馬鹿なこと言ってるってわかってる。
 アキラさんは俺の顔も見ないで動揺も見せないで、運転に集中していた。
 変に、心臓がドクドク言ってて、おかしかった。
「…ホテル? 家? 車? それとも野外?」
 楽しそうに。
 だけど馬鹿にするでもなく軽くあしらった感じでもなかった。
 アキラさんは、あえて理由を今は聞かないでいてくれるんだろう。

「……ホテルでもいい?」
「了解」

 家を通り過ぎてわりと近くのホテルへと二人で入る。
 受付なんてものはなく、男同士だからって、隠れる必要もなかった。
 誰かがストーカーのごとく付いてない限り、気にならないだろう。

「深雪…。どうしたんだ? いきなり」
 
 アキラさんは上着を脱いで、居所がなく立ちすくむ俺にそう聞いた。

「……今日……後輩にヤられてさ…。なんつーかそんときはわけわかんなかったんだ
けど、その後、そいつと再会して。また少しやられて、気持ちよかったんだけど、な
んつーかさぁ…」
 アキラさんは、自分が上に着ていたシャツを脱ぎかけていた。
 その行動になんとなくドキドキしてしまう。
「…どうした、深雪」
「…なんか…気持ちよかったんだけど、相手、後輩だしむかつく奴で…。こんな奴相手に、欲しがりたくないとか思ったら、自分がして欲しいこと要求出来なくって、もどかしくて焦らされてる感じすらして…。なんかイったんだけど消化不良で…」
「ふぅん…。言いたいこと、言えなかったんだ?」
 そんな感じなんだろう。
 アキラさんは、自分が先にベッドに乗り上がると、俺の腕を引っ張る。
「…いいよ。俺にはなんでも言って? なんでもしてあげる」
 そう言って、俺を押し倒した。
「っ…アキラさ…っ」
 自分から誘ったんだけれど、なんかこういうことするアキラさんを見るのはもちろ
ん初めてだしで、緊張が走る。
 アキラさんは、俺の横に寝転がるようにして、片手で順に、俺のシャツのボタンを
外していった。
「…深雪…緊張してんの…?」
 耳元で、優しく囁かれて、手で胸元をそっと撫でられると、ゾクリと体が震えた。
「ぁっ…アキラさ…っ」
「深雪、乳首も感じるんだろ?」
 耳に舌が這う。
 俺の乳首に軽くアキラさんが爪を立て、耐えるようにベッドのシーツを握り締めた。
「あっ…んっ…」
 顔を逸らすと、軽く笑って、アキラさんは俺の上にのしかかる。
「言いたいこと言っていいからな」
 そう言ってから、俺のズボンと下着を抜き去って、いやらしくもすでに立ち上がっ
てしまっている俺のモノに舌を這わした。
「んっ…ぁんんっ」
 足が折り曲げられて、恥ずかしい体勢で。
 俺のを銜え込んでしまうアキラさんの髪をそっと掴んだ。
「ぁっあっ…アキラさぁっ…俺っ…」
 気持ちよくって、腰が少し動きかけていた。
 恥ずかしすぎて、涙が出そうで。
 辺りには濡れた音も響いてて。
 口を離したアキラさんは、自分の指先に唾液を絡めていた。
「アキラさ…」
「緊張する?」
 そっと頷く俺の頬に軽くキスをして。
 そのままの体勢で、ゆっくりと指先を押し込んで行く。
「っっあっんーっ」
「深雪、力抜いて…?」
「あっあっ…わかんな…」
「OK。落ち着いて…? な?」
 耳元、首筋、鎖骨へと、キスをして。
 奥まで指を進められていた。
「…奥まで入ったぞ…? 痛くないか?」
「…平気…」
「じゃあ…言いたいことがあったら恥ずかしがる必要ないし、言えな?」
 俺の頭を撫でてくれてから、指先をそっと中で動かされた。
「ぁあっ…んぅっ…アキラさぁっっ…」
「…ん…どこがイイ?」
 そんなの聞かれたら恥ずかしいのに。
「っ……っ奥…」
 少し俺は顔を逸らして、そう答えていた。
「深雪は奥が気持ちいいんだ?」
「あんっあっ…ぃいっ…」
 奥まで入り込んだ指が、今度は中をかき回して、それに合わせるようにして自分の
腰が動いてしまう。
「はぁっやっやぁっ…アキラさっ…やだっ」
「や…? これはお気に召さないですか」
 冗談っぽくそう言って、手を緩められると、我慢出来なくなってしまう。
「ぁあっやめなっ…あっ」
「なぁに?」
「っ…やめ…なぃでっ…もっとっ…ぁあっ」

アキラさんは、なんていうか、ものっすごくあったかくて気持ちくて。

 樋口智巳とかとは全然違うって思った。
 たしかに気持ちよかったけれど、アキラさんとは違う。
 アキラさんはものすごく俺のことを気遣ってくれるから。

 腰が、求めるみたいにもっといやらしく動いてしまっていた。
「深雪―…すっげぇやらしく腰動かしてんぞ。わかる?」
指摘されて、さらに羞恥心が高まった。
「やっだっ…あっ…ぁああっ…気持ちぃっ…どぉしよぉっ俺っ」
「どうしたのさ?」
「やらしぃよぉっ…あっ…ぁあんんっ」
 涙が溢れて。
 腰もいやらしく動いてしまうし、もう抑えられない。
「すっげぇかわいいよ、深雪…。もっとねだっていいんだよ?」
「はぁっぁんん…っ、アキラさぁっ…やぁっやぁあああっ」

 クラクラした。
 ものすごく気持ちよくイってしまって。
 ボーっとしてなにも考えられなくて。
 抱きしめてくれるアキラさんにすがりついてしまっていた。

「かわいかったな」
 なんでだろう。
 アキラさんにはかわいいって言われても平気だし、嬉しい。
「アキラさ…」
「ん? どーした、深雪」
 ほら…。
 すごく心地いい。

「…最後まで…しないの?」
「深雪、気持ちよくなかった?」
「よかったけど…アキラさん…」
 自分だけがイってしまってるわけだから。
 それはやっぱり樋口智巳のときは全然合意じゃないし気にならなかったけど、俺が
誘ったわけだし、気になってしまう。
「俺は、深雪が気持ちいいなら、満足だし。第一、今日はもう体辛いだろって」
 
 ほら。
 ものすごく俺のこと気遣ってくれる。

「じゃあ…もっと…俺のこと、呼んで…」
「呼ぶ?」
「ん…俺の名前…」
 顔を逸らしてそう言う俺に、アキラさんは、少しだけ笑ってから
「ホント、深雪はかわいいな」
 ギュっと抱きしめなおして頭を撫でてくれた。


 あぁ。俺。
 アキラさんのこと。
 きっとものすごく好きなんだ。




 二人で外食をして。
 家に帰って、アキラさんは仕事へと向かった。

 俺はというと、いろいろあって体は疲れてるのに、眠れそうになかった。
 風呂に入って、つまらないテレビを見るけれど、内容なんて全然理解できなかった。

 樋口智巳にやられたショックよりも、アキラさんのことでいっぱいで。

 あとになって、いまさら。
 樋口智巳とは最後までしてしまったのに、アキラさんとは指だけだから。
それが少し、残念な気もしてきた。
 でも、逆に指だけでも、ものすごく気持ちよくってたまらなかった。




「深雪―、朝だぞって。学校、遅れるぞー」
 父さんの声で目が覚める。
 なに俺。
 結局、いつのまにか寝てたのか。
 やっぱりいくら悩んでても、疲れには勝てないかな。

 俺は、重い体を起こし、着替えてから台所へと足を運んだ。
 いつものことだが、アキラさんは寝ていることが多く、俺が朝、学校へ行くとき居
合わせることはほとんどなかった。

「…父さん、あのさあ…」
「なに?」
「……アキラさんて、職場でどんな感じなん?」
 そんなん聞いてどうすんだよって思うのに。
 つい口を出た。
「………あいつは、優しいから。頼まれたら断れないっつーかさ。どんなんかって言
われても説明出来ねぇけど…一度、見に来るか?」
 そう誘われる。
 頼まれたら断れないってのが、気になった。
 昨日も。
 俺のこと、頼まれたから断れなかったのだろうか。
 もしかして、俺って、客とあんまりかわんなかったりする?

 
「っつーか、深雪ちゃん、アキラよりも父さんのこと気にしてよ」
 子供みたいに、頬を膨らませて言う父親もまた、少しかわいらしく見えた。
「別に、父さんを気にしてないわけじゃないって」
 そう。
 そりゃ、職場での父親だってそれなりに気になるに決まってる。
 ただ、あえて言う機会なんてなかっただけで。

「まぁいいや。とりあえず学校、行ってくる」
 俺は、朝ごはんをとっとと済まし、学校へと向かった。