「じゃぁ…またね」
「うん。また」
 あれからというもの。
 どうにもアキに手が出せない。
 だって、そうだろう。
 強姦に近いような。
 ものすごく悪いなって反省してるからこそ、抑えてるんだけど…。
「水城?」
 憂鬱でベッドに寝転がっていると、啓吾が俺を覗き込んでいた。
「…あれ…啓吾…」
「外でアキにあったけど。お前はどーなの。辛そうだねぇ。あいかわらず」
「そう見えるわけ…?」
 啓吾は、俺の体の上に乗っかると、そっと俺に口を重ねた。
 軽く触れるだけのキス。
「ん…なんだよ…」
「アキにさ。結局、あれ以来、手、出してないんだろ…? 欲求不満そうな顔してる」
 そんな顔、してるわけ? 俺。
 啓吾が少し笑うもんだから、冗談だったんだと気づく。
「啓吾は、どうなわけ?」
 上から俺を見下ろす啓吾の髪に指を絡めると、啓吾も俺の髪の毛に指を絡めながらもう一度、口を重ねた。
 今度は、さっきのとは違って、もっと深くって。
 舌を絡めながら何度も重ねなおすうちに、濡れた音が頭に響いた。
「ン…水城…。やる…?」
口を離すと、啓吾はなんでもないみたいにそう言って。
「なにを?」
あまりにいきなりすぎたもんだから、ついそう聞き返していた。
「さびしくなってきた」
 問いかけには答えずにそう言って、俺の上へとかぶさる。
 首筋に口を付けられ、少しだけ吸い上げられて。
 慌てて啓吾を引き剥がそうと手をやると、
「残さねーから安心しろって」
 そう言って、口付けた箇所を舌で舐め上げられた。
「…さびしいって…どういうわけ…?」
「どうもこうも…どうすればいいのかわかんねぇから、悪化しないように、とりあえずなにもしてないから」
そう。啓吾と深敦は、お互いちょっとだけ、距離を置いてるみたいで。
「なにもしてないって…深敦は深敦で待ってんじゃ…」
「そうは思うけど…。俺らのことはほっといてや。な。水城こそ…。アキとしてないくせに…」
 啓吾は寝転がったまま、俺の股間を手で撫で上げる。
「…いいのかよ。啓吾。そんな無節操にやっちまって」
「…わかんねぇよ…。いいから、しろよ…。いいだろ。たんなる友達同士なんだで」
そこまで言うと、俺の体を跨いで起き上がる。
持ってきたのか、大きなバイブとローターを数個、俺へと渡す。
俺は、まだ、ちゃんと頭が理解してなくって、迷ってるうちにも、それらを受け取っていた。
「…水城…お前のは、使わねぇから…」
そう言うと、啓吾は、自分のズボンのチャックを下ろしていく。
「…啓吾…そろそろそーいう女役になるの、止めた方が…」
「っうるさいっ」
つい、女役って言ってしまった俺に対して、ものすごく怒りみたいなものを露わにする。
「ごめ…啓吾」
啓吾の方も、反射的に言ってしまった言葉に対して、申し訳なそうに顔をそらす。
「違っ…。水城…いいんよ…。ごめん。水城が正しいで」
俺、啓吾のこと、もっとわかってやれたらいいのに。
深い傷を治す手助けみたいなものを、俺はすべきなのに。
なにも差し伸べないでいるどころか、悪化させてるようで。
なにも言えないでいる俺をよそに、啓吾は下に履いているズボンやらを脱ぎとって、もう一度、立ち膝状態で俺の体を跨ぐ。
俺の方がただしいって言ってくれたのに?
だけど、俺は、啓吾を拒むことなんで出来ないから、なにも言えなくて。
ただ、啓吾の行動にあまり反応しないようにしながら、されるがままに見守る。
「…水城…」
小さな声で俺を呼ぶ。
俺の顔も見ずに、うつむいたままで。
「…して…」
押し殺した声で、悔しそうにも聞こえる声で。
泣きそうにも聞こえる。
聞いてるこっちが苦しくなるような声。
「…水城…………っだって…俺っ」
なにが『だって』なのか、わからない。
もう、感情が高ぶっているようだった。
「啓吾…落ち着けって」
「水城に、迷惑かけるつもりねーけど、兄貴に心配させたくないしっ。水城ならいいとかそういうわけでもねぇけどっ」
「…うん…」
俺、いい言葉とか全然、見つからねぇ。
しゃべると余計、啓吾のこと、困らせそうで。
「…水城…」
少し寄せた腰は、俺に早くしろと催促するようで。
それでも、そんな厳しいものでもなく、ただ、ホントに、欲しがってる感じがした。

俺が、啓吾のモノを手でしごいてやると、あいかわらず顔はうつむいたまま、俺に表情を見せないで、それでも、気持ちよさそうに、少し腰が動く。
「ン……んっ…水城……っんぅっ」
ときどき、すごく感じる位置を擦ってるのか、体をビクンを震えさせた。
俺が擦りあげるのに、タイミングを合わせて、啓吾の腰が動く。
「ぁっ…あっ…っんぅ…もっと…っぁっ、やぁあっっ」
つい、大きく喘いでしまった声が恥ずかしかったのか、さりげなくそっと、自分の口を手でふさぐ。
「んぅっ…んっ」
俺が、そのまま、啓吾の動きに合わせて擦り上げてると、それだけじゃ足りないようで、啓吾は、自分の指をたっぷりなめ上げてから、後ろから、そっと自分で中に差し込んでいく。
「っんっ…はぁっ…水城っ…入れ…っあっ…」
生理的なのかわからない涙が、俺の上に、ポタポタと落ちてくる。
「くぅ…ンっ…水城っ…」
「バイブ…? まだ、キツくねぇ…?」
「んっ…ローター…」
ローターは、てっきり前でも弄るのかと思っていた。
言われた通り、啓吾が指を抜き去ったソコの場所へと、ローターを差し込む。
「っぁんんっ…水城っ…待っ」
少し入れかけると、そう啓吾は俺の行動を止める。
「なんだよ。自分が入れろって…」
「ん…っ…わかって…っ…。電源っ…入れ…っ」
「…ん。わかった」
啓吾は、自分で出来そうなことでも、わざわざ俺に頼む。
人にやられると、わからないタイミングだとか、自分よりよっぽど感じるのだろう。
自分でいいのなら、わざわざ俺のところまで来て頼んだりしないはずで。
それならそうで、俺は、なんでも従ってあげたいと思うわけだ。

俺は、ローターを差し込んでいる手と逆の手で、電源を入れた。
「やぁあっ」
啓吾が、大きく体を仰け反らせて、俺の腕に爪を立てる。
「ひぁっ…くっ…ンゃっ…やっ」
「…やめる?」
「違っ…やっ…は…ゃくっっ…っ」
前立腺を通り越して、奥の方までいれて行くうちに、啓吾が落ちつきを取り戻す。
「っん…ぁっ…水城…ぃ…っ」
奥まで入り込んだローターはそのままで、俺が指を引き抜くと、啓吾が俺の上にそっと倒れこんでくる。
「っんくっ…ぁっ…っ」
俺の胸元のシャツを掴んで、俺へとすがり付く。
なんだか、それがかわいく思えて、俺は啓吾の頭に手を回しそっと撫でた。
「っ水城…ぃっ…」
俺は、逆に啓吾の体を押し倒して、上からそっと頬に手を触れる。
「はぁっ…ぁっ…」
自然と足を開いている啓吾の間に体を入れて。
恥ずかしそうに、顔を背ける啓吾の耳元をそっと舐め上げる。
「っんっ…っぁっ…んぅンっ」
シャツを捲り上げてると、啓吾が少しだけ慌てるように、俺を見た。
「っ水城っ」
こんだけ、下出しといて、上が恥ずかしいとかないだろ?
捲り上げたシャツから覗く胸の突起には、小さな光り物が目に付く。
「…啓吾…ピアス、つけてんだ…」
「っあんまっ…見っ」
「別に、いいじゃん…」
謝ることも出来ないから、俺は、そのまま啓吾の乳首に舌を這わす。
「っんっ…っあっ…水城っ…ぁっ」
啓吾が、俺の髪の毛にいやらしく指を絡めながら、もっとして欲しいみたいにする。
「っ…ゃ…っんぅっ…もっ…欲しっ…水城ぃ…」
俺の頭を包み込むみたいに、抱きしめながら、熱っぽい声でそう言う。
「バイブ…?」
「っんっ…はやく…してやっ」
「…俺の、入れさせてよ」
俺だって、アキじゃなくても、こんな啓吾の姿見たら、欲情する。
「っぃい…のかよ…っ」
「それは、こっちが聞きたいんだけど」
「っはぁっ…いいに…決まって…」
啓吾が返事を聞くとともに、俺は、ローターのコードに手をかける。
「っっあっ…抜かんといて…」
「じゃぁどうすんだよ」
「っ入れっ…そのままっ」
俺は、啓吾に従って、ローターが奥に入ってる状態のまま、自分のすでに高ぶっているモノを押し込んでいった。
「っくっぅンっ…やぁっ」
先の方で、ローターが当たるのが、すごく気持ちいい。
それよりも。
啓吾の普段見せない態度や表情や声に、魅せられていた。
「はぁっ…ひぁっンっ…んぅっ…水城…っ」
出入りを繰り返しながら、そっと奥の方へとさらにローターを進めていく。
涙を流しながら、俺の腕にしがみつく様は、色っぽい部分とともに、愛らしくって。
「啓吾…かわいい…」
つい、そう口走っていた。
「っんっやっ…ふ…ざけっ…ぁうンっ」
俺に歯向かう気力がもうないのか、一瞬、俺をにらむが、そのあと、もうどうでもいいみたいに、目を瞑って、顔をそらした。
「かわいいってのはさ…。悪いことじゃねぇよ」
「っんっ…あっ…ひぁんんっ」
「啓吾の場合…かっこいいとこもあって…。両方あるから…」
「っもっ…ぃいっ…からっ。あっんっ…はぁあっ…やっ…」
啓吾が、体を震わせながら俺にしがみ付く。
「イキそ…?」
「っンなことっ…やぁあっ…あっ…水城ぃっ…イくっやっ」
「うん…」
そっと、意味もないのに、啓吾の口に軽くキスをしてから、激しく突き立てる。
「っんっ…やぁんんっ…水城ぃっ…やっ…あぁああっっ」

イった直後の啓吾は、欲求不満の解消ができてさっぱり…といった感じではなくって、後ろめたいような恥ずかしいような表情をそっと腕で隠して、顔を背けていた。


「…わりぃ…水城…」
落ち着きを取り戻した啓吾は、申し訳なさそうに、謝った。
「別に…。なにも啓吾は悪くねぇよ」
「お前にやらせるつもりなかったんだよ」
「俺がやりたいからしたんだってば」
「…あぁ…」
「でも、ただ無節操にやりたかったとかじゃなくって。啓吾だからだからな」
たんなる欲求不満の解消だとか思われるわけにはいかない。
俺は、啓吾の傷を癒す立場でいたいから。

かっこいいのと、かわいいのと。
両方持ち合わせてる啓吾は、すごく魅力的な存在だった。
かわいい部分は、すっごい弱くって、繊細で。
俺が、なにか少し言うだけで、すぐ砕け散ってしまいそうな、そんな感じで。
守ってやりたくなる。

それなのに、普段は、すごくかっこよくって。
頼りになるやつで。
なにを言われても屈しないような。
すべての人をかるーく、まとめちゃうようなやつで。
好きな子の前では、弱い部分を見せないでいようとする啓吾がまた、なんだか健気でかわいくて。
それと同時に、俺には、弱い部分を見せてくれるのが、ものすごく嬉しかった。

「啓吾みたいなやつ、俺、好きだな」
「…何言ってんだよ、お前」
「すっげぇ、いろんな意味で。尊敬するし、男に惚れられるタイプだよ。あ、悪い意味じゃなくって。男が目標とすべき男ってやつ?」
「頭、大丈夫か? 水城」
「大丈夫だって」
啓吾の弱い部分を見れば見るほど、普段の啓吾がかっこよく見える。
がんばってるんだなとかすごく思う。
「…お前、かっこよすぎだよ…」
俺は、啓吾に、こうやって打ち明けてもらえる存在になれたことが、ものすごく嬉しいし、なんだか、誇らしかった。

啓吾と、こういった関係の友達になれてよかったと思うし。
啓吾にとっても、俺という存在が、よかったと思えるようになってほしいと思った。