こんな感覚、初めて。
 ……あれ…。
 初めてか?
「…ホントに…初めてですか?」
 寝転がる俺に寄り添うように、寝転がりながら、そう聞かれ。
 思い返す。
「なんで…」
「なんか…初めてじゃないって感じがする」
 初めて…か…?

 うまく思い出せない。
「…初めてじゃないかも…」
「なんで、あいまいなんですか」
「……わかんねぇから」
 初めてか、そうでないか。
 なんとなく、こういう感覚、以前にもあった気がする。

−ほぉら…。
気持ちいいだろ?
深雪は絶対、素質があるから、こういうの大好きだろ?−

「……ある……」
 断片的に思い出す。
 だけど、うまくは思い出せない。
 
 たまーに、見る夢…。
 いつも、俺が女役にされて、むかついて。
 だけれど気持ちがよくて。
 
 最後までやる夢。
 
 朝、起きたときはいつも二日酔いが酷くて。
 エロくて馬鹿な夢を見たなって感覚しかなかった。

 けれど今、こうやってやられてみて。
 おんなじ感覚。

 夢じゃない…?
 だとしたら、なんなんだ?

 俺、酔ってる最中にやってた…?

「…先輩…?」
「…ある気がしてきた。いや、たぶんあるな。あんま覚えてねぇけど。ちょーっと、用事
思い出したから、そろそろ帰る。お前も早く帰るぞ」
 俺は、いらついた気持ちを抑え、その場に立ち上がる。
「深雪先輩、やっぱ経験あったんだ?」
「……あんまり呼ぶな。ホント、殴るぞ。まぁ今は、お前よりむかつく奴がいるからお前
はどうでもいいけど」
 少し、悔しそうな表情を見せて、そいつは俺と一緒に更衣室へと向かった。

「じゃあ先輩、また明日…」
「あぁ…。またな」
 
 俺は、適当な挨拶を返して、自宅へと戻った。



「深雪、おかえり〜♪」
「…ただいま」
「今日は、ミートスパゲティ作ってやるから。深雪、大好きだろ?」
 絶対、こいつだ。
「……2,3日前さぁ。俺、すっげぇ二日酔いくさかったんだけど」
「あー…3日前か? 結構、深雪飲んでたからぁ」
「父さんが飲ませたんだろ?」
「まあ、途中からは自分でお前、飲んでたけどな」
 思いっきり酔ってたよな。
 あんまり記憶がないほどに。
「……で。父さんさ。俺に何かした…?」
 怒る気持ちを抑えて、そう聞くと、やっとエプロン姿の父が、手にしていたフライパン
を置いて、俺をジっと見る。
「……覚えてる?」
「少しだけ」
 そう俺が答えると、いきなり、俺に抱きつく。
「っなっ…」
「嬉しいなー♪深雪、いっつも覚えてないっぽかったからぁ。父さん、寂しかったんだよ?」
「っなに言って…っ! お前、酔った人間相手になにしたんだよ」
「あれ、やっぱ覚えてないんだ? じゃあ今日はシラフの状態で、やろうか…」
 楽しそうにそう言うと、父さんの手が、俺の尻を撫で回す。
「っんっ…馬鹿っ…」
「酔ったときくらいだよ。深雪が素直に相手してくれんの。だけど、そろそろいいかなっ
て」
 そろそろいい…?
「どう…いう…」
「そろそろ。調教たっぷりしたからぁ。酔ってなくても、普段から嫌がれない体になっち
ゃってるかなって。ほらぁ。理性が体についてかないんじゃないかって」
 なに考えてんだ、こいつは。
「…頭おかしいだろ?」
「そんな俺の遺伝子、受け継いじゃってんだよー? あんまり父親、馬鹿にしてもいいこ
とないぞ」
 後ろから俺を抱きなおすと、右手が股間のモノをズボンの上から何度も撫でる。
「っんっ…離し…っ」
「酔ってるときの深雪はねぇ。覚えてないだろうけど、もっと触ってーって。ねだってく
るんだよ」
「っ嘘つくなって」
「ホントなのになぁ。今だって。理性があるからそう言えないだけで、もっと触って欲し
いだろ…?」
 布越しでも強く撫でられたら十分感じる。
 気持ちよくて。
 直に触ってどうにかして欲しいとか。
 そう思ってしまっている。 
 駄目だ、俺。
 最悪。
「あっ…ンぅんっ」
「頼んで…? 触って欲しいって」
 ズボンのチャックを下ろして、直に俺のを掴む。
 だけど、やさしく包み込むだけ。
 動かしてくれないもんだから、腰が動く。
「っんっ…んぅっ」
「やらしいなー。深雪。そんなに我慢しなくても、頼んでくれたらちゃぁんとしてやるぞ
…?」
 俺に理性はないのか。
 男としてのプライドとか。
 羞恥心とか。
 欲求が勝ってる。
「ぁっ…触って…っ」
「ん。触ってるよ?」
「あっ…もぉっ…はやくっ」
「なぁに…?」
 耳元で、響く声がまたいやらしくて変に感情が高ぶっていく。
「動かせよ…っ」
「擦って欲しいんだ…?」
 頷くと、父さんは俺のをそっと擦り上げる。
「はぁっんぅっ…」
「ほぉら、気持ちいいだろ?」
「んっ…ぁっんっ…あっ…」
「かわいいなー、深雪は…。いつもと違って、すこーしだけ、理性保ってるねぇ…」
 全然、保ててねぇよ。
 いつもはもっと俺、イっちゃってるとか?

「……光流さーん―…ギャップありすぎ」
 後ろからそう声が聞こえる。
 父さんの手が離れた隙に、少し距離をとり、振り返って声の主を確認した。
 暗めのスーツに真っ赤なシャツ。
 明るめの茶髪で長身。
 高そうなライターを片手に、タバコに火をつけながら俺らを見る。

「……あぁ。お前、まだ寝てろって」
 ホントに、ギャップありすぎだろ…。
 声のトーンが一気に変わる。
「そろそろ準備。あ、俺もスパゲティ頂戴」
「お前は俺の家計を食いつぶす気か…」
「だって、光流さんの料理、おいしいしー」
「…ったく、しゃーねぇなぁ。じゃ、作るか。深雪―、すぐできるからアキラと話でもし
て待ってろな?」
 
 俺にしゃべりかけるときだけ、すっげぇ声甘…。
「…消化不良」
「だな…」
父さんは少し考えてから
「スパゲティの前に、一回、イっとこうか…?」
 そう言ったかと思うと、俺を壁に押し付けて、口を重ねる。
「っんっ…ぅんっ…」
 頭がボーっとしてしまうようなキスで。
 口が離れると、すぐさま俺の前に跪く。
「っなっ…にして…」
「すげぇねー。なかなかこの人、跪かせるヤツいないよー?」
 アキラさんは俺らがちょうど見える位置の椅子に座って、足を組んで。
 娯楽番組でも見るかのように、タバコをくわえたまま、ジっと見つめていた。



 父さんの舌が俺のに絡まりつく。
「っぁあっ…んっ…あっ」
「光流さんって、男相手にするテク、いつ身に付けたわけ」
「んー? そんな女と変わらんだろー? まぁ、俺は学生時代、よく男食ってたから」
 俺のモノを、手や舌で愛撫しながらも、会話を続ける。
 俺は、その会話が耳に入ってくるものの、それどころじゃなくなっていた。
「はぁっあっ…んぅっ」
「食われたりもしたわけ?」
「まぁ、そっちもあるわな」
「今度、俺も相手してよ」
「あはは。お前、どっちがいいわけ?」
「天下の光流さんとならどちらでも?」
 しゃべりながらでも、愛撫に隙がない。
 両手で気持ちよく擦られて撫でられて。
 会話が落ち着いたのか、今度は咥え込んで舌をたっぷり絡めてくる。
「んぅんっ…ぁあっ…あんっ」
「深雪ちゃーん。乳首とかどぉ?」
 アキラさんだ。
壁にもたれてた俺の体の後ろに自分の体を割り込ませて。
 シャツの中に手がもぐりこんで来る。
「っなっ…っあっ」
「おい、アキラぁ? 俺の息子に手、出すなよ」
「いつものことじゃん?」
 …いつものことなのか…?
「っんっあっ…ぁんっ」
 でも気持ちいいかも…。
 俺って、乳首なんかでも感じるんだ?
 アキラさんの指が、俺の乳首を丹念につまんだり転がしたりして遊んで。
 耳元を舌が這う。
「はぁっあっんっ…あっ…もぉっやぁあっ」
 父さんの舌が絡まって唇でこすり上げられる感覚と。
 アキラさんが指で乳首を愛撫していくのと。
 耳元を這う舌使い、口調、なにもかもが俺を感じさせる。
「深雪…たぁっぷり、父さんのオクチに出してやんな?」
 アキラさんの声が、頭に響いて。
 もう駄目…。
「っぁあっ…んっあっ…ぃくっあっ…あぁあああっっ」
 
 父さんが、俺のを飲み込んでいくのがわかった。
 力の抜けた俺の体をアキラさんが、ギュっと支えてくれていた。

「初めてじゃん…? 酔ってない深雪」
 酔った状態で、どれくらいやったことがあるのかわかんねぇけど。
 シラフではやっぱり初めてなんだろう。
 まぁ、今日、学校であったことはおいといてだ。

「ん…。じゃ、スパゲティ作るか。深雪ちゃん、待ってなよぉ?」
 切り替え早…。
「光流さんって、ホント、深雪に甘いよねぇ」
「…親ばかだよ…」
 光流こと、俺の父親、桐生雪寛の仕事場の後輩であるアキラさんは、いつからか俺の家に居候している。
 父親とは違った年の離れた友達みたいな感覚で、すごく親しみが持てたし、大好きだ。

「でもまぁ…光流さんって、すっげぇ俺の尊敬する先輩だからさぁ」
 この人は。
 話し出すといっつも俺の父親を立てる。
 そりゃ、先輩を悪くは言わないだろうけど。

「で。深雪ちゃん、すっごいかわいい声出してたじゃん」
「…かわいくねぇよ。…ってか、アキラさん、俺が酔ったとき、父さん、俺に何してたかとか知ってる? いや、大体はわかるけど具体的に。最後までしたわけ?」
 アキラさんは、少しだけ考えて。
「…いやもう、光流さんのお得意さんが知ったらどんだけ羨ましがるか。全身舐め回して、甘ったるい愛撫して、酔ってる上にさらに別の意味で酔わして。かと思えば、焦らして深雪の方から欲しがらせたり…?」
 そんなんなのか…。
 にしても、詳しすぎ…。
 ホントの話かわかんねぇけど。
「…アキラさんも交ざってたんだよね…」
「そりゃあ、自然の流れでしょ」
 自然じゃねぇだろ…。
 ま、今も自然に交ざってたが。

「女には困ってないだろ」
「まぁそうだけどさ。目の前でやってたらな…。でも深雪、覚えてないんだろ? 今度は、ちゃんと、最後まで、俺と忘れられない夜をすごそうか…?」
「…新しいキメ言葉?」
「どう? よくない?」
 にっこり笑うアキラさんの前に、ドンっと音を立ててフライパンを置いて。
「全っ然、駄目」
 そう父さんがニラみを聞かす。
「何様だ? 『忘れられない夜にしてくれる…?』 とでも言っとけ、お前は。常に女が上、相手を立てて、自分は下。俺様なのは、SEXを始めてからだ。それまではじっくり下から攻めてくんだよ」
「たまには、男が強引なのもよくない?」
「たまにはな。ってか、お前の台詞、別に強引でもないだろ。お前は、頼む系の台詞の方が似合うんじゃねぇの?」
 たくらむような口調でそう教え込むと、ハシを俺らに渡す。

「光流さん、料理うまいのに、こういうとこだけ大雑把だよな…」
「皿、洗うの面倒じゃん…?」
 俺らは、いただきますと手を合わせ。
 3人で直接、フライパンからスパゲティをつついた。


「にしてもさ。深雪、どうして思い出したんだ? いままで、全然、その手の話、触れてこなかったのに」
 夢かと思ってたんだよな。マジで。
 いま、少しやられて、やっと、夢じゃなかったんだって実感が出てきたくらい。
「ちょっと、学校でいろいろあって、思い出した」
「いろいろ? なにそれ。同じような状況にあったってこと?」
 アキラさんがするどく俺に聞いてくるから、俺も素直に頷く。
「俺の息子に手を出すとは、なんていい度胸なんだろうね」
「光流さんは関係ないでしょー」
「なっ…。アキラ、お前、俺は深雪の父親なんだぞ?」
「過保護すぎですよ」
 少し苦笑い。
 俺もそう思う。
 過保護で。
 変な独占欲みたいなものまであるような感じ。
 でもまぁ、それもしょうがないかって、俺もアキラさんも思ってるから、なにも言えなかった。

 母さんが死んだのは、もう12年ほど前で。
 父さんは、俺に面影を感じたりもするのだろう。
 まだそのころ20近くの年だったのに、俺を誰かに預けるでもなく働いて。
 男手ひとつで俺をここまで育ててくれて。
 俺があと4年…20歳になっても、こんな風に子供を育てていく自信なんてものはない。
 そういうのを思い出すと、父親への怒りはすぐなくなってしまっていた。
 
「で、どんなやつなんだ?」
 父さんが、俺をジっと見て。
「…後輩」
「後輩? 後輩に手、出されたのか?」
「そーゆうこと」
 俺は、少し冷めた感じで、そう受け答えした。
 父さんが難しい顔をするもんだから、無視して俺はスパゲティを食べる。
「最後までやったのか?」
 ったく。
 まだ聞くか。
「違ぇよ。少しだけ」
「ふーん…。安売りすんなよ?」
「しねぇよ」
 父さんは、ずーっと、難しい表情のまま。
「…光流さん、なくなりますよー」
 アキラさん、黙ってたと思えば、スパゲティを食べ続けてたようで。
 大量にあった麺は、もうだいぶ減っている。
「っお前、普通、少し遠慮するだろ?」
 慌てて、父さんもスパゲティに箸をつけた。
 
 

「じゃ。行ってくるから」
 2人は、ビシっとスーツを着こなして、仕事人の顔になる。
 さすが。
 こう見ると2人とも長身で、かっこいい。
 いかにもって感じだけれど。
 一応、俺の父親が源氏名、光流でNO1。
 その次を追うのがアキラさん。
 こっちも源氏名なんだろうけれど、本名は知らない。
 家から車で15分くらいの場所。
 ホストとして働いていた。
 
 
「いってらっしゃい」
 早めの夕飯を終え、父さんとアキラさんは、家を出た。