「おー。啓吾、久しぶり」
「久しぶりー」
何日かぶりかの学校だった。
友人たちが声をかけてくれて。
以前となんら変わらない。
「啓吾、変な噂流れてっぞ」
「なに?」
「なんか、お前に言えばやらせてくれるってさ」
「少し休むと、わけわかんねぇ噂の対象にされるのな」
そいつも、信じていないようだった。
俺が、アキの代わりにやらせてるってのはごく一部の人しか知らないことだ。
だから、なんでもないみたく過ごそうと思えば過ごすことが出来る。
万が一のときは、俺だって。
アキの代わりになる必要はないんじゃないかって考えるようになっていた。
別に、アキを売るってわけでもないんだけど。
そこまで、俺がしてやる必要あんのかなって。
どうしても耐えられなくなったら、嫌がってしまえばいい。
そうすれば、俺は逃れられるって、そういう逃げ道を確保できているから、心のゆとりがある。
嫌がった場合。
アキはやられるかな。
でも、それは元々アキが好かれているから。
俺が初めからでしゃばらなければ、普通にアキが告られて、それを拒んで…。
それで終わってたのかな。
俺が余計なことをしたせいで、いまとなっては、拒んだら逆にアキがやられそうな気がしないでもないけど。
どうしたもんかな。
先輩たちに関しては、アキとは無関係だったのかもしれない。
ただ、俺がやらせてた。
実際そのときは、アキのことうんぬん、考えがまとまらなくて。
とりあえず抵抗もせず、放課後にHをして。
体が壊れることもないし、残念なことに気持ちもよかった。
俺の考え方次第だ。
これを悪夢ととるか、現実ととるか。
……いや、まぁどっちにしろ現実なんだけど。
だから、前向きに考えればいい。
ちょっとリップサービスしてやれば、やつらは満足する。
俺の手の上で転がってると思えば、なんてことない。
ぶっちゃけたところ、最近は男の俺相手におったててるこいつらってバカだよなーなんて思ったり。
俺が受け入れたらつけあがりそうだから、ある程度は嫌がる。
俺自身、これが平気になっちゃ人としていけないんだって思ってるし。
「佐渡―。今日、やらせろよ」
こう言われるのも。
あいつらは、自分の方が立場が上だと思ってるんだろうけど、俺としてはやつらの下にいるつもりはない。
ちょっとの時間、我慢して。
俺だって抜けて。
……大丈夫。
そう思うまでに少し、時間はかかったかもしれないが。
もちろん、イイわけでもないけれど。
新規のやつには一応、聞く。
「なんで? アキが好きなの?」
そうだと言われればやる。
アキを知らず、ただ俺とやれるって噂だけで来たやつに関しては、殴ることにした。
初めのうちは、来るもの拒まずでやっちまったけど。
俺もちゃんと選ばないと。
「佐渡ー。お前訪ねて誰か来てんぞ。……俺らも知らねぇやつだけど。お前のこと聞いてんのかも」
昼休み。
一番初めに、アキの代わりに俺をやったやつがそう俺に言う。
こいつらも、そこまで大事にするつもりはなかったのだろう。
身内のみで、止まらせておく予定だったのかもしれない。
つっても、先輩にまで言いやがったみたいだけど。
まぁ、その先輩たちにも初めは従った俺だが、もうやめにした。
アキに影響が無さそうなら、殴る。
殴られた理由だって、他のやつには言えないだろうし。
今となっては卒業しちまってるけど。
その日、俺を訪ねてきたのは、俺と同じくらいの背丈で割と整った顔のやつ。
あいつらが知らないって言うのなら、アキとは無関係かもしれないし。
知れているのかもしれない。
「……なに」
「放課後、話したいことがあるんだけど…いいかな」
「今じゃ駄目なの?」
「……みんな、いるから……」
「やりてぇの?」
場合によっては殴る。
返答に困っている様子のそいつを見て、
「まぁ、放課後でいいよ」
そうとだけ告げ、俺はまた自分の席へと戻った。
「あいつ、誰だよ」
いつものやつらが気にして聞いてくる。
「俺も知らねぇよ。でも、今日はあいつとやるかもしれねぇから。お前らは無理」
「お前、どんだけ物好きなんだよ」
「やらずに殴るかもしんねぇけど。やる可能性高いから」
そう言っておかないと、こいつらの誰かを相手にしなきゃならないような気がして、それから逃れた。
放課後。
教室に残っていると、昼間のやつが来た。
「話したいことってなに?」
向こうもわりと低姿勢な感じだったから、俺は自分の席に座ったまま。
そいつが俺の机の前に立つ。
「あの…佐渡くん、俺のこと知らないよね」
「……うん」
「佐渡くんのこと、好きなんだけど」
思いがけない状況に、言葉を失う。
俺のこと好きって?
「……お前、男じゃん。男が好きなの?」
アキみたくかわいい雰囲気の男ならともかく、俺はないだろ。
「男がっていうか……佐渡くんが…」
アキとは無関係?
一応、俺のこと好きだとか言って、やりたいだけ?
別に、そんなん言わなくてもいいのに。
「やりてぇの?」
「そりゃ、したいとかも思うけど…っ。噂聞いて…。なんかいろんなやつ相手にしてるって…」
少し言いづらそうにして、そう教えてくれる。
「だから、やりたいんだ? ……別にそうならそうで、好きとかいちいち言う必要ねぇよ。別にやらせるわけでもねぇけど」
「……噂は、嘘なんだろ」
ちゃんとは知らねぇのか。
「……嘘じゃないっつったら、やる?」
「やるとかやらないとかじゃなくて。噂聞いて、いてもたってもいられなくなって」
「どうして」
「…っ好きだから気になるんだよ」
本気で言ってんのかよ。
「……俺は、男興味ねぇし。そういう話なら、帰るよ」
「振られるのは、構わない。本当は告白する気なんてなかったし。無理だってわかってたから。その前に、嘘かどうかだけ、教えてくれないか」
嘘だと、言った方がいいんだろうか。
けれど、こいつ独自で調べてまた俺を訪ねてきても面倒だし。
いや、嘘じゃなくても嘘だって言う俺の気持ちを汲み取ってくれるだろうか。
ジッと真剣な目で見つめられると、嘘だと言いづらくなった。
「俺だってだれかれ構わずやってるわけじゃねぇよ」
「……噂は本当なんだ?」
「お前もやりたいとか言う? どうしてもってんなら、考えなくも…」
無い…そう言う前に、そいつが俺の机をバンっと両手で叩き、かき消される。
「どうして?」
「……言う必要ないだろ」
「そいつらのこと、好きなんだ?」
「違ぇよ」
「そいつらが佐渡くんのこと、好きなんだ?」
「……それも違ぇよ」
「じゃあ…っ」
どうして。
そう言いたげだった。
「お前に言う必要ないって言ってんだろ」
静かにそう言うと、そいつは机から手を下ろしうつむいた。
「佐渡くんのこと、好きでもないやつがやってんのとか、佐渡くんが好きでもないやつにやられてるのとか。耐えがたいよ」
「……いんだよ。俺は平気なんだし」
せっかく前向きに考えてんだから、ほっとけっての。
「俺の方が、佐渡くんのこと、好きなのに」
……マジで言ってんのかよ、好きとか。
「……お前が、平気じゃないのかよ」
たとえばもし、自分の好きな相手が、どうでもいいやつらとやりまくってたら。
…いい気はしない。
それは理解できる。
「お前の方が、俺のこと好きで、どうしたいわけ?」
「っ……好きでもないやつが、俺より、佐渡くんのこと知ってるだなんて…」
「じゃあ、お前が、俺のこと知ったら落ち着けるんだ?」
別に、こいつのこと俺が気遣う必要ねぇんだけど。
なんか面倒だし。
久しぶりだし。
やっちまった方が早い気がして。
「そんな…」
「いいよ。したけりゃして。確かに、俺のこと好きでもないやつが俺のこと知っちゃってるよ。それが不愉快ならすればいい」
「それだけじゃなくてっ。こんなこと…っ」
「したくねぇの?」
見上げて、誘うように少し首を傾けると、そいつが言葉を止めて、俺を見つめる。
「あ…俺のこと、そいつらと一緒だと思ってる?」
やりたいだけのやつだって?
初めはそう思ったし。
いまでもその可能性は捨ててないけれど。
まぁ強姦しようって気もないみたいだからな、こいつ。
偽善者かもしんないけど。
「…思ってねぇよ」
一応、そう言うと、俺の口へとそいつは口を重ねた。
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