1学期。

5月。
こないだ実家に帰ったのは、なんとなくだ。
今年の4月から、智巳が同じ学校に来てて。
地元のことを思い出したというのが大きな理由だろう。

ナツと仲直りできて。
それから1ヶ月経った6月。

智巳が。
俺のクラスの生徒のことを気にしているのを知った。

「あの、尋臣って、どういう子?」
不意に、智巳が俺に聞いた。
なんとなく、いままでお互い話す機会もほとんどなくて。
他の先生の前だったり、いつもと違ってたから。

タメ口でそう俺に聞く智巳に大学の頃の懐かしさを感じた。

「真面目で、汚れてなくて。責任感が強いから。いいんじゃないの?」
「いいって…」
「智巳ちゃんが、気にしそうなタイプ」
にっこりそう笑ってみせる。

「あいつ、弓道部に入れたいんだよ」
弓道部。
今年から、智巳が受け持つ部だ。
「ふぅん」
「俺のせいで、入らない気がすんだよ」
「…尋臣は、智巳ちゃんのテンション、嫌いそうだからな」
普通の会話。
友達。
いや、友達なんだけどね。

「軽―く、聞いといてやろうか? 尋臣に。部活のこと」
なにげなくそう言った俺に、あいかわらず冷めた感じの目を向けて。
「…いいよ。大丈夫だから。たぶん、俺、あいつのこと、手にいれたいんだよね」
智巳は、軽くさらっと言ってのけた。
「部員にしたいだけじゃなく?」
「…あいつが初めて部活に来たときから、すっげぇ気になってんだよ。目だってたんだよ、目だたねぇキャラのくせに」
変に鼓動が高鳴るのを感じた。


「…そう。お似合いだよ。まぁ、あいつ真面目だから犯罪起さないようにな」
あぁ。俺、社交辞令上手くなったな。
なんて、自分で分析する余裕があった。
「まぁ、起しても口止めするから」
「おい」

智巳が去ってく後ろ姿を眺める。
遠ざかっていくような、そんな感じがした。

こういうやるせない気持ちのとき。
どうしても頼ってしまいそうな相手がいる。
ずっと、傍にいてくれたナツだ。

一番、俺の事情をわかってくれているから。
他の誰かに話すよりも、一番、理解してくれるし、なにより、俺が望むような返答をくれる。
それがわかってて、相談するってのは、甘えなのかもしれないけれど。







結局、相談できないまま、7月。
夏休み前に、智巳が、尋臣と付き合いだしたのを知った。


また俺はなんでもないような返答をして、受け流して。
ただ、それを聞いたとき、ナツのところへ行くことばかり考えていた。

「ナツ…?」
『深雪ちゃん? どうしたの?』
夕方、電話をかけると、期待通り、ナツはすぐに出てくれる。
「あ…会いたいんだけど…まずい?」
『いいよ。地元来てくれるの?』
「うん…。夜、行く」

『じゃあ、深雪ちゃん家で待ってる』
ナツは、俺の家の合鍵も持っていた。

明日が土曜日で休みだということもあり、俺は仕事を終え、地元へ向かった。



家に着くと鍵はかかっていたが、ナツのバイクが止まっていた。

鍵を開け、玄関の扉を開けるとすぐ目の前にナツの姿。
「あ…」
「久しぶりだね…深雪ちゃん」
そう言ってにっこり笑ってくれるナツに、衝動的に抱きついていた。
「なっちゃん…」
「んー…。どうした?」
優しく俺の頭をなでてくれる。
あぁ、そういえば、こいついつのまにか、こんなにも俺のこと見下ろすようになったんだなぁって。
元々、中学時代から身長高いよなぁって思ってたけど。
どんどん、大人になっていく。

ナツが、俺の頭を優しく掴んで上を向かせると、力強く口を重ねてくれる。
「んっ…ぅんっ…」
舌が絡まって、頭がボーっとする。
何度も何度も、重ねなおしてくれて、砕けてしまいそうになる腰を支えられて。
ナツの足が、俺の足の間へと入り込む。
「んっ…んぅんんっ」
口がそっと離れて。
俺はナツにしがみついた。
「なっちゃん……」
「ん。どうした?」
「………したい…」
「いいよ…?」
もう一度、キスをして。
二人でベッドへ。

ナツが丁寧に、俺の服を脱がしていく。
「…ナツ…ごめん」
「なんで?」
「…甘えすぎてる」
「いいよ」
俺のことを全裸にして、足の甲にキスをしてくれて。

ナツも、服を脱いでくれていた。
覆いかぶさるようにして体を重ねキスをする。
ちょうど、自分の股間のモノがナツのとぶつかって、熱さを感じた。
「んっ…」
舌が絡まりあう感覚と。
ぶつかった股間のせいで、腰が揺れる。
「んっ…んぅっ」
送りこまれた唾液を飲み込んで。
口を解放すると、ナツは俺の頬を撫で見下ろしてくれていた。
「はぁっ…なっちゃん…」
「腰、動いちゃってるね」
「あっ…当たって…っ」
「うん。当たってるもんね。ココ」
ナツが、股間のモノを示すように少し腰を動かして、俺のと擦れる。
「ンっ…」
「深雪ちゃん…すごいエッチな顔してる」
「っ…は…やくっ…ナツ…もうっ」
「んー…急に入れたら傷ついちゃうでしょ。まだ駄目」
「っっ…なっちゃん…っ」
「甘えても駄目…。ちゃんと慣らそうね」
俺の目の前で、ナツが自分の指先を舐めあげる。
その指が、足の付け根、奥の入り口を撫でていく。
「あっ…んっ」
「ひくついちゃってるね…。そんなに欲しい?」
「…っはぁっ…欲しい…っ」
「まず1本ね…」
ゆっくりと1本の指が入り込んでくる。
「あっあっ…んーっ」
「力抜いて…? すごいキツいよ。最近、してないんだ?」
頷いてナツにしがみつく。
「なっちゃ…っ…あっ…」
「指、気持ちいい?」
「ぃいっ…あっ気持ちいっ…はぁっ…あっあっ…そこっ」
「ココね。わかってる。…だんだん柔らかくなってきたよ」
耳元で俺に教え込みながら、キスをして。
頭に濡れた音が響くと、もう欲しくてたまらなくなる。

「なっちゃっ…もぉっあっっ」
「まぁだ」
そう言い、2本目の指を入れていく。
「あっ…んーっ」
「ほら…たった2本なのにすごいキツいよ。ちゃんと慣らそ…?」
わざとだろう?
その2本の指が、中をかき回すもんだから、その刺激に耐えるべく、ナツの腕に爪を立てる。
「ぁっ…あっんっ…はぁっんっぁんっっ」
「腰、動いちゃってるね」
「んっ…もぉっ…ぁんっ…あっ…」
「拡げようか」
中を押し広げるように、指が蠢いて。
久しぶりの懐かしい感覚に、体がビクついて。
電流が走ったみたいに背筋がぞくぞくした。

「やっ…ぁあっ…だっめっやっっ…あっあぁああっっ」

耐え切れず出してしまい、ナツの指が引き抜かれていく。

「ん…深雪ちゃん、満足した?」
肉体的な問題じゃないのだろう。

ナツが欲しくてたまらない。
「っだ…め……俺…っ」
「どうした?」
「欲しい…」
「しょうがないねぇ」

そう言って、ナツのが代わりに押し当てられる。
「はぁっ…熱…」
「うん。すごい大きくなっちゃった。入るかな」
「キてよ…」

ナツは、ゆっくりと、自身を中へ押し込んでいく。
「ひぁっ! あっ…あっ」
「キツ…。力抜いて?」
「あっ…抜いて…っ」
「だよねぇ。久しぶりだから?」
「っ痛…っ」
少し感じる痛みに顔が歪んだ。
「やめる?」
「やっ…」
気になるほどの痛さじゃない。
懐かしい圧迫感。

「はぁっあっんーっ」
「ん…あと少し…かな」
奥まで。
じっくりと時間をかけて入り込む。
全部、入ってしまうと、無償に一体感みたいなものを感じてしまい、心地よかった。

「やっぱ…深雪ちゃんの中、気持ちイイや…。深雪ちゃんは?」
「あっんっ…ぃいっっ…」
「好き?」
「好きっ…あっ…動いてっ」
俺が望んだように、ナツは腰を揺らし内壁を擦っていく。
「ひぁあっあっんっぁんっ…あっ」
「もっと、いやらしい声、出して?」
「あんっ…ぁあんぅっ…すごぃっいいっ…あっいいよぉっ」
「かわいいね…深雪ちゃんは」
「あっ…ぁんんっ…なっちゃ…っあっ…なっちゃぁんっ」

気持ちよくって、生理的な涙が溢れた。
それと一緒に、精神的な涙も混じっているのだろう。

智巳の心が俺から離れたようで。
それが悲しくて寂しくて。
智巳の存在の大きさを知る。

「んっあっ…あっいくっ…やっもぉっ…ぁあっ…キてっ中っ」
「んー…中で出しちゃっていいの?」
「あっんっあっ出してっ…あっなっちゃぁっ…あっぁんっあぁああっっ」


自分がイってしまうのと、ナツが流れ込むのを感じて。
それでもしばらくナツにしがみついたままでいた。



「どうしたの? 深雪ちゃん」
落ち着くと、ナツはそう俺に聞いてくれる。
「…智巳に…彼女が出来たって…」
泣きつく理由が、他の男であっても、ナツはいつも優しく俺を慰めてくれていた。

今回もまた、抱きしめて頭を撫でてくれる。
「…兄貴が好きなの?」
「……好きだけど…1番には思えない…」
「兄貴は、1番じゃないと気がすまないタイプだからね…」
「付き合いたいとかそういうわけじゃないし、恋愛感情持たれても困るって思ってたけど、それでも、想われてるのが当たり前みたいに感じてたから、遠くに離れた気がして…」
ナツは、あいかわらず俺の頭を撫で続けたまま。
「大丈夫だよ」
そう言ってくれる。
ナツがそう言ってくれると、それだけで落ち着くから不思議だ。
「兄貴も…。恋人とは違うかもしれないけれど、深雪ちゃんのこと、ずっと考えてるはずだと思うから。
彼女が出来ても変わらないよ。おんなじ」

「…もし…智巳が本当に離れていったら…」
「…もしだよ。そういうことがあっても、俺はずっと深雪ちゃんのこと考えるよ。
俺じゃ、駄目?」
俺は、ナツにしがみつくように体を寄せた。
「…ありがとう、なっちゃん…」

いつまで俺は、ナツに甘え続けるのだろう。
ナツはずっとと言ってくれているが、実際にずっとというわけにもいかないだろ。

ナツだって恋人を作るだろうし、俺だって…。
いずれはナツから離れるんだろう。

だけれど、それが上手く想像できなかった。