『恋音』
B6/表紙フルカラー/本文P40/400円
稲妻の音村×鬼道小説です。
沖縄で音村に惹かれるも離れることで精神的に不安定になる鬼道さんの小話です。
鬼道の一人称。エロ無しです(キスまで)
以下サンプル。冒頭3P分になります。








「聞こえる?」
 電話越しに音村が問う。
「なに」
「……波の音」
 波の音か。
「……聞こえる」
 聞こえない。
 なにも聞こえない。
 音村の声しか、俺の耳には届かなかった。
「そう……」
「これだけ離れていても、聞こえるもんだな。電話越しだけれど」
「鬼道くん……」
 心が落ち着かない。
 嘘をついているせいだろう。
 
 もう一度、耳を澄ましてみる。
 聞こえない波の音。
 音の届かない距離。
 もしも近くにいたのなら、こんな不安は覚えずに済んだだろうに。


 出会った頃のことを、今でも鮮明に覚えている。
 いっそ心地がいいくらいに音村のゲームメイクに引きずり込まれて。
 自分とは違う形の指令塔が生み出すリズムに俺もいつのまにか泳がされていた。
 あんなにも司令塔を意識した試合は初めてだ。
 あのチームは、音村が作り出している。
 そう思ったとき、自分は司令塔としてどのくらいこのチームに貢献出来ているのだろうかと、そんなことを思った。

 大海原中のメンバーとバーベキューをした際、俺はいてもたってもいられず、一人音楽を聴く音村の隣へと腰を下ろした。
 音村は音楽を聴いたまま、俺を見て言った。
「君たちは綺麗だね」
 と。
 意味が分からないまま、それでも一瞬だけ体が熱くなった。
「えらそうなことを言うつもりはないけれど、一人一人のリズムが綺麗で。新たな音が入れやすくなっている」
 一瞬でも体を熱くしてしまった自分を恥ずかしく思った。
「さっきみたくワザとタイミングをずらせということだろう?」
「そうだね」
「それは、リズムが狂うということではないのか?」
「リズムが変わっても、綺麗なままでいられる音はたくさんあるよ。なにかさ。思いつかないようなリズムを奏でられたら、僕はすぐには入り込めないんじゃないかな」
「お前でもあるのか。そういう音」
「頭では理解出来ても、その通りに体が動かせるかどうかって問題もあるしね」
「なるほど」
「それと、リズムに乗り遅れている子がいても、気付かれないように出来たらいいよね」
 まるでなにもかも見透かされているようだった。
「それは、お互い様だな」
 大海原の弱点は、まだサッカー慣れしていない綱海にあった。
 それに気付けたのは、先に向こうが俺たちの弱点を突いてきたからだけれども。
「うん……。鬼道くんはすごいね。僕たちのサッカーをすぐに吸収しちゃってる」
「いや。わからないことだらけだ。まだ、教えて欲しいことがたくさんある」
「……僕も教えて欲しいな。君の事」
 顔を向けられ、音村は俺にそう言った。
 俺の事。
 そのとき思った。
 俺が知りたいのは、大海原のサッカーのことだけじゃないと。
 音村のこと。
 もっと知りたいと感じた。