれったくて、つい腰を突き出すように寄せてしまう。
 それが合図だったかのように、舌先が入り込んできた。
「ぁあっ…ん…はぁっ…」
 そんなところに舌を差し込まれるのははじめてた。
 信じがたい。
「っばっか…ぁっ…んなとこっ」
 舐めるなって言いたいのに、ぬるっとした感触はたまらなく感じてしまう。
「…ん…なに?」
「ぁっ…ぁあっ」
 腕に力が入らない。
 ひじをついて、体制を整える。
 さっきよりも腰を寄せているみたいだけれど。

「指、入れるね」
 わざわざ伝えてくれてから、唾液を絡めたであろう指先がゆっくりと入り込んでくる。
「ぁあっあっ…くぅう…っ」
「すごい…余裕で飲み込んじゃうね…」
 
 それを確認するみたく、奥まで入り込んだ指先を軽く抜き差しされる。
 指先が、そのたびに内壁を擦って、前立腺を掠めていく。
「ひぁっ、ぁあっんぅっ…」
「…中、気持ちイイんだね……。声、たくさん出てるし…。ここ?」
 気持ちいい。
 粘液質な音がする。
 示すよう前立腺付近を、つつかれる。
「ぁあっ! …だっめ…っん、はぁっあっ…そこ…っ」
「駄目…なの? 駄目って言い方、かわいいね。もっと言って」
 言ってって言われて言えるかよ。
 そう思うのに。
指がもう1本進入して、駄目だと示した場所を何度も強めに突き上げられると、考えがまとまらなくなる。
「やっ! …ぁあっっもぉっゃっだっ」
「いや…?」
 確認するよう、そいつの空いた手が、俺の股間を掴む。
「すごいベトベトだ…。もしかして、またイきそう?」
 言い当てられて、よくわからない涙が溢れてくる。

「じゃあ、もう入れてもいい?」
 後ろからそう声をかけられ、頷いて示す。
「顔、見てたいんだけど」
 どうせ、このまま立っていられそうにない。
 頷くのがわかってか、指をそっと引き抜かれた後、俺はズボンと下着から両足を抜き、机の上へと座った。

 その体を寝転がらせるように押し倒して、そいつは俺の中へとゆっくり自分のモノを押し入れていく。
「ぁっあっ…はぁ…っ」
 奥の方まで。
 じっくりと入り込んでくるのが見てわかる。
「すごいね…」
 俺と同じように、そいつも俺の中に入っていく様子に見入っていた。
 すごい、奥まで来てる。
「はぁっ…あっ…」
 奥まで入って一息つかれると、すぐにでも動いて欲しくなる。
 机が狭いせいで、足が浮いた状態。
 そいつに膝裏を押さえられ開くのみ。
 踏ん張れないから自分からはうまく腰を動かすことも出来ない。

 いつもじれったくても、自分から腰を動かせば少なからず刺激されて、たまらなくて。
 それにあわせて相手も動かしてくれていた。
 今は?
 出来そうにない。
「っ…はやくっ……っ」
 恥ずかしいが、言わなければ先に進めそうにない。
 欲しくてしょうがない。
 求めるよう、足を押さえるそいつの手元の裾を引っ張った。
「っ…動けよ…っ」
「……もう少し、眺めてたいな…」
「ばっかっ…はやくっ…」
 そいつは、俺の胸元に手を這わして、突起を撫でていく。
腕に足をかけた状態で、上から見下ろされ、俺は逃げるよう顔を逸らす。

 親指で押しつぶされたり摘まれたり何度もされるうちに、体が震えて、それと連動するみたく、俺の中に入り込んだ肉棒が容量を増したように感じた。
「ぁあっ!! はぁっんっ」
「見える…? ココ。きゅうきゅう締め付けてくれてる…」
「はぁっ…もぉっ…」
「ココも、すごいトロトロだ…」
 亀頭に触れた指先をぬるぬる滑らせ教えてくれながらも刺激されると、本格的に我慢の限界だった。
「もうっ…っ」
「そんなに欲しいんだね…。ひくついてるし。腰も、動かしたそうだ」
「わかってんならっ」
「……わかってるよ。欲しがる佐渡くんのこと、堪能したいだけだから」
 そいつは靴下を脱がせた俺の足にまで舌を這わした。

 それですら、体がゾクゾクしてたまらない。
「ぁっ…も……っ…はやく…っ」
「どうされたい?」
「も、なんでもいいからっ…はやく、動けよ…っ」

 しょうがなくなのか、了解してくれたそいつが軽めのピストン運動で内壁を擦っていく。
「ひぁっんっ、ぁんんっ、あっ、もっとっ」
「もっと…?」
「もっとっ…ぁっあっもっと、ぐちゃぐちゃにっ…」
「ぐちゃぐちゃにして大丈夫?」
 言葉通り、少し乱暴に引き抜かれたソレが抜け切らないうちに、奥へと打ちつけられる。
 ものすごく奥を突かれた感触に体がビクついて。
 退くたびに前立腺のあたりをカリが引っかけていく。
「ぁああっ!! やっ…ぁあっんっ、ぃいっ…」
「佐渡くんの中…すごい気持ちよくて…も…イきそうなんだ…。中でもいい?」
 俺は後先考えず、何度も頷いて欲しがっていた。
「ぁあっん、もぉっ…あっぃくっ…あぁあっ…あ、あぁあああっっ!!!」

 
 中に、入り込んでくるのがわかる。
 俺もまた、大きな声をあげてイってしまっていた。


 体が少し落ち着いて。
「ごめん……」
 そいつの言葉で、沈黙が破られる。

「……なんで謝ってんだよ」
「好きなのに、欲望に負けたんだと思う」
 そいつは、俺の顔も見れずに、少し悔しそうにそう言った。
「…好きだからじゃなくて?」
「佐渡くんのこと、止めたかったんだよ。佐渡くんが、好きでもない人としてるのが
嫌でここに来たのに。俺は好かれてないってわかってる上で、こんな風にやるなんて。……自分が嫌だと思ってたことを、俺もしてるんだよ」
「……謝られるようなことをされたって自覚するほうが嫌だし。据え膳食わぬは男の恥って言うだろ」
「そうは言っても……」
 めんどくさいやつだな。
「…お前のこと、他のやつらと一緒だとか思ってねぇから」
 顔をあげるそいつに、軽く口付けてやる。
「……佐渡くん……」
「少し、救われたし」
「え…」
「そんな風に俺のこと思うやつ、いるなんて思ってなかったから」
「……いると思うよ。みんな俺みたいに言わないだけで」
 そう言われても、いい気はしねぇけど。
「佐渡くん…また、会えたりする?」
「……いいよ」
 拒むべきなのかもしれない。
 こいつの気持ちに応えられるわけでもないし。
けれどもう少し、話してみたいと思った。
 

 そいつを帰らせて。
 俺もまた一人、教室を出る。
「……お人よしすぎだろ」
 廊下にいたクラスメートの和也に声をかけられる。

「見てたのかよ」
「今ちょっと覗いただけ」
 以前にも、こいつには見られたことがあった。
「和也くんはホント、よく居合わせてくれますね」
「お前が、こんなとこでやるからだろ」
 確かに。お互いついため息が洩れる。
「で。なに、お人よしって」
「いや、あの手のタイプのやつ、やったにしても、そのまま切りそうだから。……もしかして好きとか?」
「そんなんじゃねぇよ。ただ…あいつは、ガチで俺のこと好きな気がして」
「啓吾は、たまに鈍感だよな」
 和也は軽く笑って冗談っぽくそう言った。
「どういう意味だよ。ホントは、好きじゃないって?」
「そうじゃなくて。あいつも…だと思うってだけ」
 あいつも?
「違ぇよ。他のやつらはやりたいだけだって」
「まぁいいけど」
 
 和也は忘れ物でもしてたのか、教室へ入っていった。

 あぁ、あいつの名前すら知らねぇし。
 まあ、そのうち向こうからまた来るだろ。
 別に待ってるわけじゃねぇけど。

 好きって言われて。
 やっぱり、そこまで悪い気はしない。
 それが男であっても。
 ……アキもそうだったとしたら。

 あーあ。腰痛ぇし。考えまとまんねぇし。
 明日は学校休むか。