「桐生の友達だよね?」
 部活後。
鍵当番だった俺は、一人で職員室に鍵を返して、校門へ向かう途中にそう声をかけられる。振り向いた先にいたのは生徒会の副会長だった。
 不良グループと言われてきている生徒会の中では、唯一と言ってもいいだろう。
 知的な、いわゆる普通の生徒会のイメージに似合ったタイプの人。
 とはいえ、あの不良たちの中に入り込んでるくらいだし。
それなりに悪かったりするのかもしれない。
遊び人だという噂をよく耳にしていた。

「そうですけど…」
 少しだけ、警戒してそう答える。
「桐生って、男同士とか平気なの? いつまでたってもフリーみたいだし? 名前呼ばせたがらないし。いまさらだけど、もしかしてそういうの駄目だったりするのかなって」
「…知らないです」
「ホントに?」
 隠しているわけではない。
 俺は、別に桐生とそう言った話をしたことがないからわからなかった。

「…ホントに知りませんよ…。それに俺、桐生のこと、話すつもりないんで、聞かないでくれますか」
 そう言って、軽くお辞儀をし、校門へと向かう。
が、宮原先輩に腕を掴まれ、向かい合わされた。
「…強引ですね…」
 生徒会が、強引なのは知ってるけれど。
 知らないと言えば、済むだろう。
 まぁ、話すつもりがないと言ってしまった時点で、『知ってるけど話さない』と言っているようなもんだが。

「ちょっと、おとなしくついてきてくれるかなぁ」
 振り払うことも出来ず、俺は腕を取られたまま、校門近くに並ぶ部室の裏あたりへと連れて行かれた。

「俺、ホントに桐生が男同士がどうとか知らないし、恋愛の話はしたことないんでわかんないですよ」
「いいよ。疑ってるわけじゃない。…雅紀のことは聞いたら話してくれるわけ?」
「…なんで…名前…」
「そりゃ、桐生の友達だから。生徒会のやつらは一応、みんな君のこと知ってると思うけど」  
企むような笑みを見せられる。  
俺の目の前に立って。  
一歩、後ずさると、後ろは部室の壁だった。
「男同士は、平気…?」  
宮原先輩は、壁に腕をついて、俺を見下ろす。  
俺だって、背が低いわけではないと思うけれど、この人が長身なんだよ。

「別に俺は…桐生が男と付き合ったとしても、退いたりはしませんよ…」
「雅紀自身が、男を相手にするってのは?」
「…俺は、関係ないでしょう?」
「あぁ、桐生とは関係ないことだよ。俺自身の問題だから」

 そう言うと、宮原先輩の手が、俺の股間に触れる。
「っ…なに…」
 ズボンの上から掴まれて。  
見上げても、なんでもない涼しい表情。
「…離してくれますか」
「嫌だっつったら?」
 宮原先輩が、チャックをゆっくりと下ろしていく。
「なにがしたいんですか」
 宮原先輩を睨んで強めにそう言う俺を見てか、少し笑って。
 それを確認した直後だった。
 宮原先輩の口が俺の口に重なる。
「んっ!!!」
 股間を触っていない方の手が、俺の頭を掴んで、身動きが取れなくて。
 ゆっくりと挿し込まれた舌が、俺の舌を絡め取った。
 チャックを下ろしきった手は、直に俺のを掴み上げて、ゆるやかに擦りあげていく。
「んっ…んぅっ…」  
先輩だから。  
生徒会だから。  
つまり敵に回したくない相手だから、いままではおとなしくしていたが、やっとそこで、抵抗を試みた。  
だけれども、押し退けようとする俺の力なんて、この人に通用してないようで。  
何度も、股間のモノを人の手で扱き上げられ、次第に足に力が入らないのがわかった。  
後ろに壁がなかったら、もっとふらついていたかもしれない。

「んっ…ンっ…」
 舌の絡まりあう音が頭に響いていた。
 そのいやらしい音に、体が熱くなる。
「…雅紀…大きくなってきた」
 口を離した宮原先輩は、耳元でそっとそう俺に教える。
 羞恥心から、なにも答えられないでいる俺の顎を掴んで、嫌でも宮原先輩へと顔を向かされた。
 
 宮原先輩は、擦り上げていた手を一旦止めると、焦らすように、ゆっくりと指先だけで俺の股間を撫でる。  
その指が、敏感な部分を掠めるたびに、体にゾクリとなにかが走った。
「っ…んっ…くんっ…!」
「イイ表情するね…。ここ、指で撫でるたびに、目元潤ませて…。平気なフリしようとしてる? …でも、隠せてないよ」  
顔を逸らしたいのに、がっちりと顎を掴まれて、逃げられない。  
 
宮原先輩は、俺の股間から指を離すと、その指を俺の目の前で舐め上げる。
「なっ…」
「後ろ…入れようね…」
 あいかわらず、俺の顔をじっくり見たまま、手探りみたいな状態で、ズボンを下ろされる。  
下着まで入り込んだ指が、後ろの入り口をゆるゆると撫でていた。
「っ…なに……」
「わかるでしょ」
 そう言ったあと、ゆっくりと指を俺の中へと押し進めた。
「っ…んっ…んーっ…」  
宮原先輩は、やっと俺の顎を離してくれて、すかさず逃げるように俺は、顔を下に向けた。  
が、視界に入り込んだのは、俺の下着の中に突っ込んでいる宮原先輩の手で、あわてるように、顔を横に向ける。
 
奥まで指を押し込むと、一旦、動きを止めて、宮原先輩は俺の頭を撫でる。
「どうした…? 俺のこと、睨んで『馬鹿なことはやめてください』とか言わないの? もう、威勢なくなった?」  
なにか言いたいのに、体が強張る。
「ココらへん…?」  
宮原先輩の指が、ゆっくりと探っていくようで。  
イイ所を掠めると、いやなくらいに体がビクついた。
「っあっ…んっ」
 つい顔をあげてしまい、宮原先輩と目が合ってしまう。
「かわいーね…。いままで強がってた? ホントは不安で不安でたまらないんでしょ…。いまにも泣き出しそうだよ…?」  
言い当てられて、また、逃げるように顔を下に向けると、涙が零れ落ちた。
「っ…くっ…ぅンっ…」
「ここ、気持ちいいんだ…? ね…雅紀…」  
俺が体をビクつかせたポイントを狙って、何度も指の腹で撫でていく。
「っぁっ…やぁあっ…」
 つい大きく洩らしてしまった声がものすごく恥ずかしくて慌てて口を手でお押さえる。
「んっ…ンぅんっ…」
「だいぶ、感じてきた…? 声、出ちゃってるもんね…」
 容赦なく、俺の手は、口元から奪い去られてしまう。
 もう片方の手で、押さえることもなんとなく出来ず、あいかわらず、意味もない抵抗で、宮原先輩の肩を押し退けようとしていた。
「あっ…んっ…あっっ」
 何度も、擦られて、体中がおかしくなるような感覚。
 押しよけようとしてたはずの手は、刺激に耐えるよう、宮原先輩の服をギュっ掴んでいた。
「んっ…ぁっんンっ…あっ…」
「もっと、声、出しちゃって…?」
 2本目の指をゆっくりと挿入され、一瞬、膝が折れかけたがなんとか持ちこたえる。
「そう…がんばって、立ってて…」
 指が、ゆっくりと出入りを繰り返し、中で何度も敏感な部分を突く。
「雅紀…見てごらん…。雅紀のからたくさん、溢れちゃって、俺の指まで伝ってきてるよ…」  
見なければいいのに、つい目を向けると、俺の股間からは、先走りの液が溢れ出ている。  
中の濡れた感触は、俺の液のせいだと思うと、恥ずかしくてたまらなくなった。

「あっ…ぁあっ…んっ…んーっ…」
「まだ…我慢しちゃってるね…。困ったな。もうちょっと刺激的にしようか…」
 そう言うと、ゆっくりと動かしていた2本の指で、少し強引に中を掻き回す。
「っぁあっ…やっやぁあっ…」
「……ホントは、雅紀はたくさん声出しちゃうタイプなんだ…? もっと聞きたいな…。でも、ここじゃさすがに、この声の大きさだと、誰か来ちゃうだろうから、中、入ろうか」
俺から指を抜き去って。
力の入らない俺の体を担ぐようにして、部室の鍵を開けると中へと入り込む。
初めから用意してたのだろうか。

しっかり鍵を閉めると、俺を床へそっと下ろした。
ズボンと下着を引き抜かれるが、どうすればいいのかわからず、抵抗の言葉も見つからない。
「いい…? 雅紀、俺の入れちゃって」
「なっ…」
 足を広げられて、宮原先輩のが押し当てられる。
「っ…やめ…っ」
「初めてだよね…。ローション、足しとこうか…」
 宮原先輩は、取り出したローションを俺の股間と、宮原先輩のモノにたっぷりと絡ませて、入り口にもそれが垂れ流れていた。

「じゃあ、入れるよ…」
 そうわざわざ言ってから、宮原先輩は指でソコを押さえて、俺の中へと入り込んでいく。
「んーーーっ…ぁあっ…」
「力、抜いてっつっても無理かな」
 軽く笑いながらそう言って。
 俺を見下ろす姿は、ものすごく大人に見えた。

「ほら…全部入ったよ。キツい?」
 そう言って、俺を見下ろして。
 俺の股間のモノを、手でゆるやかに扱いていく。
「あっっ…やっあっ…ぁあっ…」
「後ろも、動いて欲しい?」
 そう聞かれても、なにも答えれなくて。
 そんな俺を見てか、
「だんだん、言えるようになるといいね。初めてだから、許してあげるよ」
 そう言って、ゆっくりと中を掻き回す。
「ぁあっ!! やっ…ぁんっ…あっあンっっ」
「さっきよりも、声、いやらしくなってきてるね、雅紀…。うまく感じれるようになってきたんだ? 早いね、さすがだよ」
 宮原先輩の言うことが、うまく理解出来なかった。
 ただ、体中が熱くて、気持ちよくって。
 この人が、副会長だったこととかすっかり忘れてしまう。
「あっ…んっ…ぁんっ…あっっ…んっやっ…」
「目が、トロけてきてるよ…。すっごい気持ちよさそうだね、雅紀…。そんなに気持ちいいの…?」
 気が遠くなりそう。
 というより、もうどこかへいっちゃってる感じすらした。
 そっと、頷くと、俺に軽くキスをする。
「この口で、ちゃんと言ってごらん…」  
上から見下ろされ。  
何度も、気持ちいい所を、硬い部分があたって。  
トロけそう…。
「はぁっんっ…あっっ…ぃいっ…」
「いいって?」
「あっ気持ち…ぃいっですっ…あっ…もっとっぁんんっ…っ」
「雅紀はいい子だね…。ホント、調教のしがいがありそうだよ。たぶん、もっと、いやらしい子になれるね…」
「はぁっやっ…あっ」
「約束して…? いやらしい子になるって。そしたら、気持ちよくイかせてあげるよ」
 企むような笑みがぼやける視界の中、見えた。  
わざとなのか、焦らすように、イイところを少しずらして刺激される。
「ぁあっ…なるっ…なる…からぁっ…早くっ…」
「じれったい? もっと、ねだってごらん…?」  
ねだるっつったって、どうすればいいのかわからない。
「もぉっ…わかんなっっ…」
「駄目…。どうして欲しいのか、言って…?」
 そう言うと、俺の体を起き上がらせて、俺は宮原先輩の体を跨ぐ形をとらされる。  
前から抱きしめられて。
「どうして欲しいの…?」
 耳元で聞かれた。
「はぁっ…して…くださっ…」
「もっと、具体的に…」
「中…動いて…っ」
 恥ずかしいこと言わされてるってのはもちろんわかってるのに、止まらない。
 俺は、先輩の服をギュっと掴んだまま、宮原先輩の顔は見れないでいた。
「…俺の感じるとこ…たくさん、突いて…くださ…っ」
「うーん、まぁ合格かなぁ? で、どんな子になるんだったっけ?」
「っ………ぃやらしい子に…っ」
「そうだったね。じゃあ、いやらしい声、たくさん出すんだよ?」
 俺がそっと頷くと、また俺を押し倒して、腰を強く打ち付ける。
「ひぁあっ…やぁっ…あんっあぁんんっ…」
「気持ちイイ?」
「はぁっいぃですっ…あんっぃいっよぉ…っ…駄目っあっ…あんっもぉいくっあっ…」
「勝手にイっちゃうの?」
「やぁあっ…ぃくっあっイきたいっっ…やっぁっ…イってぃいっ? あっお願っ…やぁっんっ」
「思ってた以上に、イイよ、雅紀…。たくさん、我慢してたんでしょ? いいよ…。イっても」
「ぁあんっ…あっやっもぉっだめっあっぁあっ…あぁああああっっ」
自己嫌悪に陥った。
やってる最中に意識が飛んじゃってたわけじゃない。
ちゃんと理解してるのに、つい恥が飛ぶ。
というか性欲に負けてるというか。

なんとなく、避けられなくて。
やりおわっても、すべて覚えているから、恥ずかしくて、逃げたくなっていた。

「…俺、もう帰ります」
 そういう声が多少震えてるのがまた悔しくてたまらなかった。
 なんでもないみたいに、ズボンをはきなおし、宮原先輩が持ってきてくれたのか、近くに放置されていた自分の鞄を手に取った。

「またね。楽しみにしてるから」
「…なにをですか」
「約束、したでしょう? 忘れた? 言おうか?」
 宮原先輩も立ち上がり俺の正面に立つと、俺の肩に手を置いて。
「いやらしい子に、なってくれるんでしょ…?」
 俺の耳元で企むようにそう言った。
「っ…あんなの…っ言葉のあやでしょう?」
「じゃあ、約束じゃなくって、ただ、盛り上げるためのリップサービスってこと?」
「……そうですよ」
 宮原先輩は、軽く笑って、俺の首筋に口付ける。
「っんっ…やめ…っ」
 吸い上げられて、たぶん、跡とか残るんじゃないだろうか。
 押し退けようとするけれど、まだ体に力が入らず、下手に抵抗すると足がもつれそうなくらいだったから、俺はおとなしくしていた。
「じゃあ、次回は考えとく。雅紀は約束しない子なんだって、わかったから」
 俺の頭を撫でて。
 俺は、そっとそれから逃れるように体をずらした。
「…なにがしたいんですか…」
 また。
 楽しそうにこの人は笑う。
「率直に言うと、雅紀が欲しいんだけど」
「…桐生の情報が欲しいからですか」
「……桐生の情報じゃなくって、雅紀が欲しいんだよ」
 頬を撫でられ、上を向かされて。  
口を重ねられると、それから逃れることが出来なかった。

 また、舌が絡まって、それだけでとろけそうで。
 足がふらつきそうだった。

 宮原先輩が、なぜ俺なんかに?
 ありえないだろう?
 
 桐生の情報を聞き出すためなんだろって。
 そう思ってしまう自分がいた。

 この行為に、好きとかそういった感情はないのだろう?

 俺は、心を決め、宮原先輩の体を押しのけた。

「…やめてください」
「雅紀は俺が嫌い?」
「…嫌いとか好きとかそう言った感情、ないですけど」
「好きになる可能性はあるんだね」
「…ないとは言い切れませんけど…」
 俺も馬鹿だ。
 後悔するって思ったのに。
 万が一、本当に宮原先輩が俺のこと欲しいとか考えいてくれてるとしたら?
 そう考えると、変に引き止めてしまう。

 俺も、宮原先輩が気になっているんだろう。
遊び人だって有名だし。
 きっと、俺以外にだって、たくさんこういうことした人はいるんだろうし。

俺だけが特別なんじゃない。
あえてなにかあるとしたら、桐生の友達ってだけだ。
俺と仲良くなっておけば、桐生の情報が渡って、生徒会長に伝わって。
宮原先輩はそれでいいんだろう?
俺は? 
 たぶん、もし本当に宮原先輩と仲良くなってしまったら、俺は桐生のこと、いろいろと話してしまいそうで。
 
拒める自信がない。

「…っ俺…桐生のこと、好きなんです」
「……ホントに?」
「あ、そういう意味じゃなくて…友達としてなんですけど…。だから、副会長とは仲良くなれません…」
   
宮原先輩は、ため息をついて。  
少しだけ真面目な感じがした。  
いつもは、からかうようにたくらむように笑ってるイメージだったから。
「…俺も、生徒会長が好きだよ。友達としてね。でもそれとこれとは別…。会長のために雅紀と仲良くなろうとか思ってるわけじゃない。もちろん、桐生には警戒されるだろうから直接情報聞くのは無理だろうなって考えたこともあるけど。  
生徒会の情報が、桐生に洩れる可能性だって生まれるわけだし。
 
でも、これは俺の個人行動だから。副会長じゃなくって、一人の先輩としてみて欲しいな。まぁ、いますぐ答えを出せってわけじゃないし。また、考えておいて…?」
 
俺は、とりあえず、ここでなにかを言い合っても無駄だろうし、今、なにかを考えれる余裕がない。
「……失礼します…」  
そうとだけ言って、部室を後にした。

桐生を言い訳にしたけれど。
本当はどうなんだろう。
この人のいい噂を聞かないから。
いろんな人と遊んでて。
たくさんの人が泣かされている。
 そういったイメージ。
それでも、かっこよくってなんか知的で人気があるから、またそういう犠牲者が増えるんだろ。
 俺も、その一人になってしまうんじゃないかって。
 そう思うのに。
このままじゃ、好きになってしまいそうで。
すでにもう、泣きそうなくらい、宮原先輩に悩まされていた。