「桐生―…。大丈夫か、お前」
 その声で目が覚める。
 あぁ。俺結構、ここで寝ちゃってたんだ?
 同級生で、同じ部活の友達。
「もう、部活はじまってっけど。いつから寝てたわけ?」
「……もうそんな時間なんだ…?」
 たぶん、泣き疲れて、体も疲れてたせいだろう。
 爆睡状態だったようだ。
 あたりを見渡せば、部員たちもだいぶプールサイドに集まっている。
 樋口智巳の姿はそこにはなかった。
 少しだけほっとしてしまう自分がいて。
 なんだか悔しいような気分にもなっていた。

「…今日、帰るわ」
「なに、体調でも悪いん?」
「そんなとこ」
 俺は、ぐったりした状態の体を起こし、帰ろうと更衣室へ向かった。
 
 当然のように、そこにいた樋口智巳と鉢合わせる。
 まぁ、もしかしたらいるんじゃないかとは思っていたが。

 俺は、素通りしてその場を去ろうとするが、もちろんそれを許してくれる相手では
ないようで。
 腕をとられ引き寄せられてしまっていた。

「…うぜぇんだよ。離せって」
「深雪先輩…。初めてだったんですね」
 ものすごい羞恥にかられ、樋口智巳の体を思いっきり押しのける。
「っどーでもいいだろーが。帰るんだよ、どけって」
 俺の手首を掴んだまま、離そうとしてくれず。
 むしろ、力強く握られて、痛みを感じるほどだった。
「…少しくらいおとなしくしてくれませんかね…。話も出来ないじゃないですか」
 そう冷たく言ったかと思うと、腹辺りに激痛が走り、吐き気を催す。
「なっ…あ…」
 理解が少し遅れていた。
 足がふらついて。
 前のめりになって。
 樋口智巳の膝が、まるで、腹の辺りに入り込んでるように見えた。
 
 座り込みたくないのに、足に力が入らず、ロッカーを背もたれにして、ガクっと体
が沈んだ。

「…痛かったですか…?」
 痛いに決まっているのに。
 笑顔でそう聞いて、俺のシャツを上から順にはずしていく。
「…なに…して…」
 変に反抗すると、また蹴ったりされそうで。
 恐がってるわけじゃないけれど、無駄に蹴られるのはごめんだ。

「…痛かったかなって」
 そう言うと、しゃがみこんだ樋口智巳は、自分が膝蹴りした腹のあたりに舌を這わ
す。
 
「…っ…」
 ズボンと下着が剥ぎ取られていく。
 なんだろう。
 すっげぇ緊張してんのかわかんねぇけど、体が固まったみたいだった。

 腹の痛みのせいもあるけれど、辺に体に力を入れたくない。
「…ね。痛かった?」
 もう一度。
 俺の膝を立たせて。
 大きく左右に広げさせて。
 下から見上げるようにそう問う。
「ここ…」
 場所を示すように。
 腹を撫でた後、その指先が奥へと。
 蕾をそっと撫でる。
「っ…んっ…」
 体がありえないほどビクついてしまっていた。
 恥ずかしいくらいに。
「どうしちゃったんですか…? 先輩。俺のこと、蹴り飛ばしたりしないんですか?」
 そんな力あったらとっくにやってるっての。
 体力的には問題ない。
 精神の問題だ。
 蹴り飛ばしても、すぐねじ伏せられそうで。
 そういうから回り、恥ずかしくって、嫌になる。
 だからって、初めからなにもしないのが正しいのかどうかもわかんねぇけど。

 どっちにしろ、動けそうになかった。
 金縛りってわけじゃねぇけど。
 なんとなく、動けなくって。
 やっぱり、極度の緊張みたいな。
 そんな感覚。
「…深雪先輩…? 痛かった?」
 まるで子供をあやす様な。
 すっげぇ馬鹿にされてる気がする。
 だけどやっぱり、痛かったのにかわりねぇし。
 もう嫌だって思った。
 気持ちいいとも感じたけれど、無理やり痛みを麻痺させてるだけみたいで。
 やり終わったら痛みしかのこらねぇし。

 思い出したらもう嫌だって思う。
 
 なに俺…。
 また、やられるの…?
 
 馬鹿…。
 
 俺はそっと、樋口智巳から顔を逸らすように横を向いた。

「…それって否定? 肯定してないってことは否定かなぁ? 痛くなかったんだ?」
 たくらむような声が聞こえて。
 入り口を撫でていた指先が少しだけ入り込む。
「っんーっ…っ! やめっ」
「どーして? 痛くなかったんでしょ? 気持ちよかったんでしょ? それとも痛か
った?」
 俺は横を向いたまま。
 そっと頷いた。


「そっかぁ。早く慣れようね、先輩…」
 そう言うと、俺の体をうつ伏せに押し倒す。

「っ…な…っ」
 腰を掴まれて。
 膝を立たせられて。
 まるで腰だけ突き出してるみたいで、ものすごく恥ずかしい格好だ。
 
 足の間に樋口智巳がいて。
 俺の尻辺りを撫でたかと思うと、露わになっている入り口に舌の這う感触がした。
「っ…ばかっ…やめ…っ」
 丹念に付近を舐めて、たまに吸い上げられる。
 体中がゾクゾクした。
「っ…んっ…やめ…っ」
「…じゃあ指、入れますね?」
 わざわざ宣言してから。
 ゆっくりと指先が入り込んでくる。
「んっ…んぅんんんっ」
「力抜いて下さいよ」
 奥まで入り込んだ指が、優しく中を掻き回していた。
 気が遠くなりそうで。
 必死で、意識をとどめておこうとか考えちゃって。
 もう、どうすればいいのかわかんねぇっつーか。
「ぁあっ…んぅ…っ…」
「気持ちいいですか…?」
 どうしよう。
 すっげぇ気持ちよくって。
 駄目すぎる。
 理性とかプライドとか恥じらいとか。
 むかつきすぎてキレちまうときと感覚が少し似てる。
 
 なんかのスイッチが入るみたいな。
 そう。
 切り替わって、俺が俺じゃなくなる感覚。
 すべて無くなって。
 ただもう、体に素直に従っちまう。

「っあっ…ぁんんっ…」
「…すごくやらしい声、出てますよ…?」
「違っ…ぁあっ…くっんっ…」
「違うんですか…? じゃあどういう声なんです? ね?」
 指を少し抜きかけたかと思うと、一番感じる前立腺の辺りを優しく指の腹が撫でて
いく。
「はぁっあっ…あんんっ…あっ」
 もっと。
 欲しい。
 気持ちいいって。
 イイよぉって、叫びまくってもっともっともっと、して欲しい。
 駄目だろ。
 こんなん。
 少しだけ残ってる理性が、俺を抑える。

 それでも気持ちはいいから。
「あんんっ…やっもぉっ…」
「いいですよ…? すごくかわいいです。俺の指だけでこんなに感じてくれて…」
「ぁっあっんーっ…あぁあああっっ」

 指を引き抜かれると、そのまま俺は倒れこんでいた。
 横たわる俺の髪を撫でる。
「…少しずつ…慣れてこ?」
 なにこいつ…。
 俺は顔を逸らし、そいつの視線から逃れた。

「もう、俺帰るから…」
 わざわざ伝えなくていいことを伝えてしまう。
 樋口智巳は了解してか、自分は部活へ出ると、プールサイドへと向かった。


 実際、帰れる元気も無かった。
 父さんに迎えに来てもらうか…。
 今の時間ならいるだろ。
 俺は部室の外に設置されている公衆電話で、自宅へと電話をかける。


 少しだけ、多くコールがなって。
『はい、もしもーし。こちら桐生ですけど、ただいま留守です』
 アキラさんだ。
「アキラさん…? 俺…深雪だけど」
『おー。どうした? 光流さんなら、今日はもう仕事行ってるけど?』
「アキラさん…時間ある? あったらちょっと迎えに来てくんないかな…」
『学校? 余裕でOKよ。今からでいい?』

 アキラさんは快く引き受けてくれて。
 10分もしないうちに、校門へと車がついた。


「もぉ、学生みんなジロジロ見てくんの。かわいいったらありゃしねぇな」
 楽しそうにそう言って。
 俺を助手席に座らす。
「…ねぇ、アキラさん。変なこと聞いてもいい?」
「ん? 俺に答えれることなら答えるけど?」

 アキラさんはホント、いい人で、信頼出来て。
 大好きだ。
「…あのさ。俺って父親に、最後までやられてはいないんだよな?」
 確かめるようにそう聞いてしまっていた。
 昨日、一応、聞いたけれど、ちゃんとした答えは聞いてなかったから。
「んー…。まぁな。ブツは入ってねぇけど」
 からかうでもなく少し下品な言い方をあっさりとする。

「そっか…」
それを知ったからといって、どうにもならないが。

「…アキラさん。今日、仕事はいつもどおり? 7時に行くわけ?」
「ま、そのつもり」
 今日は部活を休んだから、いつもよりも時間がある。

「………アキラさん…さぁ。俺の悩み、聞いてくれる気、ある?」
 こんなの。
 誰にでも相談できる内容じゃない。
 父親だってある程度、信頼が置けるけれど、やっぱり父親ってだけで一線、引くこ
ともある。

「おー。なんでも乗るよ? かわいー深雪ちゃんのためならさ?」
 軽いノリでそう言ってくれて。
 いつもの雰囲気になんだかほっとした。

「あのさ……。今から俺と…セックスして…?」