『なっちゃん…? 今日、うち来る?』
「ん? どうして?」
『…深雪、来るから』

雪寛さん…深雪ちゃんの父親からの電話だった。

教師になった深雪ちゃんは、一人暮らしを始めて、地元から…俺の家から離れてしまっていた。
そんな深雪ちゃんが、今日は地元に戻ってくる。
…だけれど、その連絡を俺は受けていなかった。

「…行かないよ。もう、会わないって決めたから」
『……そう…』
深雪ちゃんも、俺に会いたくないんだろう。
だから、連絡してくれなかったんだ。

教師になる直前くらいに。
いままで、流れでなんとなくやり友みたいになっていた、そんな関係が終わった。
けじめみたいなもんだ。
社会人になって。
住むところも変わって。

いつまでも、ぐだぐだこんな関係続けるわけにはいかないから。
それがいいきっかけみたいなもんで。

俺だって、このまま、ずるずるやり続けるのはどうかと思っていた。
終わるなら、いましかないかなと、そのときは思った。
もちろん、終わりたくないとは思ったけれど。

これで、俺の役目は終わったかなって。
そんな気になった。

深雪ちゃんが恋愛感情を抱く、アキラさんの代わり。
かなわない想い。
その寂しさを紛らわして、埋めてあげるのが俺の役目で。
俺は深雪ちゃんのことを好きだとは言っちゃいけないんだと。
ずっと思っていた。
もちろん、軽い感じで気持ちを告げたことはあるけれど。
友達同士みたいなもんで。
恋愛感情の本気の気持ちは、隠してきていた。
言えば、俺はその役目を果たせなくなる。
深雪ちゃんにとって、ただの重荷でしかなくなるから。
傍にいるために、俺は、自分の気持ちを押し殺す。
それが、俺の選択だった。

いつからか、深雪ちゃんは、俺とアキラさんを重ねて見なくなり。
俺だけを見てくれて。
それから、俺さえも見なくなった。
快楽のみを求めているようで。

それを感じたとき、いつ終わりがきてもおかしくないんだと、覚悟していた。

終わりを告げられたとき。

深雪ちゃんは、もう寂しくないんだなぁって。
アキラさんのこと、いつのまにか克服出来たんだなぁって。
ほっとした。
と、同時にやっぱり、ものすごく寂しくて。
本当は、泣きそうで。
最後に『今日だけ』と、頼んだ俺の我侭は果たせなかった。

というのも、俺自身が、出来なかった。
最後まで、してしまえば、また手放せなくなりそうで。
もともと、やる気のなかった深雪ちゃんをやる気にさせたのは自分だけれど。
途中で止めた俺は、なんて勇気がないんだろう。
これで最後みたいな行為は俺には出来なくて。

「…じゃ、終わろっか」
なんでもないみたいに俺は言った。
「え…」
「終わるつもりで来たんでしょ? いまだって、やるつもりなかったんでしょ」
「まぁ…」
「もう深雪ちゃんも来年から社会人だしねー。しかも教師だし。いつまでも、こういうのよくないっしょ。セフレみたいだし」
軽く笑いながら、なんでもないことのように。
そう告げたのは、なんでもないことだと思いたかったからだ。
「セフレって…違うだろ?」
「会ったら必ずやってるし、そうじゃないって言えるわけ?」
「だって…っ、別にやるだけの関係ってわけじゃ…」
深雪ちゃんが否定してくれるのが、嬉しくて、泣き出してしまいそうだった。
やっぱり止めたくないだとか、このときだけは自分をさらけ出して、素直に言ってみたい衝動にかられた。
だけれど、深雪ちゃんの重荷になる感情をぶつけるわけにはいかないと。
俺は、頭を無にして、煙草を吸った。

「深雪ちゃん、俺と会って、やらずに楽しめる?」
「っ…そんなん…」
「教師だっつーのに、こういう軽い遊びでやるとかそういうの、やっぱどうかと思うんやん?1回きりならともかく、俺ら長いし。ケジメ、つけたいんやんね?」
「ナツ…」
「いいよ、そういうのわかるし。俺も他に、真面目に恋愛するから」
いつもこんなにべらべら話さないのに。
台本でも読んでるかのように、ポンポンと口から言葉が出た。
「俺のことっ…」
切なそうに、深雪ちゃんの声が響く。

わざわざ、終わろうって、話をもちかけてくれるくらいだ。
深雪ちゃんは、俺の押し殺していた気持ちに、気づいていたのかもしれない。
確信はないけれど、なんとなく自分を恋愛感情で好きなんだろうと。
それが深雪ちゃんの中で確信に変わったとき、俺はやっぱり重荷になるだろうから。
告げなかった。
それは正しいことだと思っている。


「ナツ…。俺、もうすぐ一人暮らしだし、仕事慣れたころに遊びに来いよ」
なんでもないフリをして深雪ちゃんが、そう話を変える。
「うん。なるべく行かないつもりだけど、行っちゃうかも」
「あはは♪来いよ。じゃあな」
バレバレなんだよねぇ。ずっと一緒にいたから。
無理やり話題切り替えてんのとか、すぐ分かるし。
無理に笑おうとしてるのとか、全部、伝わる。

ドアに手をかけた深雪ちゃんは、もう一度、俺を振り返って見てくれた。
本人自覚ないんだろうけど。
引き止めて欲しいって、訴えるような目をするもんだから。

俺の役目はもう終わったよね。
そう自分に言い聞かす。
だからもう。
告げてもいいよなぁって。
「ねぇ、深雪ちゃん。俺は、真面目に好きだよ」
自分の気持ちを伝える。

「でも、深雪ちゃんの気持ちわかるからさ。じゃあね」
答えは聞かなくてもわかっているから。
返事なんていらない。そんな雰囲気で。
笑顔を作り、手を振った。
「じゃあな。また」
俺に合わせてか、深雪ちゃんも無理やり笑顔を作る。
あぁもう、演技下手だなぁ。
いまにも、泣きそうな顔してんじゃん。

つい苦笑いしてしまいそうになる。
ドアが閉められて。
出て行く深雪ちゃんを追いかけることなんてもちろん出来なくて。
いつもなら、帰る深雪ちゃんを玄関まで見送るけれど、その日だけは、動けなかった。


そんな別れ方をしたのはもう1年も前で。
それからずっと、連絡を取っていなかった。

「…深雪ちゃん、いままで、実家に来なかったの?」
『うん。新任だから。仕事大変だったんじゃないかな』
雪寛さんは、すごく俺を気遣ってくれた。
いつも、俺の相談相手で。
俺が深雪ちゃんのことを本気で好きなのも知っていた。
1年前も、深雪ちゃんが地元からいなくなったのを確認してから、雪寛さんを訪ねて、慰めてもらったりもした。

俺のこと、全部わかってくれてる人だ。
だから、今日も、こうやって教えてくれたんだろう。

「深雪ちゃん、元気かなぁ。雪寛さん、俺の代わりに見ておいて」
『なっちゃん、おいでよ』
「…無理だよ。会えない。…でも…会いたいかもしんない」
『今日、泊まるって。俺は夜仕事で出かけちゃうから、一人でずっと家にいると思う』
「ありがとう…。考えておく…」

どんな顔して会えばいい?
深雪ちゃんは、俺に会おうとしてないんだよ。


でもあんな別れ方をしたんだ。
深雪ちゃんの方だって会いづらいのかもしれない。
またねって、約束をした。
なんでもないフリして会えばいいじゃん。
もう1年も経った。
時効だろ。
俺の気持ちは変わらないけれど。
友達みたいなノリでまた会えるはず。

少し顔を見るだけ。
たくさんの言い訳を自分の中で考えて。

あぁあ、こんなこと考えてたら、もう夜だし。

やっと俺は、深雪ちゃんの家へと足を進めた。
何度も、引き返そうかと、足が止まった。

通常よりも、長い時間をかけて、やっと深雪ちゃんの家の前。

もう雪寛さんは職場だろう。
電気ついてないなぁ。
深雪ちゃん、いないのかなぁ。

インターホンを押してみる。
予想通り、返事はない。
ほっとする。
これで、急に出てきたら困るし。

会おうと思ったけれど、会えなかった。
なんか、そういう運命だったんだって。
納得できたりするんだよ。
やっぱり、会うべきじゃなかったから、会えなかったんだろうって。

どこか、出かけてるのかな。
俺の家…なわけないよなぁ。
俺以外にも、地元の友達いるだろうし。
訪ねてるのかもしれない。

でも、今日は自分の家に泊まるんだろう。
雪寛さんがそう言ってたから。
待ってれば必ず帰ってくる。
それはわかっていたけれど、俺は家の前で待とうとは思わなかった。

少しブラついて。
偶然会えたりしたら、どうしようなぁ。
なんて、ありもしない事想像しながら。
外に出たついでだ。
コンビ二行くか。
近道の公園を横切ろうとした。


「ぁっあっ…やぁあっ…」

どうしようなぁ。
今、俺がこのタイミングでここをブラついてるのはなぜかって言われたら。
深雪ちゃんと会おうか迷ってて。
何度も、引き返そうだとか考えて。
無駄な時間を過ごして。
普段、そう行かないコンビ二に寄ろうだとか思い立って。

偶然ってね。
言い切れるのかなぁ。

何度も聞いた。
聞き間違えるわけがない、深雪ちゃんの声だ。

「やっぁっ…あんっ…やぁあっ」
公園の奥。
茂みの方から聞こえる。
あぁ、気持ち良さそうな声出してんじゃん。

ほら。
俺じゃなくてもいいんだよ。
俺じゃなくても、相手はいるし。

視線をそちらへ向ける。
デバガメなんて、趣味じゃないけれど。
3人対1人。
若い子が、なぁに盛ってんだか。
まぁ、深雪ちゃんクラスの子が、こんなとこいたら、襲っちゃう気持ちはわかるけどね。
合意…じゃないんだろうなぁ。
気持ちよさそうだけど。

止める?
って、俺は別に恋人じゃないし。
そんなんする立場かよ。
深雪ちゃんだって、ほら。そんなに嫌がってない。
こんなんいちいち止められたら気まずいかもしんないし?

悔しいなぁ。
なんであんなやつらが。
深雪ちゃんのこと、なにも知らないくせに。
なにしてんだよ。

今すぐ殴りかかりたい。
その気持ちを無理やり押し殺す。

助けたら。
また、元に戻っちゃうそうだ。
別れた意味は?
あれだけ辛い思いをした。
もう、深雪ちゃんとは会わないべきだろう?

いまさら、深雪ちゃんがなにしてようが、勝手で。
俺が出て行く立場じゃないんだよ。

背を向けて。
それでもなかなか足が進まなかった。
見捨てる?
違う。
関係ない。

ありがちな光景だろ。
集団リンチでもない。
痛がってもない。
嫌がってる様子もない。
止める必要性はない。

また、言い訳を考えてる自分が嫌になる。
あぁ、でもこのまま見過ごしたら、雪寛さんに合わせる顔ないかも。
でも、もう深雪ちゃんもいい大人だよ。

「やっ…ぁあっ…ナツっ…」
動けずにいる俺の耳に届いた。
ナツって。
俺を呼ぶ深雪ちゃんの声。
俺のこと、見えてるわけじゃないんだろう。
聞き間違い?
俺、馬鹿じゃん。
なに、幻聴?

「誰それ、彼氏?」
相手の男のその言葉に、いまのが幻聴じゃないんだと思わされる。

「やっべ、すげぇ気持ちいいんだけど。もうイきそ」
「俺、口借りるわ」
「どっちか早く代われよ」
「俺、もういく」
「んーっ…ぅんんんっ……っゲホっ…ぅくっ」
馬鹿な男どもの会話と、深雪ちゃんの声が耳を通過していく。
「ぁあっあっ…んっ…あぁあっ」

俺はなにを迷ってるんだか。
目の前で、自分の好きな人がやられてるんだよ。
それだけで、無関係なわけがない。
止めなくてどうすんだよ。

「おい…」
深雪ちゃんの中に、突っ込んでるやつの頭を掴んで引き上げる。
「なっ…んだ、てめぇっ」
とりあえず、そいつの頭を鷲摑みにしたまま、後方へ投げ飛ばす。
あとの二人は、動けないのか、俺を見た。
「ナツさん…?」
2人のうちの1人が、口を開く。

もう1人は、知らないのか、それでも知ってるやつの様子を見て、黙っていた。
「てめぇっ」
そんな様子に気づかず、投げ飛ばされたやつが、背後から殴りかかってくる気配を感じる。
「やめろってっ」
そう前の奴が言うけれど、無駄。
こいつが殴りかかってこなくても、深雪ちゃんをこんな風にした時点で、アウトだっての。
回し蹴りで、そいつをもう一度、地面へ倒れさせ、
「少し黙ってろって」
そう言いきかす。

「…お前ら、何してんの?」
「なにって…」
「合意?」
「いや、いきなりこいつに殴られて…っ」
よく見れば、こいつらも深雪ちゃんも、殴られたような跡が残っていた。
教師が、そんな顔じゃやばいだろう。
まぁ、1日2日で消えるくらいだと思うけど。

「なぁ。この人、俺の大切な人なわけ。わかる?」
「…んなの、関係ねぇだろ」
「そぉ?」

「馬鹿っ、お前っ」
俺を知る奴は、一人で焦ってくれて。
なぁんかかわいいなぁ。
「君は、俺のこと知ってるんだろう?」
「っ…総長…」
「正確には元ですけど。あぁ、ごめんねぇ、俺、君のこと覚えてなくて。っつーか、分かる? この人、やっちゃったの、どんだけ重いことか」
「すいませ…っ」
「すいませんで済むわけねぇだろぉが。てめぇはなにしたの? あぁ、口ん中、突っ込んでたっけ? お前は入れてたよなぁ? 逃げんじゃねぇぞ、こら」
足元を蹴って、地面へと座り込ませる。


「動くなよ」
そう釘を刺してから、俺は携帯を取り出す。
「…おい、出んの遅ぇよ」
『すいません』
「俺ん家の近くの公園。欲求不満な奴、連れてきな。3人いるから。好きなように喰って? いますぐ空いてる奴、連れて来いよ」
『わかりました』

携帯を切って、3人を見下ろす。
「俺はねぇ。お前らみたいなの相手にしたくねぇの。逃げようとか考えてんなら、いますぐその足の骨、折っとくから」

5分も経たないうちに、電話をかけた相手、現総長と数人が来る。
「バイク音うるせぇよ。静かに来いって」
「すいません」
「ほら、そこの3人。どうせ処女だろうから、かわいがってやって?」
「わかりました」
「…殴ったりすんなよ…。それは、俺がやるから」

俺の目の前で。
深雪ちゃんを犯した3人が犯されていく。
俺は、深雪ちゃんの体を抱きしめながら、それを見ていた。

こんな風に、深雪ちゃんもやられたんだろうかって。
なんで、俺はすぐに止めなかったんだろう。
馬鹿だ。
いくら仕返ししたところで、もう戻らない。

家で迷ってなんかいないで、深雪ちゃんに会いにこればよかった。

こんな光景、深雪ちゃんには見せたくないなぁ。
だけれど、俺は見届けたかった。

3人が、気絶するまでマワされて。
俺は、総長に礼を言い、公園を出て行くのを見送った。
残されたのは、3人と深雪ちゃんと俺。

涙が溢れた。
悔しくて。
気絶した状態の3人を、力強く殴る。
「くっそぉ…っ」
抵抗しない相手を、がむしゃらに悔しがって殴る姿なんて、誰にも見せられたもんじゃなかった。
この3人のうちの1人でも起きてたら、こんなことはしなかっただろう。

殴っても殴っても気がすまない。
涙も止まらないし。
最悪だ。
深雪ちゃんがされたことよりも、自分がそれを止められなかったこと、止めることを迷っていたことに悔しさを感じていた。

拳が痛くなった。
俺は、木にもたれ、深雪ちゃんの体を後ろから抱きしめた。

俺ってこんなにも涙もろい人間だったのか。

少しして、わずかに深雪ちゃんの体が動く。
気づいた…?
俺は、涙を止め、深呼吸した。

俺の腕に、深雪ちゃんが手を重ねる。

「おはよう」
いつもみたいに、優しく声をかける。
「ん…」
深雪ちゃんは、泣きながら俺の腕を強く握った。
「どうしたの? 深雪ちゃん。泣かないで…?」
「っっ…んっ…」
そっと頷くけれど、泣き止んではくれなくて。
俺は、深雪ちゃんの顔を自分の方へと向かせると、そっと口を重ねた。
「んっ…」
口が離れ、深雪ちゃんは、ジっと俺を見る。
涙で視界、ぼやけてるかなぁ?
夜だし、暗いし。
俺が泣いてたの、気づいてないよね…?
「なっちゃ…」
「久しぶりだね」
「あ…」
「おかえり」
涙を流す深雪ちゃんを見て、俺も泣きそうだったけれど、必死で我慢した。
俺は、ここで泣くべきではないから。
泣きつく深雪ちゃんの体を抱きしめる。
あぁ、これで俺、深雪ちゃんに表情見られなくて済むかも。
うまく、作れないし。
「なっちゃん…っ俺っ」
「…なにも言わなくていいよ…」
言わせたくないし。
全部わかっているから。

「ナツ…どうしてここに…?」
「んー? 深雪ちゃんのお父さんが、深雪ちゃんは実家に戻って来てるって教えてくれたんだよね。で、家、行ったの。インターホン押したんだけど返事ないもんだから。ちょーっとウロついてたんだよねぇ」
なんでもないノリで答える。
いまにも泣き出しそうなままだったけれど。
「そっか…」
深雪ちゃんが、不意に前を向いて、倒れている3人を目にした。
「…なっ…」
「ん? なぁに?」
そいつらのことは、気にしないで欲しい。
そんなつもりで、俺はすぐに深雪ちゃんを、自分の方へと向かせる。
「……帰りたい…」
「うん…。じゃあ、行こうか…」

俺は深雪ちゃんをおぶって家へと向かった。
ぐったりと抱きつく深雪ちゃんの重みを感じて。
涙が止まらなかった。
深雪ちゃんに感づかれないように、俺はだまったまま。
ただ、歩き続けた。



「お風呂行こうか…」
「うん…」
深雪ちゃんを洗う。
やったりはしない。
そう決め、俺は服をきたまま、風呂場へと向かった。

「いいよ、辛いなら座って?」
ボディソープを纏った手で、深雪ちゃんの体を洗っていくと、それだけで感じてくれる。
「んっ…ぅんっ…ナツ…」
「ん? なに…」
ほら。かわいらしい声で、俺を求めてくれる。
もう勃っちゃってる深雪ちゃんのソコを、そっと洗う。
これは愛撫じゃないから。
洗うだけだって。
自分にも深雪ちゃんにも言い聞かすように。
「んっ…ぅんっ…」
必死で動きそうになる腰を止めているのも、手に取るようにわかった。
頬を赤らめて、俺の手を目が追いかけてる。
「はぁっ…あっ…っナツ…っ」
「んー…? 綺麗になったかな?」
「もぉっ…んっ…」
深雪ちゃんは、足を開いた状態で、俺のシャツを掴んで引き寄せる。
「なに?」
「っ…あっ…洗ってよ…中もっ…」

深雪ちゃんだってわかってるんだろう。
俺らは1年前に終わった。
やっちゃいけないんだよって。
終わらせたんだから。
『洗う』というのは口実だ。

俺はなるべく、その口実に見合うよう、洗うだけに専念していた。
指で、イイ所を避けるようにして掻き回していく。

「なっちゃぁっ…なっちゃんっ…やぁっ…もぉっ…やぁあっ」

深雪ちゃんは甘えてくるとき、決まって俺のことをナツではなくなっちゃんと呼ぶ。
そんな声で、呼ばれたら。
無理だよ。
「どうして欲しいの…?」
「入れて…ナツの…っ…」
素直にそう言ってくれる深雪ちゃんがたまらなく愛おしい。
「ひぁっあっ…あっっ」
すでに、猛りきった自分のを、ゆっくりと挿入していった。

「奥っ…ぁああっ…いくっ…あっいっちゃうっ、ナツっやっあぁあああっっ」
我慢してたのか、入れただけでイってしまう深雪ちゃんもまたかわいくて。
あぁ、でも俺はやっぱり我慢しなきゃいけないかなぁ。
そう思う。
「満足した?」
そう聞いて、否定してくれるのを期待する。
「なっちゃん…して…」
ほら。
深雪ちゃんは期待通りの答えをくれて、俺の腕まで掴んでくれる。
「ふぅん…」
「はぁっぁんっあっ…あぁっ…なっちゃぁんっ…そこっ…あっそこぉっ…」
「んー…わかってる」
言われなくても、全部わかる。
どこをどうして欲しいのか。
場所もタイミングも、全部なにもかも。
最中に頭を撫でて欲しがるのも、甘ったるいキスが欲しいのも。
本当はすっごく寂しがりやで甘えん坊だから。
そういうの、全部わかってる。

「はぁっあんっあっ…ぁあっ…なっちゃぁっ中っ…ぁっ出してっ」
「せっかく、洗ったのに?」
「違っ…ぁっ…ナツのがっ…っいいよぉっ…っ」
なんでそんなかわいい事、言ってくれるんだろうね。
やっぱり、手放せないよ…?
「そぉ…? じゃあ、たぁっぷり、中出してあげるね?」
「んっ…来てっあんっ…なっちゃぁっあっぁあっ…あぁあああああっっ」



そっとキスをして。
一緒のベッドに寝転がる。
「…ナツ…なんか…ごめん…」
「なんで謝るの?」
あぁ、申し訳ないって顔してる。
俺が、深雪ちゃんのこと好きだからだ。
だから言わなかったんだよ。
いままで。
深雪ちゃんのこと、本気で好きだって。
内緒だったのに。
深雪ちゃんが気にするから。もしかしたら、離れてしまうから。

気にしてくれなくていいのに。
そっとキスをして、
「いいんだよ。利用してくれて」
そう伝えた。
深雪ちゃんはそんなに強くないでしょう?
俺が深雪ちゃんを本気で好きだからって。
じゃあ、離れますって。
そんなん無理でしょう?
俺がいないと、駄目でしょう?

「深雪ちゃんの好きにして? 俺だって、好きなように行動してるから。いやだったら断るし」
もう自分の気持ちに嘘はつかないけれど。
それでも、深雪ちゃんは利用してくれていいし、気にしないで欲しい。
それを伝えたかった。
「…うん…。ナツ…俺に、彼女が出来ても、傍にいてくれる…?」
「深雪ちゃんが望むのなら」
「…じゃあ……ナツに彼女が出来たら…?」
そんなことまで、気にしてくれるんだ?
ホントに、かわいい。
作らないなんて言ったらまた気にするんだろうなぁ。
俺はそっと、深雪ちゃんの頬を撫でた。
「…それでも、俺は変わらないよ…」
「…なっちゃん…一緒に寝て…」
甘える深雪ちゃんに笑顔で頷く。
そんな俺を見てなのか、不意にまた、目を潤ませる。
「……行かないで」
泣く深雪ちゃんを見て、俺も泣きそうになった。
「行かないよ」
俺は、自分の表情を隠すように、深雪ちゃんの体を抱き寄せた。

「疲れてるんでしょ。寝ていいよ? 傍にいるから」
しがみつく深雪ちゃんが寝たのを確認して、俺も目を瞑った。


少しして、腕を引っ張るような感触。
「ん…? 深雪ちゃん…?」
「ごめん、起しちゃった」
「ん。いいけど。早いね。まだ少ししか寝てないじゃん?」
わかってる。
不安で、起きちゃったんだろうなぁって。
俺はどこにも行かないのに。
「……もっかい、一緒に寝よ…」
深雪ちゃんは、俺にそう言ってくれる。
「うん」
もう一度、深雪ちゃんの体を抱きしめなおし、今度は2人で、一緒に、眠りについた。