「ただいま…」
 いつもと同じように。
 返事のない家の扉を開いた。

 あの後、雅紀は部活に顔を出さなかった。
 あのまま、帰ってしまったのだろう。
 宮原先輩も。
 俺が、そっちに気が回らなかったっていうのもあるんだろうけど。
 気づかないうちに、姿を消したまま。
 

 自分の部屋に入り込むと、ベッドにナツが寝転がっていた。
「…ナツ…?」
「あ、桐生さん、お帰りぃ」
 寝起きなのか、少しボーっとしたナツの姿を見ると、なぜかほっとした。

「不安そうな顔してるよ? 大丈夫?」
「ん…」
 俺は、座り込んで、ベッドに寝転がるナツに顔を近づける。
「ナツ…」
「ん? どうしちゃったの?」
 俺の頭を撫でて、引き寄せてくれる。
 そのまま、俺はベッドに半分、体を乗り上げて、ナツに口を重ねた。
「んっ…ぅんっ…」  
 
舌が、絡まりあって。  
あったかくて、頭が、ボーっとした。

 長めのキスが終わって。
 俺は、ベッドに乗りあがり、ナツの隣に寝転がった。

「…桐生さん、学校でなんかあったの?」
 また。
 こいつ、なんか、少しアキラさんと似てるんだ。
 俺のこと、子供みたいな扱いして。
 普通だったら、むかつくんだろうけど、なんとなく、大丈夫だった。

「ナツ…。して…」
「どうしたの? かわいいねぇ」
 ナツだと、素直に欲しがれる。
 俺が、アキラさんを好きだって知ってるから。
 それを了解してくれているから。
 それでいて、俺とやろうって言ってくれるから。
 そういう関係だからだ。

 ナツが、丁寧に俺の服を脱がしてくれる。  
 
丸裸にされて、ナツも、全部、脱いでくれて。

ナツは、上からじっくりと俺を見下ろした。

「体、冷たいね…。プール入って来たんだ? 早く、あったまろうか…」  

そう言って、俺の目の前に、細長いバイブを見せびらかす。
団子みたいな丸い部分が、順に太くなっていくタイプだ。
「…なに…」
「知ってるでしょ?」
「でも、それ…」
「もしかして、使ったことない?」
「…ん…」
「じゃあ、傷つかないようにゆっくり入れるから…。膝まげて…」
俺は、膝を曲げ足を広げる。
「は…いんなくない…?」
「じゃあ、入れれるとこまで入れてみよ…?」
ゆっくりと、俺に見えるようにバイブを舐めあげる。
俺の片足を押さえて。

丸い部分が1つ入る。
「んっ…」
「平気でしょ。入れてくよ…」
ゆっくり、数えるように2つ3つと中に入り込む。
「ぁあっ…ナツっ…」
「ん…? どうしたの桐生さん…。こういうのは初めてだから、不安…?」
 俺を見下ろすナツの腕にしがみつく。
「はぁっ…もぉ…入んない…」
「まだ3つ目だよ…? 駄目…」
そう言って、4つ目の団子を挿し込んでいく。
「…あっ…ぁあっ…それ」
「なに?」
「んぅっ…やっ…だめ…っ」
「んー…入っちゃった…」
「はぁっ…も…無理…」
「そう?」
ナツはにっこり笑って、ゆっくり中をかき回す。
「ぁっぁあっ…」
ナツの腕と、ベッドに爪をたて、しがみついて、その刺激に耐える。
「ひぁっ…ぅんっ…あぁっナツっ…だめ…これっ…あっっ…」
「気持ちいい…?」
「ぁあんんっ…っやっ…やぁっ」
「…もうちょっと、我慢してみよ…?」
そう言って、バイブをさらに中へと押し込もうとする。
「やっ…やぁっナツっ…入んなっ…」
「ねぇ…おっきいね、これ。入りそう…」
「はぁっ…おっきぃ…っだめ…あっ…っ」
「痛い?」
「いたぁっ…だめっあっ…あぁああっ」
そこを拡げられる刺激に耐えれず、イってしまう。

やっとナツは手を止めてくれる。
「どうしちゃった…? 痛いって。痛いのにイっちゃった…?」
「ん……」
「痛いってのは嘘だったのかなぁ…? 桐生さんは、ホント、Mだね…」

 ナツが、入り込んだままのバイブの電源を入れる。
「ぁああっ…」
初めての感覚。
器械の振動が緩やかに中をかき回していた。
「はぁっあっ…ナツっ…あんんっ…」
心地いい。
ナツにしがみついて。
そんな俺の耳にナツは舌を這わす。

「ねぇ…。桐生さんのこと、名前で呼んでもいい…?」
あぁ。
こいつって、勝手に呼んできたりしなかったよなぁ。
俺が嫌がってんの、知ってたのか?
予測できたのかもしれないけど。
深雪って。
呼んで欲しい。
「ナツ…っ…呼んでぇっ…」
「うん…」
「ぁっ…深雪ってっ…」
「深雪…? 呼び捨てでいいの? 深雪くん…さん? あ、深雪ちゃんがかわいいかなぁ…? ね。深雪ちゃん…」
 そう言って、振動の勢いを上げて、中をかき回していく。
「ひぅっぁっあっ…あぁんっ…ナツっ…やっやぁうっ」
「かわいーね。もう、玩具遊びは止めようね…?」
ゆっくり、ゆっくりと、バイブを抜き取って。
ソコがヒクついているのが自分でも分かる。
「…欲しい?」
「…ん…」
ナツが、俺に覆いかぶさるようにして、ゆっくりと中に入り込んで。
俺は、ナツの背中に手を回した。
しがみついて。
ナツは、俺の頭を優しくなでてくれる。
「あっ…ナツ…」
「深雪ちゃん…全部入った…」
「ん…」

満たされる。
なんていうか、決して性欲だけじゃなくって。
精神的なモノまで満たされるような気がした。

「深雪ちゃん…なんだか今日は甘えっこだねぇ」
「ぅん…ナツ…っんっ…」
「なぁに…?」
「もっと……見て…」
「ん…見てるよ…」
 俺から体を少し離して。
足を深く折り曲げる。
「繋がってるね」
「はぁっ…あっ…うんっ」
何度も何度も体を揺さぶられて。
そのたびにしびれるような快感が駆け巡る。
「やぁっあんっ…ぁあっんぅっ」
気持ちいい。
意識がボーっとしてきた。
なにこれ。
たまんない。
「深雪ちゃん…。たっぷり感じてる?」
「んっ…ぁあっ…っナツっあぁあっ」
「答えて?」
「はぁっ…あっ…ぃいっ…すごぃよぉっ…んぅっ…もぉっぃくっっ」
「さっきイったばっかなのに?」
こんなに早く。
2回も。
さっきイったばっかなのに。
指摘され羞恥心が高まり、つい顔を逸らした。
「やっ…んっナツ…っ」
「んー…? 恥ずかしいの…?」
「やっ…やぁあっ」
「イっていいよ? 深雪ちゃん…。見ててあげるから」
「やっやぁっ…ぃっちゃうっ…やっ…あっやぁああっっ」

少し遅れるようにして、ナツのが中に流れ込んできた。  
死にそうだ。
精神的にも肉体的にも疲れたみたいで。

ぐったりした状態だった。

「深雪ちゃん…かわいい」
「ん…」
ナツが、俺の手をしっかりと握ってくれていた。
「ナツ…」
「どうして、そんなに泣きそうな声出すの…?」
どうして…。

智巳のこと、傷つけた。
そう思うからだろう。
傷つけないように、そう思って、もうやったりしないって。
そう決めたのに。
その選択も、智巳を傷つけているんだろう。
どう接しても、傷つけてしまうような気がして。
どうすればいいのかわからなくって。

そういうとき、どうしようもないとき。
泣きそうな声が出てしまう。
甘えられる人に、甘えたくなる。
「ナツ…っ…抱いてよ…」
「うん」
ナツは、俺の背後からギュっと抱きしめてくれる。
なんか、泣けてきた。
ナツの腕にしがみ付く。

なに俺。
アキラさんがいなくなったこともだけど。
智巳を傷つけたことに対して、こんなに泣けるんだ?

智巳のことも、好きだから。
「ナツ…どうしよう。俺。…アキラさんが好きなんだよ」
「うん」
「…好きで好きでたまらなくって。たぶん、一生忘れられないくらい好きなんだよ…」
「うん…」
「……智巳が…それでもいいって、言ってくれたらよかったのに…」
泣く俺を自分の方へと向かせ。
ナツは頬を手で包み込むようにして、じっくりとこっちを見た。

「兄貴が…好きなの?」
わがままなのはもちろんわかってる。
だけれど、優しい言葉が欲しかった。
「…わかんねぇけどっ…。…それでもいいよって言って欲しかったんだよ」
それなのに、智巳は。
じゃあ、しょうがないですね、と言わんばかり。
あっさりと身を引いて。
俺がアキラさんを好きだというのを肯定してくれた。
だけれど、忘れるまで無理なんだと。
そう言われたから。
もちろん、忘れられる自信はないけれど。
智巳も失いたくない。
友達という形で引き止めてしまっていた。

「…ナツ…っ」
「うん…。俺は、いいよ。深雪ちゃんが、アキラさんをずっと好きで忘れられなくても。傍にいて優しくしてあげるから」

智巳の答えは正しいんだろう。
普通の人なら当たり前だ。
他の男のことばかり考え続けるやつを、それでもいいって好きでい続けるなんて。
無理だろう。
智巳は、自分のことだけ考えて欲しいと言った。
ナツは…?
ナツは別に恋愛感情じゃないから、また考え方が違うんだろう。
だけれど、比べてしまう。
「…ナツ…」
「…深雪ちゃん…一緒にいようね…」
ナツは、優しくそう言って、泣く俺に、そっとキスをしてくれた。