「…アキがちゃんと喜んでくれてるのかどうかとか、いまいちわかんねぇ」
水城は、俺の部屋に来て、そう不満をもらす。
少しうまく行ったかと思えば。
次から次へと不安要素はあるらしい。
「アキ自身はどう言ってんだよ」
「そりゃぁ、いいって言ってくれるけど…アキって、人に気ぃ使って、よくなくても、いいって言ってくれそうじゃん?」
たしかにそうだけど。
「まぁ、わりと上手いんじゃないのー、水城」
「なにが?」
「なにがって、セックスだって。俺は、満足。それにアキだって、水城以外に比べるもんがあるわけじゃないし、いいだろ」
「啓吾とやるときは、啓吾がリードしてばっかだろ」
「じゃ、俺が、得点つけてやっから、やる? 水城が、リードして」
「…得点つけるとか、やめろよ、怖ぇ。それに…啓吾、俺がリードしてやんの、嫌だろ」
確かに、苦手かもしんないけど、わっかんねぇ。
「じゃ、俺が、水城のこと、やってやるよ」
水城は、きょとんと首をかしげる。
「…受の気持ち、わかってあげなって」
そう言うと、少し考え込んで。
「でも…」
「攻めたことしかない奴にやられるよりも、同じ状況を味わったことのある奴に攻められた方が安心だろ。アキも」
水城は、『じゃあよろしく』とも言えないようで、少し戸惑い気味。
「やっとけって。俺が相手なら安心だろ」
俺は、水城の言葉を待たないで、ベッドに押し倒す。
「啓吾…っ」
「お前だってさ。どう? 受けたことある俺にやられるなら、少しは安心だろ? 他の…受けの気持ちさっぱりわかんねーやつよりは」
「…う…ん…。でも、だからって、やらなくても」
俺は、水城の言葉を無視して、体を被せる。
「っ啓吾っ」
「いーやん。やらせろって」
水城の頬に軽く舌を這わして。
そっと、ズボンの上から股間を撫でてやって。
「っ…啓吾…」
「怖い? かわいいよ」
「っばっか…何言ってっ」
不安そうな顔。
断るに断れないってな感じとか、たまんなくね。
「俺は、水城は犬だと思うんだ」
「動物占い?」
「違ぇよ、古いこと言うなよ。せめて、犬扱いするなとか、反抗すればいいものの」
動物占いの結果がどうとか、知らねぇし。
「少し怒られると、凹んだり、なんか…犬みたいで」
「よくわかんねぇんだけど。ありがたいことなのか、嫌がることなのかも」
「俺としては、褒め言葉」
俺は、体を起き上がらせて、水城のズボンと下着を脱がしてく。
「…なぁ、ホントにやるわけ?」
「嫌?」
「嫌っていうか…。やりてぇなら、俺が啓吾やるってば」
そう言って起き上がると、俺の体を押し倒そうとする。
「っやめっ…いーやんか、1回くらい、やっとけって」
もう一度、俺が水城を押し倒しなおして。
「往生際、悪くてよ?」
「…だって…」
「はい、手錠」
俺は、ベッドに転げ落ちていた手錠を、水城の右手首にかける。
「っなんで、手錠転がってるんだよ」
「俺のベッドだから」
「理由になってねぇって」
俺が、もう片方を、水城の左手にかけようとすると、水城がいきなり右手を引くもんだから、俺の手から、手錠が抜ける。
「…っ…おいっ」
「なぁ、ちょっと、啓吾…。その前にさ、耳貸して?」
なんなんだよ。
「なに…」
水城の肩に手をかけて、身を乗り出し、耳を傾けると、
「サンキュー」
って、言われて、俺の左手首に、違和感が…。
「なっ…」
水城に取られた手錠の片方が、俺の左手首にかけられる。
「おいおい、どうすんだって」
「別に。啓吾がカギ出してくれればいいじゃん?」
…一筋縄じゃ、いかねーな、こいつは。
「…いいよ。俺は右利きだから、右さえ、空いてれば十分」
「マジかよ…」
幸い、もう、ズボンとか脱がせてあるし?
十分だ。
「悦ばしてやっからさ…」
俺は、水城の足の間に体を割り込ませて屈みこみ、露わになっている股間のモノに、舌を這わす。
「っん…ちょ…っと…」
「そろそろ、諦めようねー、水城くん」
「…はぁ…。こう見てると、啓吾の方が、犬っぽいよ」
「俺…?」
「ご主人様にご奉仕する犬」
「…すっげぇ、喧嘩、売ってんのな」
「啓吾だって、俺に同じこと言っただろうが」
「俺の犬は違ぇよ。愛犬。かわいいっつってんの。全然、意味違ぇよ」
たしかに、こうフェラってっと、バター犬っぽい気がしないでもないけど。
「あぁあ。せっかく水城のことかわいがってやろうと思ったのに」
「なに? やる気失せた?」
少し嬉しそうに企むように言いやがって。
「…いや。かわいがる気が失せただけ。いいよ、苛めてやっから」
俺は、水城に左手を取られたままの状態で、いったんベッドを降り、ローションを机から取る。
「どういうやつ?」
水城は、俺が手にしたローションを下から眺めて、聞いてくる。
俺はまた、ベッドに乗りあがって、一応、ローションの成分表を眺めた。
「普通の。薬なんて入ってねぇよ。でも、まぁあったかぁくなれるやつ」
「普通じゃねーじゃん」
水城は、俺が、ローションのフタを開けようとするのを邪魔して、左手を使わせてくれようとしない。
「っ…ローション使わずに、ねじ込んでいいわけ?」
「…それは…困るかもしんねーけど…」
それでも、なかなか、俺に左手を譲らないから、とりあえず、口でフタを開ける。
「ちょっとっ」
でも、左手、使えねぇと、右手に乗せれねーじゃん…。
「はぁあ…」
とりあえず、ローションを傍らに置いといて、右手で、水城のを擦りあげる。
「っんっ…啓吾っ…」
右手で扱いながら、舌でも愛撫してやって。
水城の足が開いていく。
「ん…水城、やらしぃ」
「っ…」
口を離して、立ち上がったモノをそっと指先で撫でて。
「はぁ…啓吾…?」
「いいモン、持ってんねー」
「…恥ずかしいこと言うなよ」
「へいよ。じゃ、いっきます」
俺は、ローションを、立ち上がってる水城のモノに上からゆっくり垂らしてく。
「――――っんっ…冷た…っ」
「すーぐ熱くなるって」
「ん…っ…。啓吾…欲しいんだろ…」
「え…?」
そう言うと、水城は、空いている左手で俺の髪の毛をかきあげる。
「入れられたいだろ?」
「っ…」
くっそ、入れられてぇよ。
俺は、答えないで、水城のモノに垂らしまくったローションを指で拭う。
「っ…啓吾…」
「足、もっと広げといて」
「んなことっ…」
足の間、奥の方をそっと撫でると、水城が少し不安そうな表情を俺に見せる。
「大丈夫…やりなれてっから、安心しろって」
軽く頬にキスをしてから、そっとゆっくり指先を押し込んでいくと、水城の体がこわばっていくのがわかった。
「っはぁっ…啓吾…っ」
「顔、赤―…。熱い?」
「ンっ…熱…っ…ンぅ…」
奥まで差し込んでやると、刺激に耐えようとするみたいに、水城の手錠にかかった右手が俺の左腕をギュっと掴む。
「んっ…ぅンっ…」
「かわいーのな、水城…」
そう言われても余裕がないのか反抗しないで、ただ、少し不安そうな表情を俺に向けて。
そっと指を軽く前後に動かしてやると、水城の体がピクンと震えた。
「っぁっ…ンっ…んっ…や…啓吾…」
「お前、いっつもにっこり笑ってたら、ぜってぇ、でらかわいーって」
「な…に、言って…っ」
「営業スマイルとか作ったらさー。やっぱ朔耶と双子なんだなって思う」
水城の双子の弟、めちゃくちゃかわいいからな。
似てないなーって思ったけど、やっぱ似てるわ。
雰囲気とかそういうのが似てなくて。
やっぱ、目とか似てるんだなって。

ともかく、それどころじゃないようだ。
なに言って…
ってのは、かわいいって俺が言ったことに関してじゃなく、今、この状態で何を言い出すんだということのよう。
「はぁ…っ…ンっ…くっ…」
水城の目が涙でにじむのがわかる。
「啓吾…っんっ…ゃっ…熱ぃ…」
…こいつ、ホンキで不安がってるな…。
「気持ちいいだろ…?」
そう言っても、余裕がない感じ。
ローションでたっぷり濡れたソコを、今度はじっくり掻き回してやる。
「っゃあっ…ンっ…んぅ…」
俺の腕に必死でしがみ付きながら爪を立てて。
顔をそっち側に背けて。

なにこいつ…すっげぇかわいい反応じゃん…。
「すっげぇ、泣きそうな顔してんよ…水城…」
実際、涙、出てっけど。
「はぁっ…啓……ぁっ…」
「2本目、入れるよ」
「っんぅっ…無理っ」
「んなわけねぇって。大丈夫」
そっと、ゆっくり、2本目の指を足していく。
「っくっぅんんっ」
「力抜けって。きっつ…」
奥の方まで入ってしまえばラクだ。
キツいことに変わりはないけど。
「はぁっ…啓吾…」
「んー。すっげぇ締付けるなー、お前。なんか、やっぱ俺とは違うって思った」
「ばっかっ」
ゆっくり前後に抜き差ししてやって。
そっと入り口を押し広げてやって、慣らしていく。
「はぁっあっ…んぅっ…ンっ…」
「大丈夫そぉ?」
「やっ…あっ…駄目そぉっ」
「じゃ、がんばれ」
「なぁっ…」
「冗談だって。な…水城…」
そっと指の動きを止めてやると、水城は、なんなのかと俺を見上げる。
「なに…」
「…水城…キツいからさ…」
「はぁ…」
俺は、水城の中から指を引き抜いて、片手で自分のズボンと下着を脱ぎ取って。
「まだ、俺の入れたらお前、切れそうだし」
そう教えてやってから、水城の足をまたぐ。
俺のと水城のが、密着して。
今まで水城の中に入れてた、たっぷりローションがついた状態の指を後ろから自分の中に入れていった。
「っんっ…くんんっ…」
「啓吾…?」
「ボサっと見てねぇで、手伝えって…。左手、空いてんだろ」
水城は、了解したのか、俺の股間のを擦り上げてくれる。
「っンっ…ぁっっ…一緒に……」
そう言うと、今度は、水城自身のも、まとめて掴んで、指さきで、何度も擦りあげた。
「っはぁっ…水城…っ…」
自分の指をもう一度抜いて、股間のモノを掴んだままの水城の手にローションを垂らす。
「んっっ…指…入れて…」
立ち膝よりも少し低い体制で。
だけれど、水城の少し開かれた足を跨いでるせいもあって、腰が浮いた状態。
水城は俺に従って、体を起こし、股間のから手を離すと、後ろから指を2本、差し込んでいった。
「ンぅんっぁっ…ぁあっ…」
「啓吾…」
「ぃいよ…そのまま…」
俺は、密着していた水城のから少しだけ体を離す。
水城の股間のを、そっと撫でてやって。
「ん…啓吾…」
「お前も…立って…」
「え…」
「俺みたいに…立ち膝に…」
理解してるのかしてないのかはわからないが、とりあえず、立ち膝になってくれる。
俺もそれに合わせて、立ち膝状態まで、腰を上げた。
「啓吾…?」
「入れるよ…」
「え…」
後ろから。
さっき、十分慣らした水城のソコに、もう一度、俺の指を2本ゆっくり差し込んでいった。
「っんぅっ…くっんっ」
「はぁっ…水城ぃっ…」
自然と、水城が刺激から逃れるように、足を広げる。
俺もまた、足を広げて、水城の指を奥まで味わおうとした。
あぁ、こう思うと、同じ広げるっつー行動でも意味って結構、違ったりするもんだな。
「あっ…啓吾っ…」
ローションをまとった指先が、ぐちゃぐちゃした厭らしい音を立てる。
けどもう、俺ん中なのか水城ん中なのか、どっちから出てる音かはわからない。
「水城っ…あっ、奥っ…」
「っ啓…っやぁっ…くんっ…」
俺が、水城の中を掻き回すのと同じように、水城の指が俺の中を掻き回して。
何度も出入りを繰り返す指先が、内壁を擦っていく。
「水城ぃっあっ…ンぅっ」
「はぁっ…啓…っあっ」
変に腰が動く。
水城のこと、初心者だから、優しく愛撫してやろうとか思ってるけど、そんなのとは裏腹に、自分の中を激しく掻き回して欲しい衝動のせいで、水城の中まで、激しく掻き回してしまっていた。
「やぁっ…啓吾っ…ひぁっあっ…」
水城が俺の肩を、手錠で繋がれたままの手で掴む。
「んっ…水城っ…平気…だろっ?」
なにが平気なんだか。
とりあえず、不安はないだろうかと、聞いてみる。
「っあっ…変っ…啓吾っ」
「んっ…俺もっ…同じだから…っ」
俺も、同じことされてっから。
同じローションを使って。
平気だろ…。
「啓吾っぁっ」
自然と向き合って目が合って。
そのまま、自然の成り行きで口を重ねた。
「ンっ…んぅっ…」
舌が何度も絡まりあって。
こんな行為の最中のせいか、口を離しても、名残惜しくて舌先を絡めた。
水城の股間のモノが、俺のに当たってて。
後ろも掻き回されて、腰が動きがちで。
水城も同じ心境だったりするんだろう。
「っ水城ぃっあっ…ンぅっ…」
俺も、声を出しちまってるせいで羞恥心が薄れてるのか、殺せないのかはわからないけれど、水城も惜しみなく声を洩らしていた。
「啓っ…んぅっ…あっ…はぁっ」
俺は、少しだけ体を離して、自分の肩を掴んでる水城の手をどかす。
「っぁっ…啓吾ぉっ…」
手錠で水城と繋がったままの左手で水城の股間のをそっと掴んだ。
「っンっ…ぁあっ…啓吾…っ」
「水城…っ…あっ…んぅ…」
お前もやれと、訴えると、わかってくれたのか、水城も、手錠が繋がったままの右手で、俺の股間のを擦った。
「んぅっあっ…水城っ」
お互いの手首が、ぶつかり合うせいで、少し扱いにくいが、そんなんはどうでもいい。
とにかく、前にも快楽が欲しいという衝動だけ。
「ぁっ…んぅっ…」
「啓吾…っ」
「あっ………気持ち…いい…?」
「っんっ…ぃいっあっ…くンっ…」
太さの問題もあったけれど、どうやら、だいぶ後ろからの刺激に慣れたようだ。
慣れてきたっぽい水城の中に、3本目の指を押し込んでいく。
「ひっっあぁ…んんっ」
そこかしろ、かけまくったローションのおかげで、濡れた指先は、キツいながらも、入り込んでいく。
水城を、悦ばそうとしてるだとか、そういうのともまた違って、俺自身、もっと入れて欲しいと感じていたのかもしれない。
そうでなきゃ、無理やり、次へのステップへ行く必要性がわからなかった。
「啓吾…っぁっ…キツっ…」
「水城っ…早くっ…ぁっ」
俺がせかすと、水城も俺の中へと3本目の指を差し込んで、中を押し広げた。
「っぁあっ…水城ぃっ…ぃいっ…奥っ…」
俺も、自分がされるように、水城の中を押し広げて、掻き回す。
「っあっ…ゃうっ…あっ、啓吾っ…あんんっ」
自力で顔をあげてるのがつらいのか、水城のオデコが、俺の肩へと預けられた。
「はぁっあっ…啓っ…いくっ…」
「待っ…ぁっ…」
どうせなら…ってわけじゃないけど、一緒にイかないと、イっちまった時点で、愛撫を止められそうで。
俺は、水城のモノの根元に、キツく指を絡めてイけないようにした。
「っくっぅンっ…啓吾…っ」
「水城っ…もっとっ…ぁっ…あっ…俺ん中っ…」
初心者なのも忘れて、俺がして欲しいの同様、押し広げて、激しく掻き回して。
「やぁっ…ぁああっ…啓吾…っ…やっぁあっ」
水城は、自分への刺激に耐えながらも、俺に連動するかのように、俺の中を掻き混ぜてくれた。
いやらしい音が響いて。
2人のいやらしい声が耳につくけれど、立場が同じせいで薄れた羞恥心の中、もうどうでもいいことだった。
「水城っ…やっ…ぃいっ…そこっ、あっ…いくっ…」
後ろ同様、前も何度も擦りあげてくれて。
もう一度、顔をあげた水城と、口を重ねて。
「はぁっ…水城っ…」
根元に絡めていた指を解放して、水城の股間のを強く擦り上げてやる。
「っぁっ啓吾…っ、やぅっあっ…」
広げた足の太ももを、ローションが伝っていくのが、またものすごくゾクゾク感じた。
自分の中も、水城の中に入り込んでる指も、ぐちゃぐちゃで、わけがわかんなくなっていく。
「ぁあっ…はぁっ、水城ぃっも、いくっぁっあんっ」
「啓…っやっ、はぁっ…やぁあっ、あぁああっ」
「ゃくっぁっ水城っ…ぁああっっ」

欲望をお互いの手の中に弾け出して。
俺が、ゆっくりと指先を抜くように、水城もまた、俺の中からゆっくり、指を引き抜いていった。



「……なんなわけ…」
ぐったり倒れこんだ俺らの沈黙を破ったのは、水城のその言葉だった。
「…なんなわけって……水城が、キツそうだったから…」
「なんか…意味わかんねーことになったんだけど」
「だな…」
なんで、こんな、どっちもハメないで、わけわかんねーこと…。
「俺、啓吾が喘ぐもんだから、なんか、余裕で声出しちゃったって」
「それはこっちの台詞だて。水城が喘ぎまくるで、自分、制御しようとかあんま考えんかったわ。声、出しまくってまったやんか」
まぁ、俺は、いつものことって言われりゃそれまでなんだけど。

苛めようかと思ってたのも、もうすっかり忘れてしまっていた。

「まぁ、これで水城も受け側の気持ちが少しはわかったろ」
「…なんか……これは受けたのか?」
「はぁ? どっからどう見ても、お前、受けてたろって」
「だって、啓吾もだろ」
「っ……どっちもだよ」
どっちも受けでどっちも攻めだったんだよ。
あー、わけわかんねぇ。
「水城がキツそうだったからさー…。まぁ、途中から方向性が変わったわけよ」
「啓吾が欲しかったからじゃなくて?」
「…まぁ、理由はともかく。単なるじゃれあいみたいにもなっちまったけどな…」
指とか突っ込まれたことに関しては、水城も受けたって感じはすると思うけど。
「な、俺が一緒だったから、怖くなかったろ」
「っそんな怖がってたみたいな言い方すんなよ」
「怖がってたくせに」
「別に…。啓吾が相手なら、安心だし、怖くねぇよ」
「……」
なに、こいつ、なんかかわいいことあっさり言っちゃってんの…?
不安そうな顔してたやつに言われても、あんま信用性ないけど。
「かわいーのな、水城…。よしっ、あんま受けの気持ちもわかんなかったみたいだし、もう一度、やり直すか」
「っなっ…もういいってっ」
「遠慮すんなよ、怖くないんだろ?」
「怖いとかどうとかじゃなくってっ…」
「アキのために」
「っ…」
アキの名前を出すと、一気に、反論出来なくなったのか、口を閉ざす。
元はといえば、この行為自体も、アキのことを思って始まった。
「…なーんか、気に食わねぇな…」
「なにが…?」
「お前、アキの名前出すとすーぐ、考え出したりして。俺とやってるときぐらい、俺のこと考えてろって」
「考えてるって」
「ホントかよ。じゃ、別にアキのためじゃなくって、関係なしで、俺とセックス出来る? もちろん、お前が女で」
今度もまた、考え込むし。
「…水城―…。お前なぁ」
「出来るっ、出来るって」
「俺に合わせて無理やり言うなよ」
「違うって。ただ…アキっつー理由なしで、やっちゃっていいもんかと…」
少し顔を俺から逸らして、小さめの声でそう洩らす。
「ほら、啓吾だって…深敦がいるわけだし…」
俺にそんな気ぃ使ってるわけ?
優しいっつーより、そういう考え方が、かわいくて。
俺は、水城の首筋に、そっと口をつけた。
「ん…啓吾…」
「お前だって、アキいるくせに、俺のこと、相手してくれたろって」
「そうだけど…」
まぁ、あれは、俺が無理やり相手してもらってるって感じがしないでもないがな。
「なんつーかさ。水城とやってっと、単なるセックスフレンドってわけでもなくって、一人でやる手伝いってわけでもなくってさ。あったかいから好きなんだよ」
ただ、性欲を吐き出すだけのセックスじゃないって、俺は思うから。
「…ふーん」
「ふーんじゃねぇよ。わからん?」
「わかるよ…。俺もそんな気ぃすっから…」
「ん…。俺の…愛犬みたいな感じ」
「はぁ? 結局、犬なんだ?」
「愛犬。愛があるわけよ? かわいがらせろよ。俺、犬とか飼ってなかったで欲しかったんよね」
水城に抱きつくと、少し困ったように逃れようとする姿がまた、犬っぽい。
つっても、犬なんて、遠くからしか見たことねぇから、俺のイメージの犬だけど。
「そういうのは、深敦に言えよ」
「深敦に言ったら、『俺は犬じゃねーんだよ』とか、ぜってぇうるせさいって」
「俺ならいいわけ?」
「いーやん。俺も、水城の犬になってやっからさ」
「すっげぇ、わけわかんねぇよ。それ」
そうは言うけど、水城は、納得してるのか、俺から逃れようとするのをやめた。
ただ、疲れただけかもしんねーけど。
「じゃ…水城。晴れて我が家の犬っつーことで、調教させていただきますわ」
水城が気を抜いてるのをいいことに、そっと自分の手から離しておいた手錠を、水城の左手にかける。
「なっ…に? お前は愛犬に手錠かけんのかよ?」
「うーん。愛のムチ? たっぷりかわいがってやっから」
「3倍返しすっからな」
「わー。愛されまくり」

アキのことでって理由で、こういうことになったんだけどな。
すっかり、話がずれている。
理由やいきさつはどうあれ、やってる最中なんかは、水城も俺のこと考えてくれてた みたいだし?
やっぱりそれはなんかうれしい。
そうでないと、少し嫌だなって思う気持ちもあった。
「水城…。俺にアキのこと、相談するのはいいけど…俺のことも考えろよ」
「ん…。すっげぇ感謝してるって……。だから、手錠は取り合えず、外してくんねぇかな?」
「逃げるだろ」
「逃げねぇよ。さっきだって、俺、一応、やられる覚悟してたんだけど」
「別に、俺が入れられてぇからあーなったんじゃなくって、あくまでお前のためを思ってだっつーの、忘れんなよ」
「はいはい」
「…水城…。アキと、すっげぇ絶好調にうまくいってても、俺んとこ来いよ…」
アキのことがなくなったら、もしかしたらこいつは俺んとこ、あんまり来なくなっちまうんじゃないかとかやっぱ思うわけで。
「…来るに決まってんだろって。犬だからな」
少し冷めた目で。
それでも、軽いノリでそう言ってくれる。
「ん…。俺も…」
お前んとこに、行く。

もう一度。
お互い自然と目が合って。
なにを確認するでもなく、ゆっくりと、口を重ねた。