「前から気になってたんだけどさ。啓吾って、ピアス自分であけたの?」
 水泳の授業をサボって保健室にいた俺のところへ水城が来る。
「……授業終わった?」
「終わったよ。寝てた?」
「みたいだな」
「……さっきの、言いたくなかったら別にいいんだけど。もしかして、ピアスあるからサボってんのかなーって思ってさ。それとも水泳嫌い?」
 水泳は特に嫌いじゃない。
 ピアス……水城が言っているのは耳でなく胸の、だろう。
 一時的に抜いてしまえば穴も目立たない。
「なんとなーくサボっただけ。水泳は別に嫌いじゃないし。ピアスも関係ねーよ」
「そうなんだ」
 水城が寝転がる俺の上に軽く被さりながら、シャツを捲り上げる。
 すでに見られ慣れているから抵抗する気はなかった。
「水城、先生は?」
「いるよ。一応、俺たちに気を使ってか、音楽聞きながらなんか資料まとめてる」
 ホントに音楽流れてんのかイヤホン差すだけ差して聞き耳立ててんのかわかったもんじゃねぇけど。
 まあ、いっか。

「……自分じゃねぇよ。開けられた」
「塞ごうとは思わねーの?」
「……それなりに痛い思いして開けたわけでさ。なんか塞ぐのも」
「別に、塞いだところでまた開けたいとか塞がなきゃよかったとか思うかな。むしろ、忘れたいとかないのかなって、気になってんだけど」
 
 確かに、中学時代の事は忘れたい出来事でもある。
 水城にはまあそれなりに話もした。
 こいつって、ホント心配性だよな。
 お節介とも言うけれど。
「……自分じゃねぇけど、無理矢理あけられたわけじゃねーんだよな」
「え……」
「さすがに無理矢理、針でブスーとかはやばくね? 俺も逃げるって」
 軽い感じで話してんのに、あいかわらず水城は困惑した表情で俺を見下ろす。
 絶対隠し事下手だよなぁなんて。

「じゃ、なんで……」
「あけたいって言われたから。それだけ」
「いいの? それ」
「水城はさ。例えばアキが水城の乳首にピアスあけたいって言ってきたらどうする? 出来る限り応えようとか思うだろ」
「確かに思うかもしれないけどっ。……じゃあ、そういう相手に?」
 少し違う。
 けれど、嫌いな相手ではない。
「まあさ。あの頃、散々性欲の捌け口にされたわけだけど。その中に俺のことすっげー好きみたいなやつが一人いたんだよな」

 初めは信じていなかった。
 ただ、やりたくて好きだとうわべで言っているだけなのかと。  



『んっ……んなとこ舐めても、楽しくねぇだろっ』
『楽しいよ。すごくかわいくて、たまらなくて。……他の人はあまり、ココ、愛撫しないの?』
 他のやつらは、俺をからかう目的で固くなってしまっている乳首をつついたり、少し撫でたりつねったり。
 そういうことはしただろう。
 けれど、愛撫とはほど遠い。
『あんまり』
 そう伝えると、そいつはまた俺の胸に口付け、舌先で何度も突起を転がした。
『んっ……ぅンっ……はぁっ』
『ね……前より胸で感じるようになったよね』
『ん……わかんねぇよっ』
『なってるよ。他の人があまりしてないってことは、俺がして、こうなってくれたんだ?』
 言葉を挟むようにして、何度も舌を絡めていく。
 頭がボーっとした。
 確かに気持ちが良くて。
 こいつは、全然気持ちよくないだろうに。
 そう思うと、性欲を満たしたいだけじゃないんだなーなんて感じたりしていた。

『他の人とHするのを俺が止める権利なんてないけど。ココだけでも、俺のものにしたい』
 なにバカなこと言ってんだよ、こいつ。
 そのときはそう思った。
 けれど、同時に独占したいと思われる心地よさも感じた。
 重いというよりは、好かれている実感がして少なからず体が熱くなる。
『んっ……んなとこ、お前しかこんな風にっ……ぁっしなっ』
 別に、こいつのものになるわけではない。
 そんなこと、こいつだって重々承知だろう。
『ホント? 俺だけ……』
 また口に含まれて、吸い上げられて。
 引っ張られるような感触に体がビクつく。
『んっ……ぁっんっ……んぅっ……っ!』
『ん……イきそう?』
 乳首だけで?
 まさかそんな。
 そう思うのに、我慢が出来なくなる。
『ぁっ……んぅっ! んっあっ……んぅんんんっ!!!』

 体が大きくビクついて、イってしまうとズボンのチャックをそいつに降ろされる。
 下は服を着たままだというのに。
 イってしまってぐちゃぐちゃになったソレを取り出して、そいつは俺の先端についていた精液を舐め上げた。
『んっ……ぅん……』
『乳首だけで、気持ちよくなってくれて嬉しいよ。ね……もし、他の人に乳首舐められても、俺のこと思い出したりする?』
『……ずうずうしいよ』
『……そうだよね。ごめん、調子乗っちゃった』
 少し傷つけた気がして後味が悪くなった。
『っつーか、他のやつとかそうそう舐めねーし』
 そうフォローすると、すぐさま笑顔を見せる。
『ココに、俺のだって証、付けたいな』
 
 きっとそれは、本気なんかじゃなくて、ちょっとした冗談だったのかもしれない。
 いや、本気は本気だけど、無理だとわかりきっている願望?
 そんな感じの口調だった。
 
 痛いくらいのキスマークを残される。
 そんなものは、いくつもすでに残っていた。

『次にまた、Hするころには消えてるんだろうね』
『……だろうな』
『ずっと、消えなければいいのに』
 消えない証。




「俺は好きじゃなかったよ。男同士の恋愛とか興味なかったし。ああ、別に女にも興味なかったけど。でも、そいつが俺のこと好きなのって伝わってきたし。悪い気しねぇだろ」
「啓吾のこと好きだったやつって、啓吾が一人だと思ってるだけで、本当はもっといたかもしれないよな」
「……かもな。とりあえずそいつはあからさまだったんだよ」
「それで相手が言うがままにつけてあげるの? お人よしじゃん」
 水城にお人よしって言われるとはな。
「なんかそいつやたら胸が好きっつーか。他の男と違うことしたかっただけなのかもしんねーんだけど。俺にとっての特別になりたかったんだろーね。あんま乳首愛撫するやついねーっつったら喜んじゃって」
 水城は、俺の胸元をじーっと見つめてくる。
 改めてそんなガン見されるとちょっと恥ずかしい気もするんだが。
「で、つけたいって?」
「まあ、そんな感じ」
「外さないってことは、少なからず気持ちがあったんじゃねーの?」
「そういうんじゃないんだけどさ。例えば、俺と水城だって仲いいけどお互い別で恋人いて、付き合うとかじゃねぇだろ? そっちに近いかな。ただ、相手の方が過剰に俺に恋愛感情抱いてはいるけど」
「モテるねぇ、啓吾くんは」
「いやいや。無駄にヤられてばっかだって思ってた頃に、ガチで好きって言われて。抱きたいって思われて。そいつのおかげでなんかちょっと心にゆとり持てたっつーか、救われた気分になったんだよな」
 水城は理解したのか頷くと、俺の胸元へと指を這わす。
「っ……」
「じゃあ、啓吾にとってこのピアスは、悪い思い出ってわけでもないんだ?」
「ん……。ピアスつけられた後も、別に他のやつらとやってたけど。頭からっぽにならずに済んだのは、あいつがいたおかげだったかもしんない。だから、忘れた頃に外すよ」
「そっか。でも、外してもこの乳首の感度のよさは直らないよな」
 そう言って、水城がクニクニと指先で突起を転がしていく。
「んっ……ばっかっ」
「これって、そいつに調教されちゃったの?」
 図星過ぎて答えづらい。
「はぁっ……ぁっ……ん」
「ホントに、ここでそんな気持ちいいんだ? 啓吾ってかわいいよね」
「ん、むかつくからお前の胸、調教してやりたいわ」
「ごめんごめん」

 そう言うと、そっと手を離してくれる。
「水城くん。やりかけたことを途中でやめる焦らしプレイはよくないですよ」
「あー。ガチで欲情した? しょうがないなぁ。特別に、口で抜いてあげよう」
「罰として、水城、飲めな」
「なんの罰だよ。まあいいけど」
 
 なんだかんだで、俺もこうやって明るく話せるようになったわけか。
 時間が経ったってこともあるけれど、なによりこういうこと話せる相手が出来たわけでさ。
 水城には感謝している。
「ん、水城……っ。特別にごっくん出来たらディープキスしてやるよ」
「マジで意味わかんねぇし」